どうも、あらきっぺです。季節柄、日課の散歩が少しハードになってきました。ついつい木陰のあるところに足を運ぶ今日この頃です。
タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。なお、今月は時間が確保できなかったので、簡易版という形で記事を執筆しております。ご容赦くださいませ。
なお、先月の内容はこちらからどうぞ。
最新戦法の事情(2019年6月・居飛車編)
・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。
最新戦法の事情 居飛車編
(2019.6/1~6/30)
調査対象局は92局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
角換わり
後手のほうが気楽。
23局出現。出現率は四分の一を占めており、多くのプレイヤーにとって主戦場になっていることが窺えます。
先手が腰掛け銀を選択した場合、後手には様々な対抗策がありますが、一番人気は相変わらず基本形から△5二玉と待機する将棋(5局出現)です。その中でも、△4三歩型を維持して△5二玉⇔△4二玉と待機する手法が最も有力と見ています。(第1図)
2019.6.13 第78期順位戦B級1組1回戦 ▲阿久津主税八段VS△千田翔太七段戦から抜粋。
これは待機策の皮を被った積極策で、先手の対応次第では後手から動くことも視野に入れています。
阿久津八段は▲8八玉(青字は本譜の指し手)と指したのですが、この場合は△6五歩と仕掛けます。8筋に玉が移動したことにより、当たりが強くなっていることが後手の主張ですね。確かに、受けに回るのであれば玉は6八や7九に居る方が好都合なので、玉を入城した手は必ずしもプラスにはならないのです。
現環境は先手が良さを見出すことが難しく、後手が互角以上に戦えています。先手が悪いという訳ではありませんが、打開する義務がない分、後手のほうが気楽ではないかと思います。
相掛かり
トップメタに君臨。
28局出現。角換わりを追い抜き、6月で最も多く指された戦型になりました。現環境では最も居飛車党の支持を集めていると言えるでしょう。
対局数が増加した背景としては、先手番角換わりの信用度が落ちていることや、先攻する将棋に持ち込みやすいことが推察されます。
現環境の相掛かりは、大前提として、どのようにミラーゲーム問題を打破するかが先手のテーマです。なお、ミラーゲーム問題については、こちらの記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2019年1月・居飛車編)
今回は、そのミラーゲームを巧みに回避して、かつ先攻することを実現した将棋を紹介したいと思います。(第2図)
2019.6.29 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選 ▲本田奎四段VS△遠藤正樹アマ戦から抜粋。(棋譜はこちら)
この▲3五歩が面白い仕掛けです。従来は▲2四歩△同歩▲同飛△7五歩…という進行が多かったのですが、これは先述の記事に記したように、先手は満足な展開にはなりません。
さて。▲3五歩に対して(1)△同歩は▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四飛で先手良し。無条件でこの場所に飛車が配置できれば先手は攻める手に困りません。
したがって、本譜は(2)△7五歩と反発したのですが、▲3四歩△同飛▲7五歩で難なく歩得という主張を手にすることが出来ました。(第3図)
後手の銀はまだ低い位置にいるので、先手は7筋の歩を取られる心配はないでしょう。後手はこのまま局面が収まると歩損が響きそうなので、本譜は△3六歩から攻めて行きましたが、攻め駒が前に出ていないので手を作ることに苦労しそうです。
第3図は、先手が歩得を言い分にして後手を催促することが出来ているので、まずまずと言えるのではないでしょうか。
先述したように、この仕掛けはミラーゲームを手軽に回避できることが利点です。相掛かり党にとっては、持ち球に加えておきたい作戦の一つですね。
矢倉
力戦化しつつある。
15局出現。作戦は先後ともにバラエティーに富んでいますが、お互いが金矢倉に組み合う将棋はゼロ。もはやこれが当たり前という感もあり、時代の変遷を感じます。
金矢倉が減少した原因は、先攻が重視され急戦策の株が上昇したことや、土居矢倉や雁木といった矢倉の類型とも言える囲いの優秀性が認知されたことが挙げられます。
現環境は、それらの是非を洗い直しているところがあり、その結果、多種多様な作戦が出現して矢倉は力戦化しつつあります。それが収束したとき、戦法がどのように淘汰されているのかは非常に興味深いところですね。
横歩取り
支持率は低い。
6局出現。その内、△3三角戦法が5局。それに対して、先手は判で押したように全て青野流をぶつけています。後手はこの戦法に対して用意が無いと、横歩取りを指すことが出来ません。(第4図)
6月はここで、
(1)△5二玉(2局)
(2)△6二玉(1局)
(3)△4一玉(1局)
(4)△8二飛(1局)
といった手が指されました。これを多彩な対策があると見るのか、軸が無く迷走していると見るのかは、人によって見解が変わるところでしょう。個人的には後者だと見ていますが……。
後手にとっては(1)の△5二玉が最も強気な対応で、これで戦えるのであれば理想と言えます。なお、△5二玉と上がる将棋の見解については、こちらの記事をご覧ください。
参考
最新戦法の事情【豪華版】(2019年6月 居飛車編)
現環境は後手がはっきり悪いという訳ではありませんが、2手目△8四歩や、後述する雁木や一手損角換わりでも特に不満がないので、この戦法を採用する必要性が低いと言えます。ゆえに、プロ棋界では支持率が高くありません。
雁木
大きな変化は特にない。
11局出現。4手目△4四歩タイプの雁木が復活傾向にあり、早繰り銀に対して互角に戦えるようになりました。その環境は先月から変わりないですね。
なぜ、天敵だった早繰り銀を迎え撃てるようになったのかというと、袖飛車でジャブを放つ手法が有力だと分かったからです。(第5図)
2019.6.12 第78期順位戦B級2組1回戦 ▲飯島栄治七段VS△野月浩貴八段戦から抜粋。
上図のように、先手に仕掛けられる前に袖飛車に構えて揺さぶるのが面白い構想です。後手は将来的に飛車が7五に配置できるので、早繰り銀の進軍を牽制しつつ、先手玉に脅威を与えられることが自慢ですね。
この[雁木+袖飛車]という作戦の優秀性については、こちらの記事にも詳しく載っているので、併せてご覧いただけると幸いです。
最新戦法の事情(2019年4~5月・居飛車編)
先手としては第5図のような進行になってしまうと、なかなか攻めの銀が前進できないので不本意なところがあります。改善案としては、▲6八玉型に留めて速い仕掛けを狙ったり、美濃囲いに組むといった工夫が必要ではないかと考えています。
その他の戦型
対局数は少ないが、先手は侮れない。
9局出現。後手は全般的に定跡形の将棋でも不満無く戦えているので、わざわざ奇をてらった作戦を選択する理由は乏しいと言えます。なので、対局数はそこまで多くはないですが、要注目の作戦が登場しています。(第6図)
2019.6.24 第67期王座戦挑戦者決定トーナメント ▲佐々木大地五段VS△羽生善治九段戦から抜粋。
これは後手が一手損角換わりを採用した将棋です。先手は手得を活かすべく、早繰り銀から先攻を目指していますが、後手はそれを見越して右玉に構えています。
ここから実戦は▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛けましたが、△1四歩が深遠な手待ち。こういった相手を受け流すような手を指せることが右玉のメリットの一つですね。(途中図)
ここで▲2四歩△同歩▲同銀と突っ込んでいくと、△2七歩▲同飛△4九角で先手は痺れます。したがって、本譜は▲6八金右で離れ駒を無くしましたが、△8五桂が意欲的な一着でした。(第7図)
後手は△4九角→△3八歩という攻め筋に期待しており、それの威力を高めることが△8五桂の狙いです。
先手は▲8八銀から▲8六歩と指せば桂が取れる形ではあるのですが、それを実行すると後手の飛車を攻めに参加させる嫌いもある(後に△8五歩→△8六歩と伸ばされやすくなる)ので、覚悟がいる選択でもあります。
第7図は後手が攻勢に出ることに成功しているので、まずまずと言えるのではないでしょうか。何と言っても、早繰り銀の出鼻を挫いている感があることが魅力ですね。
6月の記事でも述べましたが、先手にとって一手損角換わりは思いのほか、手強い作戦ではないかと考えています。以前は早繰り銀に手を焼いていましたが、ここ最近は風向きが分かっているように感じますね。
今回のまとめと展望
・全般的に、先手が優位性を示せる戦型が少ない。それだけ後手の工夫が功を奏していると言える。
・先手は相掛かりの支持率が高まっているが、後手は2手目△3四歩でも戦えるので、相掛かりをかわしやすい環境になっている。それも先手の優位性が乏しくなっている理由と言えそうだ。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!