最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年9月~10月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。今日はハロウィンですか。しかしながら、田舎暮らしの自分には馴染みがなく、ハロウィン=月末という感想しか持てません。我ながら、ズレてますね笑

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。今回は、9月と10月の合併版です。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。

最新戦法 8月最新戦法の事情(2019年8月・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2019.8/1~9/30)

 

調査対象局は192局。9月は102局。10月は92局指されました。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

角換わり

現環境は、難解。


48局出現。9月に23局。10月に25局。毎月、安定して高い数字が出ています。

やはり基本形から△5二玉→△4二玉と待機する将棋が盛んに指されており、(16局)多くのプレイヤーが高い関心を寄せていることが窺えます。(第1図)

 

なぜ、ここまで大量に出現しているのかというと、この将棋は有力な変化の幹が莫大にあるからです。大まかに分けると、ここから先手には三つのプランを選択する権利があります。

【プラン1 攻撃志向型】

 

まずは、先手が第1図から思い切りよく先攻する将棋を見ていきましょう。具体的には、▲4五桂と跳ねる手になります。

 

ここで後手は銀をどちらに動かすかですが、この場合は△2二銀と引く手が勝ります。

この▲4五桂に対する銀の逃げ方は悩ましいものですが、実を言うと、ある明確な判断基準が存在します。それについては、こちらの記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年7~8月 居飛車編)

 

ここからの攻め方も多岐にわたるのですが、現時点で最も有力と目されているのは、▲7五歩△同歩▲5三桂成△同玉▲7四歩と斬り込む手順だと思われます。(第2図)

 

2019.8.6 第78期順位戦C級1組3回戦 ▲増田康宏六段VS△及川拓馬六段戦から抜粋。

先手は自分の桂を捨ててから相手の桂を取りに向かっているので、何をやっているのか分からない印象を受けるかも知れません。しかし、これがなかなかうるさい攻めなのです。

この応酬により、先手は後手に

(1)壁銀を強要した
(2)玉を露出させた

という二つの悪条件を押し付けることに成功しています。なので、あとは桂損というデメリットを解消してしまえば、悪い部分がないだろうと主張しているのです。

 

後手は△4四歩と突いて守備力を高めますが、増田六段は▲4五歩と突いて、ひたすら暴れていきます。△3三銀で壁銀を立て直される余裕を与えないことが肝要ですね。(第3図)

 

この攻めが成立しているかどうかは際どいのですが、先手としては一方的に攻めることが出来ているので、自分の望んだ展開には持ち込めています。そういう意味では満足かもしれません。攻め将棋のプレイヤーに適性が高そうなプランと言えますね。

また、残る二つのプランについては、豪華版のほうで解説しております。

 

現環境の角換わりは、基本形から△5二玉→△4二玉と待機する手が主流です。それに対して、先手は三つのプランがあり、そのどれが良いのかを模索している段階と考えられます。

現状ではどれも難解で、かつ変化の分岐が多いので簡単に結論が出るとは到底、思えません。今後も盛んに指されることでしょう。

 

 

相掛かり

ミラーゲームが立ちはだかる。


51局出現。8月に27局。9月に24局。角換わりとほぼ同程度の対局数で、相居飛車では最もホットな戦型の一つになっています。

 

かつて先手は[▲5八玉・▲3八銀型]に組んで軽快に動く指し方が主流でしたが、後手にミラーゲームに持ち込まれると良さを見出せないことが分かってきました。

そこで、先手は[▲6八玉・▲3八銀型]という配置に組んで戦う方針が主流になりつつあります。具体例を見ていきましょう。(第4図)

 

最新戦法 居飛車

2019.8.23 第32期竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第2局 ▲豊島将之名人VS△木村一基九段戦から抜粋。

ご覧のように、先手は3四の歩をかっさらうことを狙っています。また、▲6八玉型に組んでいるので△8六歩▲同歩△同飛という攻め筋で対抗されても、次の△7六飛のときに耐性が強いので、怖くありません。

 

そこで、後手は△3五歩という別の手段で反発しますが、この手を見て先手は猛攻を仕掛けます。▲2二角成△同銀▲7七桂△8一飛▲4五桂と襲い掛かったのが意欲的な手順でした。(第5図)

 

相手は△6二金と上がって自陣を引き締めますが、▲6六角△4四角▲同角△同歩で後手玉のコビンをこじ開けてから▲7五歩で桂頭を攻めたのが鋭い攻め。争点を増やすことで、攻め筋を豊富にしていることが分かります。(第6図)

 

後手は潜在的に▲4四桂と打たれる傷があるので、桂は守らなければいけない駒です。しかし、△8四飛と浮くと▲7六角が痛烈な一打で支えきれません。

そこで本譜は△2三銀と上がりましたが、そこで飛車を逃げずに▲1六角と打ったのが攻めを繋ぐ一着でした。(第7図)

 

一見、△4二玉とかわされると後続がないようですが、▲2三飛成△同金▲4三銀△5一玉▲7四歩と進めれば、駒を補充しながら敵陣を攻めることが出来るので先手の攻めは繋がります。

 

このように、[△5二玉型VS▲6八玉型]という構図になると、先手のほうが横歩を取る筋の威力が高いので、その分、攻勢に出れるという性質があります。

 

そういう設定なら、後手は自分もその構えを真似したら良いじゃないかという発想になるのは自然ですね。それがこちらの将棋です。(第8図)

 

2019.8.7 第69期大阪王将杯王将戦二次予選 ▲三浦弘行九段VS△斎藤慎太郎王座戦から抜粋。

やはり先手は横歩をかすめ取る手を狙って攻めてきますが、今度は△4二玉型なので、後手もそれには耐性があります。

つまり、ここから△8六歩▲同歩△同飛▲3七桂△7三桂▲3四飛△7六飛で横歩を取り合う将棋に誘導することが出来るのです。(第9図)

 

最新戦法 居飛車

ここでもミラーゲームを挑んだのが後手の工夫でした。先手としては何か手段がありそうですが、攻めの糸口を見出すのは容易ではありません。自陣がそこまで堅くないことや、持ち歩を有効に使える場所が少ないことがその理由です。

 

現環境の相掛かりは相手の横歩をかすめ取る作戦がトレンドですが、ミラーゲームに持ち込む戦略が厄介で、良さを求めるのは難しいところがあります。逆に、「互角でもいいよ」というスタンスならば、無難な作戦と言えるでしょう。

 

 

矢倉

急戦策は怖くない。


36局出現。8月に20局。9月に16局。

相居飛車の戦型では3番目に多く指されており、完全に復興しました。「矢倉は終わった」という風潮は、もはや隔世の感がありますね。

 

急戦・持久戦ともに様々な形の将棋が指されており、バラエティーに富んでいます。ただ、活発に定跡が進んでいるのは△7三銀型の急戦なので、今回もその話をしようかと思います。(第10図)

 

最新戦法 居飛車

2019.9.28 第61期王位戦予選 ▲斎藤慎太郎王座VS△畠山成幸八段戦から抜粋。

後手は銀を繰り出すことよりも、歩を伸ばすことを優先していますね。これは、△6四銀と上がったときに▲6六銀で対抗される手を警戒している意味があります。

後手は▲6六銀と指されても悪くなる訳ではありませんが、銀の出足を止められてしまうので、思い切り攻めるという展開にはなりません。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年7~8月 居飛車編)

 

最新戦法 居飛車

△8五歩を優先しておけば、▲6六銀には△8六歩から一歩交換できるので、後手は手を作りやすくなります。

ところが、これはこれでデメリットがあり、斎藤王座は後手の駒組みを咎めに行きます。まずは▲5六歩△7三銀▲7九角△4一玉▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲4六角と進めて、角の力で銀の行進を牽制します。(第11図)

 

最新戦法 居飛車

後手はこの場所に角を居座られてしまうと都合が悪いので、こういったケースでは3一の銀を繰り出してプレッシャーを掛けるのが常用の指し方です。

よって、本譜は△4二銀▲6六歩△5四歩▲5八金△5三銀▲6七金右△4四銀と進めましたが、そこですっと▲6八角と引いたのが先手の思い描いていた局面でした。(第12図)

 

最新戦法 居飛車

先手は手損ではありますが、立派な金矢倉を完成することが出来ました。ここで△5二飛と回られても▲5八飛で対抗できるので、受けは間に合っています。

こういった局面になったとき、後手は△8五歩と伸ばした手が不急の一手になっていることが分かります。加えて、△6四銀→△7三桂→△8五桂という攻め筋が消えていることも欠点の一つですね。

第12図は、まだまだこれからの将棋ですが、がっちりとした矢倉に組めたので先手に不満は無いと言えるでしょう。

 

一時期、矢倉は後手の急戦策が豊富にあるので対応に追われていたのですが、現環境では様々な対抗策があるので先手も互角以上に戦うことが出来ます。対局数が多いことにも頷けますね。

 

 

横歩取り

特に大きな動きは無い。


11局出現。8月に6局。9月に5局。

かなり下火になっており、多くの居飛車党が支持をしていない様子が窺えます。これは、青野流に対して有力な対策を打ち出せていないことと、他の戦法で特に苦労していないことが要因です。

大きな動きはなく、環境に変化は見られない印象です。基本的に横歩取り以外の作戦のほうが安定感が高いので、現環境は進んで採用する理由が乏しいと言えます。

 

 

雁木

袖飛車も時によりけり。


23局出現。8月に13局。9月に10局。

矢倉と似たような性質をもつ雁木ですが、こちらは数字が伸び悩んでいます。とはいえ、雁木という戦法そのものが廃れてしまった訳ではありません。

雁木は、やはり早繰り銀が最も手強い作戦です。これに対しては、袖飛車で迎撃するのが有力な手法でしたね。詳しくは、こちらの記事を参照してください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年4月~5月 居飛車編)

 

という訳で、先手は袖飛車を牽制するべく、玉の配置を▲6八玉型に構える指し方が多くなりました。この場合は、後手も袖飛車を選ばず、違う作戦にシフトするという流れが最先端になっています。具体的には、こういった局面ですね。(第13図)

 

最新戦法 居飛車

2019.8.30 第5期叡王戦段位別予選四段戦 ▲上村亘四段VS△大橋貴洸五段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

このように、後手も銀を繰り出して攻め合う態勢を作っておくのは一つの代替案です。

また、何気ないところですが、△5二金を上がっているのが大事な部分ですね。これにより、▲3四歩△同銀▲3八飛のときに△4三金右で形良く受ける手を用意している意味があります。

 

この将棋は互いに囲いが中途半端な状態で戦いが起こるので、片方のみ不利な条件で戦うという状況にはなりにくいですね。ゆえに、どちらを持っても一局という感があります。現環境は互角の勝負でしょう。

 

その他の戦型

一手損角換わりがプチブーム。


23局出現。8月に13局。9月に10局。

一手損角換わりが過半数を超えており、(12局)プチブームが継続している印象です。△7二金型の右玉が有力な作戦と認知されたことがその要因ですね。

 

ただ、対局数としては横歩取りとあまり変わりがなく、そういう意味ではマイノリティーな作戦と言えるでしょうか。とはいえ、決定的な対策がある訳ではないので、指してみる価値はある戦法と見ています。

 


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年9月~10月 居飛車編)

こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!

 

 


今回のまとめと展望

 

・現環境は角換わりと相掛かりがツートップで、その次に矢倉が支持を集めている。どの戦法も先手がはっきり良くなる訳ではないが、互角以上に戦うことが期待できる。特に、矢倉は研究勝負になりにくいので、力勝負を挑みたい方はこれをお薦めする。

 

 

以前よりも先攻する作戦の優位性が乏しくなった印象がある。先手矢倉や後手雁木に対し、急戦策でスパッと決まらなくなったのがそれを象徴している。そういう意味では、今後はじっくり組み合う将棋が増加していくのかもしれない。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!



2 COMMENTS

なつ

角換わりのパターン1の44歩には具体的にはどのような効果があるのでしょうか?
53玉と露出した玉を43に逃げるためなのでしょうか?

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あらきっぺ

はじめまして。

この△4四歩は、本文ではさらっと流してしまいましたが、端的に述べると先手の攻めに備えた意味があります。

角換わり腰掛け銀

この歩を突くことで、後手は▲4五銀や▲4五桂といった攻め筋を防止することが出来ます。特に、後手は△3三銀と上がって壁銀を立て直したいところなので、▲4五桂の筋を消すことは価値が高いと言えるでしょう。加えて、▲2六角という攻め筋をケアしていることも見逃せません。

要するに、後手は△4四歩型を突くことで自陣に安定感が生まれるのです。先手もその状態を持続されたくはないので、▲4五歩と突っ掛けて形を乱しに行くという訳ですね。

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