どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年9月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.9/13~9/19)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から先手の猛攻を後手が凌ぐ構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.9.17 第79期順位戦B級1組5回戦 ▲千田翔太七段VS△永瀬拓矢二冠戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
後手は挟撃態勢を作られていますが、現状は先手も手駒が枯渇しているので、次に厳しい攻めが来るわけではありません。
となると、相手の囲いをどう攻めるかという話になりますね。いろいろな攻め方が考えられますが、永瀬二冠の指し手は一味、違いました。
じわっと飛車を成って、相手に手番を渡したのが妙手でした!
何だかぼんやりとして迫力に欠けるようですが、これが正確な速度計算に基づいた一着でした。いきなり攻めるよりも、ここは一度緩めておくほうが好都合なのです。
ちなみに、第1図では△6六桂と打つ手も浮かびますが、これは▲同銀引△同歩▲6三桂が厳しく、後手は敗勢に陥ります。現状ではこの反撃があるので、後手は桂を渡せません。(A図)
そこで、△6九飛成とタイミングを調整するのが良い判断になるのです。
ここで先手は全く何もしない態度を取ると、△6七金▲同金△7八銀と踏み込まれてアウトです。ただ、▲7九金と追っ払っても△5九竜で逆効果なので、あの竜に働き掛ける手段はありません。
なので、本譜は▲9一馬と香を取りましたが、それを見て△6六桂▲同銀引△同歩を決行したのが見事な組み立てでした。(第2図)
今度は先手の馬が9一に移動しているので、▲6三桂と打っても△同銀▲同歩成△同飛で大丈夫ですね。むしろ、そう進むと先手玉には△7八竜▲同玉△6七歩成からの詰めろが掛かるので、後手の攻めは加速します。
けれども、ここで▲6三桂や▲6三香以外の手では、有効な攻めがありません。例えば▲7三馬と桂を取っても詰めろにならないので、△6七歩成で後手の一手勝ちですね。つまり、第2図で先手は八方塞がりの状況に追い込まれているのです。以降は、永瀬二冠が危なげなく制勝しました。
後手は△6九飛成を指すことによって、△6六桂の威力を高めていたことが分かります。また、この局面で相手に有効手が無いということを見切っていた判断も素晴らしいですね。先手は▲9一馬というプラスにならない手を強要され、後手の敷いたレールに乗せられてしまいました。じっと△6九飛成で手を渡す間合いが光りましたね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。後手の中飛車に先手が急戦で対抗する将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.9.18 第62期王位戦予選 ▲伊藤真吾五段VS△高崎一生六段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
先手が▲4三歩成と指したところ。玉型の修繕が難しいので、攻め合いに活路を求めてきたという訳ですね。
後手は一手の余裕があるので、敵玉に詰めろを掛ければ競り勝てる状況です。高崎六段は、鮮やかな一手を放って先手玉にトドメを刺しました。
取ってみろと言わんばかりに、角をタダ捨てしたのが妙手でした!
見るからにスタイリッシュな一着ですね。「寄せは俗手で」という格言とは真逆の世界線ですが、この局面においては、これが最適な寄せになります。
なお、第3図では平凡に△5八角と打っても詰めろは掛かるのですが、それには▲5七角△同銀成▲5二とという凌ぎがあり、後手は一杯食わされてしまいます。(第4図)
こうなると先手玉に詰みは無く、後手玉には▲7一銀からの詰めろが掛かっていますね。△4四角という攻防手はありますが、▲9三銀と打ち込まれても詰んでいるので、問題の解決にはなりません。
この変化は、先手玉が7七へ逃げることが出来るという点がポイントです。すなわち後手としては、まずそれを阻止しないといけないのですね。そうなると、△6六角と放った意図が見えてくるでしょう。
こうすれば7七の地点へ逃げられないのは言うまでも無いですね。ここで▲6六同歩は△6七金から詰みですし、▲5七角には△8八金打▲6九玉△5七角成で後手勝ちです。
仕方がないので、本譜は▲7七銀と抵抗しました。しかし、△同角成▲同玉△8九金が着実な攻め。敵玉を7七へ逃がすので不安感がありますが、桂を補充できることが大きいのです。(第5図)
この局面は△8五桂からの詰めろになっています。同時に、△7九金で銀を取る手も含みにしているので、すこぶる手厚い寄せになっています。先手は一手の余裕を稼ぐことが不可能であり、どう頑張っても延命できません。△6六角の豪打が見事に決まりました。
先述したように、とにかく後手は7七の地点を塞ぐことが急所でした。そういう意味では△9九角も目につきますが、それでは△8八金打のときに▲7七玉と逃げられるので上手くいきません。
△6六角であれば、それらの問題を全てクリアしていることが分かります。こういった煌びやかな手が唯一無二の正着だった場合は、見ていて本当に気持ちのいいものですね。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。この将棋は見どころ満載でしたが、最も印象深かったのはこの場面でした。(第6図)
2020.9.15 第79期順位戦A級2回戦 ▲豊島将之竜王VS△菅井竜也八段戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
後手は上部を開拓していますが、如何せん相手は穴熊なので、まだ安心できる情勢ではありません。この▲5一飛も、嫌らしい攻め方です。
攻めか受けか、とても悩ましい場面を迎えていますが、菅井八段が示した答えは非常に明瞭なものでした。これも綺麗な一手でしたね。
銀を捨てて、自玉の延命を図ったのが妙手でした!
こういった犠打は、美濃囲いのときに有効になりやすいテクニックの一つですね。それをここでも応用したのが明るい着想でした。
ところで、第6図の▲5一飛は、まだ詰めろではありません。したがって、△8七歩成と踏み込む手も考えられたのですが、▲7一竜△8三玉▲7二竜△7四玉▲8八歩と進められたときが容易ではないという事情があります。(B図)
この変化は後手玉がそこまで広くないので、上部の厚みがあまり活きないことが不満ですね。
また、ここでは△6二金とと金を払う手も自然に見えますが、それには▲7一角△8三玉▲5七金で「竜をよこせ」と言われたときに困ります。(第7図)
後手は飛車を渡すと▲8二飛△7四玉▲5四竜という手順で自玉が詰んでしまうので、竜を渡せる格好ではないのです。しかし、ここで△7五竜では▲6二角成が詰めろになるので、これも芳しくありません。
このように、後手は相手の攻めを完全に無視すると深いダメージを負うのでまずいのですが、単純にと金を取る手では負け筋に入ってしまうのです。
そうなると困ったようですが、△6一銀と犠打を放つ手がピンチを救う妙技になります。
これを▲同とだと、▲7一飛成が消えるので△8七歩成で後手勝勢ですね。
また、▲7一とにも△8七歩成と踏み込めます。以下、▲7二とには△同銀で差し支えありません。(第8図)
ここで▲8八歩と打たれても、△6八角成▲同歩△7八銀と食らいついていけば後手が押し切れます。この変化はB図と似ているようですが、先手はと金を一枚失っているので、攻撃力が落ちているのです。△6一銀の力で▲7一飛成を妨害した恩恵が存分に現れていますね。
改めて、△6一銀の局面に戻ります。
先手は単純に金や銀を取るようでは勝てないことが分かりました。ゆえに本譜は▲9一角△8三玉▲5七飛成という捻った手段を繰り出しましたが、△8七歩成と銀を取るのが冷静で、後手ははっきりと頭一つ抜け出すことに成功しました。(第9図)
先手は8七にと金を残したままでは、自玉が危険すぎます。例えば、▲6六竜△同歩▲7一とと進めると、△8八銀から詰んでしまいますね。
しかしながら、ここで▲8七同竜とと金を払うのは、△8六歩▲7八竜△6二銀で手を戻されると攻めが切れてしまいます。後手はどちらの変化を選ばれても勝算の高い局面になるので、この局面ははっきり優勢ですね。
上部に厚みがある場合は、そこを頼りに中段玉で頑張る展開を目指してしまいがちです。しかしながら、その前に一度△6一銀を打つ方がより手数が稼げるのでお得なのですね。確かに、ここに壁を作って5一の飛の横利きを削いでしまえば、上部へ泳ぐまでもありません。△6一銀は、まさに受けのお手本とも言える妙手でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!