どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年4月第1週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.4/4~4/10)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから互いの大駒が飛び交う激しい展開になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.4.8 ▲FukauraOu_RTX3090-2080S VS △40b_n009_RTX3070(棋譜はこちら)
先手は何か防がなければいけない狙いは無いので、ここは指し手の自由度が高い局面です。それゆえ、逆に何を指せば良いのか悩ましいところでもありますね。
果たして、先手はどんな選択をしたのでしょうか。
悠然と香を取ったのが落ち着いた妙手でした!
先手は▲3一飛→▲3二とという攻め筋も視野に入っていたので、と金をそっぽに移動させるのは意外ですね。何だか筋が悪いようですが、これが自陣の安定を図る賢明な一着なのです。
後手は駒損しているので、代償を求めるために攻める必要があります。ゆえに、△5五銀打と指しました。金を狙うセオリー通りの一着ですが、そこで▲1三角が先手の用意していた受け。これが後手の攻めに歯止めを掛けました。(途中図)
これは直前に香を刈り取ったことを活かしていますね。馬を引き付ける展開になれば、先手は自玉の薄さをリカバリーできるので、味が良いことこの上ないでしょう。
後手は金が取りにくいので△5二金寄で力を溜めましたが、ここで緩むようでは「攻めがありません」と宣言しているようなもの。▲1三角の防御力の高さが分かります。
手番を得た先手は、▲4八歩でさらに憂いを無くします。以下、△7四桂にも▲6七香と投資しておけば、自陣がすこぶる安全な格好になりました。(第3図)
こうなると、後手は全く手出しが出来ません。しかし、攻め足が止まると飛銀交換の損失だけが残るので非勢は明らかですね。先手は丁寧に受けに回るプランが功を奏した格好です。
この▲1一とは悠長なようでも、
・駒損を早急に回復する
・▲1三角と打つ手を作る
・△7四桂に▲6七香を用意
こういった意味があるので、実は多くのベネフィットがあるのです。これで相手の攻めをシャットアウトできるので、攻め駒がそっぽへ移動しても差し支えないのですね。
「終盤は駒の損得よりもスピード」という格言がありますが、これは裏を返せば、終盤でなければ駒得を重視せよということでもあります。
▲1一とから先手の指し手は一貫して自陣をお手入れすることに勤しんでおり、これは局面を中盤戦へ戻したいという表れです。長期戦になれば駒得が活きるので、そういった方針を選ぶほうが賢明という理屈なのですね。▲1一とは、受けに回ることで相手を突き放す冷徹な妙手でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。本局は、後手の押さえ込みを先手がどう突破するかという構図になりました。そうして迎えたのが以下の局面です。(第3図)
2021.4.6 ▲QueenInLove-j088_Ryzen7-4800H VS △BURNING_BRIDGE_210404z(棋譜はこちら)
現局面は、飛車を二枚持っている後手の方が指しやすそうに感じるのではないでしょうか。先手は何を目標にすれば良いのか、ぱっと見では分かりにくいですね。
しかし、後手陣には意外な場所に隙があったのです。その欠陥を先手は見逃しませんでした。
端に角を打って敵陣にプレッシャーを掛けたのが妙手でした!
こんな狭い場所に角を打つのは不安しかありませんが、これが針の穴に糸を通すような鋭い一手でした。
一見、△2一飛を打たれると角が拿捕されているので無理攻めに思えます。けれども、これには▲5五角という返し技があるので心配無用ですね。(A図)
この変化があるので、1一の角は簡単には犬死しないのです。
なので、本譜は△4四桂と打ち、▲5五角に備えました。ただ、この交換は攻め駒を敵陣に侵入させた先手が得をしています。これに乗じて、▲1三歩△同香▲1二角とさらに畳み掛けたのが攻めを繋ぐ好手順ですね。(第4図)
後手は銀取りを防ぐ必要がありますが、△3五銀は▲3四角成で悪化します。
よって、ここは△2三銀が自然ですが、▲同角成△同金▲1二銀で金を狙えば、先手の攻めは止まりません。(第5図)
△3四金と逃げても▲2三銀不成で追いかければ五十歩百歩ですね。また、△3二玉も▲3五桂で薮蛇です。この局面は駒を取りながら攻撃を続けることが約束されているので、先手がはっきり良くなりました。
こうして見ると、後手は1一に角を打ち込まれたことで3三の桂が負担になったことが分かります。これがお荷物になってしまったことで、受ける条件が悪くなってしまったのですね。もし、あの桂が存在しなければ、第5図では△1四金でも簡単に受かります。しかし、桂がいる以上、そういった真似は出来ません。
この▲1一角は指されてみればなるほどですが、この場面で3三が弱点だとはイメージできないですね。後手は△4二金右のような手が利けば嬉しいのですが、▲5四桂を誘発するのであの地点を強化することが思いのほか難しいのです。
AIの将棋は、人間の目線からすると、見えない場所からパンチを浴びせてくるような手がよく見られます。この▲1一角も、その典型的なパターンと言える妙手でしたね。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これは見事なカウンターを決めた妙手でした。(第6図)
2021.4.6 ▲BURNING_BRIDGE_210404z VS △mbk_3340m(棋譜はこちら)
先手は角銀交換で駒得ではありますが、この△3七銀はうるさい食い付きですね。また、先手は△8六歩と取り込まれる手も残っており、自陣はかなり傷んでいる状況です。
情勢は思わしくないように見えましたが、この苦しそうな場面を先手は見事な構想で乗り切ったのでした。
歩を叩いて反撃に転じたのが妙手でした!
とりあえず王手ということは分かりますが、全くもって謎の叩きにしか見えません。ところが、これが戦局を変えた飛礫だったのです。
これには△同銀が自然…というより、後手は他の応手を選ぶと多大な被害を受けます。つまり、△同玉だと▲3七銀△同桂成▲2六角が王手成桂取り。△6三玉は▲6一角。△4一玉は将来の▲2四桂が強烈なので、明らかに損ですね。
そんな訳なので、これを△同銀は当然ですが、この利かしを入れてから▲6八飛と回ります。ここからの手順が圧巻でした。(途中図)
さて、後手は挟撃態勢を作るなら△8六歩ですが、これを指すと▲8三歩△同飛▲7五桂という王手飛車を含みにした反撃を喫するので泣きを見ます。(B図)
この変化は△8七歩成が実現する展開になりません。ゆえに、後手は△8六歩を安易には指せないのですね。
そうなると▲6八飛には△2六銀成で銀を取ることになりますが、▲6五歩△同歩▲7七桂が絶妙の駒運び。これが先手の描いていたシナリオでした。(第7図)
次に▲6五桂が実現すれば先手の大砲が火を吹きます。銀取りと同時に飛と角の利きが一気に通ってくるので、凄まじい威力であることが感じられるでしょう。後手はこれを食らう訳にはいきません。
なお、後手は本音を言えば、▲6五歩を無視して攻めに転じたいところでした。ただ、▲6四歩の取り込みは▲6三歩成の先手になるので、手抜きしづらい事情があります。
ここまで進んでみると、▲5三歩の叩きは▲6五歩と▲7七桂の当たりを強くするための意味だったことが分かりますね。
後手は▲6五桂を受けることが絶対なので、△7三桂と辛抱しました。これは同じ駒で対抗することで均衡を保つ相対性理論に基づいた受けですが、▲2四桂と一転して右辺を攻めたのが好着想。△3一金と引かせてから▲3三歩成△同銀▲8五桂で角道を通せば、先手の攻めが炸裂していますね。(第8図)
3三の銀と7三の桂の両取りが掛かっているので、後手は痺れています。△6六銀と打っても、▲同角△同歩▲7三桂成で快調に攻めが続きますね。
先手は大駒が攻めに働いており、相手の攻め駒も自玉から離れさせることに成功しました。加えて、8筋の嫌味を解消できたことも見逃せないですね。唯一の懸念は駒損していることですが、これは回復が見込めるのでさしたる問題ではありません。そうなると、先手の優位は明らかです。
先手は冒頭の局面では一方的に攻められていましたが、▲6八飛と回った手を最後に、全く受けの手を指していません。2六の銀を犠牲にすることで、見事に体勢を入れ替えたことが読み取れます。
一連の手順の中では、▲6五歩と▲7七桂の二手が攻めに厚みを加える好手です。▲6五桂を見せることで、左辺の[飛・角・桂]が一気に覚醒しました。そして、この▲6五桂の威力を引き立てた立役者は、もちろん▲5三歩の叩きであることは言うまでもありません。
要するに、先手は8九の桂を跳んでいくことを見据えていたので、▲5三歩を放ったという訳なのですね。とはいえ、この段階から敵玉を射程に入れていたのは、驚異の読み筋です。まさに深謀遠慮であり、見えている世界の違いを感じさせる一着でした。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!