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第12期加古川青流戦アマチュア選抜大会の出場記

加古川青流 アマチュア

どうも、あらきっぺです。

以前、Twitterで述べたように、第12期加古川青流戦アマチュア選抜大会において、準優勝することが出来ました。

今回の記事では、この大会の模様を綴っていきたいと思います。

【大会前】

 

当たり前と言えば当たり前ですが、今回の大会は加古川市で行われます。拙宅から会場までは、door to door でおよそ2時間。結構長いですね。のんびり過ごすと持て余すことは確実ですが、対局する前からエンジンを掛けるのも違う感じです。なので、この時間をどう過ごすかは勝負に大きく影響すると思いました。

以前の筆者であれば、当日に「何をしようかな」と考えていたでしょうね。しかし、もう最近は前日のうちにスケジュールを立てて行動を決めておきます。これは、少しでも意思決定を減らしてリソースを温存することが狙いです。それは、以下の記事で述べたことでもありますね。

将棋 切れ負け 対処法切れ負けの将棋大会で優勝するために、僕が行った10の取り組み

 

普段は朝食を家で済ませることが多いですが、移動に2時間あれば車内で済ませられることがありがたかったです。長過ぎる移動も捉えようにはプラスに転嫁できますね。きちんとスケジュールを決めておいたことで、ダレた時間を過ごす事なく会場入りすることが出来ました。こういうのが気分的に大きいんですよ。

受付を済ませてから対局開始まで暫し時間があったので、他の参加者と挨拶がてら雑談することに。やはりプロ棋戦に繋がる大会ということだけあって、遠方からの参加者も目立ちます。こういった大規模の将棋大会に参加すると、普段ではお会い出来ない方々と再会できるのが嬉しいですね。中には数年ぶりに会話を交わしたお人もいて、貴重な時間でした。

 

割とリラックスモードではありましたが、組み合わせが発表されると一気に緊張感が高まりました。というのも、初っ端からディフェンディングチャンピオンとの対戦が決まったからです。いやー、めっちゃツイてますねぇ。大当たりだ笑

今日は存分に楽しめそうだな、と思いながら駒を並べました。

 

【1回戦〜4回戦】

 

一回戦のお相手はA氏。手厚い受けに定評のある負けにくい棋風の持ち主です。戦型は[三間飛車VS端歩突き穴熊]という構図になりました。(第1図)

加古川青流 アマチュア

この局面は、角桂交換の駒得を評価してこちらが良いだろうと感じていました。ただ、と金に咬み付かれて金気を失うと駒得を維持できないので、ここは勝負所と言えます。

加古川青流 アマチュア

▲2三歩成で良ければ簡単ですが、これは△3六竜で飛車取りが残るので失敗。それを踏まえると、▲2六飛が候補になりますね。銀取りを受ければ今度こそ▲2三歩成が実行できますし、△4七とには▲5六飛がビッタリです。

加古川青流 アマチュア

問題は、▲2六飛のときに△4七銀成があること。これには▲2三歩成△5八成銀▲3三と△6八成銀▲同金△3五角▲4三と△6八角成▲5二と△7八金▲7七銀打と進むことになります。手数は長いですが、お互いが最強の手を選ぶとこうなりますね。(第2図)

加古川青流 アマチュア

正直、この変化はめちゃめちゃ怖いです。何しろ、敵玉はゼットで寄せに専念できる状態なのですから。しかし、対局中はこれでギリギリ凌いでいるのではないかと思っていました。実際、これは居飛車勝ちのようです。脳内将棋盤でこれを見切れていたのは、我ながら冴えていましたね。

加古川青流 アマチュア

改めて見ても、この順に踏み込むのは結構クレイジーな感はあります。ただ、こうした際どい道を踏み込んで行かないと勝てないということは、電竜戦に参加したときに痛感したことでもあります。本局に関しては、そのときの教訓を活かせた勝利でした。

強敵を倒したことで波に乗ったのか、2~4回戦はいずれも快勝。どれも[作戦勝ち→優勢→勝利]という理想的な展開でした。タイムマネジメントを上手くできており、快調に将棋を指せている実感がありましたね。優勝まで、残り二つです。

 

【準決勝】

 

次なるお相手はS氏。面識は無かったのですが、お名前は存じ上げていました。ただ、棋風や得意戦法はサッパリ分かりません。まぁ、分からないのはお互い様か、と気楽に構えることに。そもそも相手がどうこうというより、自分の力を発揮することが第一ですから。

序盤は定跡型の将棋を志向していましたが、思わぬ変化球を投げられました。直感的に妥協すると損なのは分かりましたが、激しい順を選ぶと相手の用意があることは明白です。不自由な二択だなぁと思いつつ、勝負という観点から見れば妥協したほうが無難かなと判断しました。持ち時間が長いバトルフィールドなら突っ張ったかと思うのですが、今回は25分切れ負け(決勝のみ30分30秒)なので、ちょっと選びきれなかったですね。

そんな訳で、作戦負けを覚悟しながら駒組みを進めていたのですが、組み上がってみると思ったよりはマシな状況に。おそらく、相手ももっと長い持ち時間であれば本気で作戦勝ちの局面を作りに来ていたのでしょうね。この辺りは、持ち時間の短い切れ負けならではの試合展開だったでしょうか。(第3図)

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(便宜上先後逆で表示しています)

ここは方針の岐路で、ゆっくり指すなら△2一飛や△5二玉が一案です。ただ、それよりも△4五桂▲同桂△5四銀で良さを求められるのであれば、そちらの方が魅力的ではありますね。現局面では4五の位が先手最大の主張であり、それを打破する順が成立すれば大きなリターンを得られるからです。

加古川青流 アマチュア

明確に咎められる順も分からなかったので、本譜は△4五桂を決行。厳密には少し無理気味だったようですが、人間同士の対局なら互角の範疇でしょうか。この手を境に、本局は[筆者の攻め VS S氏の受け]という構図になりました。

ただ、景気よくオラオラ攻めて行ったのは良いものの、本譜は駒の損得を無視しすぎて形勢を損ねてしまいました。途中で誤算に気が付きましたが、もうアクセルを思いっ切り踏んでいたので軌道修正が利きません。「これ、負けじゃん!」と思いながら仕方なく無理攻めして迎えたのがこの局面です。(第4図)

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ここでの残り時間は、筆者が約1分。S氏は5分ほど。S氏はここが勝負所と見て、最後の熟慮に入ります。選択肢としては、

(1)▲2一飛
(2)▲7九玉
(3)▲6五銀

この三つ。おそらく、ある程度強いプレイヤーは、この三つ以外は読まないでしょう。

そして結論から述べると、

(1)▲2一飛 → ハズレ
(2)▲7九玉 → 正解
(3)▲6五銀 → ハズレ

です。ただし、これがなかなか難しい。

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まず、対局中は(1)の▲2一飛で負けと思っていました。これは▲5一角の詰めろですね。こちらは△6八歩▲7九玉△6九金と迫ることは出来ますが、▲同飛△同歩成▲同玉△4九飛▲5九角で先手玉は不詰めです。だから負けだなと。

けれども、そこで△3三玉と上がれば、こちらの玉は思いのほか耐久力があるのです。(第5図)

加古川青流 アマチュア

確かに上部が「開拓」できているので、こちらの玉は捕まらない格好なのですね。対局中は、この△3三玉が見えていませんでした。これは後手がうっちゃりに成功しています。

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正解である(2)の▲7九玉も対局中に考えており、これも負けそうだなと見ていました。一応、△6八金から肉薄できるのですが、ちょっと駒が少ないので寄せ切る自信はなかったです。ただ、この順は非常に危ういので、先手目線からすると選びにくいようですね。

そういった背景があったので、S氏は(1)も(2)も負けだから消去法で(3)▲6五銀を選ばれたのですが、これには△8八歩成がピッタリ。この変化は本当に、こちらの無理攻めが突き刺さってしまいました。(第6図)

加古川青流 アマチュア

ちなみに、S氏は△6八歩▲同金△8八歩成という進行を想定されており、単に△8八歩成が利くのをうっかりされていたようです。それが無ければ▲6五銀を選ばれることはなかったでしょうし、S氏の読む順番が(1)→(3)→(2)のような順であれば、正解手を選ばれていたことでしょう。こちらとしては、様々な要因が絡んだラッキーな勝利でした。

ただ、こうして複数の選択肢を突きつけて考える要素を増やすことは、「終盤戦のストラテジー」で述べた逆転の心得でもあります。拙著の内容の実用性を示せたのは、良かったところですかね笑

 



【決勝】

 

いよいよ決勝戦。お相手はF氏。元奨励会三段です。ちなみに、F氏と筆者は研修生だった頃から知り合いで、同じ門下で同じ年度に奨励会に入り、奨励会でも数え切れないほど対戦し、今も同じ研究会に所属している間柄です。手の内は知り尽くしており、言わば戦友のようなお人ですね。なお、親友ではないとお互いに思っているような気はします笑

戦型は、F氏の三間飛車に居飛車で対抗する構図に。序盤はまずまずと見ていましたが、仕掛けから数手後の折衝が初めのポイントでした。(第7図)

加古川青流 アマチュア

(便宜上先後逆で表示しています)

次に▲7一角成を見せられていますが、こちらはそれを味よく受ける手段はありません。なので、△8六歩と攻めを選びました。以下、▲7一角成△8四飛▲8六歩と進みます。(図)

加古川青流 アマチュア

対局中は、ここから△8六飛▲6三歩△8八飛成▲6二歩成△4一金右といった進行を予想しており、それは自信があったのでノータイムで意気揚々と△8六飛を指したのですが、F氏の着手を見て固まってしまいました。(第8図)

加古川青流 アマチュア

…痛ってー。アホ過ぎる。うっかりしたわ

いや、これはちょっとホントに呆れましたね。わざわざ相手の歩を取ったばっかりに▲8二歩を誘発したので、割と残念な見落としでした。

加古川青流 アマチュア

そもそも、こちらは急いで飛車を走らなくとも既に△8六飛→△8八飛成が指せることが確定しています。なので、先に△4一金右と指しておけば何の問題も無いところでした。

 

加古川青流 アマチュア

ただ、気を取り直して現局面を分析すると、

・こちらの駒損は、後から回収できる可能性がある
・飛車の働きの優位性は、もう逆転することはない
・最優先すべきことは、角の効率の差を縮めること

ということが見えてきました。見落としがあってもニュートラルな心理状態に戻して冷静な判断を下せたことは、自分でも成長できた部分かなと思っています。昔の筆者なら、うっかりしたショックを引き摺ってしまいがちだったので。

ここで踏み止まれたことで、大きく形勢を損ねることなく終盤を迎えることに。ただ、第8図の場面で持ち時間を投資したので、残り時間にかなり差が着いてしまったことが結果的には痛かったですね。(第9図)

加古川青流 アマチュア

本局は、ここが最大の山場でした。こちらは3三の金がターゲットにされていますが、あれを守り切るのは難しそうです。なので、どう取らせるかがテーマですね

本譜は△6九角成と指しました。これは飛車を入手することで、将来の△3五飛という攻防手に期待した意味です。しかし、これが敗着になりました。予想よりも、△3五飛がヒットする状況にはならなかったことが誤算でしたね。

加古川青流 アマチュア

ここは△1四歩と突くべきでした。▲3四歩には△2四金▲同香△1五歩と対処します。

こうして1・2筋の桂香を「排除」するのが正解でしたね。(第10図)

加古川青流 アマチュア選抜

2四に香を呼び寄せてから桂を取るのが大事なところです。こうすれば相手の攻めをか細くすることが出来たので、居飛車が手厚い情勢でした。

F氏はこの順をしっかり読んでおり、これは旗色が悪いと悟っていたようです。勝負所で読み負けていたので、致し方ない敗戦でしたね。

加古川青流 アマチュア選抜

なお、こういった[自玉が堅い+攻め駒が少ない]というシチュエーションでは、「吸収」を使うのが効率的です。その理屈は知っていたのですが、終盤においては攻防手の発現も極めて価値が高いので、△6九角成から△3五飛のプランに期待してしまったところがありました。

加古川青流 アマチュア

今回のような、二つ以上の概念が対立した時、どちらを優先すべきかは正直、難しいものがあります。時間を投資すれば答えに辿り着けていたかもしれませんが、終盤になれば持ち時間が切迫するのは仕方ない部分もあります。短い思考時間でこういった判断を正確に見抜けるようになることが、筆者の次なるステップかなと思っています。

 

【謝辞】

そんな訳で、今回の加古川青流戦アマチュア選抜大会は、準優勝という結果になりました。力は出し切れましたし、内容・結果ともに及第点かな、と自己評価しています。来年以降は、もうちょっと高い所へ行きたいですね。

 

また、最後になりましたが、こういったご時世ですので、今回の大会を開催なさるかどうかは運営サイドもかなりのご決断だったかと思います。難しい状況ではありましたが、クラスターが発生することなく、筆者もこうして健康に過ごすことが出来ているのは運営のご尽力あってのことです。主催者である加古川市ウェルネス協会様に深くお礼申し上げます。楽しく将棋が指せることは、幸せなことですね。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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