どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年1月第5週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.1/31~2/6)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から先手の攻めを後手が凌ぐ構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.2.6 ▲xg_kpe9 VS △AobaZero_w3163_n_p800戦から抜粋。(棋譜はこちら)
先手は手番を握っていますが、次に△2四歩と打たれると後手陣が大いに安全になってしまいます。また、△6六角で攻められる手も気懸かりですね。
つまり、先手はこの瞬間に何かしらの戦果を上げなければ形勢を損ねてしまうのです。本譜はとてもシャープな攻めを繰り出しました。これは爽やかな手順でしたね。
桂を放り込んで、2筋を強行突破したのが妙手でした!
強引に飛車の成り込みを目指すのがスピード感のある攻めでした。
なお、この手に代えて▲3四歩は、△2四金で上手くいきません。この変化は2筋にバリケードを作られてしまうので、先手は攻めあぐねていますね。
ゆえに、ここは歩ではなく桂を打つ必要があるのです。
これに対して(1)△5一玉は、▲4二角→▲3三角成。(2)△4三玉には▲2二桂成。いずれも後手は駒損が避けられません。
ゆえに△同銀はやむを得ない応手ですが、▲2二飛成△3二桂▲7三歩成△同金▲3一角が痛烈な一撃。この攻めを見据えていたからこそ、先手は▲3四桂を決行したのです。(第2図)
これを△4三玉は、▲3二桂成△同金▲4四歩でノックアウト。よって後手は△同飛の一手ですが、▲5二桂成△同玉▲3一竜で飛車を入手することが出来ました。もう後手は先手の竜を追い払うことが出来ません。
受けてばかりでは勝ち目が無いので、本譜は△6六角▲9八玉△6九角と攻め合います。しかし、▲7一飛がその攻めを上回る飛車打ち。これがトドメですね。(第3図)
これは▲6一飛成△4三玉▲4一竜左という詰めろであり、かつ金取りでもあります。それらを受けるなら△6二銀になりますが、▲6一飛成△6三玉▲5一竜右で一手一手の寄り筋ですね。
また、後手は銀を手放すと▲6八金で受けに回られたときに有効な攻めが消えてしまうという問題もあります。それらの理由から、第3図は先手勝勢だと言えるでしょう。
冒頭の局面で先手は、飛車の利きを堰き止められると攻めが頓挫するところでした。なので、その前に走り抜ける必要があったのですね。▲3四桂と打てば有無を言わさず飛車を成り込めるので、その課題をクリアしています。
そして、それだけに飽き足らず、▲3一角という豪打まで用意しているところが圧巻です。一連の攻めはとても流麗であり、まさに一気呵成の寄せでした。居飛車党にとって、お手本になり得る妙手順でしたね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから、共に腰掛け銀に組み合う将棋になり、こういった局面になりました。(第4図)
2021.2.1 ▲xeon_w VS △xeon_gold戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手は[桂桂⇔角]の二枚替えなので駒得ではあるのですが、現局面は7六の銀や2五の香が取られそうなので、かなり切羽詰まった状況ですね。特に、▲2五銀を許すと7二の馬が竜に当たってくるので、さらに困ったことになります。
すこぶる忙しい局面ですが、後手は見事な手を放って、このピンチを切り抜けました。
悠然と桂を活用したのが、冷静な寄せの妙手でした!
当たりになっている駒を放置しているので、意外な選択だったのではないでしょうか。ゆったりとした一手に見えますが、これが攻めに厚みを加える妙着なのです。
これは次に△5七銀を狙っています。先手はまともに王手馬取りを喫するとまずいですね。なので、▲7六馬が考えられますが、これには△4五桂が鋭敏な一打になります。(第5図)
先手は▲同歩と取れないようではおかしいのですが、△5七銀▲3七玉△3八竜▲同玉△3七歩▲同玉△4六金で肉薄されると寄ってしまいます。4六にスペースを作ることで、最終手の△4六金が打てるようになっていることが後手の自慢ですね。(A図)
このように、先手は△5七銀を打たれると凌ぎ切れないことが分かります。
ゆえに本譜は▲5九香で守備駒を増やしました。これは、「5七へ銀を打たさん」という意思表示ですね。
しかし、ここから後手はテクニカルに手を繋ぎます。まず△3七歩▲同玉△5四桂▲7六馬で馬を移動させ、それから△5七銀と打ちました。香が利いているところですが、構わず放り込むのが好判断でしたね。(途中図)
直前に打った△5四桂により、△4六銀成という狙いが生じていることが分かります。他には、△1七竜も視野に入れていますね。後手はこの場所に銀を設置することが寄せのツボなのです。
さて、ここで自然な対応は▲同香△同桂成▲2五銀でしょう。しかし、これには△3五香▲3六香△1三桂というスマッシュがあり、後手の寄せが決まります。こんなところに伏兵がいるとは、ちょっと気付かないですね。(第6図)
▲1四銀と逃げると、△3六香▲同玉△3八竜で金を取られてしまいます。しかし、先手玉は銀を渡せる格好ではありません。ゆえに、こうなると先手は仕留められてしまうのです。
改めて、△5七銀と打った局面に戻ります。
どうも、先手は▲5七同香とは指すことが出来ないようです。ゆえに本譜は単に▲2五銀と指しましたが、△4六銀成が実現したのは大きいですね。
以下、▲4八玉△3八竜▲同玉△3七金▲4九玉△4七成銀▲3九金△4六桂と畳み掛け、後手は敵玉を押し倒すことに成功しました。(第7図)
後手は△4六銀成が指せたことで、上から押さえる態勢の基盤を作れたことが分かります。それゆえ、雪崩のように攻め駒を浴びせることが出来たのですね。
ここで▲1八飛と足し算しても、△3八歩と打たれるので効果がありません。本譜は▲5八香と通気口を開けましたが、△同桂成▲同馬△5七桂成で後手の攻めは止まらないですね。こうなれば、冒頭の局面で抱えていた「忙しさ」はもう感じないでしょう。
こうして振り返ってみると、後手は5七へ銀を打つ形に持ち込むことが、先手玉を効率よく寄せるために必要なキーだったことが読み取れます。それを踏まえると、△6五桂と跳ねた理由が良く分かりますね。
とはいえ、複数の駒が当たりになっている状況下で、自陣の遊び駒を活用する冷静さには驚嘆です。△6五桂は、攻め駒の不足を補う美しい跳躍でした。やはり、遊び駒の活用は将棋の鉄則なのですね。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これは見た目は平凡ですが、とても深い読みに基づいた一着であり、まさに玄妙な一着でした。(第8図)
2021.2.1 ▲KASHMIR VS △gcttest_x4_RTX2080ti戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手が8六にいた飛車を、びゅんと3六へ回ってきたところ。ぱっと見はこの飛車の侵入を防ぐ手立てが難しく、先手は受けに困っているように感じられますね。
しかしながら、本譜は思わぬ方法で後手の攻めをストップさせてしまったのです。
あえて持ち駒を節約して角取りを防いだのが妙手でした!
ただ角を逃げているだけなので、「何が妙手なんだ」とお𠮟りを受けるかもしれません。けれども、この対応をすることで、先手は飛車の成り込みを牽制することが出来ているのです。
なお、△3六飛に対しては、▲4七銀と打つ方が手堅いように見えますね。しかし、これは△3七飛成のときに何を指すのかという問題があるのです。(第9図)
▲2六角と打てば竜は捕獲できますが、△3八竜▲同銀△5五銀で先手は駒損です。いくら飛車の価値が高いとは言え、[金銀⇔飛]の二枚替えは痛手でしょう。
また、先に▲4四銀は△4八竜▲5八銀打△4四歩と応じられます。桂取りと△3七歩が残るので、これも芳しくありません。
上記の変化はどちらとも、先手は盤上に残った角の働きが悪い点が泣きどころと言えます。
このように、先手は4七に銀を打つと駒の配置が重苦しくなり、不満です。ゆえに、▲4七角で駒を打たないほうが軽やかなのですね。
ただ、これも△3七飛成に対する備えになっていないように見えるところです。が、このタイミングで▲4四銀と斬り合いを挑むのが素晴らしい判断。これで先手は勝利を引き寄せることが出来るのです。(途中図)
ここで後手には、
(1)強気に攻める△4七竜
(2)受けに回る△4四同歩
という二つの選択肢があります。順に見ていきましょう。
まず(1)の△4七竜ですが、これは▲5三銀成から清算して▲6五桂と跳ねれば先手が勝ちます。このとき後手は、都合の良い逃げ場が見当たらないのです。(第10図)
下へ逃げると▲5三銀から並べ詰み。手数は掛かるものの、持ち駒を打って追いかければOKです。
また、4四や5四へ逃げると、▲5五銀△同玉▲5六銀で竜を抜くことが出来ます。あの竜を取っ払ってしまえば、先手玉は憂いが無くなりますね。
残る対応は△6四玉▲5五銀△7四玉ですが、これは▲7五歩と打てば並べ詰みですね。(B図)
このように、後手は▲4四銀を無視すると、自玉が非常に危ういのです。
次に、(2)の△4四同歩ですが、これには▲6一銀と引っ掛けるのが「攻めるは守るなり」という格言通りの一手。このとき、[▲4七角⇔△3七飛成]の利かしが大きな意味を持つのです。(第11図)
後手は角を取りたいのは山々ですが、△4七竜には▲5二銀成△同玉▲2五角で王手竜取りがあります。ゆえに、これを無視することが出来ません。
後手は自玉の安全だけを考慮すれば、△5一金打が最適です。しかし、▲5二銀成△同金▲3八金で受けに回られると、竜を引き返すより無くなりますね。先手に金を渡すと、自分の攻めが頓挫してしまうのです。
よって、突っ張るなら△5一金になります。けれども、これは▲2三歩成△同歩▲4三歩が痛打。金を引いて玉頭が薄くなったデメリットをすかさず突くのがクレバーですね。(第12図)
△同金は、▲3四銀や▲2三飛成が厳しく、後手玉は風前の灯火です。また、△3一玉とかわすのも▲4二角△同金上▲同歩成△同玉▲4三歩と強攻されて支えきれません。後手は何発でも4三に歩を叩かれるので、この攻めは凌ぎ切れないでしょう。(C図)
なお、これらの変化の中で、先手は△4八竜と王手される手が気になるかもしれません。ただ、これは▲7九玉と引いておけば大丈夫。先手は桂を渡さなければ相当に自玉が詰まないので、実は安心して寄せに専念できる格好なのですね。
話をまとめると、要するに後手は△3七飛成と指した瞬間が緩いのです。ゆえに、その局面でスパートを掛けられると、あっという間に取り残されてしまうという訳なのですね。[▲4七角⇔△3七飛成]の交換が入ると、後手は自分の攻めが減速してしまうのです。
しかしながら、ここで飛車が成れないようでは何のために△3六飛と回ってきたのかという話になりますね。先手は▲4七角と上がることで、自陣に見えないバリアーを張ることが出来たような計算になっているのです。
ここまで説明すると、▲4七角の妙手たる理由がお分かり頂けたのではないでしょうか。
それにしても、王手竜取りの筋を利用することで後手の攻めを減速させるという組み立ては、この段階からは想像できませんね。▲4七角は極めて読みの入った対応であり、将棋ソフトの高い終盤力を窺わせる妙手でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!