どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年10月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.10/11~10/17)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりから相早繰り銀という戦型になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.10.16 ▲LUNA VS △Suisho2test_i5-10210U戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は遊び駒が一つもありませんが、現状は[角⇔銀桂]の二枚替えで駒損ですし、敵玉も堅いので形勢は容易ならざるように見える局面です。
しかし、ここからたった三手進むと、情勢は大きく変わりました。これは見事な組み立てでしたね。
小太刀を放って敵陣を乱したのが妙手でした!
傍目には効果が分かりにくいので、ここに歩を打つのは意表を突かれます。何だか、羽生九段の△4八歩を彷彿とさせる一着ですね。
これを△同金は▲7一銀の隙が生じるので△同玉が妥当な応手ですが、そこでスパッと▲6四飛と切り飛ばす手が明るい攻め方でした。(途中図)
飛車を切るのは無謀なようでも、これが攻めを繋げる好手です。先手は7四の角を攻めの主軸として使う組み立てなのですね。
後手は△7六歩▲同金を入れてから△6四歩と飛車を取りますが、▲4一角成が厳しい成り込みです。
その局面で△7八飛とは打てますが、▲5八角が手厚い受けなので先手は痛痒を感じません。(第2図)
こうすれば7六の金は取られませんし、相手は桂だけしか持っていないので自玉も安泰です。
反対に、後手は3二の金取りと▲7四歩という二つの攻め筋が残っており、これらを同時に防ぐ術がありません。したがって、この局面は先手が優位に立ったと言えるでしょう。
なお、後手は▲4一角成と侵入される手が厳しいので、ここでは△5二金とかわす手もありますが、▲6四飛△同歩▲6一銀と絡みつく手が厳しいので、やはり先手の攻めは止まりません。(A図)
[▲6四飛△同歩]という手順を踏むと、角の利きが通るので敵陣を攻略する条件が良くなります。▲6二歩は、それを引き立てるための一着だったのですね。小太刀の使いどころが参考になる妙手でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相居飛車の力戦形から盤面全体を使った攻め合いになり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.10.11 ▲Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k VS △ideal_white戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は挟撃態勢を作られており、△7八金からの詰めろが掛かっています。この包囲網から逃げ出すのは至難の技であり、まさに絶体絶命という状況ですね。
ところが、ここでQhapaqは思わぬ一手を放ち、自玉を救助することに成功したのでした。
自陣角を放って、相手の馬に働き掛けたのが妙手でした!
これが強靭な受けの妙手でした。見た目は苦しげですが、大いなる反発力を秘めた一着なのです。
なお、平凡な受けは▲6九銀ですが、これには冷静に△5二金と逃げられると、先手は敗色濃厚。こういった手番を取れない軟弱な受けでは、相手に対してプレッシャーがないので余裕を持たれてしまうのですね。
ゆえに、▲6九角で相手の攻め駒に働き掛ける受けが良いのです。
角を受けに使ってしまうと△3七馬のような手が気になりますが、後手は馬を逃げると▲1四角と飛び出られたときに手段に窮することになります。(第4図)
後手は歩の合駒が利かないので、1四の角に射貫かれていますね。
よって、▲6九角に対しては△同馬▲同玉と進めるよりないのですが、こうなると先手は右辺への逃げ道が作れました。(途中図)
ここで挟撃態勢を築くなら△4八金ですが、これは詰めろではありません。したがって、先手は▲4二桂成△同玉▲5一銀と間隙を縫って攻めに転ずることが可能になります。(B図)
なお、こういった強襲が成立する背景には、一手の余裕を作り出したこともさることながら、4七の馬を消したことで後手玉の安全度を低下させたことも要因の一つです。B図の変化では、あの馬を消したことで生じている詰み筋もあり、先手にとって馬の除去は計り知れないベネフィットがあるのです。
という訳で、後手は△4八金よりも威力の高い攻めを繰り出さねばいけません。本譜は△3六角と王手を掛けましたが、▲6八玉とかわせば、先手玉は寄り筋を免れています。(第5図)
ここで後手は△4七角成とすれば詰めろを掛けることが出来ますが、それには▲6九角と打てば元の局面に戻っていますね。
先手は千日手を後ろ盾にすることで、ピンチを切り抜けることに成功しました。絶体絶命に見えた冒頭の状況を思えば、御の字と言ったところでしょう。
冒頭の局面では、4七の馬が最も力を発している駒だったので、これを除去することが急所だったという訳なのですね。▲6九角は、自玉の包囲網を打破しつつ、敵玉への寄せも見据えた攻防兼備の妙手でした。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは目の覚めるような一撃が決まったケースでしたね。(第6図)
2020.10.13 ▲Mariel VS △ goto2200last3戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手玉は、まだ幾ばくかの余裕がありますが、何しろ真っ裸のような状況なので今さら受けに回っても効果は期待できません。ゆえに、ここは攻めに向かうべきところですね。
ただ、後手玉はまだ金が二枚くっついていますし、5筋方面への逃げ道も確保しています。事は簡単ではなさそうに見えましたが、次の一手で全てが解決されます。
焦点に銀を捨てる手が必殺の妙手でした!
5筋には竜が利いているので、ここから手を着けるのは「まさか」という印象を受けたのではないでしょうか。しかしながら、これが最も敵玉を効率よく寄せる一手なのです。
これを△同竜と取ると、▲5四香が絶好。ここに香が打てれば後手玉はぐっと狭くなりますし、竜を押さえ込むことで自玉の安全も確保することが出来ていますね。(C図)
後手はこの銀打ちを竜で取ると、勝負所がなくなってしまうのです。
そうなると△5三同金と応じることになりますが、4二の金を引き離したことで、後手玉は守りが相当に薄くなりました。先手はそれに乗じて▲2二金△同金▲同とと畳み掛けます。
▲2二同とを△同玉は▲3一角から詰みですね。よって、本譜は△4一玉と逃げましたが、先手はさらに▲3一とと追いかけます。(途中図)
なお、この▲3一とが地味なようで非常に大事なところ。この手に代えて単に▲3三飛成と桂を取ると、△4八竜▲4七香△3七銀▲3五玉△3四歩▲同玉△2五銀で先手玉はトン死します。(D図)
恐ろしいことに、この変化は4一の玉が詰みに役立つ駒として働いているのです! なので、先手は▲3一とでこの玉を追い払ったのですね。「王手は追う手」という格言に反して妙なようですが、こんな深い理由があったのです。
問題は、この王手が相手の逃走を促していないかどうかですが、△5二玉▲3三飛成の局面は、後手玉が思いのほか狭いので心配無用です。(第7図)
これは▲3二竜△4二銀▲4一竜△6一玉▲6二銀△同玉▲7四桂という詰めろになっています。後手は受けても一手一手ですし、△4八竜と寄っても▲4七香で後続がありません。ゆえに先手勝勢ですね。
そういった事情があるので本譜は△4二玉とかわしましが、▲3三飛成が豪快なトドメ。以下、△同玉▲3二金△2四玉▲3五銀と進んだ局面は、後手玉が詰んでいますね。(第8図)
玉の逃げ場は複数ありますが、例えば△1五玉なら▲1七香△1六歩▲2七桂△1四玉▲1六香△2五玉▲3四角で詰みます。他の逃げ方もありますが、
・1筋に香を打ってから桂で王手をする。
・△2五玉には▲3四角と打つ。
という要領で王手を掛ければ捕まっていますね。見事な収束が決まりました。
金という駒は、二枚並んだ配置になると互いに紐を付け合うことになるので非常に堅固な守備隊形になります。それを打ち崩すために▲5三銀と放り込んだ訳なのですね。
指されてみれば理屈は明快ですが、ここに銀を捨てるという発想にはなかなか至らないでしょう。また、途中の▲3一とで、自玉のトン死筋を消したところも圧巻です。先入観に囚われない奔放な捨て駒と、読みの入った利かしが印象的な妙手順でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!