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今週の妙手! ベスト3(2021年6月第1週)

妙手 将棋

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
妙手 AI今週の妙手! ベスト3(2021年5月第5週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2021.5/30~6/5)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。本局は相掛かりから後手が7筋の歩を取らせる作戦を採用し、以下の局面を迎えました。(第1図)

コンピュータ将棋 妙手

2021.6.5 ▲40b_n017d_RTX3070 VS △Ryfamate_wcsc31_TR2950X-RTX3090(棋譜はこちら

こういった局面は、相掛かりの序盤においてよく見かける形ですね。

まだまだ駒組みが続きそうにも思えましたが、先手は意外な一手を選び、良さを求めに行ったのでした。

40b_n017d_RTX3070が指した手は、▲7六歩です!

今週の妙手

角道の歩を突いたのが強気な妙手でした!


 

 

今週の妙手

相手の銀が出てくる場所の歩を突いているので、ギョッとする一手ですね。7六に銀を進ませるのは利敵行為に思えますが、これが細かい配置の綾を巧みに利用した一着なのです。

今週の妙手

さて、後手はもちろん△7六同銀と応じるでしょう。対する先手は、▲2二角成△同銀▲7四歩と反撃します。

先手は銀だけでなく、桂も呼び込もうとしているので非常に豪胆ですね。しかし、これが優位を掴む機敏な手順でした。(途中図)

妙手 将棋

後手としては、△6五桂が成立すれば話が旨いですね。けれども、これには▲7三角△同金▲同歩成と踏み込む手が鋭く、先手の優位が確固たるものになります。(A図)

後手は2二に壁銀が残っているので、左辺で激しい戦いが起こると旗色の悪い戦いになってしまうです。この制約が痛いですね。

妙手 将棋

そういった背景があるので、△7四同飛と取るのは致し方ありません。ただ、こう指すと8二の地点がお留守になりました。なので、▲7七歩△6五銀▲8二角で角を打ち込む隙が生じます。ここに角が打てるのは大きいですね。(第2図)

妙手 将棋

後手が香取りを受けるには、△9二香▲9一角成△8三角と指すよりありません。実際、本譜もそう進みましたが、8三に角を打たざるを得ないようでは、後手の苦戦は明らかです。以降は、先手が駒の効率の差を見せつけて圧倒しました。

 

今週の妙手

始めの局面と第2図を比較してみると、先手は8八で眠っていた角が8二へ瞬間移動したような状況になっています。その代償に歩を二枚渡していますが、その損失は微々たるものでしょう。▲7六歩は、一歩得していたことを最大限に活かした妙着でしたね。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 歩得している状況下では、歩を捨てる弊害が軽減される。
  2. 相手の陣地に壁銀があれば、その逆サイドから戦いを起こす。

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。本局は序盤から互いの飛車が苛烈に暴れ回る展開になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

妙手 将棋

2021.5.30 ▲QueenAI_210521_i9-7920x VS △xgs(棋譜はこちら

現状、先手は一方的に竜を作られており、その駒に自玉の安全を脅かされています。▲7八歩と打っても△7七歩で効果がありません。

そうなると受けが難しいようですが、先手はあっと驚く方法で、その脅威を緩和したのでした。

QueenAI_210521_i9-7920xが指した手は、▲8九歩です!

妙手 将棋

あえて後手の角を呼び寄せたのが妙手でした!


 

 

妙手 将棋

受けに回る際、このように相手の主力の駒に働き掛けるのは、常套手段の一つです。ただ、この場合は竜を追える保証がないので不可解な一手にも見えますね。一体、どういうことなのでしょうか?

妙手 将棋

後手は△8九同角成と応じるのが自然ですね。対して、先手はそのタイミングで▲7八歩と打ちます。この手は前述したように△7七歩があるので無意味なようですが、今度は▲7六飛と寄る手が発生していますね。これが先手の狙いなのです。(第4図)

妙手 将棋

後手は今しがた7筋に歩を打ってしまったので、飛車の成り込みを受ける条件が悪いですね。△7二銀打や△7四銀打でガードしても、▲7三金から突破されるので延命できません。

妙手 将棋

先手は△7八歩成が来ても自玉が詰めろではないので、この変化は一手勝ちが期待できます。このように、9八にいた角を動かしてしまえば、後手の攻めに歯止めを掛けることが出来るのですね。

妙手 将棋

また、△8九同角成▲7八歩のときに△同馬▲同金△同竜と突っ込んでくる手も考えられますが、▲6八金と弾いておけば問題ありません。(B図)

この変化も潜在的に▲7六飛の筋が残っているので、後手は思うように攻撃できないことが痛いですね。

妙手 将棋

そういった事情があるので、本譜は△6八竜▲同玉△7七銀という勝負手を放ちました。これは「▲8九歩と打った手を一手パスにしてやろう」という意図ですね。

ただ、そこから▲5八玉△6六銀成▲4八玉△7八飛▲3九玉でスタコラサッサと遁逃したのが明るい判断。これで先手は自玉の安全を確保することが出来ました。(第5図)

妙手 将棋

この応酬で先手は金損になりましたが、

(1)6六の飛が駒台に移動した。
(2)玉が安全地帯へ移動できた。

という二つのベネフィットを得ることが出来ました。これは今後の競り合いにおいて、どちらも大いに役立つ要素です。ゆえに、先手は金損しても差し支えないのですね。

妙手 将棋

ここで△5七成銀では緩いので、▲8一飛で先手の一手勝ち。捻って△5七桂不成という迫り方もありますが、これは▲4八金で後続が無いですね。

第5図は、とにかく次の▲8一飛が強烈です。ゆえに、先手の一手勝ちが見込める情勢だと言えるでしょう。先手は▲8九歩の催促によって、見事に勝利を引き寄せることに成功しました。

 

妙手 将棋

基本的に、相手の攻め駒が自玉に近づくと、それだけ危険度が上がります。そして、この▲8九歩は相手の角を接近させる嫌いがあるので、部分的には良い手ではありません。

けれども、この局面では▲7六飛の筋を作ることが極めて大きな意味を持っていたのです。なので、こういったイレギュラーな受けが成立するのですね。セオリーを逆手にとるAIらしい妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 働きの乏しい大駒を使いやすくする手は、価値が高い。
  2. 自玉の安全を確保しなければいけないときは、駒の損得を無視する。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、この将棋です。これも読みの入った受けが印象的な妙手でした。(第6図)

妙手 将棋

2021.6.5 ▲Qhapaq_from_NeoSaitama_RZ7_3800X VS △Suisho4test_TR3990X(棋譜はこちら

先手は▲5二金で飛車を取ることが出来ますね。ただ、金を渡すと△7八銀からの詰めろが掛かってしまうので、おいそれと飛車を取ることは出来ません。

そうなると、策を練る必要がありそうです。本譜は巧みな組み立てでこの難題をクリアしました。

Qhapaq_from_NeoSaitama_RZ7_3800Xが指した手は、▲9五歩です!

今週の妙手

端歩を伸ばして玉の逃げ場を作ったのが鷹揚たる妙手でした!


 

 

今週の妙手

ええええ!? ここで端歩!? 緩くないんですかぁ!?

と思わずにはいられない一手ではないでしょうか。確かに、玉が広くなったことは分かります。しかし、この切羽詰まった状況でじっと端歩を突くのは命取りになっても文句は言えません。本当に先手玉は大丈夫なのでしょうか?

今週の妙手

まず、後手としてはシンプルに△5六馬と銀を取る手が目に付きます。この手が間に合えば何も悩むことなどありません。

しかし、結論から述べると△5六馬は緩手です。具体的には、▲5二金△同玉▲6五桂打と平凡に攻められて一手負けですね。(C図)

後手は馬が5七から逸れると、▲8五玉→▲8四玉という逃走ルートを作ってしまいます。なので、銀を取る手は先手玉を寄せることに結び付きません。ここに△5六馬の問題点があります。

今週の妙手

ゆえに、本譜は△9四歩と突きました。こちらの方が▲9六玉と逃げる手を牽制しているので、先手玉にプレッシャーを与えていますね。

ただ、この手が来るのは先手も計算通り。その局面で▲7四とと上部を開拓したのがクレバーな一着でした。(途中図)

妙手 将棋

さて、後手はどのように先手玉へ迫るかですが、最も効率が良い攻めは△8九歩成です。次に△8五歩が打てれば、先手玉はぐっと狭くなりますね。

しかし、先手はその局面になることを望んでいるのです。そこから▲5二金△同玉▲6三角△4三玉▲4一飛△3二玉▲9一飛成が用意の手順。根本の香を引っこ抜いてしまうのが聡明な判断ですね。(第7図)

妙手 将棋

先手は金を渡してしまいましたが、▲9六玉→▲8五玉→▲9四玉というルートが拓けているので、自玉が詰むことはありません。そして、後手玉には▲4一角成からの詰めろが掛かっています。したがって、この局面は先手が明快に一手勝ちでしょう。

妙手 将棋

そして、ここまで進んでみると先手が[▲9五歩⇔△9四歩]の交換を入れたことがよく分かります。もし、これが無い状態で第7図の局面に誘導すると、△7八銀▲8六玉△8七金からあっけなく詰まされてしまうところでした。(D図)

[▲9五歩⇔△9四歩]の交換は、部分的にはイーブンの取引です。けれども、第7図のように9一の香を取り払ってしまえば、△9四歩は意味のない一手に成り果ててしまいます。そうなると、先手は▲9五歩の一手を丸儲けできるという仕組みなのですね。

妙手 将棋

この局面になってしまうと、後手は打つ手がありません。ゆえに、▲7四とのときに△8九歩成は指せないということになりますね。

妙手 将棋

しかしながら、最も率の良い攻めが指せないとなると、後手は困りました。本譜は△8二飛▲8三歩△8一飛と飛車を逃がして辛抱しましたが、これは受け一方であり、辛い選択ですね。

先手としては、相手を突き放すチャンスです。実戦は▲5五銀△5二歩▲8六玉△9五歩▲7五角と進みました。これが上部脱出を見せつつ、敵玉に迫る好手順でしたね。(第8図)

妙手 将棋

後手は△同馬▲同玉と進めてしまうと、もう先手玉を捕まえることは出来ません。しかし、△5六馬にはドカンと▲4四飛が炸裂しますね。△4三銀と受けても▲5二金△同玉▲6三とで寄り筋です。(E図)

第8図は先手玉が全く寄り付かなくなったので、はっきり大勢が決した形となりました。▲9五歩を境にして、一気に形勢が先手に傾いたことが分かりますね。

 

今週の妙手

将棋における大事な考え方の一つとして、相手の指し手を意味を打ち消すというものがあります。この場合、▲9五歩に対する△9四歩がそれに当たります。こうしておけば▲9六玉を牽制できますし、それを封じれば▲9五歩の意味もなくなりますね。なので、▲9五歩そのものには、あまり価値がありません。

妙手 将棋

ところが、これと▲7四とが組み合わせると、状況に変化が起こるのです。この手を指すと先手は▲5二金→▲6三角の筋を決行できるようになり、それが決行されると△9四歩の効能を打ち消すことが出来ます。そうなると、初めに指しておいた▲9五歩の意味が再び復活するというロジックなのですね。

今週の妙手

要するに、自分の指した手を塗り潰されても、それを再び塗り潰せば、より大きなリターンを得られるという訳なのです。相手の注文を受け入れた上でそれを凌駕するとは、レベルの高さを感じさせますね。▲9五歩から▲7四とは、見事な受けの妙技でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 相手が直前に指した手を、打ち消す手を狙う。
  2. 相手の「打ち消し」をさらに「打ち消す」と、より大きな得が取れる。
  3. 相手が「ただ受けるだけ」の手を指した瞬間は、突き放すチャンス。

 

それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!

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