最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年11月号・居飛車編)

居飛車 見出し

どうも、あらきっぺです。自分の日課の一つに散歩があるのですが、その散歩コースにある並木が良い感じに色付いていて、なかなか癒されています。もうすぐ散ってしまうのが名残惜しいですね。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。

最新戦法の事情(2019年9月~10月・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2019.10/1~10/31)

 

調査対象局は99局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

 

角換わり

駒組み移行型に変化あり。


26局出現。全体の約3割が基本形から△5二玉→△4二玉と玉を往復する将棋になっており、相変わらず注目を浴びていることが窺えます。

これに対して、先手は大まかに分けると三つのプラン(攻撃志向型・無理攻め誘発型・駒組み移行型)を選ぶ権利があり、現環境はどれが最適解なのか精査している状況といえます。

なお、この三つのプランの詳細な解説については、こちらの記事をごらんください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年9月~10月 居飛車編)

 

ただ、この三つのうち攻撃志向型と無理攻め誘発型はリスキーなところがあるので、最も無難な駒組み移行型に人気が集まっている(4局出現)傾向があります。今回は、この形の将棋を掘り下げていきましょう。

 

先手が▲4五歩と位を取ったところ。次は4六に角を打つ手を視野に入れています。

ここで後手が堅実に指すなら△6三銀ですが、それには▲6八角と打たれる余地を与えます。銀を引いたことで後手は攻撃力が落ち、自分から動いていくことが出来ません。(詳しくは、こちらを参照)

 

なので、△3一玉と指すほうが反発力のある指し方ではあります。もし▲6八角なら、△4四歩▲同歩△同銀という要領で局面を解すことができるので、これは先手も選びにくいところでしょう。

ゆえに、この場合は▲4六角と据える方が自然です。後手もここでは△6三銀と引くのは妥当ですね。以下、▲6七歩△5二金と進みます。(第1図)

 

2019.10.11 第32期竜王戦七番勝負第1局 ▲豊島将之名人VS△広瀬章人竜王戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手は何を目指しているのか分かりにくいかと思いますが、百聞は一見に如かず。まずは本譜の指し手を追っていきましょう。

まず豊島名人は▲7七桂と跳ねて桂交換を図ります。後手はこれを単に取ってしまうと歩が交換できなくなるので、△8六歩▲同歩△同飛▲8七金△7七桂成▲同銀△8一飛▲8六歩という手順を踏みます。(第2図)

 

さて。一段落したこの局面をどう評価するか。ぱっと見は持ち駒が充実している後手が上手く立ち回ったように見えますが、筆者は先手の模様が良いと見ています。その理由は、桂の使いやすさです。

ここから先手は▲6六歩→▲6七銀で自陣を固める手が一案です。後手もそれに対抗するべく△4二金右→△2二玉と囲いを強化したいのですが、それを指すと▲2六桂や▲2四桂といった攻めを誘発する嫌いがあるのです。

 

この攻め筋を権利にしていることが大きく、後手は潜在的にプレッシャーを掛けられています。対して、先手陣には桂を使った有効な攻め筋が見当たらないので、この布陣は安定感がありますね。▲8七金型は妙な配置ではありますが、上部が手厚く桂の攻めに強いことが自慢です。

 

このように、駒組み移行型の将棋はゆっくり指していると、後手は少しづつ息苦しくなってくる展開になりがちです。そこで、この状況から脱却するべく、後手は攻め味の強い指し方を選ぶようになります。その工夫につきましては、豪華版の記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年11月号 居飛車編)

 

 

相掛かり

腰掛け銀がブーム。


24局出現。先月に引き続いてコンスタントに指されており、相居飛車の主戦場の一つとも言える戦型です。

現環境の相掛かりは、▲5八玉・▲3八銀型(もしくは▲6八玉・▲3八銀型)の構えを作る将棋が主流です。10月もこの布陣に組む将棋がたくさん指されました。

しかしながら、その指し方を行うと、後手も△5二玉・△7二銀型(もしくは△4二玉・△7二銀型)を作ってきます。同じような構えにされたとき、先手はなかなかアドバンテージを握ることができておらず、少し苦労している感もあります。

 

そういった背景があるので、最近では違う形の駒組みを展開する将棋が出てきました。(第3図)

 

2019.10.2 第5期叡王戦段位別予選六段戦 ▲増田康宏六段VS△金井恒太六戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手はお馴染みの構えですね。ここまでは何の変哲もない序盤ですが、ここから先手は[△5二玉・△7二銀型]の構えを逆手にとる作戦を披露します。▲4六歩△9四歩▲4七銀△7四歩▲7六歩が、その手順でした。(第4図)

 

後手が[△5二玉・△7二銀型]を決めたのを見て腰掛け銀の将棋にシフトするのが、ここ最近のトレンドです。

これはどういう意味なのかというと、先手は初めから▲4七銀型を作った場合、後手にその動きを追随されたときが難しいという側面があります。決して先手が不利になるわけではありませんが、先手の利が生きにくい将棋になりやすく、面白くないと見ているプレイヤーが多いと推測しています。例えば、こちらの将棋はまさにその典型と言えるでしょう。

NHK杯 近藤第69回NHK杯 近藤誠也六段VS深浦康市九段戦の解説記

 

しかし、本局のように後手が早めに[△5二玉・△7二銀型]を作っていると、話は変わってきます。ご覧の通り、先手と後手は既に駒の配置が異なっているので、後手は相手に追随するような作戦を指すことは出来ません。

要するに、相腰掛け銀の可能性が消えてから腰掛け銀を作りに行くのが、先手の真新しい工夫という訳なのです。

 

後手は腰掛け銀に組む際には優先度の低い手を指している(△5二玉や△7四歩)ので、今から先後同型の形を作ろうしても実現は難しいでしょう。よって、中住まいを活かした駒組みを行うことになりますが、先手もじっくり陣形を整備していきます。(第5図)

 

さて。先手は青枠で囲った構えを作れば準備完了です。ここからは▲4五銀から斜め棒銀の要領で2筋の突破を狙うのが目的になります。

後手は△8八角成▲同銀△2二銀で2筋の攻めに備えましたが、それでも▲4五銀と進軍するのが明るい着想。以下、△3三銀▲5六角が絶好の一手で、先手がペースを掴みました。(第6図)

 

この手は▲3四銀から2筋を攻める手と、▲7五歩という桂頭攻めを同時に見せていることが自慢です。そして、それらの攻め筋を権利(自分が望むタイミングで決行できる)にしていることが大きいですね。

このあと、先手は上記の攻め筋をいきなり決行しても良いですし、▲7七銀→▲6六歩と囲いを強化する手も指してみたい手です。いずれにせよ、第6図は攻勢に出やすい先手が上手く立ち回っている局面と言えるでしょう。

 

このように、[△5二玉・△7二銀型]の構えを見てから腰掛け銀にシフトする作戦は臨機応変な指し方で、なかなか有力ではないかと見ています。先手としては、これと▲5八玉・▲3八銀型に構える将棋を使い分けられることがクレバーな戦略と言えそうですね。

 



 

矢倉

△7三銀急戦にどう戦うか。


26局出現。角換わりに比肩する対局数となっており、急増しています。いよいよ本格的な流行の波が押し寄せてきた印象ですね。

後手は急戦策を選ぶほうが多数派で、特に△7三銀型の急戦が多くの支持を集めています。(10局出現)

なお、同じ急戦策で[△6三銀・△7三桂型]の構えを作る指し方も流行ってはいましたが、これは先手も策が整ってきたので下火になりつつあります。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年4月~5月 居飛車編)

 

さて。△7三銀型の急戦に対し、先手には大まかに分けると以下の3パターンの作戦があります。

・▲6六銀型
・横歩取り型
・矢倉構築型

このうち、▲6六銀型の将棋はこちらの記事で述べているので割愛いたします。今回は、横歩取り型の将棋を見ていきましょう。(第7図)

 

最新 居飛車

2019.10.17 第78期順位戦C級2組5回戦 ▲高見泰地七段VS△星野良生四段戦から抜粋。

横歩取り型は、後手の3四の歩をかっさらって歩得を主張することが作戦の趣旨になります。つまり、ここから▲3四飛と指すのがこの作戦の第一歩となる一手ですね。

後手は2筋に歩を打つ手を省略したいので、本譜は△4四角▲2四飛△2二銀と指しました。先手も▲2八飛と引き下がっておくのが自然ですね。(第8図)

なお、△4四角では△3三角と上がる手も有力で、これは比較が難しいところです。参考例として、こちらの将棋を提示しておきます。

NHK杯 高見第69回NHK杯 高見泰地七段VS増田康宏六段戦の解説記

 

最新 居飛車

後手はこのまま局面が収まってしまうと、一歩損なので不満が残りますね。という訳で、本譜は△6四銀▲3八銀△7五歩▲同歩△同銀と足早に仕掛けていきました。早繰り銀らしい動きと言えます。

しかしながら、先手はこの攻めを待ち構えていました。▲6六銀とぶつけたのが狙いの一着です。(第9図)

 

最新 居飛車

自ら守りの銀と攻めの銀を交換しにいくので理に反しているようですが、これは8八の角を捌くことが真の狙いです。確かに銀交換は後手の得ですが、角交換は先手のほうが得な取引(4四の角のほうが働きが強いから)なので、それなら▲6六銀と出ても腹は立たないと踏んでいるのです。

ここで△同銀は▲同角ですし、△7六銀も▲7七銀△6五銀▲6八銀という要領でひたすら角をぶつけていきます。後手は飛車のコビンが開いているので、角交換は歓迎すべき状況ではありません。

 

最新 居飛車

第9図は、駒の損得や玉型に大きな差が着いている訳ではないのでいい勝負という感はありますが、先手は受け身ではありませんし、歩得という主張も保持しているので不満のない立ち上がりになっている印象を受けます。

 

先手矢倉にとって△7三銀型の急戦は手強い作戦ではありますが、先手には三種類の作戦があり、どれも互角に戦うことができるようになっています。特に、矢倉構築型では後手に強烈なカウンターを決める指し方も登場しており、先手に追い風が吹いてますね。それについては、こちらの記事で詳しく解説しております。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年11月号 居飛車編)

 

 

雁木

早繰り銀は下火になった。


11局出現。決して多い数字ではないので流行っている訳ではありませんが、雁木という戦法を支持しているプレイヤーが一定数、存在するので安定して指されていると言ったところでしょうか。

 

10月は、雁木に対して持久戦模様の作戦を選ぶ傾向が強かったですね。かつては早繰り銀で速攻を仕掛ける作戦が優秀なので雁木が苦しいという見解でしたが、現環境は受け方が分かってきたので対応できるようになりつつあります。そういった要因が、持久戦の将棋が増加した理由でしょう。

ただ、やはり雁木に取って最も警戒すべきものは急戦策なので、その将棋をピックアップします。(第10図)

 

最新 居飛車

2019.10.23 第32期竜王戦5組昇級者決定戦 ▲阿部光瑠六段VS△大橋貴洸五段戦から抜粋。

先手は[早繰り銀+美濃]という組み合わせで急戦を狙っています。なお、従来は囲いを▲7八玉型に組むことが主流でしたが、それは袖飛車が厄介なので姿を消しつつあります。詳しい理由は、こちらを参照してくださいませ。

最新戦法の事情(2019年4~5月・居飛車編)

 

ここで先手は▲7九玉と引く手もありますが、先手は後手陣が整う前に戦いを起こしたいので、緩手になってしまう恐れもあります。なので、本譜は▲3五歩△同歩▲4六銀と動いていきました。

これには△3四銀▲3八飛△4三金右と応対するのが習いある受け方ですね。先手の銀を3五に居座らせないことが急所です。(第11図)

 

ここから先手は▲3五銀と出て、ひとまず銀交換を行います。その間に後手も△7四歩→△7三銀で銀を繰り出す準備を進めて、反撃の機会を窺います。(第12図)

 

最新 居飛車

先手はこのまま手をこまねいていると、後手の銀がノコノコ出てきたり、△4二玉→△3一玉で玉型を安定されてしまいます。そもそも、足を止めずに攻め続けないと速攻志向の作戦と反してしまい、指し手の辻褄が合いません。

よって、本譜は▲2四歩△同歩▲2五歩といきなり継ぎ歩を実行しました。後手は素直に△同歩▲同桂△2二角と進めますが、そこで▲2四銀が狙い澄ました一着です。(第13図)

 

最新 居飛車

武骨な攻めではありますが、後手は分かっていても▲3三歩が受けにくいですね。先手は桂を入手すると▲5五桂と打つ手が残ることが楽しみです。

ただ、先手も持ち歩が少ないので、切れ筋とは隣り合わせではあります。また、桂を渡すと△6四桂のような反撃も気になるので、この美濃囲いはそこまで安泰という訳でもありません。第13図は先手が攻勢ではあるものの、簡単ではないように感じます。

 

この雁木VS早繰り銀という戦いは、雁木側の陣形が安定する前に、いかにして手を作れるかどうかが重要です。現環境は攻めが繋がるかどうかスレスレのところでせめぎ合っており、火花が散っている状況と言えます。

ただ、先手としては、以前なら攻め潰せていたはずの設定だったのに、今では難解な将棋に変わってしまったので、魅力が落ちてしまった感はあります。そういったところに、採用数が減少した原因があるのかもしれません。

 

 

その他の戦型

積極的に採用する理由が乏しい。


12局出現。横歩取りは7局。一手損角換わりは3局しか指されず、数字は伸び悩んでいますね。

現環境の相居飛車は定跡形の将棋を指せば後手はそう簡単には悪くならないので、わざわざ奇をてらうような指し方をする理由がないという話はあります。後手は2手目△8四歩で困らないならば、それで問題ありませんから。

 


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年11月号 居飛車編)

こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!

 

 

 


今回のまとめと展望

 

現環境は、2手目△8四歩系列の将棋が環境を支配している。理由は、先手が角換わり・相掛かり・矢倉のどれを選んでも良くはならないから。ただし、先手が悪くなることもないので、どの戦型のどちらの番を持っても問題ないと見ているプレイヤーが不特定多数、存在すると考えられる。ゆえに、2手目△8四歩系列の将棋ばかり指され、他の将棋は見向きもされていない。

 

 

・2手目△3四歩系列の将棋は少数派ではあるが、雁木や一手損角換わりは戦法そのものが廃れた訳ではないので、有力な選択肢ではあると考える。プロ棋界は一つの戦法を集中的に指し、結論が出れば忽然と姿を消すという傾向があるので、戦型選択に偏りが見られるのはよくある。ただし、横歩取りだけはどうも厳しそうだ。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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