どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年6月第1週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
目次
今週の妙手! ベスト3
(2021.6/6~6/12)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりから後手が右玉に構える将棋になり、以下の局面を迎えました。(第1図)
2021.6.7 ▲Suisho4test_TR3990X VS △Aschenputtel(棋譜はこちら)
先手は自分だけと金が作れていますが、これを敵玉に近づけるのは現実的ではありませんね。さすがに距離が遠すぎます。
どう後手玉に迫っていくのか悩ましい場面ですが、本譜はなるほどの手順で寄せの網を絞りました。
あえてと金を端に捨てたのが妙手でした!
これが視野の広い一手でした。明後日の方向へ駒を動かしているようですが、この手は▲2八飛→▲2二飛成という攻めを見せていることが自慢です。飛車が成れれば、攻め筋が一気に分かりやすくなりますね。
なお、同じようでも先に▲2八飛と回るのは、△2七歩▲同飛△6六歩という反撃を与えるので難しいところがあります。(A図)
この変化は飛車を目標されているので、先手は攻めに専念できないことが不満ですね。
しかし、▲1二とを優先すれば、まだ△4九角の筋が無いので先手は飛車が標的にはなりません。ここで△6六歩と取り込まれても、▲同銀と応じれば後続がないですね。
そういった背景があるので、本譜は△3三桂と跳ねました。これは2五に歩を打てるようにした意味ですが、▲1一と△5九角▲2八飛△2六歩▲8四香と進んだ局面は、先手が事を上手く運んだでしょう。やはり、金を剥せたことは大きいですね。(第2図)
次は▲8二香成△同飛▲9四歩△同香▲9三銀という要領で攻めて行くのが楽しみです。右玉は飛車を攻撃できる展開になれば、「玉飛接近、悪形なり」という格言通りの状況になるので脆いですね。以降は、先手が気持ちよく攻め立てて勝利を収めました。
こうして振り返ってみると、この▲1二とは、
(1)飛車を捌きやすくする。
(2)香を取って▲8四香と打つ。
という二つの狙いを秘めていたことが分かります。先に▲2八飛と回ると、(1)の狙いしかないので対処されやすいですが、▲1二となら複数のプランがあるので攻めが成功するという理屈なのですね。卒のない攻めの組み立てが参考になる妙手でした。
- 自分の飛車を目標にされる展開は避ける。
- どんな玉型であれ、寄せの初期段階は金を狙うことが基本。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の矢倉に後手が急戦で立ち向かう構図になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2021.6.8 ▲Kristallweizen-Core2Duo-P7450 VS △Ryfamate_wcsc31_TR2950X-RTX3090(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
現状、後手は玉型が安定しているとは言い難いですし、と金攻めに手を焼いているようにも見えます。この▲2二歩も嫌らしい垂れ歩ですね。
しかしながら、ここから十数手ほど進むと景色がガラっと変わります。次の一手が流れを引き寄せるトリガーでした。
大将自ら、垂れ歩を処理しに行ったのが力強い妙手でした!
と金作りを受けているので、普通と言えば普通の手かもしれません。とはいえ、2筋方面へ玉が近づくのは、やはり危なっかしい選択に見えるのではないでしょうか。
なお、冒頭の局面では、△4三桂▲2一歩成△5二玉という応接も考えられます。この方が攻め駒から遠ざかっているので、安全度が高いようにも見えますね。
ただ、そこで▲2二とと引かれたときに、後手は何を指すのかという問題があります。(第4図)
確かに、後手は玉が安定はしました。けれども、攻勢に出ることが出来なければ、自玉を安定させた意味がありません。
第4図は攻めの主力である飛車が眠っているので、先手陣を攻めることが難しいですね。ゆえに、この進行は満足のいくものではないのです。
こういった事情があるので、後手は△3二玉という顔面受けに訴えたのですね。
さて、先手は▲1六歩でプレッシャーを掛けますが、後手は堂々と△5五歩と伸ばします。▲2一歩成△同玉▲1五歩は怖い攻めですが、そこで△2五銀とかわすのが的確な対応。このとき、先手は思いのほか攻める手段が少ないのです。(途中図)
ひとまず▲2五同と△同桂は妥当ですが、と金が消えると急に攻めが頼りなくなった印象ですね。
本譜はそこから▲2三歩△3二玉▲2五角と指しましたが、△5六歩▲同歩△同飛で眠れる獅子が目を覚ましました。こうなると、後手は水を得た魚です。(第5図)
この飛車走りは7六の銀取りと△5八金を狙ってるので、すこぶる厳しいですね。やはり、飛車が活用できれば盤上に大きな影響を与えます。
気になるのは▲2二歩成△同玉▲3四桂の両取りですが、△3二玉と寄っておけば大丈夫。後手は3一の桂が頑張っているので、そう簡単には倒れない形です。以降は、後手が存分に攻めまくり勝利を収めました。
この△3二玉は、自ら戦場に向かっているので危ういことは確かです。しかし、後手は△5五歩→△5六歩を間に合わせたかったので、玉を5筋へ避難するプランでは妥協している意味もあるのです。理想を実現するために、ここでリスクを取ったという訳なのですね。
基本的に、将棋の指し手は完全無欠なものは無く、トレードオフであることが殆どです。何を得て何を捨てるのかは判断が悩ましいものですが、大駒の働きを改善することは大きな意義があるので、これを第一に考えるのは一つの基準と言えそうです。△3二玉は、そういったことを示唆する一着でしたね。
- 眠っている大駒を起動することを最優先にする。
- 攻め合いが挑めないのなら、玉を早逃げする効果は乏しい。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。この受け方は、非常にインパクトのあるものでしたね。(第6図)
2021.6.7 ▲Suisho4test_TR3990X VS △40b_n017d_RTX3070(棋譜はこちら)
先手は玉が一人ぼっちであり、非常に危うい格好ですね。もはや風前の灯火のようにも見えます。
窮地に立たされているようですが、本譜は見事な受けを繰り出し、安全を確保したのでした。
銀を犠牲にして上部脱出を図ったのが妙手でした!
はぁ!? ぎんうち!?
そう、歩ではなく、銀を打ったのです。これがピンチを脱する大胆不敵な一着でした。
なお、ここで普通の受け方は▲9六歩でしょう。これで良ければ話は簡単です。
ただ、こう指すと後手は△7八歩成と迫ってきます。角を成られると困るので▲4四桂で遮断しますが、そこで△8四桂と縛ってくる手が手強いですね。(第7図)
ここに桂を設置されると、先手は9六へ逃げることが難しくなります。第7図で延命するなら▲8四同角と応じるよりないですが、角を取られるのは大きな損害なので、これは先手が思わしくないですね。
さて、この変化を踏まえると、先手が▲9六銀と放った意図が見えてくるのではないでしょうか。もし、この局面で9六の駒が銀ならば、▲8五銀で歩を刈り取れるので先手玉は捕まりません。
つまり、▲9六銀の場合、後手は8四に桂を打つプランは使えないということになります。この攻め筋を封じたことが先手の自慢ですね。
気になるのは銀を取って来る筋です。具体的には、△7八歩成▲4四桂△9六歩▲同玉という進行が挙げられるでしょう。(B図)
ただ、これは4八の角の利きが強力なので、先手玉が寄ることはありません。9六の地点に上がれれば、この玉が仕留められることは無いのです。
後手は、先手玉を9六の地点に逃がしてはいけない。なので、本譜は△4六歩▲同銀△6四歩とあの銀を取らない態度を取りました。
ただ、これは正直なところ苦し紛れです。▲9五銀△6五歩▲8四香△4一飛▲9六玉と自然に上部を開拓すれば、やはり先手玉が捕まることは無いですね。(第8図)
後手の飛車を追い払うことが出来たので、先手は入玉がほぼ確定しています。△7四銀と上がっても▲7五歩でお引き取り願えるので、全く問題ありません。以降は、先手が盤石の態勢を築き、手堅く勝利を収めました。
種明かしをすると、先手は9六の地点に玉が上がれれば勝ちなので、この場所には何を打っても取られることは無かったのです。取られないのであれば、高い駒を配置するほうが安全であることは言うまでもありません。ゆえに、▲9六銀が最適解という訳なのですね。
とはいえ、冒頭の局面では反射的に▲9六歩と打ってみたくなるので、この手はなかなかに度肝を抜かれたのではないでしょうか。常識に囚われないAIらしい妙手だったと思います。こういった違いを見抜けるようになりたいものですね。
- 上部を開拓するときは、相手の歩を刈り取りやすい状況を作る。
- 自玉をと金に近づけるような受けを探す。
- 受けるときは自玉の「安地」を探す。「安地」に行くための投資は惜しまない。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!