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今週の妙手! ベスト3(2020年7月第1週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
妙手 藤井聡太今週の妙手! ベスト3(2020年6月第4週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.6/28~7/4)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の4→3戦法を後手が迎え撃つ構図になり、このような局面になりました。(第1図)

 

妙手 久保

2020.6.28 第41回日本シリーズJTプロ公式戦 ▲久保利明九段VS△羽生善治九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△8四銀と引いて、銀取りを受けたところ。

この局面は、何と言っても1八にいる飛車が目を引きますね。珍しい配置ですが、これはやむにやまれぬ事情があって、ここに押し込められた経緯があり、決して嬉しくて作った配置ではありません。

 

先手としては、この駒を何とかしたいところです。久保九段は、見事な組み立てでこの飛車を躍動することに成功しました。

久保九段が指した手は、▲1六桂です!

 

妙手 久保

桂交換を迫ったのが妙手でした!


 

 

妙手 久保

ここに桂を打つとは、思いもしない発想ですね。なかなかお目にかかれない桂の使い方ですが、これが臨機応変な一着でした。

後手はこの桂を放置すると囲いの形が乱れてしまうので、△同桂は妥当なところですが、▲同飛と取った局面は飛車の呼吸がかなり楽になった印象です。

そこから後手は△8八角と打って戦力の補充を目論みますが、▲6六飛と転換したのが巧みな捌きでした。(第2図)

 

今週の妙手

次に▲6四飛が実現すれば、先手は万々歳ですね。また、△6五歩には▲7六飛で効果がありません。

ゆえに、本譜は△6五桂で壁を作りましたが、▲7八金△9九角成▲6八金と進んだ局面は、先手が上手く立ち回ったと言えるでしょう。(第3図)

 

妙手 久保

この局面は先手の銀損ですが、第1図と比較すると、働きの弱かった飛と金がしっかり活用できているので、駒の効率が格段に良くなっていることが先手の自慢です。対照的に、後手は駒得ながら遊び駒が多く、有効な手段がありません。以降は先手が働きの良さにモノを言わせて圧倒しました。

 

妙手 久保

この▲1六桂は、「合わせの歩」という手筋を桂で応用したような感覚ですね。こういったイレギュラーな手がぱっと思いつくところにプロの業を感じさせます。まさに捌きのアーティストの面目躍如と言ったところでした。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わりから先手が後手の攻めを催促する展開になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

妙手 千田

2020.7.2 第46期棋王戦挑戦者決定トーナメント ▲千田翔太七段VS△佐藤康光九段戦から抜粋。

この△9八角は、部分的には厳しい攻めではありますが、まだ詰めろにはなっていません。そうなると、先手は一手勝ちが望めそうな状況と言えるでしょう。

 

後手玉を攻める手はいろいろあり、何を選ぶのか目移りするところですが、千田七段の着手は的確なものでした。

千田七段が指した手は、▲2四歩です!

 

妙手 千田

歩を突きだして、玉頭から攻めたのが妙手でした!


 

 

妙手 千田

様々な手段がある中で、2筋の歩を突き捨てるとは予想しにくいところです。けれども、これが正確な読みに基づいた一着でした。

ちなみに、この手には△2九飛という攻防手が見え透いているので、割と抵抗感のある手ではあります。しかし、△2九飛には▲7八玉とかわす手が冷静な応手ですね。(第5図)

 

妙手 千田

2九に飛車を打たれると詰めろを解除されてしまうのですが、先手は飛車を打ってもらえると、上部へ逃げやすくなるというメリットが生まれます。また、ここで△8九飛成なら、▲6七玉△8七竜▲5八玉で右辺へ逃げて行けるので、これも安心感がありますね。

第5図は▲6二飛の攻防手もあるので、先手は何かと保険が利いています。要するに、後手に△2九飛を打たれても、十分に勝算があるということなのですね。

 

妙手 千田

そういった事情があるので、本譜は△8九角成▲6九玉△5四歩と指しました。これは先手玉を下段に留めた方が綾があると判断したものですが、▲3三成銀が後手の希望を打ち砕く攻め。何と、これで後手玉は詰み筋に入っているのです。(第6図)

妙手 千田

△同桂は妥当ですが、先手は▲2三歩成△同玉▲2四歩△同玉▲2五歩△同桂▲3三銀と畳み掛けていきます。(途中図)

 

妙手 千田
これも△同玉の一手ですが、▲2五桂△2四玉▲2三金が華麗な捨て駒。4八に金が控えているので、後手は上部へ逃げ出すことが出来ません。(第7図)

 

妙手 千田
△同玉は仕方のない応接ですが、▲3五桂がトドメ。8九の馬の利きを通すので不安感がありますが、これでピッタリ捕まっています。

以下、△同歩▲5三飛で収束が見えてきました。(第8図)

 

今週の妙手

ここで△2四玉は、▲3三飛成△2五玉▲3五竜で詰み。3五へ竜を引けるようにしたことが、▲3五桂の意味だったのです。

また、△2二玉には▲3三桂成△1三玉▲3四成桂で詰みですね。(A図)

他にも変化はありますが、先手は2筋に歩が打てたり、7二の馬が5四へ引けたりするので、後手玉を即詰みに討ち取ることが可能です。

 

妙手 千田

これらの変化を踏まえると、この▲2四歩は、

・後手に△2九飛を打たれても大丈夫
・△5四歩で、銀を取られても大丈夫

という二つの条件を見切った踏み込みだったことが分かります。特に、△2九飛を恐れない態度を取っていることが素晴らしいですね。これは圧巻の寄せでした。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。正直、この棋士の手をピックアップする頻度が高いので、「またかよ」と思われるかもしれません。しかし、これは流石に取り上げない訳にはいかないですね。(第9図)

 

藤井聡太 △3一銀

2020.6.28 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局 ▲渡辺明三冠VS△藤井聡太七段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)

先手が▲6六角と打ち、2二の金を狙ったところ。

ここで後手は、攻め合いを挑む手もあれば受けに回る手もあり、プレイヤーによって好みが分かれそうな場面です。

藤井七段は、「受け」を選択しました。ところが、その方法は予想だにしないものだったのです。

藤井七段が指した手は、△3一銀です!

 

藤井聡太 △3一銀
銀を打って金に紐を付けたのが妙手でした!


 

 

藤井聡太 △3一銀

これが意表の受け方でした。見た目は平凡ですが、この手は強者であれば間違いなく違和感を覚える手です。そもそも、視界すら入りません。それを証明するかのように、棋譜コメントにはこのように記載されています。

控室に「えっ」「えっ」と声が響く。あまり本命視されていなかった手だ。「しかしいいんですかね」と佐藤康九段が訝しげに検討の駒を動かす。

 

2020年6月28日 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局 ▲渡辺明棋聖 対 △藤井聡太七段 58手目の棋譜コメントより引用。(コメント入力=生姜記者)http://live.shogi.or.jp/kisei/kifu/91/kisei202006280101.html

 

藤井聡太 △3一銀

筆者自身もこの局面を観戦していたとき、「攻めるなら△4六桂、受けるなら△3二金、ちょっと捻るなら△1二金だけど、それなら△3二金のほうが勝るかな」といったことを考えていました。

そんな矢先に△3一銀が指されたので、他に選択肢があるのか……という気持ちが第一印象でした。これは違和感の塊のような手なので、本当に指しにくいんですよね。

 

藤井聡太 △3一銀

△3一銀に違和感を覚える理由は幾つかあります。順に列挙すると、

と言ったところでしょうか。何だかこうして見ると非難轟々ですが、具体的に「どうやって攻めてくるんですか?」と問いかけられると、その手段は簡単ではなかったのです。

 

藤井聡太 △3一銀

ここで真っ先に浮かぶ手は▲4四歩ですが、それには△同金▲同角に△1四角が狙い澄ましたカウンター。これは玉の安全度を逆転されてしまうので、先手は選べない変化ですね。(B図)

ゆえに、本譜は▲7九玉で早逃げしたのですが、相手の攻めが緩んだので△4六歩と押さえる手が間に合いました。(第10図)

 

妙手 藤井聡太

先手は早い攻めがなくなったので、▲3四歩と取り込んで力を溜めました。ただ、これはさほど威力がないので、後手は△8六歩▲同歩△8七歩で反撃に転じます。

先手は▲9六歩と突いて自陣の耐久度を高めますが、△7五歩がそれを無効化する突き出し。これで先手は痺れました。(第11図)

 

▲同歩と取ると角が8四に出れなくなるので△5四桂が痛打になります。先手は角が4八や3九に隠居するようでは話にならないですね。

よって、本譜は▲8七金と歩を払って角の退路を作りましたが、△7六歩と取り込まれると次の△7五桂が痛烈なので、粘りが利かない格好となりました。先手は▲9六歩と突いて桂打ちに備えた手が無価値になってしまったので、もう取り返しがつかないのです。

 

ここまで進んでみると、藤井七段は持ち駒の銀を手放しても、きちんと攻めが繋がることを見越していたことが分かります。後手は△3一銀と△4六歩の二手によって、先手の大駒の働きを抑制していることが心強いですね。このあとは、後手の着実な収束を見るばかりでした。

 

藤井聡太 △3一銀

なお、余談ではありますが、この△3一銀は将棋ソフトもあまり評価しない手なのですが、6億手ほど読ませると、突如として最善手と評価する手とのことです。


 

こういった事例を見ると、いかに将棋ソフトが高い棋力を有していると言っても、ぱっと出された指し手や評価値を鵜呑みにしてはいけないということを思い知らされます。それと同時に、棋士の閃きや日々の鍛錬の凄まじさの一端も窺えた次第ですね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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