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第3回世界将棋AI電竜戦本戦の出場記(初日編)

どうも、あらきっぺです。

少し遅めの話題ではありますが、12/3~12/4に、第3回世界将棋AI電竜戦本戦が開催され、そこで私は「人間と AI の合議」という形でエントリーいたしました。

今回は、そのときの模様を私目線で振り返ってみたいと思います。

お知らせ
今回のブログでは、 dlshogi の評価値及び読み筋を示す画像や文章が散見されますが、これについては開発者の山岡忠夫様から個別に許可を頂いた上での掲載になります。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。

 

なぜ、 AI との合議で参加した?

 

まず、電竜戦の模様を振り返る前に、今回、なぜ私が「人間と AI の合議」というスタイルで参加したのかを説明したいと思います。

これは端的に述べると、自分の疑問を解決したかったからという理由があったからです。

この2、3年、私は将棋ソフトは水匠しか活用していなかったのですが、今年の2月頃に dlshogi を導入し、複数のソフトを用いて検討する環境になりました。そして、今年の8月頃には棋神アナリティクスも活用するようになり、現在、検討時は4種類のソフトを見るようになっています。で、そうなるとある疑問が浮上してくるんですよね。

 

どれを信じれば良いのか分からねぇ

 

世の中には十人十色という言葉がありますが、これは AI も同じで、皆さん、違うことを仰ることは少なくなかったりします。

もちろん、全てのソフトの最善手が一致したり、評価値が似たような数字になることもあります。しかし、そういった満場一致という場面は、人間の目から見ても判断が分かりやすい局面であることは多いんですよね。こちらが求めているのは難所での具体案なのですが、そうした難しい局面は AI にとっても難しいので、意見がバラけてしまうのです。常日頃、そんな状況で検討しているので、自分の研究が正しいのかどうか、イマイチよく分からなくなっているところはありました。

 

また、 dlshogi を導入したことで、水匠の意見が間違っている場面があることが知れました。同時に、 dlshogi の意見が間違っている場面があることも知りました。つまり、検討時に両者の意見が割れたときには、片方が嘘をついている可能性があることが推測されます。

こうした状況は一種類のソフトを使っていたときには絶対に分からなかったことなので、今までよりも将棋の理解度が上がったことは確かです。しかし、同時に「自分は将棋ソフトの嘘を見抜くことが出来ているのか?」「ソフトを上手く使いこなせているのか?」という疑惑も出てきたのです。

 

疑問点は、まだあります。私は家庭用 PC で将棋ソフトを動かしているのですが、コンピュータ選手権や電竜戦といった大会になると、開発者の方々はクラウドサービス(AWS、GCP など)を用いてソフトを動かされるケースがしばしばあります。これは言うまでもなく、その方が将棋ソフトの棋力が上がるからですね。

そして、そういったハイスペックの環境で動かす将棋ソフトは、自分が使う将棋ソフトとどの程度の棋力差があるのかは、常々、気になっていることではありました。人間同士の対局だと、自分が有力と思っている研究を格上相手にぶつけても、完膚なきまでに叩き潰されることはよく起こり得ます。それが AI でも同じことが起こるのか? ということは疑問でした。また、どの程度の評価値をリードすれば勝てるのか(どの程度がデッドラインなのか)ということも知りたい事実の一つでした。

 

話をまとめると、

・自分は正しく研究が出来ているのか?
・自分は上手くソフトを使えているのか?
・トップレベルのソフトと自宅のソフトは、どの程度の差があるのか?
・トップレベルのソフトに、どの程度の評価値の差をつければ勝てるのか?

こうした疑問があったのです。

そして、これらを確かめるためには、実際に最強レベルの AI と戦うのが一番ではないかと考えました。ゆえに、今年は「人間と AI の合議」というスタイルで参加したという訳です。

 

合議は、一体何をしている?

 

ところで、「人間と AI の合議」というスタイルについて、以下のような感覚を抱かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「人間と AI の合議」って言うけどさ、それってソフト指しをカッコよく言ってるだけじゃね?

確かに、対局中に将棋ソフトを動かす訳ですから、そう感じられるのも自然なことかと思います。けれども、私はソフト指しと AI との合議は、似て非なるものだと考えています。

 

私はソフト指しは行ったことが無いので今一つ要領は分からないのですが、ソフト指しを行うチーターは、(おそらく何も考えずに)ソフトが示す最善手を選んでいるだけだと思われます。つまるところ、自分の思考を全て AI に任せている訳ですね。

対して、 AI との合議は、ソフトが示す候補手のどれが最適なのかを、人間が判断します。「そんなの、既にソフトが最善手を示しているだろ」と思われるかもしれませんが、これから述べる話を踏まえると、いかに人間が最善手を選ぶことが容易ではないことがお分かり頂けるかと思うので、しばしお付き合いくださると幸いです。

 

まず、先述したように私は複数のソフトを用います。今回の電竜戦では、水匠5と dlshogi (第2回世界将棋AI電竜戦エキシビジョンバージョン)を使用しました。検討時、二つのソフトの見解が一致した場合は、確かに悩むことはありません。問題は、以下の場合です。

 

Pattern 1 【 評価相反型 

評価相違型

上の画像は、将棋GUIにてソフトを検討させたときに表示される評価値や読み筋を抜粋したものです。なお、上の四つは dlshogi 、下の三つは水匠の検討結果になります。

ご覧のように、 dlshogi は△5三桂打を最善としており、評価値は208。すなわち先手良しと見ています。しかし、水匠は△5三桂打を次善と判断していますね。また、形勢もマイナス評価を出しています。

水匠の最善は△同歩で、評価値は-401。(後手有利)けれども、 dlshogi はこれを悪手認定しており、464(先手有利)の評価を出しています。つまり、お互いに相手の意見が間違っていると判断していることが分かります。これが評価相反型ですね。

評価相反型は、お察しのように片方のソフトが確実に嘘をついています。また、自分の経験上、この状況に入ると10~30手くらい進めないと見解が一致しません。ゆえに、このパターンの最善を瞬時に判断するのは、なかなか難しいところがあります。

 

Pattern 2 【 最善相違型 

最善相違型

上の画像で両者の最善手と次善手は、全てマイナス評価になっています。すなわち、この局面は後手が指せると判断していることが分かりますね。なので、評価は一致しています。

けれども、候補手の出し方はどうでしょうか? dlshogi は△9五歩を最善としていますが、水匠は次善手です。逆に、水匠の最善である△2六角は、 dlshogi だと次善になっていますね。(なお、画像では第三候補に挙がっていますが、評価値は△2六角の方が上なので、この場合は△2六角が次善と判断します)

このように、局面の優劣は一致しているものの、両者の最善手が異なるケースが最善相違型です。このパターンはミスをしても一気に負けになる訳ではないですが、確実に形勢悪化の要因にはなるので、やはり気が抜けない場面と言えます。

 

Pattern 3 【 最善分散型 

最善分散型

これは、主に序盤の初期から中盤の中期にかけて遭遇しやすいシチュエーションです。画像が示すように、お互いの候補手は全て同じで、評価値も目立った差はありません。こうした状況も、選ぶ側としては途方に暮れますね。

最善分散型はどれも評価が似通っているので、「何を選んでもミスにはならないんじゃない?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ソフトは深堀りしていくと「さっき言ってたことは間違ってました (ノ≧ڡ≦) テヘペロ」みたいなことは頻繁にあるので、こういう場面も油断は出来ないのです。

 

ちょうどいい機会なので、ノード数(探索局面数)による違いの具体例を示しておきましょう。

浅い探索だと、互角だが......

図は、手前側が△2八歩成と指した局面です。ここでは dlshogi の評価値とノード数に注目してください。

画像が示すように、ノード数が約10万程度だと、最善手を指せば-97だと述べていますね。この情報だけ見れば、多くの人はこの局面が互角だと信じることでしょう。

これを踏まえた上で、以下の画像をご覧ください。

今度はノード数を約400万にしました。とんでもないことが起こっていますね。何と dlshogi は-624と主張しているではありませんか。将棋ソフト的には、もはや勝負ありと言える数字です。

これが先程に述べた、「さっき言ってたことは間違ってました」という状況です。要するに、浅い探索では真の姿が見えてこないのですね。

つまり、最善分散型に話を戻すと、表層的には分散しているようでも、実際には分散していないという可能性が否定できないのです。だから、このケースも判断が悩ましいのですね。

 

このように、複数のソフトを使って検討すると、上記の三パターンの場面に出くわしたときの判断に迷います。裏を返せば、そうした場面の取捨選択が「人間と AI の合議」の肝であり、技術が問われる部分です。例えるなら、楽器のチューニングのようなものでしょうか。

加えて、対局においては、どこで持ち時間を投資して深掘りさせるかということも重要です。先述したように、評価値はノード数によってコロコロ変わるので、上辺だけの数字で判断しても(あまり)意味がありません。将棋には一局の方針を大きく分ける場面があり、可能であれば、そうした要所で持ち時間を投資したいのです。そこも合議の腕の見せ所だと言えるでしょう。

 

こうしてみると、「人間と AI の合議」というスタイルは、かなり考える部分が多く、スキルが求められることがお分かり頂けたかと思います。同時に、こうした背景があるならば、ソフト指しとは似て非なるものという筆者の主張も頷けるものがあるのではないでしょうか。

……ずいぶん前置きが長くなってしまい、恐縮です。それでは、電竜戦の模様を振り返っていきましょう!

 

初日 午前の部

 

前述したように、今回は「人間と AI の合議」というスタイルなので、ソフトを動かしながら対局することになります。当日は、画面の右側に将棋所(対局用)を開き、左側に将棋GUI(検討用)を開いて対局を進めていました。

こんな感じ

 

なお、電竜戦の形式を簡単に説明すると、持ち時間は10分+2秒のフィッシャールール。初日は10局戦い、その結果によって、二日目はA級・B級・C級のリーグ戦に分かれることになります。また、1・2局目の相手はランダムですが、3局目以降はスイス式トーナメントになります。

 

初戦のお相手は baron。DL系のソフトです。全く予想していない戦型となりましたが、幸先よく勝利。しかし、2回戦TMOQ (特大もっきゅ)戦では準備の浅い進行になり、敗戦。しかも、最後はトン死するという有様でした。合議制での対局は人生初でしたが、持ち時間が想像以上に溶けることと、指し手の取捨選択がまだまだヘタクソだなということがよく分かりました。

 

3回戦のお相手は Grampus。 Grampus はNNUE系のソフトであり、第1回電竜戦では2位になった実績がある強豪です。また、 Threadripper 3990X を使っているのでマシンスペックも申し分ないですね。

なお、さっきからDL系とかNNUE系と言ってるけど、それは一体、何? と思われた方は、以下の動画をご覧いただけますと幸いです。

 

 

Grampus 作戦部分

さて、 Grampus との対局ですが、作戦はまずまず成功し、この局面は勝ちやすい将棋に持ち込めたかなという感触を持っていました。まぁ、 AI 相手に勝ちやすいとか言っても意味ないかもしれないんですが笑

ちなみに、対局時のこちらの評価値は、以下のようになっていました。

最善相違 分からなかった

ご覧のように、最善相違型ですね。 dlshogi は▲5四歩で OK と仰っていますが、水匠は候補にすら上がっていないので、絶大な信頼はおけません。また、自分の感覚としては、▲5四歩は1九の香をあっさり取らせるので「粗いなー」というのが第一印象でした。

ただ、25秒くらい思考させると水匠も▲5四歩を評価し出したので、本譜はそれを選択。しかし、数手ほど進むと両者ともマイナス評価になったので、「やっぱり良くなかったか…」という後悔の念が渦巻いていました。同時に、この辺りがマシンスペックの差なのかなぁとも感じましたね。

とはいえ、形勢としては難しく、一進一退の攻防が続き、以下の局面を迎えます。

Grampusの評価

ここは Grampus も評価値を0と出しており、非常に難しい場面であることが分かります。そして、こうした均衡の取れている局面はソフト同士の判断が割れやすかったり、ミスが起こりやすい場面でもあります。

ちなみに、こちらの PC では dlshogi が▲8三とと捨てて先手良しと主張していました。

ただ、この局面に至る流れを汲むと、▲8三とは相当に指しにくかったです。というのも、このと金は74手目から手塩に掛けて作った攻め駒であり、それをあっさり捨てるのは「さすがにヤバいんじゃないか」と自分の直感が働きました。既に残り時間は1分10秒を切っていましたが、ここが勝負所と見て時間を投資できたのは、良い判断が出来たと思います。

ここで私は26秒使い、▲6五角を選択します。なお、この手はNNUE系の評価が低く、画像が示しているように水匠は悪手認定します。同じくNNUE系である Grampus も同様で、98手目には-402の評価値を叩き出しました。

しかし、 dlshogi はこれで先手良しと見ています。数手ほど進むと、評価値の傾きはさらに大きくなりました。

この局面は、94手目で▲6五角と打ったときに想定していた局面です。この手に期待していたので、▲6五角を選択したという背景がありました。

なぜ、この進行に魅力を感じたのかというと、人間的な感覚を重視したからです。この桂跳ねは自玉の懐を広げつつ、次の▲6五桂を見せることで攻め駒不足を解消した意味があります。経験上、こうした一石二鳥の手は形勢をリードできるポテンシャルを秘めているので、これに勝負を賭けました。

とはいえ、相変わらず水匠の評価は低いですし、これで勝ちだと言い切れるほど簡単な局面でもありません。ぶっちゃけると、ギャンブルでした。ただ、このあと9三のと金が相手の銀と交換になる進行になったので、正解ルートを踏めていたような気がします。以降は時間に追われながらも、何とか勝ち切ることが出来ました。途中は水匠・ dlshogi ともにマイナス評価を出していたこと、及び Threadripper 3990X を使っている相手に勝てたのは、大いに自信になりましたね。

 

また、94手目の折衝における選択は、大いに収穫がありました。ソフトの意見を無視して自分の直感を信じても良いんだな、ということを試せたことが良かったですね。もちろん、あまりにも評価値を落とす手はダメなんでしょうけれど、迷ったときは自分の感性を信じようという指針を得れたことが大きかったです。1・2回戦は今一つ判断基準が持てていなかったので、この一勝は数字以上の価値がありましたし、自分がより上手くソフトを使えるようになるヒントを貰えた気がしました。

という訳で、午前中は2勝1敗でまずまずの立ち上がり。 Grampus に勝てるんだったら、結構勝ち進めるんじゃない? というワクワク感を抱きつつ、午後の部に挑みました。

 

初日 午後の部

 

4回戦のお相手は BURNING BRIDGES。NNUE系のソフトです。過去の電竜戦では二回ともA級入りしており、かつ第1回電竜戦TSECにおける優勝ソフトです。加えて、AI界における屈指の定跡家でもありますね。

ちなみに、 BURNING BRIDGES は当ブログにおける今週の妙手というシリーズにおいて、何度も将棋を紹介しているソフトでもあります。個人的には思い入れのあるソフトなので、対戦できて嬉しかったですね。

将棋は、角換わりの定跡形に。ただ、 BURNING BRIDGES が少し珍しい作戦を選び、以下の局面に誘導されます。

あー。これかー…..。あんま準備してなかったな…。

 

なお、この形の先後同型は、あまり定跡が整備されていない分野ではあります。 BURNING BRIDGES は、これを定跡に登録されていたようで、戦型選択の旨さを感じますね。

ただ、自分にとって幸運だったことは、この指し方は水匠との百番勝負で何局か経験していたことです。NNUE系のソフトは、割とこの指し方が好きなイメージはありますね。

ちなみに、人間界では▲4四歩や▲6五同歩と応じている前例があり、NNUE系もこれを推奨する傾向があります。が、個人的には、それは先手がリードを奪うのは大変という認識でした。

ゆえに、本譜は▲7九玉を選択。以降は dlshogi の意見を重視しつつ、直線的な攻め合いになったら水匠を重視するというアクションプランで進めると、思いの外、上手くいきました。先述したように、△6五歩と突かれた局面は精密な定跡は用意していなかったのですが、この形は仕掛け周辺は dlshogi の方が精度が高く、直線コースに入ると水匠が正しいことが多いということを経験的に知っていたことが、合議が上手くいった要因だと思っています。

なお、Grampus 、 BURNING BRIDGES と 3990X を使用するマシンに連勝したので、観戦者も意表だったようですね笑

 

 

ここまでは概ね順調だったのですが、5回戦Daigorilla 戦、6回戦の Sunechama 戦は連敗。特に、 Sunechama 戦は詰みを逃して負けてしまったので、かなり痛い敗戦ではありました。

 

ソフトを動かしているのに詰みを逃すなんて我ながら間抜け過ぎるのですが、弁解するとこれは完全にオペレーションミスでした。具体的には、見るべきポイントを間違えていたのが原因です。

ちなみに、検討中に詰みが発生すると、将棋GUIでは評価値の部分が「X手で詰み」と変わります。いわゆる Mate ですね。対局中、私は「もう何も考えずに、ここだけ見とけばいいや」と思ってしまったんですよね。それが本当に愚かでした。

というのも、詰みが発生したとき、私の持ち時間は10秒前後しかなかったので、ソフトを動かしながら対局する余裕があるとは言えませんでした。にもかかわらず、検討用と対局用の二つの将棋盤を操作しようとしていたのです。これは流石に無理がありました。

ちなみに、将棋GUIは、ソフトの読み筋をダブルクリックすると、画像のように継ぎ盤が開き、そこで読み筋を再生できます。なので、自分が取るべきだった行動は、これで Mate の手順を確認することだったんですよね。詰み手順の確認は5秒あれば十分なので、あとは将棋所の画面だけ見てれば無事に勝てていたはずです。対局後はさすがに発狂していましたが、合議対局におけるオペレーションマニュアルが一つ確立できたのは良かったとプラスに捉えました笑

あと、もう一つの救いは、後手番で用意していた定跡が正しく機能していたことです。実を言うと、この6回戦が初めての後手番だったんですよね。本局は、内容としてはこちらが苦しくなっている場面は無かったので、事前研究がそれなりの精度を誇っていたことを確認できたのは良かったです。

 

7回戦のお相手は Etude No.1 。このソフトは棋士の谷合先生が開発されたソフトです。谷合先生だから飛車振って来るのかなぁ? でも、ソフトがそうだとは限らんぞと思い、ここまでの Etude の棋譜を拝見すると、ちゃんと四間飛車に振っていました。まさに、谷合先生の化身ですね。たまに裏切って居飛車を指している将棋もあったのですが、見なかったことにしておきましょう笑

うーん、四間飛車かぁ。さすがに1秒も対策してないんだよなぁ。どうしよっかなと Etude の棋譜を追いながら悩んでいると、6回戦で二番絞りが披露していた作戦に目を惹かれました。ラッキーなことに、この作戦は普段から自分がよく指す作戦だったんですよね。はい、採用決定です。てか、二番絞りって確か定跡を積んでないんですよね? それでこのクオリティーの序盤が指せるのは、メチャメチャ大局観が良いなと感嘆しました。ここに二番絞り信者の誕生です。

そんな訳で、7回戦はただ二番絞りの肩に乗っているだけでアドバンテージを取ることが出来ました。正直、ちょっと狡いような気もしたのですが、他者の棋譜の良いところを瞬時に取り込めるのは人間の強みですね。さすがに全部一緒では申し訳ないので、68手目で自分から二番絞りの前例から変化して、勝利を掴みに行きました。

 

8回戦のお相手は Lightweight。DL系です。今年の5月に行われたWCSC32では、決勝に勝ち残っている強豪ですね。同時に新人賞も受賞なさっています。

将棋は角換わりの定跡形に。途中までは6回戦の Sunechama 戦と同じ進行です。この定跡は52手目で先手に複数の選択肢があり、本譜の進行だと60手目に再び先手は複数の道があります。本譜はあまり想定していない変化に誘導され、以下の局面を迎えました。

自分にとって、この局面は初見だったのですが、第一印象としては、「この岐れなら後手が耐えているんじゃない?」という感覚を持っていました。

なお、本局は遠山先生のご解説を頂けたのですが、似たようなご感想を仰られていましたね。

 

ちなみに、▲6九飛と回られた局面は、こちらのソフトだと△5三玉でマイナス評価になっています。持ち時間に余裕があったので、ここで1分20秒ほど投資したのですが、やはり△5三玉が最善という結果に。以下、▲5五銀に△2八角と打てという見解も一致しました。

なので、この辺りは自信を持って進めていました。そして、△2八角を打ってからは直線コースに入り、あまり変化の余地がなく進みます。その結果、97手目まで進んでみると、既にこちらは死んでいました。ここで指された▲4九飛が良い手なんですね。これには遠山先生も舌を巻いておられました。

 

この将棋は、私としては衝撃的な内容でした。途中までは後手側に評価が触れており、特に選択ミスをした感触も無いまま倒されてしまったのですから。 Lightweight の圧巻の大局観を見た思いです。同時に、準備が薄い変化に誘導されると、格上相手には勝つことが厳しいことも痛感させられました。

また、ここで敗北したことで4勝4敗になったことも地味に辛かったですね。 BURNING BRIDGES に勝ったときには、もしかしたらA級入りできるかも!? という期待感があったのですが、さすがに4敗したら届かんだろうなと思っていました。現実は甘くないなぁと気落ちしていたのですが、昨年よりは良い成績で初日をフィニッシュしたかった(去年は5勝5敗)ので、残り二つもちゃんと指そうと気持ちを奮い立たせたのが今にして思えば良かったです。やっぱり、人間はメンタル大事です笑

 

9回戦のお相手は、十六式いろは煌。このソフトは、NNUE系とDL系の合議です。こちら目線からすると、合議系のソフトは指し手が読みづらい傾向があるので手強いんですよね。

将棋は相掛かりになり、急戦調の展開になりました。

相手は守りを必要最小限にして桂を跳んでいますね。場合によっては▲4五桂と跳んでくる手も視野に入れています。

こちらは直前に指した△1四歩が緩手だったかなと後悔していたのですが、逆にこれを活かすことが出来れば、アドバンテージが取れそうとも思っていました。

ちなみに、こちらのソフトではこうした見解になっていました。最善分散型と評価相反型が入り混じったような評価値ですね。

で、問題は何を選ぶかですが、現局面では△7六飛が最強かなとは思いました。こうすれば歩得を主張できますし、▲2四歩△同歩▲同飛△8六飛といった進行になれば、△1四歩型が見事に活きてきます。

ただ、△7六飛を指すと▲8二歩で桂を取られるので、リスクの高さも伴います。ここは判断に迷った部分ですが、△1四歩型を活かしたいという気持ちと、ここでリターンを得ればその後が楽という二点から△7六飛を決断しました。

加えて、こうした相掛かり系の将棋は dlshogi の精度が高いことも△7六飛を採用した理由の一つではありました。結構、戦型によってソフトの強さって変わると思うんですよね。

案の定、本譜は▲8二歩を打たれて桂損になったのですが、30手目の△1三角を指した局面で、自分の選択は正しかったという確信を得ました。

こういう風に、当初に描いていた理想(△1四歩型を活かす)が成就した場合は、概ね形勢が好転するものです。ここまで来ると、8四の歩や4五の桂を取りに行く楽しみが残っているので先手は忙しいですね。以降は少しずつ優位を拡大することが出来ました。

 

いよいよ初日もラスト。10回戦のお相手は HoneyWaffle 。振り飛車党の古豪と言えるソフトです。

オープニングこそ四間飛車でしたが、 HoneyWaffle が飛車を振り直したことで三間の定跡形に。そして石田流の組み換えを目指す将棋になりました。

ところで、対抗形の将棋になると、一般論としてNNUE系よりもDL系の方が強いとされています。ゆえに、本局は基本的には dlshogi の意見を尊重して指していました。したがって、最善相違型になっても水匠の手は選びません。ただし、終盤においては一概にそうとも言えないので、どこで水匠の意見を取り入れるかということが鍵になると思いながら指していました。

ちなみに、この局面で我が家の dlshogi は居飛車が450くらい良いと主張します。けれども、さすがにこれは過剰な気もするんですよね。実際、ここから十数手ほど進むと、 dlshogi の評価は徐々に下がっていきます。ただ、270を下回らなければ、 dlshogi を信用しようと割り切っていました。経験上、40~60手目くらいの局面は居飛車の評価値が下がることが多いのですが、それを気にせず突き進んでいくと、再び居飛車側が盛り返すパターンはそこそこあります。

中盤は紆余曲折ありましたが、結果的には、本局もそのパターンに入って居飛車が優位に立ちました。あとは、どう着地を決めるかです。

HoneyWaffle が▲7二飛と打ったところ。なお、この手を指された瞬間、「これ、絶対 dlshogi は受ける手を読んでいて、水匠は△5八歩成で踏み込むんだろうな」ということが直感的に分かりました。視線を左側(将棋GUI)に移すと、やはりその通り。さすがに、一日中彼らの読み筋に触れていると、考えていることが分かってきますね笑

こういう「攻めか受けか」という場面はターニングポイントになり得るので、ノータイムで指す訳にはいきません。まだ1分40秒ほど残っていたので、ここは最後の使いどころかなと思いました。もしもの為に1分くらいは残しておきたいので、「この40秒でケリを着ける!」という気持ちではありました。

しばらく両者の読み筋を辿っていると、視界の端でとんでもない手があることを発見します。正直、初めは我が目を疑いました……が、確かにこれが最強の勝ち方だな、ということが読み取れてきました。水匠すげぇなと感動しましたね。

まずは△5八歩成で攻めを選び、▲5二飛成△5一金▲8二竜△4八とと迫ります。先手も負けじと▲4三香と攻め合いますが――――――

△7一金!!!

これが先程の局面で発見できた一着です。力づくで竜を移動させ、△7五角と出てしまえば居飛車の勝ちなんですね。

ちなみに、DL系のソフトはこの手を見落としやすいらしく、我が家の dlshogi も読めていませんでした。 HoneyWaffle もDL系なので、ウッカリされていたようです。ここはNNUE系の強みを上手く活かせましたね。

 

本局は、序中盤は dlshogi を、終盤は水匠を尊重することで、勝利を引き寄せることが出来ました。合議制の特色を活かせたように思いますし、111手目の局面で時間を使う判断が出来たことも良かったです。最終局で、この日一番のパフォーマンスが出せて満足でした。同時に、対局を重ねていくごとに合議対局のスキルが上がっているような実感もありましたね。

 

というわけで、初日は6勝4敗でフィニッシュ。勝ち越せたので、もうお腹いっぱいという心境だったのですが、何とA級に入っちゃってました。

 

まぁ、この結果は組み合わせの妙とか、星の巡り合わせだとかで、かなり運の要素が大きかったとは思います。途中では諦めていただけに、まさに僥倖でした。本当に僕は幸せ者だなぁ。

そんなわけで、初日はこれにて終了です!

 

 

……………..と、思ったじゃないですか。実は違うんですね。

続きは、二日目編をご覧頂けますと幸いです。ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

続き→【二日目編

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