どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年8月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.8/16~8/22)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。対抗形の将棋から一進一退の攻防を経て、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.8.20 第70期王将戦二次予選 ▲久保利明九段VS△永瀬拓矢二冠戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
後手が△2六歩と叩き、それを先手が▲同玉と応じたところです。
先手玉は風前の灯火ですね。しかし、後手の玉も▲3三香△同桂▲同桂成△同金▲4二金という順で詰めろが掛かっているので、人のことは言えない状況です。
まさに生きるか死ぬかと言う瀬戸際の場面ですが、永瀬二冠は見事な攻防手を繰り出し、この競り合いを制すことに成功しました。
2四の地点に銀を置いたのが、攻防に利く妙手でした!
この場所に銀を設置するのが、絶好の攻防手でした。これで後手は「玉の安全度」という要素において、はっきり優位に立つことが出来るのです。
これを放置していると、△2五銀や△2八竜から先手玉は詰み。また、▲同歩も△2八竜▲2七香△2五歩以下、詰みですね。(A図)
先手にとって2五の歩は生命線となる駒なので、これを動かすことは出来ません。後手は、その制約を上手く利用したという訳なのです。
先手は有効な受けが利かないので、本譜は▲3三香と放り込んで攻めに活路を求めます。しかし、△同桂▲同桂成△同銀が冷静な対応で、後手の優位は揺るぎません。(第2図)
後手は銀が下がったので敵玉の詰めろが解けてしまいましたが、自玉にも詰めろが掛からないのでノープロブレムです。3三の銀の守備力が心強く、▲5二歩成が詰めろにならないことが大きいですね。
次は△2四香で再び2五の歩をアタックする手が厳しいですね。また、どこかで△2一玉と引いて、先手の角を取りに行く手も魅力的です。実戦もその筋を実現した後手が勝利を収めました。
話をまとめると、この△2四銀打は敵玉に迫りつつ、自分の玉頭をケアする詰めろ逃れの詰めろだったのです。攻防兼備の妙手でしたね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わりから[▲早繰り銀VS△腰掛け銀]という構図になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.8.21 第14回朝日杯将棋オープン戦一次予選 ▲伊藤真吾五段VS△渡辺和史四段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
後手は駒損ではありますが、手番を握っていることや、玉型が安定していることから存分に攻めれそうな場面ですね。
渡辺四段は、持ち駒の香に手を伸ばします。ただ、それが放たれた場所は、少し意外なところでした。
あえて銀取りではない場所に香を打ったのが妙手でした!
ここに香を使うのは、なかなか予想しにくい一着ではないでしょうか。見た目には厳しさを感じませんね。けれども、これが賢明な攻め方だったのです。
なお、この手に代えて△7五香も目に付きますが、▲同銀△同歩▲7四角が厄介な反撃。このとき、後手は対処が難しいのです。(第4図)
ぼやっとした角打ちですが、これは次に▲8四香が狙いです。
△4二金右と指せばそれは受かりますが、今度は▲4四香がうるさいですね。この変化は渡した香と手番を逆用されており、後手は芳しくありません。
しかしながら、△7三香という攻め方ならばすぐに香を渡さないので、後手は反撃を気にする心配がないのです。ここに、△7三香の価値があります。
さて。先手は持ち駒が角と銀だけでは良い攻めがありませんし、次の△7五歩をまともに喫するとダメージが大きいですね。
なので本譜は▲6六歩で銀の退路を作りましたが、後手は△7五歩▲6七銀△7六歩で追撃していきます。(途中図)
これを▲7八金引は△7七歩成と指せば、手番を取りながら駒損を回復できますね。
よって本譜は▲同銀と応じましたが、△4六歩▲同銀△7六香▲同金△3九銀が痛打となり、後手は頭一つ抜け出すことに成功しました。(第5図)
先手は飛車を逃げる必要がありますが、不用意な場所に移動すると、△4九角や△5四角といった手が両取りになってしまいます。
それらを避けるなら▲2六飛になりますが、△8六歩▲同歩△8八歩▲同玉△5九角という手順でこれも両取りが掛かりますね。つまり、この△3九銀で既に技ありなのです。後手の流麗な攻めが決まりました。
△7三香から後手の指し手を振り返ってみると、常に手番を握りながら攻撃が出来るように注意を払っていることが分かります。相手に香を渡すタイミングをギリギリまで遅らせることで、反撃されないようにしていることが巧みですね。△7三香は、リスクマネジメントが行き届いた妙手だったと思います。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは派手な類の妙手ではないのですが、こういった手のほうが発見が難しいものなので、実戦で指せるのはただただ凄いなと感じた次第です。(第6図)
2020.8.17 第33期竜王戦挑戦者決定戦三番勝負第1局 ▲羽生善治九段VS△丸山忠久九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
△4七歩の叩きに、▲5八玉とかわしたところです。
後手の玉は三段目に浮遊していますが、まだ幾ばくかの余裕はありますね。また、直前に△4七歩と指している以上、攻めの手を選びそうな流れでもあります。
ところが、ここで丸山九段は思わぬ駒を動かしました。しかし、それが勝利を呼び込む一着だったのです。
金を上がって自陣の守備力を高めたのが冷静な妙手でした!
何だか恩恵が見えにくい一着ですが、これが絶妙の間合いでした。この瞬間に自陣をお手入れすることが、相手に最もダメージを与える手段なのです。
なお、この手に代えて△4九角と王手を掛ける手も映りますが、▲4七玉のときに後続が無いですね。(B図)
これは攻め駒が足りておらず、まだ寄せ切ることが出来ません。後手にとって△4九角は切り札ですが、このタイミングでは時期尚早と言えます。
なので、△6二金と間合いを図っておくのが良いのです。
さて。先手は貴重な手番が回ってきました。自然に指すなら▲3二竜と活用する手ですが、これには△3一金が手厚い受けになります。(第7図)
先手は飛車を渡すと△2八飛が痛烈です。かと言って、▲2三竜では敵玉にプレッシャーを与えられません。後手は△6六角と攻めても良いですし、△7二玉で8二の角を召し取りに行くのも良いでしょう。
また、こういった変化のとき、金を7二ではなく△6二金と上がった理由が見えて来ます。すなわち、もし△7二金と上がっていると、ここで▲5二銀と打たれてKOですね。
改めて、△6二金の局面に戻ります。
繰り返しになりますが、ここで▲3二竜では△3一金で上手くいきません。つまり、先手はこの△6二金に対して、もっと威力のある攻めを繰り出す必要があるのです。
ゆえに本譜は▲4三銀と放り込んだのですが、この瞬間に△4九角が抜群のタイミング。以下、▲4七玉に△4五銀が味の良い活用で、後手は瞬く間に挟撃態勢を作ることを実現しました。(第8図)
この銀上がりは、先手が▲4三歩成を指せなくなったことを利用しており、何とも巧みなカウンターです。この増援が成立したのは、後手にとって非常に心強いですね。B図の変化とは雲泥の違いがあります。
先手は自玉が危険な状態ですが、次に△7二玉や△8一飛で8二の角を取りに来られる手を見せられているので、やはり攻め続けなければいけません。
なので本譜は▲3二竜と指しましたが、△4三飛▲同歩成△5八銀で後手は華麗にフィニッシュを決めました。(第9図)
(1)▲3七玉は、△3六金▲2八玉△2七金。
(2)▲5七玉は、△6五桂▲6八玉△6九金。
いずれも平易な詰みですね。先手の▲4三銀を誘い、それを逆手に取るカウンターが見事に炸裂しました。
始めの局面で後手は、△4九角というカードを最適な時期に使うことが寄せの鍵でした。それをお膳立てする手が、この△6二金なのですね。
こうすれば8二の角を取りに行く含みが出てくるので、先手は前のめりになって攻め掛かるよりありません。そこを叩くというのが後手のシナリオだった訳です。相手に攻めを催促することで、自分の攻めの威力を高めるという高等戦術でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!