どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年2月第1週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.2/7~2/13)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から先手が積極果敢に攻め込んで行く構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.2.12 ▲kame VS △xgs戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は大駒を三枚保有していますが、現状では攻め駒の数が足りていません。よって、戦力の補給が必要です。
そうなると先手の指し手は限られてきますが、本譜は思いもよらない方法で手駒の確保に向かいました。
あえて金が利いている場所から飛車を打ったのが妙手でした!
持ち駒の飛車を敵陣に打つのは普通です。ただ、何故わざわざこんな場所に打つ必要があるのでしょうか? イマイチ理由が見えて来ませんが、先手はこうすることで、後手に不都合な手を強要することが出来るのです。
なお、冒頭に述べたように、先手は手駒が不足しています。手っ取り早く香を取るなら▲9一馬になりますが、これは馬の働きが悪くなるので一利一害です。
では、▲8一飛はどうでしょうか。これは至って自然な一手ですね。しかし、△3四歩▲9一飛成△3三玉と進められると、先手は形勢を損ねることになります。(第2図)
先手は4四の飛が捕獲されていますし、後手玉の脱走を阻止することも難しいですね。
第2図の局面になってしまうと、敵玉を捕まえるビジョンが見えません。あっさり△3三玉を実現されると、先手は相当に厳しくなります。
それを許さないために、▲5一飛と打つ必要があるのですね。
さて、これは次に▲5二飛成△同角▲4二金(もしくは▲5一馬)を狙っています。なので、後手は△3四歩を指している余裕はありません。
また、素直に△同金▲同馬と進めるのも寄り筋に入ります。(A図)
5二の金は後手にとって受けの要なので、簡単に盤上から消す訳にはいかないのですね。
ゆえに本譜は△4二金打で守備駒を増やしましたが、これで▲9一飛成と香を取れば、先手は第2図よりも得をしたと言えるでしょう。(第3図)
先程は△3三玉と上がられて寄せが困難でした。しかし、この局面はまだ後手玉の脱出路が開けていないので、先手は条件が良いのです。
ここで△3四歩には、▲4六香と打つのが面白いですね。△3三玉に▲4五香を用意しておけば、飛車取りを防ぎつつ戦力を増やせるので先手は都合が良いですね。
一刻も早く上部へ脱出したい後手にとって、△4二金打は一手のロスと言えます。そういった無駄な手を指させたことに、▲5一飛の価値があるのですね。
飛車を取られることが無いのであれば、金香両取りになるので5一が最適な打ち場所ということになります。とはいえ、この場所に飛車が打てるとは、なかなか思い浮かびません。先入観に囚われない将棋ソフトらしさを感じさせる一着でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の矢倉に後手が速攻を仕掛ける展開になり、こういった局面になりました。(第4図)
2021.2.11 ▲LUNA VS △AobaZero_w3183_n_p800戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手が3三にいた角を、天王山へ躍り出たところ。
この手は竜取りと同時に、△3七歩成▲同銀△3六歩という攻めも見据えています。先手はそれらを同時に防ぐことが出来ないので、困ったように見えるかもしれません。
ところが、先手はここからあっという間に勝利を引き寄せることに成功します。「ピンチはチャンス」とはよく言ったものですね。
スパッと飛車をぶった切る手が妙手でした!
この瞬間に飛車を切って、敵玉を仕留めに行くのが好判断でした。こうすることで、先手は△5五角を無効化することが出来るのです。
後手は2二の竜を取るしかありません。9一の竜取りを持続するなら△同金になります。しかし、これには▲4二銀が狙いの一打。送りの手筋ですね。(第5図)
後手は△5二玉で凌げていれば良いのですが、▲4一銀不成△5一玉▲5二歩で金を取られてしまうので上手くいきません。
また、△4二同玉▲6一竜△5一銀と受けるのも、▲5八香が絶好の攻防手になりますね。後手は5五に角がいるせいで成桂が逃げることが出来ず、痺れています。(C図)
このように、後手は▲4二銀を喫すると、防衛ラインが決壊してしまいます。
そういった事情があるので、本譜は△2二同角を選びました。ですが、これにも▲5二歩△同玉▲4一銀で送りの手筋が決まるので、先手の攻めは止まらないですね。(第6図)
△同玉はやむを得ない応手ですが、▲6一竜△5一銀打▲5二金△3一玉▲6二金と畳み掛ければ、後手玉は一手一手の寄り筋です。対する先手玉はまだ詰めろも掛かりません。ゆえに、この局面は先手勝勢と言えます。
話をまとめると、後手はどのような応対をしても最終的には送りの手筋を決められ、手番を取られながら9一の竜に逃げられてしまうのです。こうなると、△5五角と出た手が完全に一手パスになってしまいましたね。裏を返せば、▲2二飛成が一瞬の隙を逃さない的確な一撃だったことが読み取れます。
この手は指されてみれば当然という類いの一手ではあります。とはいえ、どうしても目線が9一の竜に向かってしまうものなので、この瞬間に飛車を切るのは鋭さを感じずにはいられません。▲2二飛成は、すこぶる俊敏な寄せの妙手でした。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これも強いインパクトを与える一着でした。(第8図)
2021.2.10 ▲rsm4ii VS △Yashajin_Ai戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は持ち駒が潤沢にありますが、自玉の薄さは如何ともしがたいですね。後手玉も堅いとは言えないのですが、中段が広いので見るからに捕まえにくそうな格好です。
見通しがつかないので先手難局かと思わせましたが、本譜は見事な着想で寄せの構図を描きました。
角を捨てて敵玉を引っ張り出したのが妙手でした!
普通の感覚であれば、ここは角を逃げるところでしょう。敵玉に突貫していくとは常軌を逸していますが、これが素晴らしい判断でした。
ちなみに、ここで▲6五角は△6四銀で銀取りをかわされながら角に当てられるので、先手ははっきり損をします。
他には▲8九角も考えられますが、△5六歩が厄介な垂れ歩ですね。(第8図)
と金を作られると、後手の玉を寄せ切るハードルがぐーんと上がってしまいます。しかし、▲5八歩と受けると、△7二金で後手にも受ける余裕を与えてしまいますね。
▲8九角は無難ではありますが、ここに移動すると角が眠ってしまうので、一手の価値が無いのです。
なので、先手は▲3四角と斬り込んでいったのですね。
これを放置すると、後手は▲3五銀と打たれてKOです。なので△同玉は必然ですが、先手は▲7三竜で銀を取ります。
なお、角を見捨てるなら単に▲7三竜△5六金という進行もありましたが、先手はこちらの変化を選ぶほうが後手玉を「見える」形にできるので、好都合なのです。(途中図)
さて、手番を握った後手は、ここで有効な手を繰り出したいですね。一案としては、△5六歩からと金作りを目指すのが挙げられます。
しかし、これには▲6四竜△4四歩▲2六桂と迫れば、割と簡単に後手玉を寄せ切ることが出来ます。(C図)
後手は竜を6四にまで接近されると、中段へ泳ぐことが出来なくなるので捕まってしまうのですね。
改めて、途中図に戻ります。
後手は▲6四竜を実現されると、自玉が著しく狭くなることが分かりました。なので、本譜は△5五角でそれを防いだのですが、これにも▲2六桂が急所の一着です。
△4五玉には▲3四銀△5六玉▲4五銀打という要領で迫れば寄り筋。そうなると△3五玉は妥当ですが、▲8四竜で先手は詰めろを掛けておきます。(第9図)
後手は竜の利きを遮るだけなら△4四歩で事足ります。けれども、これには▲3六銀△同金▲同歩△同玉▲4七銀△同玉▲4四竜という必殺技があり、後手玉は即詰みコースに入ってしまうのです。(第10図)
△同角には▲4九香△3六玉▲4六金から並べ詰み。他の対応も、容易に詰みます。先手は1八の飛が門番なので、後手玉を自陣の方へと近づけさせたほうが寄せやすいのですね。
後手としては、もっと厳重にガードを固める必要があるようです。本譜は△5七銀成▲7九玉△4四銀と指し、自玉周りに金気を増やすことでトン死筋をケアしました。
ただ、これにはスッと▲5四竜が着実な一手。やはり4五→5六というルートを消しておくのがスマートな寄せですね。(第11図)
次は▲3四金△2六玉▲5五竜△同銀▲3五銀という順で詰ます狙いがあります。△9九角成には▲3六香で4六の金を消せば、後で▲5七竜と成銀を回収する手が生じるので、これも先手勝勢でしょう。
第11図は駒が込み入っていますが、先手玉には詰めろが掛からず、後手玉は複数の攻め筋を振りほどけない状況です。したがって、先手は混戦を抜け出すことに成功したと言えますね。▲3四角の突撃が功を奏しました。
こうして先手の寄せを振り返ってみると、
・▲2六桂を王手で打つ
・竜を四段目に配置する
この二点を両立することで、後手玉への照準を定めやすくなったことが分かります。これが敵玉を寄せるためのキーなのですね。だから先手は▲3四角と突っ込んで行ったのです。
この局面は、角を犠牲にしても先手は攻め駒が充分に足りています。また、この捨て駒により、後手玉の安全度を大いに損ねることも出来ました。変換性理論や四駒方式に則っているので、角を放り投げるという豪快な手が成り立っているのですね。まさに終盤戦の特殊な状況を、上手く利用した一着でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!