どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年5月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
目次
今週の妙手! ベスト3
(2021.5/16~5/22)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。本局は矢倉から先手が機敏に攻めてリードを奪い、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.5.20 ▲Neo.BURNING_BRIDGE_test210517 VS △Suisho4test_TR3990X(棋譜はこちら)
先手は持ち駒を潤沢に持っていますが、いきなり相手の本丸を打ち崩すような攻めは見えないですね。
そうなると目標を向ける場所が難しいですが、本譜は意外なところに銀を打ちました。
銀を打って竜に詰めろを掛けたのが妙手でした!
全くもって予想外だったのではないでしょうか。意外過ぎる銀打ちですが、これで後手は痺れているのです。
これは部分的にはタダですが、△同竜は▲4六馬で竜と飛の両取りが掛かるので試合終了ですね。また、放置していても▲3九金で竜が詰まされてしまいます。
よって本譜は△2七桂と打って辛抱したのですが、ここに桂を投資させたことは先手にとって大きなポイントです。以下、▲3七馬△6四歩▲7九玉で形を整えたのが冷静で、後手はさらに手段に困ることになりました。(第2図)
次は▲1七歩で馬を追ってから▲2七馬で桂を取る手が楽しみですね。前もって玉を寄っておいたことで、△2五馬が王手にならないようにしています。2七の桂が取れれば必然的に竜も取れるので、あの桂を取る価値はべらぼうに高いのです。
後手は3七の馬が邪魔なので△3六歩で追い払いたいところですが、▲6四馬△7三銀▲5四馬△2八竜▲5三香と応じられて状況は改善されません。
この変化は竜を助けている間に自陣が危険になっているので、後手は本末転倒と言えます。第2図は3七の馬を責めることが出来ないので、後手は有効な策が無いのですね。▲2八銀で竜を封じ込めたことにより、先手は一気に形勢を掌握することが出来ました。
なお、始めの局面から先に▲3七馬と寄る手も考えられますが、これは△6四桂▲2八銀のときに△3六歩と打たれやすくなっているので、先手は条件が悪いですね。(A図)
このように、先に馬を寄ってしまうと△2七桂を強要できません。こういった理由があるので、あえて先に▲2八銀と打つ方がより良い一手になるのです。
冒頭の局面の後手は、大駒を三枚保持していることが唯一無二の主張でした。であるならば、先手はそれを一枚奪い取ってしまえば、相手の主張を全て消し去ることが出来ます。ゆえに、▲2八銀から竜を捕まえに行く手が最適解になるという訳なのですね。視野の広さが窺える面白い一手だったと思います。
- 相手の主張を潰せば、優位をより拡大できる。
- 主力の駒が攻撃される状況を作らない。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから互いに下段飛車に構える現代調の将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2021.5.16 ▲gct_m-0000225kai_b256_RTX2080ti VS △Krist_483_473stb_16t_100m(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
お互いに似たような布陣なので、形勢は互角の範囲内のように感じられるかもしれません。
しかし、この局面はすでにバランスが崩れているのです。先手は訪れている好機を的確に捉えました。
左の桂を攻めに使ったのが妙手でした!
一般的な感覚ならば、盤面の右辺を戦場にすることを考えるでしょう。まさに常識外の一手ですが、これが敵陣の欠陥を突くクレバーな一手でした。
この手の狙いは▲8五桂と跳ねて桂交換を挑むことです。桂を入手すれば3四に打つ攻めが生まれるので、この桂交換は明らかに先手のほうが得なのですね。
とはいえ、問題はここで△8四歩と受けられたときです。これで桂跳ねを封じられると、どうにもならないように思えますね。
ところがどっこい、その局面から▲8五歩と突っ掛けてしまう手があるのです。これがまさかの仕掛けでした。(途中図)
これを△同歩には、▲8二歩と叩きます。飛車が逃げると▲8九飛が絶品ですね。したがって、後手は△8二同飛と応じることになりますが、▲7一角△7二飛▲6二角成△同飛▲8四歩と強襲を掛ければ攻めがヒットしています。(B図)
後手は瞬間的には角金交換の駒得になりますが、いずれ7三の桂を取られてしまうので確実に駒損に陥ります。ゆえに、この変化は支えきれません。
そういった背景があるので、本譜は△9五歩で反撃に転じました。しかし、構わず▲8四歩と取り込まれると、もはや先手の攻めは止まらなくなっていますね。(第4図)
後手は△9六歩と取り込めないと変調ですが、端歩を取ると▲9二歩△同香▲8三角が飛んできます。以下、△9一飛には▲9二角成△同飛▲8三歩成で先手良し。これは[桂香⇔角]の二枚替えですし、▲3四桂も実現するので先手絶好調でしょう。
また、ここで△8四同飛には、じっと▲8六歩が賢明です。これで土台を作っておけば、▲8五桂が約束されますね。
「桂交換は先手良し」というルールなので、この変化も攻めが成功しています。▲9七桂という裏ルートを使うことにより、先手は優位を引き寄せることが出来ました。
種明かしをすると、始めの局面では彼我の玉型に小さくない差が生じていたのです。先手陣は憂いの無い格好ですが、後手陣は▲3四桂のキズがあったり、2二の銀が壁形という問題点がありました。ゆえに、先手は「戦いを起こせば、その弱点が露呈するはずだ」と踏んでいたのですね。
とはいえ、その具体案が▲9七桂→▲8五歩という手順であることには、ただただ驚かされます。特に、▲8五歩は大胆極まりないですね。普通は相手から突いてくる場所ですから。常識に囚われないAIらしい妙手だったと思います。
- 「欲しい駒」を手に入れる組み立てで攻めると、効果が高い。
- バランス重視の布陣であれば、攻め駒と受け駒の境は消える。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。この踏み込みの良さは見ていて清々しく、とても流麗な寄せでしたね。(第5図)
2021.5.15 ▲gct_m-0000225kai_b256_RTX2080ti VS △FukauraOu_RTX3090-2080S(棋譜はこちら)
先手玉は決して頑丈ではないので、飛車は渡しにくい格好です。しかしながら、▲2四飛△4六歩という進行も嬉しいものではないでしょう。
そうなると八方塞がりのようですが、ここから先手の華麗なる寄せが始まるのです。
桂を捨てて、後手陣の配置を乱しに行ったのが妙着でした!
おおっと! こんな跳び蹴りが!
あの桂は死を待つのみのような存在だったので、これが使えるとは読みにくいですね。さて、この桂跳ねには一体、どのような狙いがあるのでしょうか。
これを△同銀だと飛車取りが解除されるので、▲2二飛△5二桂▲4二とと自然に攻めれば良いでしょう。これは先手に余裕があります。
また、△同歩には▲5三金という痛快な一撃があります。これも先手は飛車を取られることなく寄せ切ることが出来るので、都合が良いですね。(C図)
どうも後手は、5四の桂を取れないことが分かります。
ゆえに本譜は△7一玉と引いたのですが、先手は▲7三飛成△同銀▲8三金と踏み込んで行きます。ここからのキレのある手順は、本当に目を見張るものがありました。(第6図)
キャプションに示したように、この手は▲6二角からの詰めろになっています。なので後手は△7二銀打と抵抗しましたが、▲6二金と放り込み、あの桂にもう一度働いてもらいます。
以下、△同金▲同桂成△同玉▲3二飛△5二金▲5一角と畳み掛けて行きました。何とも豪快な寄せですね。(第7図)
後手は△同玉と取る一手ですが、これで敵玉を近づけさせれば▲4二金△6二玉▲5二金△同銀▲7二金△同玉▲5二飛成と送りの手筋の要領で守備駒を吹き飛ばすことが出来ますね。あれだけ堅かった後手玉も、ここまで進むと寄り形が見えて来ました。(第8図)
後手は6二に合駒を打ちたいのは山々ですが、▲6三銀△8三玉▲6二竜と迫られたときに竜が取れないので、合駒を打つ意味がありません。
したがって、本譜は△8三玉とかわしたのですが、▲7二銀△8四玉▲8三金△8五玉▲8六歩△7六玉▲7八銀が手堅い寄せ。これで先手が勝勢になりました。(第9図)
ここに銀を打てば後手玉は一歩も動けませんし、△6九金→△5七桂というトン死筋も消すことが出来ています。
第9図で後手は△6六歩で逃げ道を作っても、▲7七銀左△6五玉▲7三金で詰めろが続くので延命できません。
▲5四桂と跳ねてから、先手は息もつかせぬ連続攻撃を見せることで後手玉を仕留めてしまいました。まさに一気呵成の寄せでしたね。
先手の寄せが炸裂した要因の一つとして、後手のクリップを瞬時に壊していたことが挙げられます。
つまり、始めの局面で単に▲7三飛成だと、△同玉で囲いは崩れません。しかし、[▲5四桂△7一玉]の利かしを入れておけば▲7三飛成の応手を△同銀に限定できるので、有無を言わさずクリップを崩すことが出来ますね。
そのあとに▲6二金と放り込んだ手もそうですし、この▲5一角→▲4二金という手順もそれに該当します。ゴチャゴチャとした応酬ですが、先手の攻めは常に「クリップを瞬時に壊す」というテーマに沿っていることが分かります。ここに敵玉をスマートに寄せ切れた秘密があるのですね。
そして、仕上げの部分で敵玉を自陣付近まで追い立てたのも抜け目のないところ。こうしておけば自陣に駒を埋める手がそのまま寄せにも作用するので、攻防手が発現しやすいですね。
相手の囲いを崩すところから必至を掛ける部分まで、全く弛むところがありませんでした。▲5四桂からの一連の寄せは、天晴れとしか言いようのない手順でしたね。
- 玉型の差は、攻め続けることで逆転する方法もある。
- クリップは優れた受けの構えなので、これは早急に壊す。
- 敵玉を自陣に近づければ、攻防手が発現しやすい。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!