どうも、あらきっぺです。寒い日が続きますね。雪が積もるたびに地球温暖化なんて迷信やわと感じてしまいます笑
将棋の道場や教室に通った方なら、一度は駒落ちの将棋を指した経験を持っているかと思います。特に、ビギナーだった頃は上位者に多くの駒を落としてもらったことがあるのではないでしょうか。
ただ、あまりにも駒が少なすぎると簡単に陣地を突破できてしまいますし、上手の方も指していて面白くないかもしれません。そういう意味では、六枚落ちってちょうど良い手合いだなぁと感じます。(第1図)
さて。私は奨励会時代、とある将棋教室の運営を手伝っていたり、今も業務の一環で子どもに将棋を教えたりしているので、駒落ちの上手は数えきれないほど指しています。この六枚落ちも例外ではありません。
多くのプレイヤーは初手から▲7六歩~▲6六角~▲9六歩と9筋を狙う指し方を選びます。定跡書にも載っている攻め方ですね。(第2図)
ここから△7四歩▲9五歩△6四歩▲5六歩△7三金▲9四歩△同歩▲同香とシンプルに端から仕掛けます。上手は△9三歩を打つことができないので、早くも突破された格好です。(第3図)
ここから上手は△8四金▲9八飛△9五歩と抵抗しますが、▲8四角と切ってしまうのが決断の一着です。定跡を知らないとなかなか指せない手ですよね。(第4図)
△8四同歩と取る一手に▲9五飛と飛車を走って、下手は9筋の突破が確定となりました。以下△3四歩▲9二香成△7三銀▲9三飛成△6二銀▲8二竜△5二金▲7五歩が進行の一例です。(第5図)
第5図の局面では、下手は駒損だけど竜を作っているし、と金攻めが厳しいから勝てそうだよね。あとは頑張って!という感じのことを定跡書では記してあったと記憶しています。
確かに仰っていることは間違いないですし、経験上ここまで進むと8割方、勝ってしまうんですよねぇ。上手が
………そう、勝っちゃうんですよ。信じられない方もいるでしょうが、意外にも上手が勝ってしまうんです。
一体、どんな手品を使えばここから上手が勝つんだよと突っ込まれそうですが、やれば案外どうにでもなるもんなのです。何かの拍子で王手竜取りが実現してしまったり、△5七角から馬を引き付けてクソ粘りしている内に相手が攻めあぐねたり、というのが上手の勝ちパターンですね。
もちろん第5図の局面は、棋理的な観点で見れば下手優勢です。しかし、実際問題、下手のプレイヤーがきちんと勝ち切るのは容易ではないみたいですね。
勝てない理由
なぜ、定跡通りの進行で優勢な局面を築いても、多くの下手は勝ち切ることができないのでしょうか?終盤が弱い。以上。と言ってしまえばそれまでですが、そう切り捨ててしまうのは少し酷なように思います。
先述の問いに対して、私はこのように答えます。「この9筋を攻める定跡は、基本を無視しまくった手順を踏んでいるからだ」と。
この定跡は極めて素早く9筋を突破することが出来ています。しかし、スピーディーさを求めるあまり、玉の囲いが疎かになっていますし、自ら角金交換の駒損を選んでいます。つまり、最短で敵陣を突破するために、かなり強引な手段を実行しているのです。
はっきり言って、六枚落ちという手合いは大差です。したがって、言葉は良くないですが、割と適当なことをやってしまっても下手の優位性は保たれています。ですが、それはあくまで強い人目線の話であって、六枚落ちレベルのプレイヤーの話ではないのです。
第5図の局面は定跡では成功図ですが、玉が囲えていないわ、飛・角・香の三枚だけしか駒を使っていないわ、成香は遊んでいるわ、と基本に忠実ではない要素が多く見られます。
これだけセオリーに背いた指し方をすると、ここから(自力で)指し進めていくうちに、必ずひずみが生まれます。下手はそのひずみに耐え切れないので、逆転負けを喫してしまうのです。
汎用性の高い技術を学ぼう
六枚落ちで代表的な指し方と言える9筋攻めの定跡が冴えないとなると、下手はどのような指し方が望ましいと言えるのでしょうか。個人的には、二枚落ちの定跡を使うのが良いのではないかと考えています。理由は、学習コスパと汎用性が高いからです。二歩突っ切り定跡を例に説明していきましょう。(第6図)
二枚落ちと同じ要領で指していきます。何だか、心なしか上手の駒が妙に少なく見えますね笑
ここからは右の銀を活用し、飛車を3筋へ移動します。なお、▲3四歩△同歩▲1一角成のような攻めも魅力的ですが、そういった色気には手を出さずに淡々と駒組みを進めましょう。理想形を作るまでは、動かない方が無難です。(第7図)
この後も、3筋の歩を交換→カニ囲い→攻めの銀桂を活用と定跡通りに進めていきます。緩慢としているようですが、相手からの攻めが無い場合は、力を溜めれるだけ溜めることが将棋のセオリーの一つです。(第8図)
9筋攻めの定跡と比べると、攻め足は遅く、まだ成駒の一つも作れていないので華は無いのかもしれません。ですが、全ての駒を活用しているのでこちらの方が本格的な印象を受けませんか。本来、序盤戦ではこのように囲いと攻めの形の構築を行う工程なのです。
ここまできちんと駒組みを行えば、あとは思う存分、強気に戦うことができます。第8図からは二枚落ちの定跡通り▲3五銀~▲4四歩と攻めても良いですし、六枚落ちの欠陥を突くのなら▲2五桂△4二銀▲1六飛と攻めても良いでしょう。
いずれは未知の局面になるので、最終的には終盤勝負になります。しかし、第8図は9筋攻めの定跡と違い、下手には基本の指し手を多く積み重ねた貯金があるので、逆転されにくい将棋になっていると言えます。下手にとっては、9筋攻めの定跡よりも遥かに勝ちやすいと思います。
二枚落ちの定跡は些か手順が長いので覚えるのが大変ではあるのですが、ここで習得してしまえば、この先、四枚落ち→二枚落ちとステップアップしてもそのまま使用できるので、学習コスパが非常に良いです。加えて、この定跡では「囲いは金銀3枚」「攻めは飛角銀桂」「相手から攻めが無いときは力を溜める」「攻めの銀桂を五段目まで進める」と平手でも応用できる考え方を多く実践しています。ゆえに、定跡を覚えることで、同時に汎用性の高い技術も学ぶことができます。
話をまとめましょう。六枚落ちを指すときは、既存の定跡を使うのは損。勝ちやすさの面でも、棋力向上の面でも、二枚落ちの定跡を使う方が有意義である。これが、六枚落ちの真実です。
最後に
今回は六枚落ちの9筋攻め定跡は冴えないと話でしたが、これに限らず従来から普通と思われていたことが実は良くなかった、という事は、多数の人々が気づいていないだけで、まだまだ存在していると思います。
最近では将棋の概念が変わりつつある(飛車先の歩交換の是非、雁木の復権、堅い囲いの価値の低下etc.)ので、今までの常識を疑うことも必要になってきていると感じます。それにより、新たな発見を得ることができれば、あなたの将棋は一皮むけたり、ライバルに差を付けることができるかもしれませんね。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!