どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年12月第1週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.12/6~12/12)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の角交換振り飛車に後手が銀冠に組んで対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.12.9 ▲Cendrillon VS △QueenAI_test1208_i9-7920x_12c戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は桂得していますが、△6六歩を打たれたことでその主張が消えようとしています。▲同金は△7七竜で桂を取り返されてしまいますね。
とは言え、他の対応も難しく見えるところ。7七の桂は差し出すしかないように思えましたが、本譜はとても巧い手がありました。
銀を突っ込んで敵玉へ斬りかかったのが妙手でした!
▲3三歩と打つ攻め筋があっただけに、銀を捨ててしまうのはインパクトがありますね。
さて、これはタダではありますが、△同玉は▲4四角△4三玉▲5五桂で詰んでしまいます。また、△同金は▲1一角△3一玉▲3三角成と進めれば良いでしょう。(A図)
どちらの変化も後手は3二の角が裏切っており、歪な配置の弱点を咎められています。
本譜は△3一玉と引きましたが、これには▲2二角と打つのが賢いですね。以下、△4一玉▲4二銀成△同玉▲6六角成と進んだ局面は、先手がはっきりと優位に立ちました。(第2図)
こうなると7七の桂を守ることが出来ましたし、馬の守備力が強大なので自陣も安泰と言えます。後手は「玉型」「駒の損得」「効率」の全てで後塵を拝しており、何一つ主張がありません。以降は、先手が危なげなく勝利を収めました。
先手は銀を捨てることで馬を6六に引っ張れるようになり、その結果、後手の攻め筋を根絶することに成功したことが分かります。▲3三銀不成は鮮烈な一撃であり、「攻めるは守るなり」という金言通りの妙手でしたね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。後手の四間飛車に先手が穴熊で対抗する将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.12.8 ▲Kamelmo_Yane5.40 VS △Cendrillon戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手は玉の堅さで劣っているので、それを逆転するべく端攻めに活路を求めています。端は先手にとって最大の弱点なので、△9五歩は油断ならない一着ですね。
何はともあれ、次の一手は当然こうするかと思われましたが、本譜はとてもトリッキーな対応を見せました。将棋にはこういった受け方もあるんですね。
銀を上がって「歩を取りなさい」と催促したのが妙手でした!
基本的に端の突き捨ては素直に▲同歩と応じるのが自然なので、こういった対応はあまりお見かけしないのではないでしょうか。しかしながら、これが最も端の嫌味を軽減する応接でした。
ちなみに、平凡な▲同歩は△8五桂がうるさい一着です。これには▲8六銀とかわすのが妥当ですが、△9七歩▲同香△同桂成▲同銀△9六歩▲同銀△9七歩と小突かれる手が面倒ですね。(第4図)
これを▲同桂だと△9二香打で力を溜めてきます。先手はすぐに穴熊が崩壊する訳ではないのですが、囲いの形が大いに乱されてしまうので、本意ではない進行だと言えるでしょう。
このように、先手は▲9五同歩と取ってしまうと歩のツブテが際限なく飛んでくるので、かえって危ないのです。
では、▲8六銀の場合、どのような進行になるのでしょうか。
後手は当然△9六歩と取り込みますが、そこで▲9四歩と切り返すのが用意のカウンターです。(途中図)
△同香には▲9五歩で香が召し取れますね。そうなれば端の脅威は皆無と言えます。
他には△9七桂と放り込む手も映りますが、シンプルに▲同桂△同歩成▲同香と応じれば逆襲が期待できるでしょう。
こういった、あえて歩を取り込ませて▲9四歩で反撃する手法は、端歩突き穴熊ならではのテクニックですね。
【端歩突き穴熊は△95歩を無視せよ】
端攻めは嫌らしいものですが、無視して▲64歩→▲24飛で攻め合いましょう。
△96歩と取り込まれても、▲94歩△同香▲86角と応じれば受かっています。
あえて端歩を取り込ませ、それから▲94歩で逆用するのが端歩突き穴熊のコツですね。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/VGXozC8BjZ
— あらきっぺ (@burstlinker0828) November 17, 2020
後手は▲9四歩と障害物を置かれたことで、どうも9筋は手出しが出来なくなりました。ゆえに、本譜は端攻めを諦めて△6九角と打ちます。
これは銀取りなので▲4五銀と逃げますが、△7八角成▲同銀△6六桂▲同金△7九金と我武者羅に食い付いていきます。これも嫌らしい攻めではありますが、▲1八飛が視野の広い一手。遊び駒を使っているので、とても効率が良いですね。(第5図)
ひとまず後手は△6六歩で金を補充しますが、先手は▲6一角ともたれてプレッシャーを掛けておきます。以下、△4八歩▲同飛△5七銀不成で後手の攻め駒が迫ってきますが、そのタイミングで▲8八角と打ったのがピッタリの受けでした。(第6図)
後手は△7八金▲同飛と進めてしまうと、飛車に逃げられてしまいますね。かと言って、4八の飛を取ると▲7九角で先手玉が鉄壁になってしまいます。
ここまで進んでみると、6一に打った角が良い働きをしていますね。▲7二金と打つ狙いが残っているので、ただの金取りが強烈な催促になっているのです。第6図は後手が攻めあぐねており、先手の受けが成功した格好だと言えるでしょう。
先手は素直に▲9五同歩と応じてしまうと、「タテ」からの攻めを喫してしまうので、歩だけで囲いが崩されてしまうところでした。その展開は、相手から貰える駒もちゃちなので、反撃する力を蓄えることも出来ません。
しかし、「ヨコ」からの攻めになると、攻め側は歩が使いにくいですね。必然的に高い駒を使って攻める必要が出てきます。そうなると、受け側は高い駒を入手できるので、将来のカウンターが楽しみになります。
加えて、側面からの攻めを促すことで、僻地にいた飛車を受けに参加させたことも見逃せないですね。こういったベネフィットをもたらしたことが▲8六銀の価値なのです。地味ではありますが、相手の攻めに負荷を与える攻撃的な受けの妙技でした。
第1位
最後に紹介するのは、こちらの将棋です。この将棋は勝ちにくそうな状況から秘技を繰り出して棋勢を引き寄せており、非常に見応えがありました。(第7図)
2020.12.11 ▲kabuto VS △Yashajin_Ai戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
後手は[飛桂⇔金]の交換なので大いに駒得しているのですが、先手に中央を支配されているので、実戦的には苦労が多い印象を受ける局面です。あの玉をどうやって寄せればいいのか、ちょっと見当がつかないところではないでしょうか。
戦局は思わしくないようですが、後手は意表の一手を放ち、しっかり踏み止まったのでした。
力づくで相手の角道を止めつつ、銀を責めたのが妙手でした!
これがバランスを保つ一着でした。苦し紛れのようですが、こうすることで自玉の安全を確保することが出来るのです。
なお、第7図で先手は、次に▲5三歩成と▲1一角成を狙っています。後手はこれらを同時に防ぐ術はありません。
受けが利かないときは攻め合いに活路を求めるのが一つの案です。そういう意味では△6五桂が考えられるのですが、▲1一角成△5七桂成▲同金と進められると、後手は厳しい状況に追い込まれるのです。(第8図)
ここで△6九竜と王手を掛けても、▲6八歩で効果は今一つ。そこから△6五桂と迫っても詰めろにならないので、▲5三歩成で一手負けですね。(B図)
この変化は先手玉のHPが高過ぎて、後手は△6五桂から金を削っても決定打を与えられません。
そうなると八方塞がりのようですが、△3三桂打がピンチを跳ね返す強靭な受けになるのです。
これに▲5三歩成と攻め合うと、後手は△6五桂と反撃します。先手にとって7七の角は攻撃の司令塔なので、これを失う訳にはいきません。なので▲4四角とかわすことになりますが、△5七桂成▲同金△4五桂で金気を強奪していきます。(第9図)
さて、ぱっと見は▲1一角成が詰めろなので、これも後手は負け筋に思えます。しかし、△5七桂成▲同玉△4四歩が絶妙の返し技。これで先手は体勢を引っくり返されているのです。(途中図)
ここで先手は▲4三歩と迫りたいのですが、それには△3六歩▲6六玉△5六金から詰まされてしまいます。(C図)
4四に打った歩が馬の利きを止めながら攻めの足場を作っているので、後手はいきなり敵玉を仕留められる状況になっているのですね。
したがって、この△4四歩は▲同馬と取るしかありません。が、そこで△3四銀▲同馬△2二玉と銀を犠牲にして玉を2二へ逃げ込むのがテクニカルな受け。これで後手は延命することが出来るのです。(第10図)
手薄な格好ではありますが、これで後手玉には詰めろが続かなくなっています。攻める手番が回ってくれば、△6五金と打つ手が厳しいですね。第10図は、後手の勝算が高い局面だと言えるでしょう。
改めて、△3三桂打の局面に戻ります。
話が煩雑ではありましたが、要するに先手はここで直線的な斬り合いを挑むと、最終的には競り負けてしまいます。4五の銀を失ってしまうと、どうも勝てないのです。
なので、本譜は▲3三同歩成△同桂▲5六銀と辛抱したのですが、こうなると後手玉は相当に安全になりました。攻めに専念できる格好になったので、悠々△7四桂と打つ手が間に合います。(第11図)
6六に歩が打てれば、7七の角は光を失いますね。けれども、先手はそれが分かっていても対処が難しく、しっくりと来る受けが見当たりません。
まだまだ先は長いですが、この局面は自玉が安全なので、後手は大いに戦える格好だと言えるでしょう。冒頭の勝ちにくそうな局面と比較すると、かなり余裕が生まれた印象を受けると思います。
冒頭の局面では、4五の銀が中段を支配している駒でした。これに威張り散らされていると、後手は勝ち目がありません。ゆえに、△3三桂打が最適な応手になるのです。
また、この手を指すことで自玉を2二→1三と逃げ出せるようになったことも大きいですね。それによって、▲5三歩成の威力を緩和することが出来るからです。それは第10図の変化を見れば、よくお分かり頂けるでしょう。
△3三桂打は、相手の要の駒にアタックしつつ、7七の角の威力を削ぎ、自玉の安全を確保するという良いこと尽くめの一着でした。こういった手が当たり前のように指せる境地に達したいものですね。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!