どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年12月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.12/20~12/26)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。本局は先手が角交換振り飛車を採用し、上手く相手の攻めをいなして優位を築きます。そして、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.12.26 ▲Cendrillon VS △CORE-PRIDE戦から抜粋。(棋譜はこちら)
現状、先手は攻めに専念できる格好なので、チャンスを迎えています。ただ、ここから△1四玉→△1五玉を実現されると、後手玉を捕まえるのは絶望的ですね。
そうは言っても、後手の守りは手厚く、巧い寄せが無いようにも映ります。しかし、Cendrillonは見事な手順で後手玉を捕らえたのでした。
香を捨てて竜を1五へ呼び寄せたのが妙手でした!
これが唯一無二と言える寄せの妙手です。まずは、1五の地点を封鎖するのが急所なのですね。
後手は当然△同竜と応じますが、この利かしを入れてから▲1二桂成と成り捨てるのがテクニカルな手順になります。(途中図)
後手は△1四玉が指したい一手ですが、それは▲1三金でアウトですね。この金打ちをトドメにするために、先手は1五の地点を塞いだという訳なのです。
また、この成桂を△同玉と取ると、▲1三金△2一玉▲2三銀△同歩▲4二馬で必至が掛かります。△1四竜で歩を払う手には、▲1三金から竜を取れば明快でしょう。
後手としては、8五の竜の横利きを遮断しないと上部脱出が望めません。ゆえに本譜は△3五歩と突きましたが、▲1六銀がまたも華麗な一着。これで後手は痺れました。(第2図)
あの竜を1六に呼べば、▲1三歩成△3四玉と進んだ時に▲2四金が打てるようになりますね。なので、後手はこの銀を取ることが出来ないのですが、ここに銀を残すようでは、もう入玉することは不可能です。こうなると、勝負の帰趨は火を見るよりも明らかでしょう。
冒頭の局面では、1八の竜が屈強なガードマンに見えるところでした。しかし▲1五香と打つことで、その駒を邪魔駒に変えてしまうとは驚きです。
竜を敵玉に近づけさせたことで、相手の玉が詰ましにくくなった弊害はありましたが、それを▲1六銀でクリアするという組み立ても綺麗ですね。相手の竜を翻弄することで敵玉を寄せる見事な妙手順でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の四間飛車に後手が端玉銀冠で迎え撃つ将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.12.26 ▲QueenInLove_test201224 VS △Suisho3test_TR3990X戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
6五の地点で金銀交換が行われたところ。
居飛車は一歩損しており、しかも失った場所が中央の歩です。常識的に考えれば、これはかなりの痛手であり、振り飛車が上手く立ち回ったように見えるのではないでしょうか。
ところが、ここから数手ほど進むと盤上の景色は一変します。これは水匠3の力を感じさせる着想でしたね。
威風堂々、桂を使ったのが妙手でした!
慌てず騒がず、悠然と自陣の桂を活用したのが冷静な一手でした。これで居飛車は棋勢を引き寄せることが出来るのです。
なお、代えて△7六歩と突き出すほうが普通に見えますが、それは▲5七飛と回られて面白くありません。これは5四の拠点が光る展開ですね。
しかし、このように桂を跳べば、▲5七飛には△6五桂が絶品の跳躍になります。▲5六飛と逃げても△6六金▲5九飛△5七歩で押さえ込めるので、居飛車はと金を作られる心配はありません。(第4図)
こうなれば駒の働きがぶっ大差なので、居飛車がはっきり良いですね。この変化は△6五桂を跳ぶことで一歩を調達できることが大きく、居飛車にとって理想的な進行と言えます。
したがって、振り飛車は△6五桂を許さないために、▲7五飛と走るほうが勝ります。以下、△9九角成▲7七桂△8九馬▲4六角△6七馬までは妥当な進行でしょう。互いに攻め駒を活用する自然な手順です。(途中図)
さて、居飛車の囲いは銀の頭が弱点の一つです。部分的には▲2五歩と突く手が厳しいですね。けれども、この局面では△2六香というしっぺ返しが飛んでくるので、決行することが出来ません。
なので、代案としては▲5三歩成△同金▲7三角成が挙げられます。振り飛車は駒損を回復して調子が良いようですが、△5七金とこのタイミングで踏み込むのが鋭敏。俗手ではありますが、これが見た目以上に威力の高い攻めなのです。(第5図)
▲7二馬△4七金という取り合いは、先に囲いに火を着けている居飛車に軍配が上がります。振り飛車は大駒の働きが二枚とも悪いので、直線的な斬り合いではスピード不足ですね。
なので、ここは▲5八歩と辛抱するのが妥当ですが、△4七金▲同銀△6六馬がうるさく、やはり居飛車の優位は揺るぎません。(A図)
このように、振り飛車は▲7三角成の瞬間が意外に甘いので、そこでギアを上げられると突き放されてしまうのです。
こうして見ると、お互いに捌き合ったこの局面は、どうも居飛車のほうが旗色が良くなっていることが分かります。先に香を取られていることや、▲7三角成→▲7二馬という飛車の取り方の味が悪いことが、振り飛車が苦しい理由ですね。
居飛車の形勢が好転した要因は、▲7五飛という手を強要させたからです。そして、その功労者が△7三桂であることは言うまでもありません。
よく「振り飛車は左桂が命」という言葉を耳にしますが、それを居飛車に当てはめると、右桂を使えということになりますね。
【居飛車は右桂の活用が命】
振り飛車は左桂が命と言われますが、それを居飛車に応用すると、右桂を使えということになりますね。
なので▲37桂と跳ねました。次は▲46歩△同歩▲同銀から桂の活用を狙います。
△55歩には▲同歩で大丈夫。次は▲54歩や▲56銀が楽しみですね。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/uEm1T63UBD
— あらきっぺ (@burstlinker0828) August 3, 2020
△7三桂は、そのセオリーに則る一手であり、指されてみれば確かに王道と言えます。ただ、△7六歩と突けるところですし、自分の飛車の利きを閉じる嫌いもあるので、なかなか思い浮かびにくいところです。
しかしながら、この局面では何よりも▲5七飛を牽制する必要があったのですね。それを踏まえると、△7三桂は遊び駒を活用しながら相手の狙いを妨害できるので、すこぶる味の良い一着であることが分かります。先入観に囚われない、将棋ソフトらしい柔軟な妙手だったと思います。
第1位
最後に紹介するのは、こちらの将棋です。これは一刀両断とも言える寄せが決まっており、その切れ味には惚れ惚れとさせられました。(第6図)
2020.12.26 ▲bbs-nnue-02.0.8 VS △CORE-PRIDE戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
後手は2筋が突破されそうなので、△2二馬とと金を払って受けに回る手は考えられます。こうすれば、自玉が簡単に寄ることはありません。
しかし、CORE-PRIDEはそんな凡庸な手は選ばず、最速・最短の道を進みます。これは鮮やかとしか言いようがなかったですね。
6筋に香を設置して、寄せの準備を進めたのが妙手でした!
ここに香を打つということは、玉頭を狙っていることが読み取れますね。ですが、6七の地点はまだ数が足りていないので、どういったシナリオなのかすぐには見えて来ないかもしれません。ひとまず、本譜の進行をなぞりましょう。
先手としては、▲3一とで勝てるなら分かりやすいですね。しかし、そこで△1三角が必殺のレーザービーム。これで先手は急所を貫かれているのです。(第7図)
先手は▲2一飛成と成り込みたいのは山々ですが、△6七香成でゲームセット。これは詰んでいますね。(B図)
つまり、先手は飛車を動かせません。
とはいえ、先手は飛車を渡すと△7八飛からの詰めろが掛かってしまいます。要するに、この局面で先手は2四の飛がタダで取られることが確定しているのですね。そして、それは先手にとって決定的なダメージと言えます。実戦は、このあと幾ばくもなく後手の勝利に終わりました。
この△1三角の威力を最大まで引き上げるために、後手は△6五香と打ったのですね。
さて、そうなると、ここで先手はもっと粘りある対応が取れなかったのかが気になるところです。例えば、▲5六銀と打って玉頭を強化するのが考えられますね。香取りにもなっているので、抵抗力のありそうな受けです。
ですが、これにも後手は用意があり、先手をマットに沈めることが出来ます。具体的には、△6六桂が快心の一撃ですね。(第8図)
これは△7七馬▲同玉△7八桂成や、△7七角▲7九玉△8八馬からの詰めろです。先手は▲5九玉と早逃げすれば詰めろは解除できますが、やはり△1三角が痛烈な一打になります。
という訳で、▲6六同歩と応じることになりますが、△1三角▲2三飛成△6六馬と進めれば、先手玉は一瞬にして受け無しとなりますね。(第9図)
後手は次に△5七角成、△5七馬、△5六馬という三種類の狙いがあります。先手がどんな受けを講じても三つのどれかが成立するので、この局面は後手の攻めが突き刺さっていますね。
▲5六銀と先受けしても、こんな爽快な攻めが決まるとは仰天です。△6五香の破壊力がよく分かる変化でしょう。
こうして振り返ってみると、後手はこの香を打つことにより、△1三角と打つ攻めの威力がべらぼうに上がっていることが読み取れます。また、場合によっては△6七香成▲同玉△6四飛という攻め筋も含みにしていました。この変化があるので、先手は▲4八金が指せないですね。
さらに、この香を打つことで、後手は△6七香成や△6六桂という攻め筋が生まれました。これらは△6六馬と引く形に持って行くことが主眼ですね。
つまり、この香打ちは他の攻め駒である[飛・馬・角・桂]を連動させる歯車のような存在なのです。特に、飛と桂に関しては一気に輝きが増した印象を受けますね。△6五香は、ばらばらだったパズルのピースを繋ぎ合わせるような一手であり、とてもシャープな一撃でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!