どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年6月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
目次
今週の妙手! ベスト3
(2021.6/13~6/19)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりから先手が果敢に先攻する将棋になり、以下の局面を迎えました。(第1図)
2021.6.16 ▲Plushdoll VS △20b_n015_2080Ti(棋譜はこちら)
先手が調子よく攻めている様子が窺える局面ですね。ただ、後手も持ち駒が豊富にあるので、反撃には注意しなければいけません。
色々な手が目移りしますが、本譜は意外なところに手を伸ばしました。
成桂を放置して、銀を突進したのが妙手でした!
2三の成桂は大切な手掛かりに見えるので、これを取らせるのは意表を突かれたのではないでしょうか。しかし、これが先々を見据えた素晴らしい一着です。
ちなみに、第1図では▲2四成桂と引く手が自然ですが、これは△3八とで飛車を追われたときに困ります。(A図)
この変化は攻防の要である2九の飛が狙われてしまうので、先手は思わしくありません。▲2四成桂では攻め駒が敵玉から遠ざかってしまうので、寄せとしてはスピードが足りないのですね。
ゆえに、先手は成桂を逃げずに▲6五銀右とアクセルを踏んだのです。
さて、後手は頭上の成桂をそのままにはできないので、△2三歩と取るのは妥当なところ。ただ、▲5四銀のときに△同歩とは取りにくいですね。▲4三銀が痛打になるからです。
なので、本譜は▲5四銀を放置して△6四桂と攻め合いましたが、そこで▲6五角が絶好の攻防手。ここに角を打つことが先手の狙いでした。(第2図)
ここに角を設置すれば、枠で囲った部分の制空権を握ることが出来ます。この部分を占領してしまえば、先手玉はすこぶる安全になりますね。もちろん、攻めにも利いていることは言うまでもありません。以降は、先手が手厚く勝利を収めました。
こうして振り返ってみると、この▲6五銀右は自玉の安全を確保するための一手だったことが分かります。6五の歩を刈り取れば上部が拓けるので、△6六桂の威力を緩和できますね。また、将来の▲6五角も視野に入れていたことも見逃せません。
それにしても、攻めの要に見えた成桂を囮に使うとは、非常に発想が柔らかいですね。こういった組み立てを見ると、自玉周辺に厚みを作る価値は極めて高いことが分かります。参考にしてみたい好手順でした。
- 攻め駒が敵玉から離れてしまう手は、なるべく指さない。
- 自玉周辺に厚みを作りながら攻める手が実行できれば理想的。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから先手が軽快に動いて行く展開になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2021.6.17 ▲QueenInLove-t030_i9-7980XE_18c VS △LUNA(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
お互いの駒組みが飽和しつつあり、中盤戦の幕が開けそうな状況です。
先手は攻め駒が充実しているので、手を作ることには苦労しなさそうですね。ただ、本譜は驚きの方法で良さを求めに行きました。
「合わせの歩」を使って、銀の配置を変えたのが妙手でした!
こういった「合わせの歩」は、攻め駒を進ませる常套手段の一つですね。
ただ、鋭い方はこう思われたかもしれません。「ここに歩を打ったところで、すぐに銀を追い返させるじゃないか」と。
確かに、△同歩▲同銀△3四歩と進められると先手は▲2六銀と引くよりありません。しかし、これで様子を見ておくのが先手の計画なのです。(第5図)
さて、後手は手番が回って来ました。しかしながら、現状では仕掛ける手段がありません。なので、陣形を整備することになります。
案としては、△2二玉が挙げられます。ただ、これは▲1六歩△同歩▲1五桂という攻めを誘発する嫌いがあるので、逆効果になりかねません。
という訳で、本譜は△6五歩と手待ちしました。先手はどう打開するかですが、▲2五歩△同歩▲同銀△2四歩▲3六銀で再び銀を繰り替えたのがトリッキーな構想。なんと、これで後手は困っているのです。(第5図)
今度は△2二玉と寄ることが出来そうですが、それには▲2五桂という荒業がとんできます。これは玉を寄った手を逆用されていますね。(B図)
しかし、玉が寄れないとなると、後手は何を指せばよいのでしょうか。相変わらず仕掛けの手段は無いですし、有効な陣形整備も見当たりません。何を選んでもマイナスの手しか残っていないのです。
先手はその気になれば、▲2五歩△同歩▲3五歩△同歩▲2五銀から戦いを起こすことが出来ます。後手はそれに備えながら有効なパスが出来れば良いのですが、残念ながらそういった手が見つからないのですね。
結局、本譜は△4三桂と打って▲3五歩の筋を牽制したのですが、ここに桂を使うようでは不本意と言わざるを得ないでしょう。以降は、先手が着実にリードを広げて勝利を収めました。
一連の手順は非常に地味でしたが、整然と佇むことで相手を圧迫するとは見事としか言いようがありません。無理なく優位を拡大するお手本のような妙技でした。
- 相手に有効手がないときは、無理して動かない。
- 仕掛けのタイミングは、相手の最善形が崩れた瞬間が理想。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これも地味ではありますが、非常に参考になる一着でした。(第6図)
2021.6.17 ▲QueenInLove-t030_i9-7980XE_18c VS △Suisho210616_TR3990X(棋譜はこちら)
後手は8筋の拠点が主張であり、これを活かす構想で戦いたいところです。ただ、現状では打ち込む弾が無く、駒を補充する手段も見当たりません。
そうなると指す手が難しいようですが、本譜はなるほどの一手を放ち、優位を掴み取ったのでした。
垂れ歩を打って、相手の大駒の働きを抑制したのが妙手でした!
へぇー。ここに歩を打つんだ。……なにこれ?
こちら側から手を着けるとは、なかなか思い浮かばないですね。ところが、これが先手に深手を負わせる一撃だったのです。
先手は無条件でと金を作らせたくはないですね。よって、これを取ることから考えます。
ただ、▲3七同飛だと△3五歩で銀を追われたときに都合が悪いですね。これは▲2五銀と進めないので、先手は攻めが頓挫してしまいます。(C図)
という訳で、△3七歩を飛車で取ることは出来ません。
次に、▲3七同角を見ていきます。こうすれば飛車が2筋に留まるので、△3五歩には▲2五銀で差し支えないですね。
けれども、▲3七同角と応じた瞬間はこの角が眠っています。ゆえに、△9五香▲同香△9六歩▲9八金△6五歩と畳み掛けるのが機敏な手順。最終手の△6五歩を突きやすくしたことが、角を3七へ移動させた恩恵ですね。(第7図)
次は△8七歩成▲同金△9七歩成という攻めが楽しみです。先手はそれを防ぐなら▲9九香になりますが、△6六歩▲同銀△6五歩▲5七銀△7五歩と襲い掛かられると、とても支えきれないでしょう。ゆえに、この局面は後手が優勢です。
こういった変化を見ると、[△3七歩▲同角]の利かしが非常に大きな意味を持っていることが分かります。違いを分かりやすく伝えたいので、これが入っていない変化も見ておきましょう。その場合、仮想図の局面になりますね。
この進行でも後手は8・9筋を攻めることは出来ていますが、今度はずいぶんと雰囲気が違う印象を受けるのではないでしょうか。何となく、4八の角が受けに利いてきそうですね。
実際、ここでは▲8四歩△同飛▲8八歩という凌ぎがあります。後手は△8七歩成▲同歩△9七歩成と攻めるのが自然ですが、そこで▲6五歩と飛車を責められると、形勢は容易ではありません。(第8図)
△7五歩と突けば飛車は安定しますが、▲9七金でと金が取られてしまいますね。他には△8一飛と逃げる手もありますが、▲9二香成△2一飛▲5五歩△同桂▲6六桂と反撃されると、どうも後手の方が旗色が悪い感があります。(D図)
ほんの些細な違いではありますが、相手の角が働いているか眠っているかで、局面の様相が大きく変わってしまうことが分かりますね。こうした変化を見ると、△3七歩がいかに筋の良い手であることがお分かり頂けたのではないでしょうか。
ちなみに、こういった決戦に出る前に利かしを入れることでポイントを稼ぐ手法は、割と実戦で頻出します。ただ、冒頭の局面では、どうしても8筋方向から何かできないかと考えてしまいそうなので、ここに垂れ歩を打つとは視野が広いですね。細かい得をしっかり拾い上げるファインプレーだったと思います。
- 相手の大駒が働いている状態では決戦しない。
- 自分の飛車が攻撃される展開は、なるべく避ける。
- 決戦を起こす前に、「利かし」を入れるチャンスがあるかを考える。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!