プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(8月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。高校野球が幕を閉じましたか。決勝で敗れたとはいえ、金足農業の快進撃には目を見張るものがありましたね。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は相居飛車編です。

なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(7月・居飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.7/1~7/31)

 

調査対象局は101局。7月は盛りだくさんでした。それでは、いつも通りそれぞれの戦型ごとに見て行きましょう。


角換わり

後手が上手く待機している。


29局出現。相変わらず興隆しています。多くの居飛車党プレイヤーが2手目△8四歩に対する最強のカードと認識していることが窺えますね。

しかし、7月は後手が様々な工夫を打ち出してきました。(第1図)

 

2018.7/2 第31期竜王戦決勝トーナメント ▲松尾歩八段VS△三浦弘行九段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

まずは一つ目の工夫。ここから△6三銀▲2五歩△5四銀(青字は本譜の指し手)でパスを繰り返し、▲8八玉△6五歩と仕掛けたのが巧妙な手順でした。(第2図)

 

先手が▲8八玉型になるのを待ってから仕掛けたのが目新しい工夫です。▲6八玉型で△6五歩を突っ掛けるのは芳しくないと前回に記しましたが、第2図の場合は事情が異なります。

仮に▲6五同歩と応じると、△6五同桂▲6六銀△6四歩▲4五歩△8六歩▲同歩△同飛でシンプルに飛車先の歩を交換されて先手不満です。(A図)

 

このような展開になると▲8八玉型が却って戦場に近く、相手の的にされているように見えませんか。A図で▲6八玉型ならば、▲9七角と反撃して先手良しなのですが……。

 

本譜は第2図から▲6九飛と回りましたが、△6六歩▲同銀△6五歩▲7七銀△6四角羽鶴の陣を作られ、先手は打開が難しくなりました。(第3図)

(「羽鶴の陣」って何? という方は、こちらの記事をご覧ください) 【定跡講座】角換わりを指しこなそう! ~第1章~ ▲4八金・▲2九飛型の攻め筋(4)

 

この後、後手は△3一玉→△4四歩→△2二玉と玉を固める手が楽しみです。先手からの仕掛けが極めて難しいので、後手は作戦成功と言えるでしょう。

 

二つめの工夫は、基本形から△4一飛という手法で手待ちする手です。(第4図)

 

2018.7/23 第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負 第5局 ▲羽生善治棋聖VS△豊島将之八段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

自ら自陣を愚形にするような手ですが、見た目以上に難敵です。予め飛車を4筋に配置することで、先手の攻め駒を前進させない意味があります。

 

羽生棋聖は▲7九玉△4四歩▲4五歩と動きましたが、そこで4筋を無視して△5二玉と寄れるのが後手の自慢です。以下、▲4四歩△同飛で先手が攻めを継続するのは容易ではありません。(第5図)

 

ここで▲4五歩△4一飛▲4六角と進める手もなくはないですが、先手で羽鶴の陣を作っても打開する手段が見出せないのであまり得策とは言えません。

本譜は▲4七角と指しました。これは持ち歩を温存することで、次の▲7五歩に期待した意味です。しかしながら、ここに角を手放すのは些か苦肉の策という感もあり、苦労が多そうな印象を受けます。先手としては、もっと良い打開策を模索したいところで、あまり好んで選ぶ変化ではないように思いますね。

 

他には、△9四歩を突かずに駒組みを進める手も増加しています。(第6図)

 

2018.7/3 第77期順位戦C級1組2回戦 ▲千葉幸生七段VS△近藤誠也五段戦から。

後手が9筋を無視して、△6五歩と位を取ったところです。

端の関係は均衡を保っておくのがセオリーで、特にこのような先後同型の場合は尚更です。なぜなら、お互いが同じ形になった場合、端の位の分だけ損をしている勘定になるからです。

しかし、この戦型においては、羽鶴の陣を作ってしまえば膠着状態になりやすい性質があります。打開ができなければ端の位なんて関係のない局面になってしまいますね。ゆえに、後手はこのような指し方ができるのです。

 

現環境は、後手が繰り出す複数の待機策を先手が打ち破れていない状態です。先手が打開に苦労している将棋が多いので、後手は堂々と腰掛け銀に組めば不満が無いと言えるでしょう。

 


矢倉

速攻重視の傾向が進む。


14局出現。先手も後手も急戦調の駒組みを志向する将棋がほとんどです。仮にがっちり組み合ったとしても、藤井矢倉のように足早に動く将棋が採用されており、速攻を意識した作戦を選ぶ傾向が強いですね。

その最たる例が、この将棋です。(第7図)

 

2018.7/13 第4期叡王戦段位別予選七段戦 ▲藤原直哉七段VS△阿部健治郎七段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

先手が2筋を伸ばしているにも関わらず、桂の活用を優先する大胆不敵な指し回しですね。後手の狙いは、最短手数での速攻です。

先手は▲6六歩を突けば後手の桂跳ねを防ぐことができますが、将来的に△6四歩→△6五歩で争点を与えるので、藤原七段は面白くないと判断されたのかもしれません。

本譜は▲7八金△3三角▲5六歩△6四歩▲7九角と▲6七歩型を維持して駒組みを進めましたが、△6五桂▲8八銀△8六歩▲同歩△同飛で仕掛けた局面は、後手が上手く立ち回っています。(第8図)

 

後手は金銀を一度も動かしていないので、あたかも初心者が指しているようですが、平べったい陣形なので飛車を切るような攻めが実行しやすく、配置の利を上手く活かしていると言えます。

第8図では、次に△8七歩と打って強引に二枚替えに持ち込む狙いがあります。それを嫌って▲8七歩と打てば、△7六飛で横歩をかっさらって後手良しです。実戦も思う存分、暴れまわった後手が制勝しました。

 

現代矢倉はとにかく先攻・速攻を行うことを重視しており、金矢倉に組む指し方は主流の座を明け渡しました。この傾向は今後も続くと思われます。


雁木

早繰り銀にどう立ち向かうか。


21局出現。角換わりに次ぐ対局数の多さです。先後に関係なく採用できるところが支持を得ているのでしょう。ただ、先手雁木は相雁木になったときに打開が難しいので、道理としては後手用の作戦だとは思うのですが。

後手番で確実に雁木を指したいのであれば、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩というオープニングを選ぶことになります。これには早繰り銀が難敵で、それにどう立ち向かうかが雁木側の課題です。(第9図)

 

2018.7/3 第77期C級1組2回戦 ▲西尾明六段VS△小林裕士七段戦から。

第9図は雁木VS早繰り銀で出現しやすい局面で、(類似系も含めて)公式戦でも多く指されている将棋です。

複数のプレイヤーが指していることを考慮すると、局面の均衡が取れていることが窺えますが、個人的には先手持ちです。

理由としては、銀の進出のしやすさに差があるからです。先手はここから▲2六銀△4三銀▲3五銀とスムーズに五段目に進めますが、後手の銀はどうでしょうか。△7五歩▲同歩△同銀と進軍しても、▲5五角と覗けば△6四銀と下がらせることができるので、後手は簡単には銀を五段目へ進むことができません。

その上、いつでも▲9五角の筋があることも不安材料の一つで、囲いの中に収まっている先手玉のほうが(戦場に近いというデメリットはあるものの)安定感がある印象も受けます。先手としては、この将棋を避ける理由は見当たらないでしょう。

 

という訳で、後手も改良案を編み出します。(第10図)

2018.7/13 第4期叡王戦段位別予選七段戦 ▲佐藤伸哉七段VS△大石直嗣七段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

ここから△7四歩▲7八銀△7三銀▲3五歩△6四銀▲3四歩△同銀△8四歩型のまま駒組みを進めたのが、後手の新工夫です。(第11図)

 

この局面は第9図とよく似ていますが、△8五歩の一手を他の部分に分配しているので、先手の仕掛けに対して一手分、早く対応できていることが後手の主張です。また、▲9五角の筋を心配する必要がないことも利点の一つですね。

 

後手は第9図の変化に合流させる権利を持っているので、飛車先保留型のほうが手広く戦えるように思います。飛車先保留型雁木は今後の注目株と言えるのではないでしょうか。

 


相掛かり

要注目。大化けの気配あり。


13局出現。対局数はそこまで多くなかったのですが、2手目に△8四歩を指すプレイヤーには警戒が必要な戦型です。

6月・居飛車編でも記したとおり、先手は▲6八玉・▲3八銀に構える将棋が多く、これに▲2五飛型を組み合わせる将棋が流行しつつあります。

対して後手は、△5二玉・△8四飛型に組んで、早繰り銀を選ぶ指し方が多数派ですね。具体例としては、この将棋ですね。(第12図)

 

2018.7/29 第12回朝日杯将棋オープン戦一次予選 ▲奥村雄太アマVS△佐々木大地四段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

後手が早繰り銀を選んでいるのは、▲6八玉型が7・8筋方面に近いことを咎めたいという意図の表れだと考えられます。

しかし、先手は▲2五飛型に構えて後手の攻めを牽制しているところなので、嫌らしい対策のようには見えません。この戦型は全体的に先手が攻勢に出ている進行が多く、後手がまだ上手く対応しきれていない印象を受けます。

 

先手番は、相手よりも早く駒組みが完了する利を活かして先攻し、そのままリードを奪ってしまう展開が理想的です。そして、▲6八玉・▲3八銀・▲2五飛型はその理想を体現しやすい性質を兼ね備えているように感じます。現環境では有力な作戦で、相掛かりのエースと言えるでしょう。

 


横歩取り

激減しているが……。


僅か7局のみ。一時期を思うと驚くほどの少なさで、採用数は暴落しています。理由はもちろん、青野流が強敵だから。しかし、7/30に深浦九段が新手法を披露しました。(第13図)

 

2018.7/30 第31期竜王戦決勝トーナメント ▲三浦弘行九段VS△深浦康市九段戦から。(棋譜はこちらからどうぞ)

ここまでは数多くの前例がありますが、△4二銀がやや珍しい一着。先手は当然、▲3七桂と跳ねますが、△8八角成▲同銀△3三銀▲3五飛△4四角▲7七角△7六飛と進めたのが今まで指されていなかった手順です。(第14図)

 

基本的に青野流は、▲4五桂と角取りに桂を跳ねる手を主軸にして攻める戦法です。ならば、目標にされている3三の角を早めに捌いて、その攻め筋の威力を緩和させてしまおうというのが、この一連の手順の意味なのです。

まだ一局しか登場していないので、この作戦の成否は何とも言えないところですが、先手としてはマークしておかないといけないことは確かです。今後が楽しみですね。

 

しかしながら、現環境は依然として青野流が強力なので、横歩取りがリスキーな戦法であることには変わりありません。後手を持って指しこなすには、深い研究が必須です。

 


その他の戦型

特に大きな動きはない。


17局出現。その内、一手損角換わりが5局あり、増加している点が目を引きます。ただ、これは単純に母数が多かったので、その分増えただけという気がしないでもないですね。

将棋の内容としては6月と大きな変化は見られず、波風の起こらない月だったと言えます。


 

今回のまとめと展望

 

4月下旬に、「相居飛車は多くの戦法が後手番でも戦える中、横歩取りだけは問題点を抱えているので、採用数が減りそう」と記したが、遂にそれが現実のものとなった。確かに、現環境は青野流を相手にするのであれば、他の戦型を選ぶほうが率が良い。

 

・角換わりは先手が打開に苦しんでいるので、来月以降は減少する可能性が高いと思われる。今後は相掛かりの採用率が上昇するのではないだろうか。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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