どうも、あらきっぺです。すっかり気温も上がって初夏の雰囲気ですね。住まいが田舎なので、夜になるとカエルの大合唱が聞こえてきます 笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。
なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(3.4月・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.4/1~4/30)
調査対象局は37局。普段よりも大幅に局数が減少していますが、これは順位戦が無く、対局数の母数が少ないからです。NHK杯は全部振り飛車だったんだけどなぁ笑
先手中飛車
6局出現。対する居飛車の対策は、角道不突き左美濃がやはり人気です。
この戦法は△3三歩型のまま駒組みを進めるので、△1三角と端に移動させる手が多く出現します。今回は、この端角と振り飛車の囲いの関係性をテーマに話を進めます。(第1図)
2018.4/1放映 第68回NHK杯1回戦第1局 ▲黒沢怜生五段VS△三枚堂達也六段戦から。
後手が△1三角と上がったところ。中飛車側にとって、この端角が非常に厄介な存在です。なぜなら、この地点に角を配置されるだけで駒組みに大きな制約を受けてしまうからです。
また、このような実例もあります。(第2図)
2018.4/9 第89期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント ▲戸辺誠七段VS△三浦弘行八段戦から。
角道不突き左美濃ではありませんが、やはり端に角を配置しています。複数の候補手がある中で、△1三角を優先して駒組みを進めているところに注目してほしいですね。
なぜ△1三角型が優秀なのかというと、先手の6九の金の動きを封じていることが最大の理由です。この金を釘付けにしてしまえば先手は囲いを強化することができないので、居飛車は作戦勝ちが期待できます。
つまり、中飛車側としては端角に居座られてしまうとまずいので、これを追い払える(もしくは端角を目標に攻める)環境を作っておくことが必須です。このとき、自分の囲いの選択が極めて重要な問題になります。
第1図や第2図のように穴熊を作ってしまうと、端角を狙うことができるでしょうか? 答えは、もちろんNOですね。周知のとおり、穴熊の弱点は端なので、1筋を戦場にしたくはありません。しかし、端角を攻めるには▲1五歩を着手するしかないので、矛盾が生じてしまいます。
したがって、端角に対しては美濃囲いの方が対応しやすいと言えます。(第3図)
2018.4/3 第68期王将戦一次予選 ▲今泉健司四段VS△小林裕士七段戦から。
7八の地点で飛車交換が行われたところです。
美濃囲いも端が弱点の一つなので気軽に▲1五歩が実行できるとは言えませんが、穴熊よりは条件が遥かに良いです。実戦も好機に▲1五歩と突いた手を決め手にした先手が制勝しました。
話をまとめます。これまでは「堅さは正義」という風潮もあったことから、穴熊を目指すことが多かったのですが、振り飛車にとって[穴熊VS端角]のマッチアップは最悪なので、無造作に穴熊に組むのは危険であることが分かってきました。
今は、居飛車の動向を見て囲いを選択する時代です。具体的には、端角の余地がある間は、穴熊を避ける方が無難でしょう。
ゴキゲン中飛車
3局出現。居飛車の対策は、全て超速。そして居飛車全勝。内容的にも振り飛車が押され気味。この環境はもうここ数ヶ月変わっておらず、ゴキゲン側にずっと課題が突きつけられています。
四間飛車
5局出現。前回にも取り上げたように、後手四間で淡々と穴熊に組ませる将棋が有力株です。4月は2局あり、両方とも勝利を上げている点が目を引きます。もっと対局数が増えてもおかしくないとは思うのですが、やはり実戦的に勝ちにくいイメージが定着しているのでしょうか。今後に注目ですね。
三間飛車
6局出現。3手目▲7八飛(もしくは初手▲7八飛)のオープニングが過半数を越えていて、相変わらず高い支持を得ています。
ただ、多くのプレイヤーが一つの戦法を集中的に指すと、必然的に対策を練られます。今回は居飛車側の工夫をご覧ください。(第4図)
2018.4/16 第31期竜王戦6組ランキング戦 ▲田中悠一五段VS△高野智史四段戦から。
先手中飛車に対する角道不突き左美濃の要領で、△3三歩型のまま銀を繰り出していくのが居飛車の工夫です。田中五段は「歩越し銀には歩で対抗」という格言通り、▲6六歩△6四銀▲6七銀(青字は本譜の指し手)と受けの形を作りますが、先手が角道を止めたので△3四歩を突き、通常形に戻します。(第5図)
先手は「△6四銀型を早く決めさせた」という主張はあるものの、具体的にそれを優位に結びつけることは容易ではありません。仮に四間飛車ならば、6筋の歩を伸ばした時に銀に当たってくるので△6四銀型を咎められる可能性は高そうですが、三間飛車ではそういう訳にもいきません。
第5図から先手は囲いを髙美濃囲いへと発展させましたが、後手も同じように追随します。(第6図)
青枠で囲った部分が先手の捌きを抑止する構えで、後手はこの形を作ることが急所です。相手の仕掛けを封じて同じ囲いに組んでおけば、少なくとも作戦負けにはなりません。
後手番なので打開する必要はありませんし、その気になれば△9四歩→△8四飛→△7五歩で7筋から動くこともできます。第6図は後手満足の序盤と言えるでしょう。
振り飛車側としては、第6図のような仕掛ける場所が見出しにくい膠着状態になってしまうと、先手番の長所が活きません。現環境は、早い△6四銀を咎める手段が求められています。
角交換振り飛車
13局出現。そのうち、後手番での採用数が11局で、現環境では後手振り飛車のエースと言える戦法です。
角交換振り飛車には様々な形がありますが、最も欲張っているのが4手目に△2四歩と突く角頭歩タイプの将棋です。(第7図)
2018.4/10 第31期竜王戦3組ランキング戦 ▲斎藤慎太郎七段VS△西川和宏六段戦から。
なぜこの指し方が最も欲張っているのかと言うと、飛車を一手で2筋に回ることと、2筋の均衡を保つことを両立させようとしているからです。
しかしながら、このような図々しい手にはそれ相応のリスクが伴うとしたもので、この場合も例外ではありません。斎藤七段は▲7八金△5四歩▲2五歩と断固たる態度で後手の構想を咎めに行きました。(第8図)
ここから△2五同歩▲同飛△8八角成▲同銀△2二飛は必然ですが、そこで▲2三角が眼目の一手。無条件で▲3四角成が実現すれば、馬と歩得の分だけ先手有利です。
▲2三角に対して、△1四角と打てば一回は消去できますが、▲1四同角成△同歩▲2三角と先手は執拗に馬作りを狙います。(第9図)
直接的に▲3四角成を受けることは難しいので、後手は△2四歩▲同飛△1三角と反撃します。そこで▲2八飛が斎藤七段の用意していた新手。前例は▲4一角成と切って踏み込んでいたのですが、確かにおとなしく飛車を引く方が自然です。(第10図)
ここで△5七角成と指すと、▲2四歩が地味ながら厳しい一手。後手はと金作りを受けることができません。
よって、第10図から△3二金は絶対手。対して、▲3四角成は△2八飛成▲同銀△5七角成となったときに、2八の銀が辛い配置なのでこれは先手不満。ゆえに、△3二金には▲2四歩△同角と歩を捨てて陰を作ってから▲3四角成が正しい手順です。以下、△5七角成▲2四歩と進みます。(第11図)
さて。先手が仕掛けてから長手数進めてしまいましたが、第8図から第11図までは先手が誘導すれば大きな変化が無く、(後手は変化すると大幅に形勢を損ねてしまう)妥当な進行と言えます。
問題はこの局面をどう評価するかですが、個人的には先手を持ってみたい局面です。根拠はいくつかありますが、一番の理由は相手の飛車先を押さえ込んでいるからです。そもそも、シンプルに次の▲2三歩成が受けにくい。(1)△3三歩は▲2五馬と引かれると2筋が制圧されており、先手の作戦勝ちが期待できます。
本譜は(2)△2五歩▲同馬△3三桂▲3四馬△2五歩と苦心の受けを捻り出しましたが、▲5八飛で飛馬交換を挑んだ手が好判断で、先手が有利になりました。
角頭歩戦法から角交換振り飛車に組む作戦は意欲的ですが、この斎藤流はかなりの強敵に見えます。事実、この対局を最後に姿を見せていません。現環境では、採用は控えた方が無難なように感じます。
なお、他の角交換振り飛車については、特に先月と変化が無かったように思います。
その他・相振り飛車
4局出現。特筆すべきことはないように印象でした。というか、局数が少なすぎてさすがに何も語れない(^_^;)
今回のまとめと展望
・先月よりも3手目▲7八飛戦法の優位性が薄れた印象で、先手番の振り飛車は頼れる戦法に揺らぎが生じつつある。
・全体的に、居飛車側の工夫が多く見られた。角交換振り飛車と四間飛車は何とか互角に対抗できているが、振り飛車側が主導権を握れる戦法は残念ながら見当たらない。先手中飛車が復権すれば環境は大きく変わるが……。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!