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今週の妙手! ベスト3(2020年11月第3週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年11月第2週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2020.11/15~11/21)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の矢倉に後手が雁木で対抗する将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)

 

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2020.11.18 ▲Krist_483_473stb_1000k VS △AquaMarine_Y5.32_Mizar_i9-9960X戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

ご覧のように、後手は3三の桂が今にも取られてしまいまいそうな形ですね。

このまま3筋方面で被害を被ってしまうと、取り返しのつかないことになりかねません。そうは言っても対応が見えないようですが、AquaMarineには用意の返し技がありました。

AquaMarineが指した手は、△4五桂です!

今週の妙手
4五の地点で桂を取らせに行ったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

これが気持ちの良い跳躍でした。この一手により、後手は死んでいた桂を転生することが出来るのです。

 

今週の妙手

これを▲同歩と応じると、△3六歩▲同銀△4六角が期待の攻め。何の変哲もない角打ちに見えますが、これで先手は痺れているのです。(第2図)

 

コンピュータ将棋

先手は桂取りを受けるだけなら▲4七金打で事足ります。しかし、それには△8七角▲同歩△同歩成▲6九玉△7七とという攻めがありますね。(A図)

こうなると先手は飛車の成り込みが受からないので、ノックアウトされています。

 

コンピュータ将棋

つまり、この角打ちは桂取りと△8七角の両狙いなのですね。△4五桂を歩で取ると、こういった強襲が飛んでくるのです。

 

今週の妙手

仕方がないので先手は△4五桂に▲同桂△同歩という進行を選びましたが、これなら後手は駒損を回避できたので、満足のいく進行になりました。(第3図)

 

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後手は角金交換の駒得を維持できていますし、8六の拠点の存在も大きいので、はっきりと優位に立っています。

ここで▲3三歩成は気になりますが、△4六歩▲同銀△1四角と切り返せば飛車の成り込みは阻止できるので、後手の優位は揺るがないですね。

 

今週の妙手

冒頭の局面では桂が詰まされていましたが、先手は4六の地点を開けることが出来ないという制約を抱えていたのです。△4五桂は、その欠陥を突いた鮮やかな軽業でした。こういった跳躍が決まると、気持ちの良いものですね。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。[後手の雁木 VS 先手の左美濃]という戦型になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

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2020.11.16 ▲elmo_WCSC27_479_1000k VS △BLUETRANSPARENCY戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

後手は居玉ではありますが、金銀のまとまりが良いので玉型においては優位を誇っています。そのアドバンテージを活かしたいところですね。

有効な攻めが繰り出せれば、しめたものです。良さげな手がいくつか映りますが、本譜の攻め方は極めて急所を突いた一撃でした。

BLUETRANSPARENCYが指した手は、△8一香です!

今週の妙手

「下段の香に力あり」という格言に則る手が妙手でした!


 

 

今週の妙手

他にも有力な手が見えるところなので、ここに香を打つのは意外だったのではないでしょうか。一風変わった攻め方ですが、後手はこの手を指すことで攻め駒の働きを一気にブーストすることが出来るのです。

 

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なお、この手に代えて△3五歩で金を攻める手も自然に見えるところですね。ただ、これには▲7六桂と反撃される手が厄介なのです。(第5図)

 

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△7三角は▲7四歩がありますし、△5三角では敵陣への利きが逸れるので▲4六角△5五歩▲4五金という要領で金取りをいなされてしまいます。これでは面白くありません。

 

floodgate

また、ここでは△8三香▲7七銀上△8七歩という攻め方も考えられますが、やはり▲7六桂が手強い反撃ですね。(第6図)

 

コンピュータ将棋

一回は△8八歩成が入るものの、▲6九玉の後にピリッと来る攻めが見えません。後手は△5三角と逃げるくらいですか、▲4五桂と跳ばれて難局と言えます。

この進行では先手陣にダメージを与えていないので、△8三香と打った甲斐が乏しいのですね。

 

コンピュータ将棋

このように、後手は▲7六桂を打たれると、

・6四の角が負担になる
・3筋の金桂が働きだす

こういったデメリットがあるのです。

 

floodgate

つまり、始めの局面で後手は、▲7六桂を上回る攻めを繰り出す必要があり、それが△8一香という攻め方なのです。

 

今週の妙手

これに対して、先手は▲8五桂打のような手を指せば8筋に壁を作れるので、砲台の力を封じることは出来ます。しかし、桂を手放すと▲7六桂が消えるので、後手は△3五歩や△9六香といった手が指せるようになりますね。先手は桂を受けに使うことが出来ないのです。

 

今週の妙手

ゆえに、本譜は▲7七銀上△8七歩▲6九玉△8八歩成と進めてから▲7六桂を実行したのですが、△7九と▲5八玉△3五銀が素晴らしい踏み込みでした。(第7図)

 

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[△7九と▲5八玉]の利かしを入れてから銀を突進したのが見事な組み立てです。こうすることで先手玉が3筋に近づくので、△3五銀の威力が向上するという仕組みですね。

 

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▲同金△3七角成では7六に打った桂が空振りです。

本譜は▲6四桂△3六銀▲5二桂成△同玉▲4七金と抵抗しましたが、△3五桂が変換性理論に則った一着。これで後手の寄せが決まりました。(第8図)

 

金は斜めに誘え

▲3六金で銀は取られてしまいますが、△4七金▲4九玉△8九飛成と畳み掛ければ良いでしょう。次は△7八とが痛烈なので、先手は粘りが利かない格好ですね。以降は、後手の収束を見るばかりとなりました。

 

今週の妙手

基本的に、後手は▲7六桂に対処する必要があったので、どこかで△3五銀と出る機会を窺っていたのです。ただ、今すぐに決行すると、先手玉が7筋にいるので響きが弱いですね。

 

floodgate

△8一香から△8七歩という攻め方をすれば、最終的に△7九とまで攻め込むことが出来るので、先手玉を5筋まで追い立てることが出来ます。そうなれば、当たりが強くなるので△3五銀が効果覿面の一着になるというビジョンだったのですね。

 

floodgate

ただ単に8筋を突き破るだけなら、△8三香でも実現できます。△8一香の素晴らしさは、△3五銀と出る筋との関連性を持たせているところであり、こういった組み立てを見ると深いところまで読みが入っていることが分かりますね。見事な寄せの構想だったと思います。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、こちらの将棋です。これは受けの強さが光った妙手であり、見ていて惚れ惚れとする指し回しでした。(第9図)

 

コンピューター将棋

2020.11.18 ▲QueenAI_test201010_i9-7920x_12c VS △Cendrillon戦から抜粋。(棋譜はこちら

お互いに敵玉付近に成駒を作っていますが、竜の存在感が大きく見える印象を受けます。

先手難局を思わせましたが、次の一手を境にして、棋勢は先手に好転していったのです。

QueenAI_test201010_i9-7920x_12cが指した手は、▲6八玉です!

今週の妙手

堂々と玉を上がり、7八の地点に利きを増やしたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

自ら相手の攻め駒に近づくので利敵行為にも見えますが、これが自玉の延命を図る巧妙な一着でした。

確かに、先手は△7八成香と寄られてしまうと厳しい状況でした。また、▲6八金寄では△7九成香で根本的な解決にはなりません。とはいえ、ここに玉を上がるのはなかなかにインパクトがありますね。

 

今週の妙手

後手としては、敵の大将が近づいてきたので寄せに向かうチャンスです。本譜は△7八成香▲同金△8六桂と攻めましたが、そこで▲8七金が卒のない対応。ここからのQueenAIの応接は、目を見張るものがありました。(第10図)

 

将棋ソフトの妙手

これは当然、△同竜と応じますが、先手は攻めのターンが回ってきたので▲4四歩△同銀▲4九香と進めます。後手も負けじと△6五桂で攻め合いますが、▲6五同銀と食いちぎって玉の広さを確保するのが大事ですね。(途中図)

 

可動性理論

ここからは、△同銀▲4四香△4三歩▲5一銀△4九銀と互いに騎虎の勢いで斬り合います。

ただ、△4九銀の局面は先手玉に詰めろが掛かっており、後手に軍配が上がったかに見えました。しかし、そこから▲5七玉△7八竜▲5九香が際どい凌ぎ。何とこれで先手玉には詰めろが続かないのです。(第11図)

 

将棋ソフト

△5八銀成▲同香△5九金と迫るのは、▲4七銀で受かっています。

他には△5八銀成▲同香△5五歩も考えられますが、これには▲3四飛が絶好の返し技ですね。(第12図)

 

今週の妙手

△3三歩と節約すると、▲4二銀成△同玉▲4三香成△同玉▲6一角から詰んでしまいます。

しかし、△3三金打と抵抗しても▲5三角と打てば一手一手の寄り筋なので、これも先手が勝ち切れるでしょう。(B図)

先手は▲3四飛と走ったことで、△5五歩に空を切らせていることが大きいのです。

 

今週の妙手

こうして振り返ってみると、この▲6八玉という一手は△7八成香を防いだという意味もさることながら、玉を5七の地点に避難させて相手の攻めをいなすという意味も内包していたがことが読み取れます。途中図の▲6五同銀などは、その姿勢を貫いていることが垣間見えるでしょう。

 

今週の妙手

先手は玉を上部へ移動すれば将来の▲3四飛が攻防手になるので、5七の地点まで逃げ出すことは非常に大きな価値があったのですね。

 

今週の妙手

指されてみれば「そりゃそうだ」という感じかもしれませんが、こういった玉の使い方は非常に力強く、なかなか真似できない指し回しではないかと感じます。▲6八玉から▲5九香までの一連の手順は、綿密に計算された絶妙な凌ぎ方でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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