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今週の妙手! ベスト3(2020年3月第3週)

妙手 聡太

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
妙手 桂今週の妙手! ベスト3(2020年3月第2週)

 

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.3/15~3/21)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから互いに飛と角を乱舞させる激しい展開になり、このような局面になりました。(第1図)

 

2020.3.20 第33期竜王戦1組出場者決定戦 ▲三浦弘行九段VS△渡辺明三冠戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

先手が▲6五桂と打って、銀取りを掛けたところ。

後手は攻め駒が豊富にありますが、この銀取りを放置したまま敵玉を寄せ切るのは少し難しそうですね。△5八金と打てばある程度は迫れますが、不用意に駒を渡すと自玉も危うくなります。

 

ただ、素直に銀を逃げるようでは何だか相手の注文通りという感もありますね。銀取りの処置が悩ましい局面ですが、渡辺三冠は明瞭な答えを用意していました。

渡辺三冠が指した手は、△7四香です!

 

7筋に香を設置して、先手の飛の行動範囲を狭めたのが妙手でした!


 

 

このタイミングで7筋に香を放ったのが機敏な一着でした。こうすることで、後手は自玉の安定を確保することが出来るのです。

 

そもそも後手としては▲6五桂に対して△6四銀が利くのであれば、それに越したことはありません。けれども、現状では▲8二飛成があるのでそれは出来ないですね。

また、△6二銀と引く手も考えられますが、それには▲4五桂と跳ばれると後手はトン死筋を見せられてしまうので、あまり自玉の脅威を緩和できていません。(A図)

そういった問題点をクリアするのが、この△7四香なのです。

 

これは詰めろなので、先手は香の利きを遮断することが必須です。ただ、▲7七歩では△5八金▲7八玉△6八金▲同銀△8八金で詰みですね。7七の空間は先手玉のライフラインなので、そこを塞ぐと窒息してしまいます。

 

したがって、△7四香には▲7六歩が妥当ですが、そこで△8五歩と飛車を打診するのが期待の一着になります。(途中図)

 

[△7四香⇔▲7六歩]の利かしを入れることで、この叩きの効果が格段に上がっています。先手は▲5六飛が指せなくなっているので、都合の良い飛車の逃げ場がありません。

本譜は仕方なく▲9六飛と指しましたが、これで飛車が8筋から逸れたので、念願の△6四銀が指せるようになっています。(第2図)

 

こうなると「桂頭の銀」の形を作ったので、後手玉はすこぶる安定しました。ここで▲4五桂は△6五銀で差し支えないですし、▲9三飛成には△5八金▲7八玉△6八金▲同銀△7六香で先手玉を即詰みに討ち取れます。

第2図は玉の安全度に小さくない差が着いているので、後手がはっきり優勢になったと判断できるでしょう。

 

改めて、第1図に戻ります。

この局面では8六の飛が攻防に働く良いポジションなので、それに働き掛けることが急所でした。しかしながら、いきなりこの飛車を触りに行くと、▲5六飛で玉頭を狙われるので火に油を注ぎます。飛車を移動させる前に、その駒の力を弱めておく必要があり、その具体的な手段が△7四香だったという訳なのですね。

敵陣を攻める意味ではなく、邪魔駒を設置させるために香を使ったところに妙味があると感じました。

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から先手が攻勢に出る将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

 

妙手 

2020.3.17 第68期王座戦二次予選 ▲大橋貴洸六段VS△谷川浩司九段戦から抜粋。

後手が△3一銀と引いて壁銀を立て直したところです。

ここから後手は自玉を2二まで逃げることが出来れば、玉の安全度が飛躍的に増すので形勢の好転が期待できます。先手は玉型の差が主張なので、それだけは阻止したいところですね。

 

そうなると△3三玉を妨害する手を選ぶことになりますが、大橋六段の着想は一味違いました。

大橋六段が指した手は、▲9三銀です!

 

妙手 聡太

単刀直入に角を狙ったのが妙手でした!


 

 

妙手 聡太

貴重な持ち駒をこんな場所へ使うので抵抗がありますが、これが状況を正確に捉えた一手でした。先手はこの角をやっつけると、攻めの威力が増強されるのです。

まず、角を入手すると△3三玉と逃げられたときに▲4四角という攻めがありますね。つまり、間接的に後手玉を狭めることが出来るのです。

 

妙手 聡太

なので、後手はひとまず△8三角とかわしますが、先手は▲8四銀成で引き続きこの角を追いかけます。(途中図)

 

妙手 聡太

後手は△6一角と逃げることが出来るものの、それには▲5四金が厄介です。後手は角が9二から追われたことで、先手の飛車を遮る術がなくなっていることが痛いですね。(B図)

 

よって、本譜は角を逃げずに△6八歩▲同飛△5九銀と攻め合いに活路を求めましたが、▲6六飛△4八銀不成▲8三成銀と進んだ局面は、先手が大いに得をしました。先手にとって角という駒は、喉から手が出るほど欲しい駒だからです。(第4図)

 

妙手 聡太

後手は駒得を主張するなら△8三同飛ですが、やはり▲5四金で飛車の利きを通す手が絶好なので、どうもその余裕はありません。

また、△5七銀不成には▲6四角△5三金▲5四金という攻めがあり、これも迫力がありますね。どのような変化になっても、後手は△3三玉→△2二玉と逃げていく展開にはならず、自分の理想を封じられているのが泣きどころです。

先手は戦力を増強させながら攻めを継続することに成功しているので、▲9三銀が実を結んだ格好と言えますね。

 

妙手 聡太

こういった盤上の僻地にある駒に触りに行くのが筋が悪いとしたものですが、この局面においては角をゲットする価値がべらぼうに高いので、例外的に成立している一手と言えるでしょう。角を除去することで、6九の飛が使いやすくなる点も見逃せないですね。この▲9三銀は、目敏い妙手でした。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは流れるような寄せが印象的で、まさに芸術的でした。(第5図)

 

妙手 聡太

2020.3.16 第68期王座戦二次予選 ▲阿部隆八段VS△藤井聡太七段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

後手は△6五桂と金取りに桂を跳ね、それを▲6六金とかわしたところです。

後手は[飛・金・銀・桂]という4枚の攻めを実現しており、セオリーに則ると攻めが切れることはないでしょう。とはいえ、まだ先手玉がすぐに寄るという段階ではなさそうなので、難解な局面に見えるところです。

 

ところが、ここから十数手ほど進むと、もう大勢は決してしまったのです。これは才気あふれる寄せでしたね。

藤井七段が指した手は、△8五歩です!

 

妙手 聡太

飛車をより良い場所へ配置するべく、歩を合わせたのが妙手でした!


 

 

妙手 聡太

これが先手の臓腑を抉る一撃でした。ぱっと見では8筋を攻めているようですが、真の狙いは飛車を捌くことにあります。

 

玉頭に対する攻めを放置できる状況ではないので、先手は▲8五同歩△同飛▲8六歩と応じますが、そこで△7六金と捻じ込むのが鋭い踏み込み。以下、▲同金△同銀▲同玉△7五飛と進みました。ここまでは一本道ですね。(第6図)

 

妙手 聡太

先手は玉の逃げ場が二通りありますが、▲8七玉では△7七金▲9六玉△9四歩で必死が掛かってしまいます。(C図)

ゆえに、本譜は▲6六玉とかわしましたが、そこでふわっと△5五歩と置いたのが優美な決め手。この手を見据えていたからこそ、藤井七段は△8五歩と合わせる手を選んだのです。(第7図)

 

これは(1)△5六金と、(2)△7六金▲5五玉△5七桂成という複数の詰めろが狙いです。それらを同時に防ぐには▲5五同角しかないですが、それから△7八飛成とすることで、先手を受け無しに追い込むことに成功しました。(第8図)

 

妙手 聡太

先手の角を5五に移動させたことで、▲6八金という受けを不能にしたことが後手の自慢ですね。攻め駒が少ないので綱渡りのような寄せではあるのですが、駒の配置が絶妙で、全て後手の都合の良いように仕上がっているのです。

 

これは△7六金▲5六玉△6七竜や、△7五金▲5六玉△5八竜という詰めろを掛けていますね。

それらを受けるだけなら▲7六歩や▲4七金で事足りますが、どちらも△5八竜が痛烈です。この手を喫すると先手は4筋方面へ玉が逃げられないので、どう頑張っても捕まってしまうでしょう。

 

妙手 聡太

つまり、先手はこの局面で、上記の詰めろの他に△5八竜もケアしなければいけないのです。けれども、そんな都合の良い受けはさすがに見当たらないですね。本譜は▲1一角成でお荷物の角を動かしましたが、△7五金で終局となりました。以下、▲5五玉には△6七竜で一手一手ですね。

 

この一連の寄せは鋭利な手のオンパレードでしたが、中でも一番、光を放っているのは、やはり△5五歩と言えるでしょう。

 

こういったボンヤリした手はなかなか指しにくいですし、何より△8五歩と打って飛車を捌いた流れからすると、ついつい△7八飛成に視点が向かってしまうところです。

また、持ち駒を余すことなく寄せ切っているのは、あたかも詰将棋のようでもあり、そういう意味でも一つのアートを見ているかのような妙手順でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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