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第3回世界将棋AI電竜戦本戦の出場記(二日目編)

電竜戦 あらきっぺ

どうも、あらきっぺです。

当記事は、第3回世界将棋AI電竜戦本戦の出場記(初日編)の続編です。なお、前回の記事は以下のリンクからご覧くださいませ。

前回のお話→【初日編

お知らせ
今回のブログでは、 dlshogi の評価値及び読み筋を示す画像や文章が散見されますが、これについては開発者の山岡忠夫様から個別に許可を頂いた上での掲載になります。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。

 

初日終了後

 

初日の結果発表が終わったのが、19時25分頃。その後、夕食を食べて少し一服して21時くらいまでは体を休めていました。明日は8時30分から始まるので、本音を言えばさっさとお風呂に入って寝たかったのですが、まだ自分にはやることが残っています。もちろん、今日の反省と明日の対策です。

特に、 Lightweight 戦は用意していた定跡を潰されてしまったので、早急に改善しなければならないと考えました。その上、 Lightweight はA級に入っているので、明日も当たるんですよ。もし、初日の初っ端に当たって「何の用意もありませんでした」では、残念にも程があります。なので、せっせと定跡を作り直していました。ついでに、他の自信の持てない戦型も調べることに。一度スイッチが入ると、疲れを忘れて没頭しちゃいますね笑

とはいえ、やり過ぎると健康に良くないので、23時で強制終了。さすがにこの日は熟睡できました笑

 

二日目 午前

 

二日目も初日と同じルールですが、対局数が大幅に増えます。というのも、A級は総当たり戦で、かつ同じ相手と先後交代で1局ずつ指すルールだからです。これは、昨今のAI界では先手勝率が相当に高いので、両方指す方が公平だろうという訳ですね。確かにこうすれば運の要素が一切排除されるので、非常に合理的なルールだと言えるでしょう。代償として人間のプレイヤーが死にかけます

A級の参加者は10(適切な助数詞が分からない笑)なので、二日目は18局指すことになります。18局も最強ソフト軍団と戦えば初日編で述べた自分の疑問が間違いなく分かるので、この日は昨日以上に高揚感がありましたね。

 

初戦のお相手は Joyful Believer 。このソフトは、通称 tanuki- と呼ばれるソフトであり、NNUE系の始祖でもあります。NNUE系のソフトは概ね攻めっ気が強く、中でも tanuki- のアグレッシブさはひと際目立ちますね。個人的には、現在のAI界における最強のアタッカーという印象です。

後手番を引き、将棋は角換わりの定跡形に進みました。

この局面は、人間界でも多く出現する形の一つ。ここで後手には選択肢が二つあり、攻めるなら△6五歩▲同歩△7三桂。受けるなら△5四銀▲4七銀△6二金になります。

事前研究ではどちらが勝るのか分かりかねていたのですが、自分が先手を持って指した経験からすると、後者の受けプランの方が手強い印象を受けました。なので、本譜はそれを選んだのですが、 Joyful Believer は颯爽と桂を跳び、「バトルしようぜ!」と宣言してきました。

この仕掛けも想定はしており、自分としては少し無理気味という認識でした……が、ここからの Joyful Believer の指し回しが凄いこと凄いこと。「この攻めで押し通してくるのかー」と感嘆しながら指していました。トップソフトの強さを身を持って思い知りましたし、この戦型における自分の理解度の浅さも露呈したことが分かりました。うーん、勉強になるなぁ!

 

1回裏は逆に、こちらの先手番。角換わりから、先手が1筋の位を取るオープニングになりました。

この形はあまり準備していない将棋ではあったのですが、端の位を取ると dlshogi がブッ飛んだ評価値を出すことは把握していました。 dlshogi は、こういう漠然とした利を活かすことが得意なので、本局は基本的には dlshogi を信用することに。感覚的には、対振り飛車を相手にしたときの要領ですね。と言っても、これじゃ伝わらないですかね笑

もう一つ dlshogi を重視した理由としては、相手はNNUE系の始祖なので、水匠の意見で勝負しても勝算が低いような気もしたからです。

本譜の進行を見る限り、これらの戦略は上手くいったようで、本格的な戦いが起こった時点で+400前後のリードを奪うことが出来ました。ただ、こちらは昔の評価関数のソフトを使っている上にマシンスペックも脆弱なので、そのリードを維持できるか? という戦いではあります。

山場は、この局面。攻めが繋がれば先手の勝ちという状況です。

ここで Joyful Believer は▲7四歩△7五銀という進行を読んでいたようですね。なお、こちらのソフトの読み筋は、以下の通りでした。

ご覧のように、最善相違型です。自分の第一感も、▲7四歩ではありました。ただ、この進行だと最大の戦力である7六の飛を取られそうなことがネック。逆に、 dlshogi が最善と主張している▲7五銀は、攻め足は遅れるものの飛を安定させる恩恵があります。

ここは方針が真逆なので、深堀りしないといけない場面だと感じました。相当に逡巡しましたが、飛車を残した方が勝算が高いと見て、▲7五銀を選択。 Joyful Believer の読み筋を見ると、この手を境に評価値の開きが大きくなったので良い選択だったようですね。残り5分から1分41秒投資した甲斐がありました。

この難所を切り抜けてからは分かりやすくなり、無事、制勝。 Joyful Believer は c6a.metal を使っており、そのマシンに勝てるんだったら、もはや誰にでも勝つチャンスがあるのでは? と自信になりました。早い段階でこうした成功体験を得られたのは大きかったですね。

 

2回表のお相手は水匠。今さら説明するまでもない、昨今の将棋ソフトにおける第一人者と言える存在です。人類が最もお世話になっているソフトですね。

アピール文章に記されているように、今回の水匠は角換わりの定跡が充実しています。という訳で、角換わりの定跡勝負を楽しみにしていました。まずは、こちらが先手番です。

これは角換わり腰掛け銀における、最もポピュラーな形ですね。画像の赤枠で示したように、この局面に至るまで、互いに玉をチョコチョコ動かして手番を調整しています。これは先手が誘導したい局面があり、それを実現するために駆け引きをしている意味があります。詳しい理由は、以下の記事をご覧ください。

最新戦法の事情・居飛車編(2022年8・9・10月合併号)

ここで先手は▲7九玉と引くのが正しく、それなら誘導したい局面に持ち込むことが出来ていました。しかし、本譜は▲6九玉と引いてしまったんですよね。定跡の結論だけ覚えていて過程をテキトーに覚えているから、こんなミスが起こるんだよなぁ…。ちょっと、これはもったいなかったですね。

ただ、不幸中の幸いだったことは、角換わり腰掛け銀という戦法の性質上、千日手になりやすいことです。ソフト相手に一回でもミスしたら基本は勝てないのですが、本局は千日手で許してくださいという態度を取ったら、「仕方ないなぁ、まぁこっちも後手だから別にいいよ」と交渉が成立しました。さすがに、人類を最もお世話しているソフトは空気を読んでくれますね笑

 

2回裏は、こちらの後手番。戦型は当然、角換わり腰掛け銀。こちらは6筋の位を早めに取る作戦を採用しました。

少し珍しい指し方ですが、これも人間界では多く指されている将棋です。ここで先手の策は複数あり、水匠がどれを選んでくるのかが興味がありました。

本譜は、先手が6筋の位に向かって反発する展開になり、以下の局面を迎えます。

ここも、まだ自分の研究範囲で、用意していた手は△6五歩でした。ただ、改めてソフトの検討手順を見ると△8四飛と浮く手も面白そうに見えてきたんですよね。考えているうちに気が変わって本譜は△8四飛と指したのですが、数手進むと100点くらい評価値を溶かしてしまい、もはや時すでに遅しという状況に。好奇心が強い自分の性格が災いしてしまったなと思いました。定跡手順の範疇であれば、感情を殺して用意した順を選ばないといけませんね。

 

3回表のお相手は Ryfamate with C 。 Ryfamate はDL系とNNUE系の合議制のソフトです。第2回電竜戦本戦でもA級に入っており、安定して上位層にいるソフトですね。終盤力が他のソフトよりも高いような印象もあります。

なお、 with Cは名人コブラのCです。今回、コブラさんは GCP A100 インスタンスを Ryfamate に提供なさっていたようですね。

こちらの先手番になり、例によって角換わりを投げます。今度は定跡を間違えることなく、以下の局面を迎えることが出来ました。

これが先程に述べていた「先手が誘導したい局面」です。この局面になれば▲4五桂と跳ねてリードを奪えるというのが自分の研究でした。と言っても、ここからの分岐は莫大な数があるので、全ての変化を網羅していた訳ではありません。自身の研究がトップソフトに通用するかどうか、期待と不安が入り混じった気持ちで指していました。

Ryfamate は直線的に切り合う変化を選んできたのですが、この局面になれば、先手の方が勝算の高い将棋ではないかと見ていました。実を言うと、noteに書いていた進行だったんですよね。この数手後に Ryfamate は誤算に気付いたようなのですが、これだけ激しくやり合うと、さすがに軌道修正が利きません。結果的には研究が炸裂した一局となりました。手前味噌ですが、あらきっぺnote優秀ですね笑

 

3回裏は、こちらが後手番。 Ryfamate は先手だと相掛かりを志向するので、それの対策はどうしようかと頭を悩ませてしました。

人間相手ならそれなりに自信の持てる作戦は用意しているのですが、ソフト相手にそれが通用するかと問われると、ちょっと微妙という背景がありました。ただ、昨日の夜に二番絞りの指した棋譜を漁っていると、戦えそうな作戦があるじゃないですか。はい、採用決定です。信者である以上、教祖の指した将棋には倣わないといけませんからね! ただパクッてるだけだろ

二番絞りが優秀過ぎるお陰で、序盤は上手く乗り切ることが出来ました。 Ryfamate も-115という評価値を出しているので、後手番としては上々の進行です。とはいえ、ソフト相手にこの程度の優位性では全く安心できないのですが。特に、 Ryfamate は終盤の末脚が凄まじいので、できれば300くらいはリードが欲しいですね。

一応、この僅かなアドバンテージを維持した状態で、局面は佳境を迎えます。

本局は、ここが最大の勝負所でした。ちなみに、こちらのソフトは以下の見解を示しています。

ご覧のように、恐怖の最善分散型・相違型のミックスです。72手目にして、このパターンが来たのは局面が難解である証左ですね。ここで私は1分57秒投資したのですが、本当に分からなかったです。数字を見ているだけでは、サッパリ見分けがつきません。

数字で判断できない以上、指し手からソフトの意図を読み取るよりありません。ただ、△8五飛は▲8六歩△8一飛という進行になり、それは緩んでいるようで変な気がしました。また、△7三桂はちょっと何言っているのか分かんないですね。▲8四歩との交換が得になるのかよ? とかなり懐疑的でした。

という訳で、半ば消去法で△2七歩成を選んだのですが、▲3五飛△同歩▲1六角と進むと、どうも勝てない将棋になってしまったようです。

一応、この局面が大丈夫と見て△2七歩成を選んだ背景があったのですが、この角打ちが想像以上の威力でした。こちらのソフトでは▲1六角を打たれても後手に評価が触れていたのですが、ここからは Ryfamate の終盤力を見せつけられる結果に。「アンタとは格が違うんだよ」と言われてしまってる感じがしましたね。マジで強かった。

 

ちなみに、さっきの局面は気になったので後から調べてみたのですが、どうやら△7三桂が正着らしく、それなら後手良しを維持できたようです。……何、言ってんのか分かんない手が正解ということは、それだけ自分が弱いということですね。やっぱり、将棋ソフトを使いこなすには、棋力が必要ということが改めて分かりました笑

 

という訳で、午前の部は2.4勝3.6敗(電竜戦では、先手番での千日手は0.4勝扱いになる)となりました。意外と勝ててるなぁというのが正直なところでしたね。しかし、後手番がまるで手応えが無いので、同一カードで連勝するのは至難とも感じました。

 

二日目 午後

 

4回表のお相手は Grampus 。昨日に続いての対戦です。 Grampus もAIの大会では常に上位層に食い込んでいるソフトですね。今回の Grampus は、定跡を使用しない形で振り飛車を指すようにプログラムされているとのことでした。

相手が飛車を振ってくるので、前日の HoneyWaffle 戦同様、基本的には dlshogi 尊重で、終盤は水匠で行くという戦略で進めることに。この戦略は尊重するソフトを切り替える瞬間が難しいのですが、水匠が読み筋の中で踏み込んだ手を最善と示して来たら、そこで切り替えるようにしていました。

具体的には、この局面で私は切り替えを行いました。ここで dlshogi は▲8九桂を、水匠は▲8五桂を最善と主張します。正直、どちらでも居飛車が勝つような気はするのですが、そうした場面は踏み込んで勝ちに行った方が、相手に抵抗される余地が生まれにくいところはあります。

また、私はソフトの棋譜を並べることが多いのですが、NNUE系のソフトが踏み込んで着地に失敗したケースを見た記憶がありません。それも終盤は水匠を尊重している理由ですね。本局も、その例に漏れないケースでした。

 

4回裏は、こちらが後手番。 Grampus は、3手目に端歩を突いて打診する指し方を採用されました。

この打診を受けるかどうかは好みが分かれるところですが、「まぁ、相手が飛車振って来ることを想定したら、受けておく方が良いかな~」というのが、今の自分の感覚ではあります。

という訳で本譜は△1四歩と受けて駒組みを進めました。さて、どんな振り飛車が来るかなと注目していると……

角換わりやないかい!!

で、以降はよくある定跡型になったのですが、こちらの用意が薄い将棋になり、あまり良いところなく敗戦。中盤は人間的には互角の岐れでしたが、A級の猛者達にその理屈は通用しないということを改めて思い知りました。+100くらいのアドバンテージを取られると、ぜーんぜんひっくり返らないですね。ははは。

 

5回表のお相手は、 dlshogi with HEROZ 30b 。言わずと知れた絶対王者。今年の WCSC の優勝ソフトです。

なお、今回 dlshogi は30ブロックと20ブロックというモデルサイズが異なるソフトを電竜戦に参戦させていました。ただ、素人目線だと「こっちの方がサイズ、デカいんだから強そうじゃん」と思っていたので、個人的には一番楽しみにしていた対戦でしたね。

こちらの後手番になり、2手目は当然△8四歩。これは、 dlshogi の相掛かりを教わりたかったからです。自分が最も有力だと考えていた作戦をぶつけて、真っ向勝負を挑みました。

このように、早めに1筋の位を取るのが用意の作戦でした。後手番で端の位を取ると駒組みが遅れる懸念はありますが、局面が持久戦になればリターンが期待できます。また、こちらは銀冠に組めれば理想ですね。

ここで何が最善なのかは謎だったのですが、 dlshogi は1分9秒使って▲2二角成と着手。第一感は、「へぇー、そうやって来るんだ」という印象でした。というのも、こちらは銀冠に組めれば嬉しいので、わざわざ角を交換してくれるとは思っていなかったのです。

ひとまず持久戦志向という方針通り、穏便に駒組みを進めることに。

さて、まだまだこれからという局面にしか見えませんね。………と思っていた時期が私にもありました。今、ブログを書いている時点では、既にこれ、後手が死んでるんじゃないかという感覚になりつつあります…。

まず、後手は壁銀のままでは戦い切れないので、この配置を改善する必要があります。ただ、△3三銀で矢倉に組むと、2一の桂を使うことが出来ません。相手の囲いが矢倉であれば△3三銀で良いのですが、雁木に組まれているので△3三銀は抵抗感がありました。相手だけ囲いの桂が前線に使える状況にはしたくないのです。

しかし、こちらは雁木に組むことは無理ですね。そうなると、残された選択肢は銀冠ということになります。これなら囲いの桂を活用することが出来ますから。

ゆえに、本譜は△2四歩と突っ張りました。これを放置してもらえれば念願の銀冠が完成します。また、▲同飛には△8八歩▲同金△3三角▲2九飛△6五歩で先攻できるので、対局中は難しいと思っていました。

ところが、 dlshogi は見事な指し回しで△2四歩を咎めていきます。特に、51手目の▲7九玉には震えましたね。こちらのソフトでは▲7九玉を発見できておらず、その差が決定的な打撃となりました。

本局は対局しながら、こんなにきめ細かく先手番の優位性を拡大できる存在がこの世にあるのか……と感動していました。すっごく地味なんですが、こういう展開を見据えていたからこそ、あの局面で▲2二角成と指して来たんですね。すれ違ったら斬られていたという感じで、まさに王者の強さを感じました。

なお、後手も作戦としては悪くはなく、後から調べると、ここで△8一飛と引いた手が悪手だったようです。とはいえ、これが悪手だなんて初見じゃ絶対分からないですね。超普通だもん笑

 

正直、自分が想像していたよりも dlshogi が凄まじかったので、「これは先手番でも、どうにもならないんじゃ……」と思いながら5回裏の対局に臨みました。

dlshogi は、9筋の位を取らせる作戦を選んできました。これも角換わり腰掛け銀における重要なテーマの一つですね。人間界でも山ほど指されている形です。

とりあえず、こちらとしては用意していた定跡通りに進めていきます。水匠戦の教訓を活かして、謎の即興はしないよう、あえて検討ボタンは切っていました笑

中盤戦もたけなわですが、まだこちらは定跡の範疇です。ちなみに、人間界でも前例があり、ここは△4三同玉と応じるのが定跡として認知されています。

そういった背景があったので、本譜の△4三同金は意外な対応でした。ここであらきっぺ定跡が切れたので、検討ボタンをポチリます。先程の信用から「これが良い手なんだなぁ」と思っていたのですが、少し経つと何かがおかしいことに気付きました。

どうも dlshogi は、ここで△1三角と打って後手良しと判断していた節があります。けれども、それには▲2一飛成△同飛▲4四歩という強襲があり、先手の攻めが突き刺さってしまうんですね。 dlshogi は、これをウッカリしていたようです。

 

実を言うと、DL系のソフトは弱点が二つあると思っています。一つは、十数手後に15手以上の詰み筋がある局面で、それに気付かずトン死するルートに入ってしまうこと。もう一つは、上記の▲2一飛成のような早期段階で大駒をぶった切る手を軽視しやすいこと。こうした手を見落としやすい傾向があるように感じます。これは dlshogi で検討したり、DL系のソフトの棋譜を並べた経験から分かってきたことでもあります。

とはいえ、そうした弱点は狙って突けるものではありません。偶然、その弱点が出た状況になっただけなので、運に恵まれましたね。

リードを奪うことは出来ましたが、さすがに易々と勝たせてくれる相手ではありません。 dlshogi はあの手この手で先手陣に嫌味をつけ、形勢を離されないよう、食らいついてきます。これを振り切れるかどうかという戦いになりました。

最も苦心したのは、この局面です。こちらのソフトでは浅い探索だと最善相違型になっており、意見が割れている状態でした。

ひとまず、▲3七金と▲8七歩の両方を調べてみたのですが、掘り下げてもあまり嬉しい状況にはなりません。マイナス評価にはならないのですが、リードを拡大している数字にはならなかったのです。

ふと改めて将棋所に映っている現局面を眺めていると、どうしても気になる手が浮かび上がってきました。

何で、この局面、▲5五桂じゃないのかなー? ▲5五桂って金を狙っているし、相手の角道も止めているし、中央の厚みも強化するから藤井聡太の勝利の法則も満たしてるんだけどなー。うーん、謎だな。まだ時間は3分以上あるし、ものは試しで調べてみるか」と思い、▲5五桂を入力すると……。

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

水匠の評価値が一気に上がったので、これは正解だと確信を得ました。念のため、もう少し時間を投資すると、 dlshogi の評価値も400付近に到達したので安心感も生まれました。ここで突き放すことが出来たのが本局の勝因ですね。我ながら、ビックリの勝利でした。

あと、本局に関しては、自分の直感で思いついた手が正解だったということが、とても嬉しかったです。将棋ソフトで検討していると、自分で考えた手を100回入力したら最低でも98回は否定されるのですが、ごくごく稀に「ああ、それは珍しく良い手だわ。偉いね。」と仰ってくれるときがあるんですよね。それが本局で出せたのはツイてました。さすがに、テンション爆上がりです。

 

6回表のお相手は、 Lightweight 。こちらの後手番で、昨日に続いて角換わりとなりました。

途中の手順は違えど、この局面は昨日に指した将棋と合流しています。「ここは後手が悪くないはず…!」という自分の感性を信じて、もう一度ぶつけてみました。

以降も難解な情勢が続きましたが、冒頭に記したように、この変化をきちんと準備していたことが大きかったです。

この辺りもまだ想定内で、こうなれば後手の方が旗色が良いのでは? というのが昨日の夜に出した結論でした。本局の結果は、それを証明していたのではないかと思います。

入念に策を練っておけば、後手番でも勝てることが分かったのは収穫でした。裏を返せば、このくらい調べておかないと歯が立たないということでもありますが…。

 

6回裏は先手番で、もちろん角換わり。5回裏の dlshogi 戦と同じ進行になり、優位を奪います。どうもDL系のソフトは、あの局面で△4三同金と取ってしまう傾向があるようですね。

首尾よくリードを奪えましたが、本局はこの後に驚きの展開が待っていました。

94手目に△2一飛を指されたとき、こちらのソフトでは画像のような意見を出していました。水匠は▲6九玉を推しています。最善相違型ではありますが、▲6九玉は dlshogi の第4候補にも入っているので、これは流石に安牌かなと思い▲6九玉と指しました。今にして思えば、もう少し自分の頭で考えるべきでしたね。

▲6九玉に対して、 Lightweight は△5五銀▲同桂△6六桂と進めます。この瞬間、私の目に飛び込んできた数字は―――。

!? 水匠が反省してる!?

これを見た瞬間、「ヤバい!」と叫んでいたのですが、結論から述べると、時すでに遅し。ここは速度がひっくり返っちゃったみたいです。なお、 dlshogi はのほほんと「先手有利ですよ~」と仰っていますが、これくらいの段階になると dlshogi は例のトン死癖が顔を出すので、この数字は額面通りには受け取れません。以降は粘っているだけでした。

 

そもそも、あの▲6九玉に違和感を覚えるべきでした。自分から玉を下段に引いているんだから、そんなの大体悪手なんですよ。あの局面は、▲6八玉と寄っておく方が良かったようですね。こういうのを見ると、浅い探索の評価値ほど信用できないものはありません……。

結構、この敗戦はダメージが重く、後から振り返ってみると、この将棋を境にパフォーマンスがガクンと落ちてしまったようなところはあります。やはり、将棋は勝つと負けるとでは疲労度が全然違いますから。

 

7回表のお相手は、 Daigollila 。こちらも、昨日に続いて連戦です。 Daigollila は独自定跡を搭載しているらしく、確かにあまりお見掛けしない作戦を投げられました。

昨今の相掛かりにおいて、先手が居玉のまま早繰り銀を出すのは珍しいですね。4、5年くらい前には、ちょくちょく見かけた指し方ではありますが。

ここで私は△1三桂からアグレッシブに反発したのですが、正直「チャラいなー」という自覚もありました。経験的に、「評価値は離れていなくてもやったらダメっぽいやつだなー」と思っていたのですが、案の定ダメでしたね…。こういう嫌な予感は概ね正しいということを、身を持って知りました笑

 

7回裏は、先手番。力戦形に誘導されましたが、僅かなリードを奪うことに成功します。しかし、それを広げ切るまでに時間を掛け過ぎ、最後は時間切れ負け。本局は、完全にタイムマネジメントのミスでした。ただ、それは決断よく判断出来てないことの証でもあり、疲れが溜まっているのかなとも感じましたね。

ちなみに、 Daigollila はNNUE系ですが、割とこちらの水匠と読みが外れることが多かったです。かと言って、 dlshogi と一致する訳でもないんですよね。こちらのソフトが示していない手を指され、しかし評価値が下がらないというケースが何度もありました。なかなか不思議なソフトでしたね。同時に、将棋って広いなぁと改めて感じた次第です。

 

8回表のお相手は、Just Stop 26歩 。DL系で、振り飛車党です。なお、このソフトは Qhapaq チームのソフトですね。 Qhapaq さんは、毎回ユニークなソフト名で大会に参加されるので、それを見るのも楽しみの一つです。

相手が振り飛車党なので、例のアクションプランを採用することに。長期戦にはなりましたが、終わってみればこっちの穴熊が遠かったという将棋でした。対振り飛車における dlshogi の安定感は抜群ですね。

 

8回裏は後手番。Just Stop 26歩は、初手に▲1六歩と打診してきました。

うーん、これなぁ…。

多分、この局面の最善って、△3四歩か△8四歩だと思うんだけど、別に△1四歩と受けても損にならないからなぁ。それに、飛車を振られたら位は取らせない方がお得だし……。

という訳で、本譜は△1四歩を選択。対してJust Stop 26歩が選んだ戦型は……。

角換わりやないかい!!

いや、まぁ、こうなることは薄々、感づいてはいたのですが。

Grampus と同様、Just Stop 26歩も、定跡の力で振り飛車を指させようとはしていません。そして、ソフトが自力で振り飛車を指すことを志向すると、どうも端の位を取りたがるんですよね。 Grampus もJust Stop 26歩も、足早に端の位を取ってから飛車を振るケースが散見されます。

だから端歩を受けると何をやって来るのかは興味があったのですが、それだと飛車を振りたくないらしく、居飛車を指してしまうようですね。オレもその方が正しいと思うよ

 

序盤は、初戦の Joyful Believer と同じ戦型になりました。

Joyful Believer 戦では△5四銀と指しましたが、これは木っ端微塵に吹き飛ばされてしまったので、本局は△6五歩を選びます。この後も用意していた定跡通りの進行になりましたが、こちらの準備が切れた局面で、最善相違型・分散型が複合するタイプの状況が飛んできました。

手としては△6二同金か△7一金の二択なのですが、1分30秒ほど使っても数字の変化は現れませんでした。全く分からなかったので、ここはもう勘で△6二同金と指したのですが、こういうところがお疲れモードに入っている証拠ですね。

△6二同金の変化は、水匠も dlshogi も、▲6三歩△同飛というやり取りが出ています。しかし、後手からすると、8三の飛が6筋へ移動させられると相当に勝算の低い将棋になります。理由は、もちろん飛車が攻めにも受けにも使えないからですね。

こういう悪い配置を作るとダメということは、ある程度棋力が高い人間なら感覚的に分かります。それを判断できていないところに、パフォーマンスの低下が見て取れるという訳ですね。以降は、挽回のチャンスは全くありませんでした。いやー、本当にシビアで痺れますね。

 

9回表、いよいよ最終回となりました。立ちはだかるお相手は dlshogi with HEROZ 20b 。本音を言えば、もうちょっとフレッシュな状態のときに当たりたかった…。とはいえ、泣き言を言っても始まりません。今の状態でベストを尽くすことを考えるのみです。

まずは、こちらの後手番。 dlshogi は相掛かりを採用します。この日は相掛かりで用意していた策を悉く潰されていたので、ぶっちゃけると持ち球が尽きていました。困ったときは、二番絞り先生の出番です。一応、 Ryfamate戦では成功していたので、これが最も勝算が高いと判断しました。

ここまでは Ryfamate戦と同一なのですが、 dlshogi は▲2二角成で違うルートを選びます。……何か、さっきも違う dlshogi に▲2二角成と指されましたね。デジャヴ感ありますね笑

そこからは直線コースに入り、華々しく大駒を乱舞させたのですが、局面が落ち着いてみると全く勝ち目のない将棋になってしまっていました……。二番絞り信者辞めます

こうした結果を見ると、改めて dlshogi の序中盤の精度の高さがズバ抜けていることが読み取れます。他のソフトにはヒットする指し方が、 dlshogi には通用してないってことですからね。やっぱり凄いや、と感じるばかりでした。

 

さて、9回裏。泣いても笑っても、これが最後です。先手番なので、角換わりを登板します。 dlshogi は、今度はオーソドックスに△9四歩と受けてきました。

例によって、こちらは玉をチョコチョコ動かして手番を調整しています。あの局面に誘導したいので、私は▲5八玉と指しました。しかし、鋭い方は、もうお察しでしょう。

あー…。また定跡、間違えたあぁぁぁ……

完全に頭が働いていないです笑 もう、どう頑張っても例の局面にはなりません。仕方が無いので、相手の仕掛けを封じつつ新たな打開策を見出すプランを模索しましたが、さすがにそんな虫の良い手順は見つけられませんでした。ちょっとお粗末な将棋でしたね。

 

ちなみに、序盤は優勝決定戦である水匠 VS dlshogi with HEROZ 30b と同じでした。でもね、水匠はちゃんと▲7九玉と指してるんだよな。しかし、優勝争いに絡めない人は▲5八玉と指すんですね~。こういうところですね~。これからは、水匠先生の棋譜を三万回確認しないといけないなぁ。

 

雑感と収穫と課題

 

そんな訳で、長丁場の戦いも遂に終了。二日目は6.4勝11.6敗で7位という結果になりました。初日は9位だったので、総合順位を上げることが出来たのは良かったです。思っていたよりも、たくさん勝てたなぁというのが正直なところで、まさに上出来な結果でした。

また、初日編の冒頭に記した自分の疑問も、概ね氷解しました。改めて、それを下に記載します。

①自分は正しく研究が出来ているのか?
②自分は上手くソフトを使えているのか?
③トップレベルのソフトと自宅のソフトは、どの程度の差があるのか?
④トップレベルのソフトに、どの程度の評価値の差をつければ勝てるのか?

①と②については、A級入り出来たことや、トップソフトに定跡勝負で競り勝てている将棋もあったことから、まぁまぁ上手くやれているような気がします。③については、確かに差はあるものの、ぶっ大差ではないですね。ただ、 dlshogi with HEROZ に関しては、ちょっと次元が違うなという感もありました。④は、+400くらい取れれば勝ってしまうみたいですね。逆に、-100くらい取られると、もうダメな感じでした。

また、①と②について補足すると、今回の電竜戦で自分自身の研究が大幅にアップデートされました。同時に、中終盤でどういった勝ち方をすれば良いのか、というお手本もたくさん見れました。棋譜を並べているだけでは理解しにくい部分を肌で感じ取ることが出来たのが良かったですね。非常に勉強になり、有意義な二日間でありました。

 

加えて、これは自分自身の意図していたことではなかったのですが、人間と AI が合議することで新たな知見や可能性を示すことが出来たのは、意義のあることだったのではないかと思っています。

 

私が思うに、人間は将棋を指すとき、「何となく、こう指したい」「多分、こうなんだろう」みたいな思考で手を読み始めることが多い気がします。そして、これは仮説的・抽象的な考えでもある訳ですね。

それだけでは中身が乏しいのですが、それをヒントにソフトを使うと、論理的・具体的な部分が肉付けされます。つまり、人間の直感とソフトの論理性を上手く組み合わせれば、お互いの力をより大きく引き出せるように感じました。

そして、今回の試みや結果を評価され、思いがけなく電竜戦特別賞を賜ることが出来ました。本当にありがたい限りです。賞金をご提供くださった株式会社きのあ様、並びにスパチャをお送りくださった方々に感謝申し上げます。これを励みに、今まで以上に将棋の研究に取り組みたいものですね。

 

なお、これほど良い結果を残せた最大の要因は、やはり複数のソフトを使って検討していたことだと思います。定跡の力で勝った将棋もありましたが、それも複数のソフトを用いて検討していたからこそ作れた定跡でもありますから。

将棋ソフトを使う人と使わない人は見えている世界が違うのですが、ソフトを一つだけ使う人と複数使う人も見えている世界が違うように思います。将棋の理解を深ようと思ったら、異なるソフトで検討させないと真の姿が見えてこないことを改めて実感しました。特に、NNUE系とDL系で比較することが、極めて重要だと考えています。

そういう意味では、棋神アナリティクスって、とてつもなく素晴らしいサービスですね。これだけ手軽に最新・最強のソフトが使えちゃうんですから。

 

さて、最後に、今回の電竜戦で感じた課題についても述べておきたいと思います。

先述したように、結果に関しては上出来ではあるのですが、もう少し上手くやれたという感もあります。合議の判断ではちょくちょくミスもありましたし、詰みを逃したり時間切れ負けがあったりするなど、タイムマネジメントも改善の余地があることは確かですね。

そして、最大の課題は後手番における準備が未熟だったこと。特に、相掛かりを相手にしたときの将棋がイマイチだったので、ここは大いに伸びしろがありそうです。これらの部分を強化して、また来年の電竜戦に臨みたいですね。

 

それでは、ご愛読くださり、誠にありがとうございました!

1 COMMENT

GUNAIBUREKA

最高の戦いをありがとうございました!!!
去年の人間独りのときも感動したけど、
今年はもっと感動した!!!
あと、説明がべらぼうに分かりやすい!!!
自分も電竜戦出てみたいな〜〜

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