どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2019年12月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2019.12/15~12/21)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相矢倉の将棋から一進一退の攻防が展開され、このような局面を迎えました。(第1図)
2019.12.19 第78期順位戦B級1組10回戦 ▲松尾歩八段VS△斎藤慎太郎七段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
この局面は、敵陣に竜を侵入させている後手が優位に立っています。けれども、攻め駒の数はそこまで多くないので、まだ決定打を与えることは出来ません。
ゆえに、先手玉に対してどのように迫るのかは難しいところがあるのですが、斎藤七段はスマートな手を用意していました。
悠然と角を成った手が妙手でした!
ずいぶんとのんびりしているようですが、これが大局を冷静に見据えた一着でした。この手は様々な含みがあり、今後の寄せを円滑に進ませる効果があるのです。
まず、9八に馬を作ることで▲8八銀という受けを封じていることが自慢です。また、▲8九Ⅹで壁を作る手も牽制していますね。(△同馬で解体できる)つまり、△9八角成と指すことで、先手陣の耐久力を奪っているのです。
そして、この手は次に△9七馬の両取りを狙っています。他には△5七歩も魅力的ですね。先手は複数の狙いを見せられて、受けが利かない状況に追い込まれました。
かくなる上は、攻め合いに活路を求めるよりありません。松尾八段は▲4六香と指しますが、△4四歩▲同香△4二歩が歩をバックさせる手筋。後手陣はまだ安定しています。(第2図)
相変わらず、先手は前述した攻め筋が残っているので攻め続ける必要があります。本譜は▲1五桂△1四金▲7三馬△1五金▲6四馬△4四銀▲1六歩とあの手この手で嫌味をつけましたが、△5七香がトドメの一撃になりました。(第3図)
ご覧のように、先手玉は完全に包囲されていますね。次は△7九竜▲同玉△8七桂から詰みがあります。こういうときにも、△9八角成と成った手が利いていることが分かります。
相手の守備力を奪い、敵を攻めるしかない状況に追い込み、その反動を利用して仕留める。△9八角成を指すことで、後手はその一連の流れをスムーズに行うことが出来ました。地味ながら落ち着きのある妙手だったと思います。
第2位
次にご覧いただきたいのは、こちらの将棋です。[矢倉VS△7三銀急戦]という最新型の将棋から、このような局面を迎えました。(第3図)
2019.12.19 第78期順位戦B級1組10回戦 ▲畠山鎮八段VS△山崎隆之八段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
この局面は先手が飛車を二枚保有している上に、3六の香が金取りなので、実質的には手番も先手側にあります。後手はあまり主張できる部分がなく、旗色が悪い状況と言えます。
しかしながら、次の一手を境に戦況は全く分からなくなります。将棋には思わぬ手があるものですね。
銀を投資して香の利きを止めたのが妙手でした!
駒の損得を完全に無視していますが、これが逆転の呼び水となる受けでした。
そもそも、第4図では△3四歩が最も自然な受け方でしょう。香の利きを堰き止めるには、歩を使うことが相場と決まっています。けれども、それには▲7四歩でと金作りを見せられたときに困ってしまうのです。(A図)
そこで、山崎八段は△3四銀打を選んだのです。これなら次に△4五歩という狙いがあるので▲7四歩は間に合いません。また、▲同香△同銀も△4五歩や△2四香といった攻めが残るので、満更でもないと言えます。
本譜は▲4五歩で後手の攻め筋を潰しましたが、△5三角▲2八飛△3五歩で香得に成功しました。以下、▲7四歩△3六歩▲同歩△7一香が粘っこい受けで、後手は容易には崩れません。(第5図)
相手の兼ねてからの狙いであった▲7三歩成を阻止できたので、後手陣は相当に安全になりました。先手は有効な後続が見当たらず、攻めあぐねている印象です。
まだまだ後手に苦労が多い局面ですが、結果的にはこの粘りが実を結び、本局は山崎八段が勝利を収めています。
△3四銀打という手は価値の高い駒で壁を作っているので、語弊を恐れずに申し述べると常軌を逸しています。ですが、形勢が悪いときは並の手では勝ち目が無いので、イレギュラーな手段に訴えるよりないという側面はあります。逆転の秘術を知り尽くした山崎八段らしい勝負術でしたね。
第1位
最後に紹介するのは、こちらの将棋です。この手を1位に推した理由は、シンプルにかっこよかったからです。(第6図)
2019.12.19 第5期叡王戦本戦 ▲久保利明九段VS△佐々木大地五段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
第6図は[飛角桂香⇔金金銀]という駒割りなので、後手が大きく駒得しています。ただ、玉型の差は一目瞭然ですね。
基本的に、こういったパターンでは受けに回って長期戦に持ち込む(相手の攻めを切らす)のがセオリーですが、佐々木五段の勝ち方はすこぶるシャープでした。
玉頭に香を叩き込んだのが妙手でした!
原則として、こういった「駒得だが玉が薄い」というケースでは、斬り合いを挑むのは危険です。物量が多いときは長期戦に持ち込むほうが体力勝ちが期待できますし、短期決戦になると囲いが堅いほうに分があるとしたものだからです。
しかし、この▲5二歩という手は、次に▲5一歩成と指して初めて意味が生まれる手とも受け取れます。すなわち、二手一組の狙いという訳ですね。
このような、相手が二手一組の手を指した瞬間に行動を起こすというのも、将棋のセオリーの一つです。セオリーがかち合ったとき、どちらを選ぶかは悩ましいものですが、敵玉に向かう手を選んだところに佐々木五段の勢いを感じます。
これを▲同玉は△3五桂が痛烈ですね。
本譜は▲同銀△4九飛成▲3九金で竜を弾きましたが、「関係ない」と言わんばかりに△4五桂と斬り込んでいくのが△2七香からの流れを継いだ一着です。(第6図)
先手は▲5一歩成で飛車を取っても、後手玉が詰めろにならないことが辛いですね。
ゆえに、▲4九金で竜を取るのはやむを得ないですが、△3七桂成▲同桂△3六桂打▲同銀△同桂▲2七玉△3一飛が巧みな駒運びで、後手がはっきり勝勢になりました。(第8図)
3六の桂に紐を付けることで、先手玉に詰めろを掛けることが出来ています。具体的には、△1八銀からの詰めろになっていますね。実戦も、その詰み筋を実現させた佐々木五段が制勝しています。
後手は流れるような手順で、先手が放った▲5二歩に空を切らせることに成功しました。△2七香からの攻めは、相手の攻めに怯まない勇猛果敢な指し回しでしたね。
将棋を観戦しているとき、予想だにしていない手が指されると、思わず声を上げたり感心させられたりします。そういった情念が少しでも伝わっていれば、筆者として嬉しく思います。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!