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第67回NHK杯 1回戦第3局 解説記 ~中盤編~

前回の続きです。

 

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第3局
2017年4月16日放映

 

先手 畠山 成幸 八段
後手 増田 康宏 四段

 

ここは方針の分岐点で、駒組みを進めるなら▲6六角や▲3三角成△同銀▲8八銀。他には▲6八玉や▲4六歩など、より取り見取りです。どれを指してもほぼ互角でしょう。

しかし畠山八段はそういった穏便策を選ばず、▲4五銀と積極的に動きました。(青字は本譜の指し手)

これは表向きには△3四歩を狙った意味ですが、真の狙いは相手の無理攻めを誘発することです。これでは言葉が足りないと思うので、具体的に説明します。

後手は簡単に▲3四銀と進出されるのは嫌です。したがって増田四段は△7五歩と突いてそれを防ぎました。当然、先手は▲7五同歩と応じます。(第5図)

 

この応酬で先手は7筋の歩を取ることに成功しました。このまま局面が落ち着いてしまうと、後手は歩損だけが残ってしまい大いに不満です。したがって、後手はこの損を取り返すために、どんどん動いてくることが予想されます。畠山八段はそれを咎めてやろうとしている訳です。

ただ、懸念材料もあり、それは1筋の位です。この位は攻めるときに効力を発揮するのであって、受けに回った際にはほぼ価値の無いものです。つまり、2手の投資を無駄にしている可能性が高いので▲4五銀から受けに回る構想とバランスが悪いんですね。

第5図以下△3五歩▲6八玉△7三銀と進みました。(第6図)

 

△3五歩は奇異な手に見えますが、将来△3六歩と突き捨てて飛車のコビンを攻める手や、△2四飛とぶつける手を視野に入れた攻撃重視の一着です。

そして△7三銀と銀を繰り出し、7筋の歩を回収しに行きます。無条件で△6四銀→△7五銀が実現すれば、先手の「歩得」という主張がなくなり、後手満足の展開でしょう。

第6図以下、▲3三角成△同銀▲8八銀△6四銀▲7四歩△7二金と進みました。(第7図)

先手は防御力を上げるために角をどかして▲8八銀と活用しました。後手は当初の予定通り、△6四銀→△7二金で7筋の歩の回収を目論みます。

ここまで来ると、7筋の歩はほぼ確実に取れるので、後手は第一ミッションクリアといったところです。

さて、先手は忙しくなりました。このまま手をこまねいて△7四飛~△7三桂の2手を許すと作戦負けに陥ります。理由は二つあります。(1)前述した「歩得」という主張が消えてしまうから。(2)後手に飛角銀桂の4枚で攻める形を作られてしまうから。

特に(2)の理由が重要です。「4枚の攻めは切れない」という格言が訓える通り、4枚の攻めは無理攻めではありません。つまり、△7三桂を実現させると、先手の方針であった相手の無理攻めを誘発する構想が瓦解してしまうのです。

 

1筋の位を活かすなら、第7図から▲1四歩△同歩▲1三歩と攻める手はあります。しかし、△7四飛のときに後続が難しい。(A図)

 

A図から▲1四香は△7三銀で端攻めを逆用されてしまいます。

▲2四歩△同歩▲1四香なら飛車の横利きは消せますが、今度は△1三桂のときにしっくりきません。具体的な戦果を挙げないと、ただ歩を消費しただけに終わってしまうので端攻めはリスクが高いのです。

ちなみに、▲1三歩ではなく、▲1二歩△同香▲1三歩の場合は△同桂と取るのが正しい応手。後手は▲1二角を打たせないことが肝要です。

 

結局、攻めが難しいので畠山八段は第7図から▲5八金と陣形を整備しました。ただ、自陣に手入れをするなら、▲7七銀を選びたかったですね。

なぜなら、4九の金は一段金で死角が無く、置いておくだけで十分受けに役立ちます。しかし、8八の銀は悪型の見本である「壁銀」です。先手はこの駒を早く使うべきだったのではないかと思いました。

▲5八金以下、△7四飛▲5六角△7五飛▲3四銀△同銀▲同角△3六歩と進みます。(第8図)

 

先手が▲5六角→▲3四銀と攻めの手を選んだ理由は、前述した通り、△7三桂を許さないためです。

▲3四同角とした局面は、次に▲2三角成から2筋を突破する攻めがあります。しかし、増田四段は構わず△3六歩と突きました。とても強気な一手で、解説の豊島八段も感心していましたね。

 

△3六歩に▲同歩は△5五角と打つ手が飛車取りと△8八角成▲同金△7九銀の両狙いで厳しく、放置するのも△3七歩成や△3五飛が残ります。先手はこれら全ての攻め筋を同時に防ぐことはできません。

増田四段が激しい順を選択したので、局面の流れが速くなり、いよいよ終盤戦へ突入します。

この続きは終盤編で! ご愛読ありがとうございました。

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