どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年1月第4週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.1/24~1/30)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから後手が右玉に構える将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.1.28 ▲test20210128 VS △Suisho3kai_TR3990X戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は▲4二とで勝てれば話は早いのですが、現状では△5七桂成▲同銀△6五桂の方が速いので、ここは受けに回らなければいけません。
どのようにして相手の攻め筋を根絶するかですが、本譜はとても巧みな一手がありました。これは、なるほどの受けでしたね。
桂を重ねて打ち、6五の桂に働き掛けたのが妙手でした!
先手は5七の地点を狙われているので、ここに駒を投資するとは思い浮かびにくかったのではないでしょうか。何だか不思議な受け方ですが、これで後手は攻めがストップしてしまったのです。
なお、先手は△5七桂成▲同銀△6五桂という攻め筋を断ち切るだけなら、▲6五銀△同歩と指せば事足ります。ただ、この受け方では、ある問題が生じるのです。(第2図)
この対処法だと後手に銀を渡すことになるので、次に△5九銀という必殺技を与えてしまいます。この手を喫すると先手はKOなので、やはり▲4二とを指す余裕がありません。ゆえに、これでは問題を根本から解決することが出来ないのです。
つまり、ここで先手は
(1)△5七桂成→△6五桂を防ぐ
(2)△5九銀の筋を誘発させない
という二つのミッションがあるのですね。それをクリアする受けが、▲7七桂打なのです。
今度は△5七桂成▲同銀△6五桂と打たれても、▲同桂で効果がありませんね。また、△7七同桂成も▲同桂で問題ないでしょう。
後手は[金桂]という持ち駒では、上手く先手玉に迫る術がありません。先手は6九の角が5八や4七をケアしているので、△4八とや△4七金といった攻めに耐性があることが自慢なのです。
仕方がないので、後手は△5七桂成▲同銀△3三金で手を戻しましたが、こうなると先手も一息つけますね。本譜は▲4六銀打でがっちりガードを固め、憂いの無い形を作ることに成功しました。(第3図)
3五の角を追っ払ってしまえば、先手玉の安全度は飛躍的に高まります。また、先手は手番を得れば▲5三銀と放り込む手が楽しみですね。この局面は後手の攻め筋を消し去ることが出来たので、先手が上手く立ち回ったと言えるでしょう。
冒頭の局面ではコビンを攻められていたので、こういった受け方はなかなかにトリッキーです。先手は6六の銀を盤上に残しながら△6五桂を消してしまえば、相当に耐久力がある形だったのですね。▲7七桂打は、それを実現させる見事な受けの妙技でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。後手の雁木に先手が右四間飛車で攻め立てる展開になり、こういった局面になりました。(第4図)
2021.1.29 ▲xeon_w VS △KASHMIR戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は次に△4四歩などで馬の利きを遮断されると、後手玉を寄せることが絶望的になってしまいます。駒損していることもあり、先手はこの瞬間に戦果を上げなければいけません。
もちろん、3筋から攻めていくことになるのですが、先手は鮮やかな一手を用意していました。
「玉は下段に落とせ」という格言に則ったのが妙手でした!
これが鋭敏な一撃でした。この犠牲を払うことで、先手は敵玉を寄せやすい形に持ち込むことが出来るのです。
なお、この手に代えて▲3三歩成△同角▲同馬△同玉▲5一角と進めれば王手飛車が掛かりますね。ところが、これは後手の思惑通り。△3四玉と逃げられてしまうと、先手は敗色濃厚となってしまうのです。(第5図)
▲8四角成で飛車を取るより無いですが、△7七歩▲同金△6八銀が痛打ですね。これは先手玉が一手一手の寄り筋ですし、後手玉は大海原へと泳いでいるので勝ち目がありません。
後手は8四の飛を囮にすることで、自玉の安全度を高めることに成功しています。この変換性理論に基づくと、先手はこういった形で飛車を取るのはダメなことが読み取れます。加えて、7七の馬が消えたことで自玉の安全度が著しく落ちていることも問題点ですね。
ゆえに、本譜は▲3一銀という捻ったアプローチで後手玉に迫ったのです。
これを△同角だと、▲3三歩成△4一玉▲3二歩で良いでしょう。これは馬を残しながら後手玉を下段に落とせていますし、駒損も回復できます。これだけ相手にベネフィットを与える進行は、後手も選べないですね。
したがって、本譜は△3一同玉▲3三歩成△同角▲同馬△3二金と進めました。これは馬を出動させることで、先手玉を薄くさせる意図があります。
しかし、そこで▲5一角と連結する手が面白く、これも先手の攻めが続く形になりました。(第6図)
馬を逃げないのが大事なところです。代えて▲5一馬だと、やはり△7七歩が痛烈ですね。この場所に馬を残しておけば、そういった攻めを食らう心配が無いことが分かります。
ここで△3三金は、▲同角成で焼け石に水です。本譜は△8二飛と頑張りましたが、▲3四桂とかぶせたのが手厚い攻め方で、先手の波状攻撃は止まるところを知りません。以降は先手の一方的な攻めを見るばかりでした。
こうして見ると、▲3一銀と放り込んでからは、常に先手のターンで局面が進んでいることが読み取れます。馬を消さずに攻めが続くようになっていることが先手の自慢ですね。▲3一銀は、送りの手筋を応用したシャープな妙手でした。こういった手が指せると気持ちが良いでしょうね。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。この手の意味付けは非常にシンプルなのですが、指されてみればなるほどと膝を打つものでした。(第7図)
2021.1.29 ▲d_x15_n002_2080Ti VS △NEEDLED-35.8kai0151_TR-3990X戦から抜粋。(棋譜はこちら)
[二枚馬VS二枚竜]という構図ですね。先手は寄せる準備を進めるのか、それとも自玉の安全を確保するのか、岐路に立たされています。
どちらの方針を選ぶのか悩ましい場面ですが、本譜はとても明快な答えを出しました。こうやって勝ち筋を引き寄せるものなのですね。
軽やかに桂を跳ねて、4五の空間を塞いだのが妙手でした!
ポイっと桂を捨ててしまうのが、局面を明瞭にする妙着でした。何が狙いなのか意図が掴みにくいかもしれませんが、この桂跳ねは、3五の馬を守ることが目的なのです。
後手はもちろん、△4五同歩と応じます。ただ桂をプレゼントしただけのように見えますが、そこで▲5五玉と上がった局面を眺めると、先手が桂を捨てた意図が見えてくるのではないでしょうか。(途中図)
もし、単に▲5五玉と指していると、△8五竜という王手が激痛でした。これは決定的なダメージを負ってしまいますね。(A図)
もうお分かりでしょう。そう、[▲4五桂△同歩]という交換を入れておけば、4五の歩がストッパーになってくれるので、先手は馬を取られる心配が無いのです。
つまり、ここで△8五竜には▲6四玉と逃げておけば、先手は何事もなく入玉が果たせそうですね。無条件で入玉してしまえば、先手は不敗の態勢です。
後手が▲6四玉を防ぐとなると、△5二桂と打つことになります。しかし、これは▲同銀不成△同銀▲4四馬△4二玉▲3四桂△3一玉▲4二歩と畳み掛けることが出来るので、先手の優位は揺るぎません。(第8図)
後手は延命するなら△3三銀が一案ですが、▲4一金△同銀▲同歩成△同玉▲4二歩△3一玉▲5三馬と攻め込まれるので、先手の攻めを堰き止めることは望めないですね。(B図)
B図は上部を開拓しながら敵玉を寄せることが出来るので、先手にとって安心感があります。特に、5三の歩が取れると先手玉は相当に寄りません。
改めて、▲5五玉の局面に戻ります。
後手は直接的に▲6四玉を防ぐ方法では上手くいきません。よって、本譜は△5一桂で守備駒に働き掛けました。しかし、これには▲6四玉△6三桂▲8三歩で、あっさりと銀を差し出したのが賢明。ここまで進むと、先手の入玉が確定しました。
ここに歩を置いておけば、▲7三玉→▲8二玉というルートが確保されます。他には▲6三玉→▲6二玉というルートもありますね。もはや後手には王者の行進を阻む術はありません。以降は、先手が手堅く勝利を収めました。
先述したように、先手は単に▲5五玉では△8五竜で参ります。安心して▲5五玉を指すためには、4五の地点に壁を作る必要があったのですね。
そうなると、▲4五桂は非常に効率の良い一着です。何しろ、手番を握りながらそれを実現することが出来るのですから。また、入玉してしまえば桂を渡しても寄せに役立たないので、そういう意味でも桂は犠牲にしやすい駒なのです。▲4五桂は、まさに盤上この一手とも言える軽妙なタダ捨てでしたね。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!