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第69回NHK杯 菅井竜也七段VS永瀬拓矢叡王戦の解説記

今週は、菅井竜也七段と永瀬拓矢叡王の対戦でした。

 

菅井七段は振り飛車党で、攻め将棋。今さら説明するまでもない、振り飛車のエキスパートですね。豪快に捌いて勝つ将棋は、見ていて惚れ惚れとさせられます。

 

永瀬叡王は居飛車党で受け将棋。強引に動くような真似はしないタイプで、非常に丁寧な将棋を指される印象があります。受けの強さと安定感の高さが際立っている棋士ですね。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第69回NHK杯1回戦第12局
2019年6月30日放映

 

先手 菅井 竜也 七段
後手 永瀬 拓矢 叡王

序盤

 

初手から▲7六歩△8四歩▲1六歩△3四歩▲6六歩△6二銀▲1五歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

序盤で少し駆け引きがありましたが、最終的には菅井七段の三間飛車に落ち着きました。対して、永瀬叡王は居飛車穴熊で対抗します。

 

第1図は先手が▲7五歩と突いて、石田流への組み換えを目指したところです。後手はここから様々な対抗策がありますが、本譜は△1一玉▲6八角△2二銀▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩で淡々と7筋の歩を交換させる指し方を選びました。(第2図)

 

居飛車はずいぶんと無策な対応をしているように映るかもしれませんが、これが最近、ちょっとしたブームになっている指し方です。[△5三銀・△5二金型]に構えていることがポイントで、これにより石田流への組み換えを牽制している意味があります。

すなわち、ここで▲7六飛と指すと、△6四銀▲7七桂△4二角で相手の飛車を圧迫できることが後手の駒組みの特色になります。(A図)

 

次は△7五銀が狙いです。後手は銀が出て行くと必然的に中央が手薄になるのですが、△5二金型に組んでおけばそのデメリットはある程度、軽減できますね。

A図からは▲6五歩△7五銀▲3六飛が進行例ですが、スムーズに攻めの銀を五段目まで進ませるので、先手はリスキーなところがあります。

 

本譜に戻ります。(第2図)

そのような背景があったので、本譜は▲7八飛で石田流を諦めました。以降は互いに囲いの整備に勤しみましたが、こういった固め合いは居飛車のほうが堅い陣形に組めるので、後手不満なしですね。(第3図)

 

先手は攻めの形が作りにくいので▲4六歩から陣形の発展を目指しますが、△4二角▲4七金△6四銀が機敏な揺さぶりです。

後手の銀を五段目には出させたくないので▲7六歩と辛抱しましたが、交換した歩を打つようでは一貫性に乏しく、先手の作戦失敗が濃厚になってきました。(第4図)

 

永瀬叡王は先手に歩を打たせたことに満足して、△5三銀▲3六歩△4四銀と繰り変えます。次は△8六歩があるので▲7五歩で角道を遮断しましたが、△7四歩でこじ開けに行ったのが強気な仕掛け。後手は、堅陣を作って先攻するという理想的な展開で中盤戦を迎えることに成功しました。(第5図)

 


中盤

 

この歩を取ると△8六歩が生じる訳ですが、▲7六銀のような受けでは△8六歩▲同歩△7五歩▲同銀△8八歩で、技が掛かってしまいます。(B図)

したがって、相手の注文通りではありますが▲7四同歩は致し方ありません。以下、△8六歩▲7三歩成△8七歩成までは一本道ですね。(第6図)

 

ここで自然な手は▲7四飛とかわしておくのですが、△7七と▲同桂△8八飛成▲5七角△7三桂のように進むと先手は芳しくありません。以降は互いにヨコから相手の囲いを削り合う展開が予想されますが、それでは囲いの強度で劣る先手の旗色が悪いからです。

 

そこで、本譜は▲8二と△7八と▲同銀で受けに回る方針を採りました。以下、△8八飛▲7二飛△7七歩▲同飛成△8二飛成▲8七歩で長期戦辞さずの姿勢を見せます。

先手としては、こうやって直線的な斬り合いを避けつつ、少しずつポイントを重ねていく指し方をしないと勝機が見出せないので、この選択は必然と言えます。(第7図)

 

さて。竜の守備力が強いので、後手は7・8筋方面から手を作ることは難しそうですね。なので、永瀬叡王は△3五歩と右辺からちょっかいを掛けました。以下、▲同歩△同銀▲6七銀△2四銀▲2六歩△1五銀で高美濃囲いの屋根を剥していきます。

これは飛車と連動していない攻め方なので特殊なケースではありますが、やはり攻めの銀を五段目に進ませることは、攻撃の基本と言えます。(第8図)

 

先手はこのまま局面が収まってしまうと歩を削られた損失だけが残るので、▲1五同香△同角は仕方がないところ。

そこで先手は選択肢が広い場面ですが、角の働きが悪いので▲4五歩と突きました。後手も△4二角と引いて態勢を立て直します。その局面が、大事な勝負所でした。(第9図)

 

勝負の分かれ目!

 

 

第8図から第9図にかけて、互いに角の効率を向上させる手を指していました。ゆえに、ここではその流れを継いで▲4六角と要所に角を配置することが先決でした。(C図)

 

 

 

ここで△6四歩では彼我の角の働きに差が着いてしまうので、△6四角とぶつけるのが妥当です。以下、▲同角△同歩▲5八銀と自陣を引き締めてどうでしょうか。(D図)

 

 

 

相変わらず後手の穴熊が堅いので先手が勝ちにくい将棋ではありますが、ここで角を捌いておくほうが、後の展開が楽だった意味があります。というのも、本譜は6八の角を上がるタイミングを逸したので、先手は本意ではない手を強要されてしまったのです。

 

本譜に戻ります。(第9図)

実戦は単に▲5八銀だったので、△6四角と王手で角を使われてしまいました。こうなると、先手は▲4五歩と突いた手が逆用されてしまった感があります。(第10図)

 

角を捌くのなら▲4六角ですが、ここでそれを指すのなら、先に▲4六角と上がる方が良いことは明白ですね。

菅井七段は▲5五歩と突き捨てて紛れを求めますが、△8八歩が抜け目の無い利かし。▲同竜と取らせることで、△5五角▲3七歩△6六角と調子よく活用することが出来るようになっています。(第11図)

 

先手にとって痛恨だったのは、ここに至るまでの手順の中で▲3七歩を打たされてしまったことです。先手玉には「広さ」というメリットがありましたが、3七に歩を置いたことでそれが矮小化してしまいました。自玉を狭くしない意味でも、第9図で▲4六角と指しておくべきだったのです。

 

菅井七段は▲7七角とぶつけて角の働きをイーブンにしようと試みますが、△同角成▲同竜△8八歩▲同竜△7二竜で、今度は竜の働きに差が着いてしまいました。(途中図)

 

ここで▲7七歩と守れば堅実ですが、それでは竜が日の目を見ない駒になってしまうので思わしくありません。

本譜は▲4六角と攻防手を放って抵抗します。しかし、△6四角▲5五歩△4四歩で打った角を目標にするのが好着想で、後手は先手陣を攻略する糸口を掴むことに成功しました。(第12図)

 

▲同歩は△4五香の田楽刺しがありますが、このまま角を追い払われて△5五角を実現されるのも始末が悪いですね。

菅井七段は▲5六金と上がってそれらの攻め筋をケアしますが、△5五歩▲6五金△4五歩▲3五角△3三香が味の良い一手で、後手がさらにリードを広げました。

このような込み入った応酬の中でも、価値ある攻防手をしっかり引き出せることに永瀬叡王の技術の高さを感じます。(第13図)

 

ここで辛抱するなら▲6八角ですが、△8二角と逃げられてジリ貧です。後手は△5六歩からコビンを攻めれば良いのですが、先手には有効な手段が見当たりません。

本譜は▲6四金△3五香▲5四金と角を取り合って身を委ねましたが、△7七歩が軽妙な一着で、後手の攻めが止まらなくなってきました。(第14図)

 

このように、歩で敵陣を攻める態勢に持ち込んでしまえば、概ね攻めは繋がるとしたものです。なぜなら、歩の攻めはと金に化ける可能性がありますし、最も弱い駒で攻撃しているので駒損になる心配が無いからです。駒損にならない攻めほど、恐ろしいものはありません。

 


終盤

 

先手としては▲7七同竜が成立すれば面白いのですが、△同竜▲同桂△3六歩▲同歩△4六角でコビンをごりごりと攻められると支えきれません。(E図)

 

▲3七銀打と補強しても、△3六香▲4六銀△3八香成で金駒を剥がされてしまいます。後手玉が見えないので、これは典型的な「一人終盤戦」ですね。

 

本譜に戻ります。(第14図)

我慢するなら▲7九歩ですが、△7八歩成のときに困ります。(1)▲同竜はE図の変化と大差ないですし、(2)▲同歩では竜が眠ってしまいますね。

 

本譜は▲7三歩△同竜▲4四歩と攻め合いに希望を託しましたが、△7八歩成▲4三歩成△8八と▲3二と△同金▲4四歩△7六角で強く戦われると、先手の非勢は否めません。やはり、攻め合う展開になれば穴熊の遠さが光ります。(第15図)

 

先手は△8九と→△1六桂という攻め筋を見せられているので、否応なしに踏み込んで行くよりありません。菅井七段は▲4三歩成△4三角▲3二と△同角▲4二金と食らいつきますが、△7二竜が遊んでいた竜を戦線に復帰させる好手でした。(第16図)

 

ただ、この手は少し怖いところがあります。というのも、▲3二金△同竜▲6五角△4三金▲5三金という攻め筋が見え透いているからです。竜が囲いにくっつくと、かえって目標になるリスクがあるので、△7二竜は危ない手にも見えるのです。

 

しかし、そこで△3七香成が素晴らしいギアチェンジ。この手を用意していたからこそ、△7二竜を指したという訳なんですね。(第17図)

 

後手は4三の金を取られても、まだ自玉はゼットを維持しています。ゆえに、2手スキの連続で迫れば確実に一手勝ちを収めることが出来ますね。その条件を満たしていれば、どんなに過激なことをしても問題ないのです。

 

先手は▲同銀と応じる一手ですが、永瀬叡王は△3六歩▲4八銀△3七金▲同桂△同歩成▲同銀△3六歩▲4八銀△1六桂と怒涛の勢いで畳み掛け、あっという間に先手玉を仕留めてしまいました。(第18図)

 

(1)▲3八玉と寄ると△3七飛で詰んでしまいます。

本譜は(2)▲2七玉と逃げましたが、△2八飛▲1六玉△3七歩成で先手玉は受けが利きません。狭い場所へ追い込まれている上に、5三の金が質駒なので寄り筋ですね。

実戦は、△3七歩成の局面で終局しています。

 


 

本局の総括

 

  • 序盤は先手が大人しく指してしまった感がある。リスクはあるが、A図の変化で戦うほうがポジティブだった。
  • △7四歩が機敏な仕掛けで、後手がペースを掴む。ただ、先手はその後、竜を引き付け粘り強く指すことで、局面の均衡を保つことに成功した。
  • 先手は第9図で▲4六角と指したかった。本譜は先に△6四角を出られてしまったので大駒の働きに差が着き、バランスが崩れた。
  • 敵陣を歩で攻める展開になってからは、後手がはっきり優勢だ。△3七香成が鋭い一撃で、一気呵成に寄せ切った。永瀬叡王の正確無比な指し回しが光った一局だった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!



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