最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(1月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。最近は『Puppet in the Dark』という曲に心酔しています。

 

前回に予告した通り、今回は振り飛車の将棋について分析します。堅苦しい前置きは抜きにして、さっそく振り飛車の世界を見ていきましょう。

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

【最新戦法の事情 振り飛車編】(2017.12/1~12/31)

 

振り飛車の将棋は65局ありました。振り飛車はソフトの評価値が悪く出やすいのでプロ棋界では振り飛車党が減少したという話を一時期、よく耳にしましたが、対局数としてはそこまで居飛車系統の将棋と数が変わらないですね。

それでは、戦型ごとに見ていきましょう。

先手中飛車

 

先手中飛車とは初手から▲7六歩△8四歩▲5六歩(もしくは初手▲5六歩)と進めて、角道を止めない中飛車のことを指します。12月は19局出現しました。全体の約30%を占めており、圧倒的な人気を誇っていますね。

 

対する居飛車の対策ですが、超速の要領で△6四銀型を作る指し方が主流です。しかし、囲いに関しては美濃囲いだったり、船囲いだったり、△3四歩と角道を開けたり、△3三歩型のままだったりと、かなりバラエティに富んでいます。現状は居飛車側がどの組み合わせが最善なのか、見定めている段階なのかなと思っています。

 

なぜ、囲いの形が多様化しているのかというと、△6四銀型は急戦も持久戦にも対応できる柔軟性の高い指し方ができるからです。ゆえに、中飛車側も工夫した駒組みが要求されていると言えます。今回は中飛車が上手く組んだ将棋を紹介しましょう。(第1図)

 

振り飛車

2017.12/13 第76期順位戦B級2組8回戦 ▲北浜健介八段VS△澤田真吾六段戦から。

まず注目して頂きたいのは、振り飛車の左銀の位置です。6八に待機することで、▲5七銀型と▲6六歩~▲6七銀型を使い分けられるようにしています。おそらく、居飛車が船囲い+△3四歩型の駒組みを選べば、後者の形を作っていたのでしょう。

 

そして、▲5五歩を保留していることも何気ないようで、工夫が垣間見られます。△3三歩型に対して▲5五歩を突いてしまうと、角交換になりにくいので中飛車は角を捌くことが難しくなってしまいます。居飛車が△3四歩を指したのを見てから▲5五歩を突くと良いでしょう。要するに、中飛車側は角道を二重に止めないことが急所ということです。

囲いに関しては、左美濃の堅さに対抗するために穴熊を選択しています。もし船囲いであれば、美濃でも問題ないでしょう。相手よりも少し堅い囲いを作ることが肝要です。

 

本譜は第1図から△7四歩と指しましたが、それを見て▲5七銀と上がります。これも大事な一手で、▲5七銀以外の手を指すと、△7三桂と跳ねられ、銀の活用が難しくなってしまいます。

▲5七銀以下、△7三銀▲2八銀△6四銀▲6六銀△3四歩▲3九金と進みました。(第2図)

 

ここまで来ると、中飛車の▲5六歩型が光っています。というのも、通常形の▲5五歩型だと△7三桂~△6五銀という攻め筋がありますが、第2図では▲6五同銀と応じて無効になるからです。角道を二重に止めないことで、居飛車からの仕掛けを牽制することができているのです。

澤田六段は仕掛けが容易ではないと見て、△4二金寄▲3六歩△2四歩と囲いを発展させましたが、▲5九金△3三角▲4九金右△2三銀▲5五歩と万全の態勢を作ってから飛車先を伸ばして、中飛車満足の序盤となりました。(第3図)

 

中飛車は金銀3枚の穴熊が完成したので、もう相手からの仕掛けを警戒する必要はありません。むしろ、自分からどんどん攻めを狙うべき局面です。本譜は▲5四歩を受けるために△5二飛と辛抱しましたが、▲6八角△2二玉▲7七桂と全ての攻め駒が使える形になり、全軍躍動となりました。

 

話が長くなりましたが、要点をまとめると、

(1) 角道を二重に止めない。
(2) 左銀の配置を使い分ける。
(3) 囲いは相手よりも少し堅くする。

これらの方針が、中飛車を指しこなす上でのマニュアルと言えるでしょう。

 

中飛車側の成功例を取り上げましたが、これはあくまで変化の一例に過ぎません。先手中飛車VS△6四銀型の将棋は、互いに駒組みの幅が広く工夫の余地が多いので、今後も多く指されることでしょう。どちらを持っても不満の無い将棋だと考えられます。

 

また、5筋に位を取られても居飛車が作戦負けになることはないということが証明されたので、第4図のような居飛車が早い段階で△5四歩を突く将棋は激減しています。そもそも、この将棋は5筋の歩がぶつかりやすいので振り飛車の捌きを誘発しているような印象があり、居飛車が勝ちにくい戦法だと思います。第4図の将棋はもはや過去の遺物で、衰退の一途を辿っていると言えます。

 

 

ゴキゲン中飛車

 

出現数は僅か5局。先手中飛車の劣化とも言える戦法なので、そこまで魅力を感じないのかもしれません。超速が強敵で、内容的にもゴキゲンが苦しめられている将棋が多いですね。

一時期は4四の地点に銀を配置する銀対抗が主流でしたが、先手中飛車の項目で記したとおり、角道が二重に止まる形なので、あまり芳しくない状況です。

個人的に、ゴキゲン側の唯一の希望ではないかと考えているのが、この将棋です。(第5図)

 

△4一金型の状態で、美濃+△4二銀型を作る将棋です。▲4五銀が気になる攻め筋ですが、△3二金▲3四銀△4四角▲2四歩△同歩▲同飛△2二歩▲2八飛△5一飛と振り飛車は形を整えて、カウンターの準備を着々と進めます。ここまでは定跡化されている進行ですね。2・3筋の細かい損は気にしないことがコツです。(第6図)

 

2017.12/13 第76期順位戦B級2組8回戦 ▲飯塚祐紀七段VS△佐々木慎六段戦から。

ここで2筋の突破を狙うなら▲2三歩が考えられますが、△同歩▲同銀成△3一金▲2二歩△3三桂で受け流されるとあまり効果がありません。居飛車は2筋に攻め駒が渋滞していて、成銀が戦場から取り残されてしまいそうです。

 

よって、第6図では▲4五銀△7一角▲3五歩と銀を中央へ活用するのが本筋ですが、△3三桂▲3六銀△5六歩で振り飛車も充分、戦える将棋です。(第7図)

 

▲5六同歩は△同飛が銀取りで調子が良いですね。また▲5八金には△4四角が絶好の活用です。先手は右の銀が4六に配置できないので、△5五角のラインが見た目以上に受けにくいのです。私は居飛車党ですが、第7図の局面は後手を持って指してみたい印象を受けます。

 

ゴキゲン中飛車VS超速において、ゴキゲンが互角以上に戦うためには、(Ⅰ)5筋の位が負担にならないようにする。(Ⅱ)5筋を交換した後、居飛車から中央を圧迫されないようにする。このどちらかの条件を満たさなければいけないと考えています。

 

そして、現環境でゴキゲンは、第5図の将棋以外でこの条件をクリアすることができていないと思われます。つまり、頼れる指し方が一種類しかないので、これを主軸にして戦うのは非常にリスキーであると言えます。これが採用率の低い理由ではないでしょうか。

 

角交換振り飛車

 

11局出現。先手中飛車の次に多く指された振り飛車です。先後に関係なく採用できること。居飛車側からの急戦を恐れる心配がなく、じっくりとした将棋になることが支持を得ている理由でしょうか。

居飛車目線の話をすると、基本的に囲いは矢倉か銀冠。右の銀は▲4七銀型か▲3七銀型を選ぶことになります。個人的には銀冠+▲4七銀型が最強かと思いますが、組み合わせに関してはどれも一長一短があるので、プレイヤーの好みと言えるでしょう。

ところで角交換振り飛車を指す際には、複数のオープニングがあります。皆様はこのようなオープニングを覚えていますか?(第8図)

 

2017.12/7 第76期順位戦C級2組7回戦 ▲村中秀史六段VS△神谷広志八段戦から。

ゴキゲン中飛車の出だしから△5二飛ではなく△3二飛と回る菅井流三間飛車です。△4二銀・△2二飛型の形を作ることがこの作戦の趣旨です。銀を4二に配置することで△5三銀型と△3三銀型を選ぶことができるので、従来の角交換振り飛車よりも駒組みの幅が広いことが利点でした。

 

以前はそれなりに見る機会の多い将棋でしたが、12月ではたった1局しか登場していません。なぜでしょうか?

理由としては、第8図の局面から居飛車に反発されたときに、本当に対応できるのかどうかという疑問が浮上したからだと思います。具体的には、▲2二角成△同飛▲5三角で馬を作りに行く手順です。(第9図)

 

ここから進行の一例としては、△4二銀▲8六角成△4四角▲8八銀△6二玉▲7七銀△7二玉▲6八玉△3三銀が考えられます。後手は次に△2四歩から逆棒銀を見せて、先手の駒組みの立ち遅れを咎めようとしています。(第10図)

 

しかし、ここで▲7五馬と指されると、逆棒銀は上手くいかないように思います。▲7五馬は▲6五馬~▲5四馬を狙っていて、そこに馬を配置できれば2七を手順に受けることができます。

また、5四の歩が取れなくても、馬を5六や4七に配置できれば、後手の攻めを牽制することができるので、後手は2筋を制圧するような展開にはなりません。よって、第10図は居飛車満足の序盤と言えるでしょう。

 

角交換振り飛車は何か決定的な対策が出た訳ではないので今後も指され続けると思いますが、菅井流三間飛車に関しては、やや後手が危険なので下火になりつつあると言えます。

 

四間飛車

 

8局出現。その中で、四間穴熊を目指した将棋が2局。藤井システムが3局。

居飛車の対策としては、やはり穴熊が最強の戦法です。
藤井システムの将棋も、振り飛車側が工夫を凝らしていますが、それが実っているとは言い難い状況です。現環境は、居飛車の旗色が良いですね。

 

角道を止める振り飛車(四間飛車は除く)

 

8局出現。居飛車穴熊や銀冠といった持久戦の将棋に対して分が悪く、四間飛車同様に、振り飛車が苦戦気味です。ただし、先手番の三間飛車に関しては、少し事情が違います。(第11図)

 

第76期順位戦C級1組8回戦 ▲村田顕弘六段VS△千葉幸生六段戦から。

初手から▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△3四歩▲6八銀というオープニングです。

ここで△7七角成▲同桂△8六歩▲同歩△同飛と8筋を攻められても、▲6五桂で切り返せるので問題ありません。

 

このように、先手番の三間飛車は▲6六歩を後回しにできるので、角交換系統の将棋と、普通の振り飛車を両天秤にして駒組みを進めることができます。これは他の振り飛車にはない利点です。

居飛車の陣形を見て、それと相性の良い形を選ぶ必要があるので指しこなすのは大変ですが、角交換振り飛車と普通の三間飛車が両方指せるプレイヤーにとっては、面白い作戦だと思います。

 

石田流

 

たった3局のみ。そもそも、▲7六歩△8四歩という出だしが多いので、出現率が低いです。また、4手目に△1四歩と突いて、相振り飛車と居飛車持久戦を両天秤にする作戦(▲1六歩と受ければ端が争点になるので相振り。△1五歩と突き越せれば位が大きいので対抗型を選ぶ)が厄介な印象もあります。

居飛車党が避けているのかもしれませんし、振り飛車党が避けているのかもしれません。どちらの陣営にも避ける理由があるので、対局数が少ないのかもしれませんね。

 

その他の振り飛車

 

3局出現。ただし、特筆するようなことは無い印象です。

 

相振り飛車

 

8局出現。12月は非常に斬新な戦法が登場しました。新戦法を編み出したのは、菅井竜也王位です。(第12図)

 

2017.12/23 第11回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲菅井竜也王位VS△豊島将之八段戦から。

先手が▲9六歩と端歩を突いたところです。これに対して△9四歩と受けると、先手に▲7七角~▲9五歩という攻め筋を与えます。豊島八段は、それは嫌だと端歩を無視して△3二飛と指しましたが、菅井王位は▲5五歩△6二玉▲9五歩で端の位を取ります。

そして、その後は▲7八金~▲6九玉~▲7九玉と玉を左に囲ったのが面白い構想でした。(第13図)

 

ここまで進むと先手の狙いが見えてきました。後手は△8二玉から美濃囲いに組みたいところですが、玉が9筋に近づくと▲8五桂からの端攻めに直撃するので、利敵行為になってしまう恐れがあります。

本譜はそれを警戒して△6二銀と囲いましたが、これは妥協した印象で、あまり良い囲いとは言えません。対する先手は▲5九金~▲4八銀~▲5七銀上で堅さと広さを兼ね備えた囲いを作り、ペースを握りました。

つまり、この作戦の意図は囲いの性能に差を着けることで、実戦的に勝ちやすい局面を作ることなのです。

 

まだ出始めたばかりなので判断がつきませんが、実戦的に勝ちやすい性質は、人間的には大いに魅力的な要素です。初手に▲5六歩を突くプレイヤーには心強い味方になるのではないでしょうか。

 

今回のまとめと展望

 

・現環境は、先手中飛車と角交換振り飛車が主戦場。どちらの戦法にも共通していることは、駒組みの幅が広く、すぐに前例から離れやすいこと。逆に、ゴキゲン中飛車や藤井システムのような深い局面まで定跡化されている将棋は下火である。

・角道を止める振り飛車は、基本的に持久戦に対して旗色が悪い。しかし、先手番三間飛車に関しては、鉱脈が眠っているように感じる。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



3 COMMENTS

やんす

石田流(3手目75歩)は後手14歩で両天秤する方法が厄介で減少したと聞きますが、先手中飛車に対して56歩34歩58飛14歩で両天秤にする方法はなぜ流行らないのでしょうか?
菅井 竜也 王位 vs. 郷田 真隆 九段 第67回NHK杯準々決勝第4局において一度前例があるようですが、その後指されていません。
先手中飛車の場合は、石田流は3手目75歩と指した時と異なり、また28飛と戻れるからでしょうか?
前回から質問ばかりで申し訳ありません。もしよろしければ、ご教授のほどよろしくお願いいたします。

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あらきっぺ

先手中飛車の場合は、石田流と異なり、また28飛と戻れるからでしょうか?>確かに、そういった側面もありますね。

あと、△1四歩に対して▲1六歩と受けられた場合、後手は相振り飛車を目指すのですが、そのとき、先手に玉を左側へ移動する将棋にされると、端歩の突き合いがプラスに作用しにくいという意味もあるでしょう。

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