どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年3月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
目次
今週の妙手! ベスト3
(2021.3/14~3/20)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから先手がAlphaZero流と呼ばれる作戦を採用する将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.3.18 ▲Hinatsuru_Ai VS △Suisho4_TR3990X(棋譜はこちら)
先手は自分だけ歩を手持ちにしていますが、[▲8八角・▲7七桂]という配置が不安定なので、それを改善しなければいけません。
どのように駒を使うのか難しい場面でしたが、ここからの構想には目を見張るものがありました。
角を引っ込めたのが深謀遠慮な妙手でした!
この手をご覧になって、皆さまはどのような印象を感じられたでしょうか。正直、何を狙っているのか全く見えないですね。むしろ、自ら働きを悪化させたようにも思えます。
後手は△8五歩と自然に歩を伸ばしますが、先手は▲8八歩とさらに奇妙な手を指します。(途中図)
一体、何がしたいのか未だサッパリですね。ますます駒の働きが悪くなったようですが、意外や意外、これが自陣を引き締める好着想なのです。
後手は△7三桂と攻め駒を活用しますが、いよいよ先手の構想が花開きます。▲5九銀△8一飛▲5七角が巧みな駒運びでした。(第2図)
こうなると、一気に角が両サイドに使えるようになりましたね。この角は△2四歩→△2三銀という進展性を奪っており、同時に▲9五歩△同歩▲9四歩という端攻めも視野に入れています。
また、ここに角を据えたことで△7五歩から桂頭を狙われる手をケアしていることも見逃せません。まさに八面六臂の活躍をする最高のポジションなのです。
そして、ここまで進むと卑屈に見えた「▲8八歩」が、よい守備駒になっていることが分かります。すなわち、ここに歩があるおかげで、△6五桂▲同桂△同歩と攻められても3三の角の利きをブロックしているので差し支えありません。
加えて、△8六歩と伸ばされても、それ以上攻め込まれないことも嬉しいポイント。もし、▲8七歩型であれば歩を交換されてしまうところでしたが、この配置なら一歩交換されません。凹んでいるがゆえに、後手は目標に手が届かないのですね。
次に先手は▲6八銀と上がったり、▲4六歩→▲4七銀と盛り上がるのが楽しみです。後手はこれ以上自陣を進展することが難しく、駒組みが飽和しています。ゆえに、この局面は先手が組み勝った印象ですね。
それにしても、▲7九角→▲8八歩→▲5九銀という手順で角を5七に配置するプランは下を巻かされますね。その上、辛そうな格好に見える▲8八歩型が受けの好形になっていることにも驚きです。これは素晴らしい構想力を見せた妙手でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わり腰掛け銀から後手が右玉、先手が穴熊に組んで戦う構図になり、こういった局面になりました。(第3図)
2021.3.16 ▲Suisho4_TR3990X VS △FROZEN_BRIDGE(棋譜はこちら)
先手は穴熊らしく強攻していますが、ご覧の通り大駒を二枚とも失っていますね。加えて、6八の金取りも残っており、極めて逼迫した状況を迎えています。
どう攻めを繋ぐのか難しい場面ですが、先手は精密な手順を用意していました。
あえて歩を捨ててしまうのが妙手でした!
ただでさえ攻め駒が少ない状況下なのに、あっさりと拠点を捨ててしまうとは意表を突かれます。「これで大丈夫なの?」と心配になりますが、この成り捨てがあとで存分に利いてくるのです。
これを△同玉は▲6四銀で藪蛇なので、△同桂は当然ですね。先手は5五の金も当たりになってしまいましたが、そこで▲5四銀が凄まじい豪打。これで攻めが繋がるのです。(途中図)
これは5三に駒を打てるようにするための犠打です。後手がそれを嫌うなら△4五馬▲同金△5四歩という応接はありますが、平凡に▲5四同金と前進すれば問題ありません。大駒を入手できれば、先手は切れ筋の懸念をクリアできます。(A図)
したがって、▲5四銀に△同歩は妥当ですが、これで先手は狙い通り▲5三金が打てました。(途中図)
さて、後手は右か左か二者択一です。まずは△4一玉を見て行きましょう。
これには▲3三桂成△同桂▲4四金と行進します。スレスレの攻めではありますが、結論から述べると後手玉は寄り筋に入っているのです。(第5図)
次に▲3三金を指せれば必至が掛かりますね。後手は一刻も早く玉を下段から移動したいので△3二玉と指したいのですが、それは▲4三金寄でアウト。この▲4三金寄を指せるようにしたことが、▲6三歩成の意味なのです。
第5図では△2一桂が最善の粘りですが、▲4二銀△3二玉▲4三金寄△2二玉▲3三銀成という要領で、ブルドーザーのごとく金を押し寄せて行けば問題ありません。とにかく後手は4三の地点が薄くなっていることが痛く、先手の進軍を堰き止められないのです。
という訳で、本譜はここで△6一玉を選びましたが、▲6四歩が攻めを厚くする好手です。単に桂を取るのではなく、と金を作りながら取りに行くのがクレバーですね。
後手は玉が下段にいたままでは支えきれないので、△7二玉▲6三歩成△8三玉はやむを得ません。そこで一転して▲6七金直と受けに回ったのが冷静。これで先手は方針が分かりやすくなりました。(第6図)
後手玉に三段目まで避難されてはいますが、先手は次に▲3三桂成→▲7二銀や、▲6四金→▲7三とという着実な攻めが残っています。なので、もう切れ筋に陥る心配はありません。
後手は自玉がすぐには寄らないものの、このエリアからは脱出が望めないので、勝つためには先手玉を倒すしかない情勢です。が、穴熊の堅牢を切り崩すのは至難の業ですね。ゆえに、この局面は先手の勝算が高い局面と言えるでしょう。もちろん、結果も先手が勝利を収めました。
先手の寄せは途中の▲5四銀がインパクトのある一手でしたが、それを成立させた立役者は▲6三歩成です。5一に桂が残っていると、先手は敵玉を下段に落とした後に▲4三Xや▲6三Xという手が指せません。ゆえに、これを移動させておくのが大事な下準備なのですね。
そして、この▲6四歩も地味ながら厳しい一着でした。「歩を成り捨てたあとに再び歩を打つ」という一連の流れが美しいですね。タップダンスのような小気味いい攻めであり、巧みな歩の使い方が光る妙手順だったと思います。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。端的に述べると、これは度肝を抜かれました。言葉を失う一手でしたね。(第7図)
2021.3.18 ▲AAV VS △DG_test210307_24C_ubuntu(棋譜はこちら)
先手は駒得ではありますが、8筋が突破されつつあります。6五の金も中段で迷子になっているような感があり、状況は芳しくないように見えるかもしれません。
しかし、次の一手で世界が変わります。
「取ってみろ!」と言わんばかりに、角を放り込んだのが妙手でした!
▲5一角!?
なんじゃこりゃあ!? という感じですが、これが棋勢を引き寄せる一撃です。将棋にはこんな手があるんですねぇ…。
落ち着いて状況を整理しましょう。
まず、これを△同金は▲7一飛成で銀が取れます。これは先に飛車を成り込めるので、先手がはっきり良いですね。(B図)
よって、これを金で取る手はありません。
では、△3一玉と逃げる手はどうか。これには▲9五角成とひっくり返っておきます。打ち込んだ角が敵玉から遠ざかりますが、先手はこの場所に馬を作れると、8筋を対処することが叶うのです。(第9図)
ここで△8二飛と逃げると、▲7七馬と指せることが先手の自慢。これは馬のバリアーが強力ですね。(C図)
かと言って、△8八歩成には▲7一飛成△同金▲8六馬で銀が丸儲けできます。これも後手は選べない進行でしょう。
したがって、本譜は仕方なく▲5一角を△同玉と取りましたが、これにはもちろん▲9五角の王手飛車取りが待っていますね。(第9図)
飛車を抜いてしまえば、先手は一安心といったところでしょう。△6七角と打ち込まれる傷は残っていますが、竜に暴れられる展開とは遥かに脅威が違います。▲5一角という異次元の一着により、先手はピンチを切り抜けることに成功しました。
冒頭の局面では、似たような意味で▲9五角と打つ手もありました。けれども、これは△8二飛で損をしています。ここで▲5一角打△3一玉▲8四角成と無理やり堰き止めても、△9四歩と催促されて困ってしまいますね。
先手は9五の地点に角を打っても負担になるだけなので、思わしくありません。この場所には角ではなく、馬を配置しなければいけないのです。それゆえ、先手は角を5一から打ったのですね。
こうしてみると、この▲5一角は理路整然とした理屈に基づいていることが分かります…が、こんなハチャメチャに見える手が成り立っているとは、もうアイデアが突飛すぎて、ただただ絶句です。
イレギュラーな類ではありますが、こういった手が眠っているから将棋は面白いですし、新しい棋譜をどんどん見ようという気持ちにもさせられます。▲5一角は忘れられない一手になりそうですね。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!