どうも、あらきっぺです。今年の4月から、同じ桜の木を毎日写真で取ることを日課にしています。これを一年続けて変化する過程を楽しもうかなと。我ながら気長なヤツですね笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 振り飛車編(2021年2・3月合併号)
・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。
棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。
全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・記事の内容は、プロの公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。
・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。
・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。
目次
最新戦法の事情 振り飛車編
(2021.3/1~4/30)
調査対象局は111局。それでは、戦型ごとに解説していきましょう。
先手中飛車
端角を警戒せよ!
18局出現。出現率は16.2%。このところ増加傾向にあり、先手振り飛車の主力と言える存在ですね。
先手中飛車の支持が高まっている背景には、後手超速に対して十分に対抗できると考えられているからです。以前の振り飛車は基本図の形になることを嫌い、この局面にならないようにあれこれ苦心していました。
けれども、最近は互角以上の戦いを挑めることが分かってきたので、堂々と立ち向かうようになっています。(基本図)
この戦型はお互いに誘導したい形があり、振り飛車はX図を、居飛車はY図を目指して駒組みを進めます。
なぜ、これらが理想なのかという理由につきましては、以下の記事をご参照くださいませ。
最新戦法の事情 振り飛車編(2021年2・3月合併号)さて、ここからは複数の道がありますが、代表的な変化の一つに△5二金右▲4六歩△8六歩▲同角△4四銀▲5四歩△同歩▲同飛という進行が挙げられます。
少し長めの手順ですが、基本図から居飛車が△5二金右と上がれば、ここまでは定跡化されている進行ですね。(第1図)
後手は8筋の歩を突き捨てており、5筋の歩も交換されています。現状は何も戦果を上げていないので、このまま局面を収める訳にはいきません。
良さを求めるなら、△5五歩が一案でしょう。こうすれば△5三金から飛車を詰ます手が約束されるので、居飛車は労せず優位を掴めるように思えます。
しかし、話はそこまで甘くありません。ここで居飛車は△5五歩を打つと、むしろ相手の攻めを呼び込み危険な意味があるのです。詳しい解説は、以下の記事をご覧いただければ幸いです。
最新戦法の事情【振り飛車編】(2021年2・3月合併号 豪華版)
そういった事情があるので、居飛車はここで一捻りします。具体的には△1三角が面白いアイデア。これが新たな問題提起ですね。(途中図)
なお、この変化の実例としては、第52期新人王戦トーナメント ▲石川優太四段VS△齊藤優希三段戦(2021.3.22)が挙げられます。
先手は歩を守るだけなら▲4七銀で事足りますが、それを指させてから△5五歩を打つのが居飛車の狙いです。こうすれば先手は囲いが不安定なので、「強気に攻めを繰り出すことが出来ないでしょう?」と問いかけているのですね。
よって、振り飛車も歩取りを受けている場合ではありません。そうなると、▲1五歩で反発する手が候補に入ります。端角を真っ向から咎めに行くので、至って自然な対応でしょう。
居飛車も△4六角▲1四歩△5五歩で自分の狙いを実行します。お互いが突っ張った態度を取ると、これは予想された進行ですね。(第2図)
問題は、この局面の優劣がどうなっているかです。先手としては、1筋の取り込みを具体的な戦果に結び付けたいですね。ただ、単刀直入に▲1三歩成△同桂▲1四歩と攻めるのは、△2五桂と逃げられるので勇み足に終わります。
先手は次に△4五銀で飛車を詰まされてしまうので、どうにかして暴れなければいけません。しかし、端の取り込みを活かす術が無いとなると、どうも良い攻めは見当たらないですね。ゆえに、この局面は居飛車良しと言えるでしょう。
上記の変化を踏まえると、ここで▲1五歩と突っ掛けていくことは誘いの隙のようです。では、振り飛車はこの端角に対してどのような策を講じれば良いのでしょうか? 続きは豪華版のほうで解説しておりますので、よろしければご覧くださいませ。
最新戦法の事情【振り飛車編】(2021年4・5月合併号 豪華版)
四間飛車
美濃囲いが主流だが…
34局出現。先手番で14局。後手番で20局。先後に関わらず、多くのプレイヤーが採用している戦法ですね。
今回の期間では、振り飛車が美濃囲いに組んで戦うケースが目立ちました。特に、先手四間は全ての将棋で美濃囲いに組んでいます。昨今では金無双やミレニアムなど囲いの多様化が進んでいますが、やはり慣れ親しんだ美濃囲いは根強い人気があるようですね。
ただ、[先手四間+美濃]という組み合わせは、端歩突き穴熊を見せ球にして急戦にシフトしてくる作戦が厄介です。具体的には、以下の作戦ですね。(第3図)
なお、この局面に至るまでの詳しい解説は、以下の記事をご参照くださいませ。
最新戦法の事情 振り飛車編(2021年1月号)さて、こういった急戦系統の作戦に対しては、▲2八玉と上がっておくのが自然ですね。ただ、この場合は▲3六歩型が仇になりやすく、振り飛車は急戦を受けて立つ条件が悪いのです。詳細は、こちらの記事をご覧ください。
▲2八玉が思わしくないとなると、代案として▲7八銀が挙げられます。これは△7五歩に▲6五歩を用意することで、居飛車の仕掛けを牽制する意図ですね。
しかしながら、実を言うとこれにも居飛車は動くことが出来るのです。すなわち、△5五角が戦機を掴む面白い一着ですね。(途中図)
なお、この局面の実例としては、第79期順位戦B級1組13回戦 ▲久保利明九段VS△千田翔太七段戦(2020.3.11)が挙げられます。(棋譜はこちら)
これは▲4七金と受けると、△7五歩▲6五歩△7六歩と攻める腹積もりです。こうなると、振り飛車は無条件での一歩損になるので非勢でしょう。
[△5五角▲4七金]の利かしが入ってしまうと、振り飛車は▲6五歩のカウンターを無効化されてしまうのです。
よって、振り飛車が仕掛けを封じるためには、ここで▲6五歩と突くしかありません。以下、△5三銀▲4七金△4四歩までは妥当な進行です。(第4図)
居飛車は銀を引かされてしまいましたが、角交換を確定させたことが言い分になります。ここからは囲いを銀冠に発展させ、以下のような構想で戦うことを念頭に置けば良いでしょう。
【角交換振り飛車の攻略法】
こういう形になったら、△62金と寄って[△62金・△81飛型]を作るのが良いですね。
さて。相手は▲48角で打開を目指してきました。これは▲75歩が狙いですが、△65桂が機敏な一着です。
▲同飛には△78角で桂が取れるので、居飛車良しですね。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/JRRZuYinax
— あらきっぺ (@burstlinker0828) July 25, 2020
振り飛車はそうなる前に何とかして局面を動かしたいところですが、ここから仕掛けの糸口を見出すことは難しく、不満の残る序盤戦になっています。△5五角の揺さぶりによって、ペースを乱されてしまった印象ですね。
この手があるのなら、先手が直前に指した▲7八銀は良い手待ちではないと考えられます。ただ、これ以外の手だと△7五歩の仕掛けを許すので、振り飛車は頭が痛いところですね。
このように、端歩突き穴熊を見せ球にして急戦にシフトする作戦は、振り飛車にとって手強い相手であることが分かります。美濃系統の囲いで戦うのは王道ではありますが、どうも現環境では苦労が絶えない印象を受けますね。早々と美濃囲いを決めてしまうのは、考え物なのかもしれません。
三間飛車
さらば、石田流
29局出現。先手番で16局、後手番で13局。こちらも四間飛車と同じく、先後ともに万遍なく指されています。
三間飛車は、長らく石田流への組み替えを目指す指し方に頼って戦っていました。しかし、現環境では居飛車の対策が完備されており、苦戦を強いられているのが実情です。具体的には、この作戦に手を焼いていますね。(参考図)
この作戦は、
(1)振り飛車が特に動かなければ端歩突き穴熊に組む。
(2)石田流を目指してきたら▲4六銀→▲6八角で迎撃する。
という二段構えになっており、対応力の高さがセールスポイントです。詳しい内容は、以下の記事をご覧くださいませ。
最新戦法の事情 振り飛車編(2021年2・3月合併号)
この作戦があまりにも優秀なので、現環境の三間飛車は、石田流の組み替えではない指し方に活路を求めるようになっています。今回は、それについて解説していきましょう。(第5図)
振り飛車は玉型が中途半端な状態で桂を跳ねていますが、これが注目を集めている指し方です。ここまでの注意点としては、
・△5三銀型に組む。
・6筋の歩は突かない。
・▲6六歩を強要させる。
この三点が大事なポイントですね。
さて、次に△6五桂を見せられている以上、居飛車が▲6六歩を突くのは妥当でしょう。なお、▲6六銀では△6四歩と突かれてすぐに追われてしまう形なので、これは感心しません。
▲6六歩を突かせたあとは、振り飛車は次の図のように組んでおきます。(第6図)
このように、△6四銀型のミレニアムに組むのが新機軸と言える作戦です。過去にも三間飛車でミレニアムに組む手法はありましたが、それは△6四歩と突いている形でした。この組み合わせは、ありそうでなかった形です。銀を6四へ活用できる三間飛車の特性を活かした指し方ですね。
なお、この局面の実例としては、第71期ALSOK杯王将戦一次予選 ▲増田康宏六段VS△青嶋未来六段戦(2021.4.20)が挙げられます。
ここで居飛車は複数の候補がありますが、最もリターンが大きい手は▲6八銀から松尾流穴熊を目指す手です。やはり松尾流穴熊は居飛車にとっての理想なので、魅力的な一手でしょう。
対する振り飛車は、△5二飛と回って中央からの攻めを狙います。居飛車は▲8六角で仕掛けを牽制するのが一案ですが、構わず△4五歩▲7九銀右△5五歩で元気よく動いて行くのが明るいですね。(第7図)
▲同歩には△9五歩▲同歩△5五銀でガンガン攻めていきましょう。6四の銀を動かすと▲3一角成を許しますが、△6六銀と進軍する手も相当に価値が高いので釣り合いは取れていますね。
振り飛車は6六に角が出れれば、将来の端攻めが楽しみなので、この攻め合いは悪くないのです。このような進行になれば、振り飛車満足の将棋と言えるでしょう。
この作戦は、まだ登場したばかりなので評価が定まっていないところがあります。ただ、石田流への組み替えが上手くいっていない現状を考えると、これらが今後の主流になっていく可能性は大いにあると言えるでしょう。居飛車党・振り飛車党どちらにとっても要注目の形ですね。
角交換振り飛車
注目株は、阪田流向飛車
14局出現。出現率は12.6%。後手番で採用されるケースが殆ど(12局)であり、多くのプレイヤーが先手番での採用を控えています。
これは先手番では他に指したい戦法があるという理由もありますが、角交換振り飛車は「相手の態度を逆用する」という性質が強い戦法です。ゆえに、様子見がしやすい後手の方が使い勝手がよいという意味合いもあるように感じます。
今回は、この「相手の態度を逆用する」ことを強く意識した作戦を紹介しましょう。(第8図)
ご覧のように、阪田流向飛車の将棋ですね。この戦法は手損することなく角交換振り飛車の形に組めることがセールスポイントの一つです。
基本的に、阪田流向飛車は2筋を逆襲する狙いを秘めています。したがって、居飛車はそれを警戒した駒組みを行うことが必須ですね。その具体案が、図のような指し方になります。
ここで振り飛車は△2四歩▲同歩△同金と動く手もありますが、▲3六歩△2五金▲3八金と応対されると、そこまで成果が上がりません。(A図)
このように、居飛車は[▲4七銀・▲3七桂型]を作ることを念頭に置けば、速攻を受け止めることが出来ます。
2筋の逆襲が成功しないとなると、阪田流向飛車を採用した甲斐がないように見えるかもしれません。しかし、ここから振り飛車は面白い構想があるのです。
具体的には、次のような布陣に構えるのが有力策ですね。(第9図)
・囲いは穴熊を選ぶ
この組み合わせが今までに見られなかった構想です。阪田流向飛車で穴熊に組むのは意外ですし、攻撃態勢の配置もやや珍しいですね。しかし、これが[▲4七銀・▲3七桂型]を早めに作ってくることを逆手に取る構想なのです。
ここから後手は、△7三角と打つ手を軸にして先攻することを狙います。4筋から駒がぶつかりやすい格好なので、争点を作ることに困らないことが振り飛車の強みですね。
話をまとめると、この将棋の振り飛車は
という流れで駒組みを進めていることが読み取れます。[▲4七銀・▲3七桂型]という自然な配置をターゲットにできることが最大の主張ですね。「相手の態度を逆用する」という角交換振り飛車らしい工程です。
なお、この作戦の実例としては、第69期王座戦二次予選 ▲佐々木勇気七段VS△佐藤康光九段戦(2021.3.26)が挙げられます。
これも振り飛車は穴熊の堅さを活かして、思う存分に攻め倒していました。
現環境において角交換振り飛車は下火の傾向がありますが、この新構想は要注目と言える存在です。阪田流向飛車はまだまだ定跡が整備されていない領域なので、ホットスポットになり得る可能性は大いにあるでしょう。
その他・相振り飛車
深謀遠慮な端歩
16局出現。この内、7局がゴキゲン中飛車の将棋でした。ゴキゲンは今年に入ってからポツポツと増えており、僅かながらではありますが人気が回復している傾向がありますね。
ゴキゲン中飛車の対策としては、もちろん超速が定番です。これに振り飛車は△4四銀型で対抗するのが最もポピュラーですね。すると、以下の局面になることが予想されるでしょう。(第10図)
△4四銀型に対して居飛車は、急戦・持久戦のどちらも有力です。ただ、プロ棋界では二枚銀急戦に人気が集まっている傾向が強いですね。
なお、居飛車は▲6八玉型で銀を繰り出す手法もありますが、それには振り飛車にも意欲的なアイデアがあり、一筋縄ではいかないところがあります。詳しくは、以下の記事をご参照くださいませ。
最新戦法の事情 振り飛車編(2021年1月号)
さて、それでは本題に入りましょう。
ここから振り飛車は△8二玉▲6六銀△7二銀のように進めるのが自然ではあります……が、その展開では非常に面白くない将棋になってしまいます。詳しい理由につきましては、以下の記事をご覧いただければ幸いです。
そういった背景があるので、振り飛車は局面を動かします。まずは△9四歩と端を打診しましょう。居飛車は突き越しを許す理由が無いので▲9六歩と受けますが、このやり取りを入れてから△5六歩▲同歩△同飛と一歩交換します。(途中図)
ところで、こういった一歩交換は、一般的には危険と見られています。なぜなら、▲5五歩で飛車を閉じ込められてしまうからですね。△5五同銀と取っても、▲4五銀△5七飛成▲5八金右で竜が詰んでいます。
ただ、そこから△5六銀▲5七金△同銀成と進んでみるとどうでしょう。先手は飛金交換の駒得ですが、「意外と陣形がまとめにくいでしょう?」と後手は突きつけているのです。(第11図)
次は△5五角と出る手が振り飛車の狙いですね。とはいえ、この狙いは▲5三飛を打たれると簡単に消されるものではあります。
加えて、この時点では何のために9筋の突き合いを入れたのかも謎めいていますね。むしろ、▲9七角と出る含みが生じた分、居飛車のほうが得をしているようにも見えるところです。
しかしながら、ここからさらに変化を掘り下げて行くと、端の突き合いを入れた意図が見えて来ます。その理由につきましては、こちらの記事をご覧くださいませ。
最新戦法の事情【振り飛車編】(2021年4・5月合併号 豪華版)
序盤の知識をもっと高めたい! 常に作戦勝ちの状態で戦いたい! という方は、こちらをご覧ください。
参考 最新戦法の事情【振り飛車編】(2021年4・5月合併号 豪華版)
最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。
有料(300円)ではありますが、その分、内容は深堀しております。よろしければご覧ください!
今回のまとめと展望
【結局、振り飛車は穴熊との戦い】
現環境の対抗形は、四間と三間が主戦場です。これに対して、居飛車は端歩突き穴熊を含みにした作戦を採用するケースが多いですね。先手番でも後手番でも、そういった戦い方を志向するのが昨今のトレンドです。
現代将棋は作戦が多様化していますが、結局のところ、振り飛車は穴熊をどう打ち破るかということが一大テーマです。この構図は、平成初期の時代から変わらない部分ですね。
【持久戦では、美濃囲いに組まない】
多くの戦型において、振り飛車は持久戦の際に美濃囲いではない囲いを選ぶ傾向が強まっています。これは、[美濃囲い VS 端歩突き穴熊]という構図になると、振り飛車は旗色が悪いということに起因します。
現代振り飛車を指しこなすには、「とにかく美濃系統ではない囲いに抵抗を持たないこと」。それに尽きると思います。
今回の内容で言うと、三間飛車の将棋はまさにそれを体現していますね。
三間飛車でミレニアムに組むのは風変りですし、[△6三歩・△6四銀・△7三桂型]という配置も振り飛車の将棋ではあまり見慣れないものです。しかし、これが有力な指し方であることは上記の通りですね。
基本的に端歩突き穴熊を咎めるためには、早い段階で端を争点にしたり、端歩を突いたことを緩手にするため速攻しやすい配置を作っていくことが必要です。ゆえに、銀冠に組んでじっくりと待つような指し方では上手くいかないという訳ですね。
それでは、また。ご愛読くださり、ありがとうございました!