プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(1月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。こたつとミカンの偉大さをひしひしと感じる今日この頃です。

さて。現代将棋は戦型の多様化がどんどん進んでいます。一昔前は終盤まで前例を踏襲するような将棋(矢倉91手組などは、その最たる例)もたびたび見られましたが、最近は早い段階で未知の局面に突入する将棋が多いように思いませんか。背景としては、将棋ソフトが斬新な作戦を披露したり、多くの棋士が研究にソフトを使用することで、局面を細かく検討できるようになったことが挙げられると考えられます。

個人的には様々な戦法を見る機会が増えて、現環境はとても楽しいのですが、主流の戦法の変遷が早いことは確かな事実です。それゆえに、「意味が分からない。とても理解が追い付かない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

そんな訳で、(自分自身の勉強の意味も兼ねて)今月から直近一ヵ月のプロの公式戦の棋譜を分析して、最新戦法の事情を綴っていこうかと思います。

ちなみに、「一ヶ月前の将棋を追いかけてる時点で最新じゃねーだろ」と思ったそこのあなた、鋭いです(;^ω^)

まぁ、そう仰られるとその通りなんですが、アマチュアが趣味でやってるだけなので、そこはご容赦頂けると幸いです。それでは、本題に入りましょう!

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

【最新戦法の事情 居飛車編】(2017.12/1~12/31)

相居飛車の将棋は77局ありました。戦型ごとに見ていきましょう。

 

矢倉

 

矢倉は8局出現。ただし、互いに金矢倉に組み合う将棋はたった1局のみです。原因としては、左美濃急戦を始めとする急戦策が優秀であること。雁木が流行していることが挙げられます。
特に、急戦で潰されてしまうと、一体何のために矢倉に組んだのかという話になります。そのため、矢倉を指す場合は、第1図のようなオープニングが見られるようになりました。

2017.12/23 第11回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲豊島将之八段VS△村田智弘六段戦から。

▲6六歩を突かないことで6筋を争点にしないようにしていることと、早い段階で後手に△3三銀を上がらせることで角道を止めさせるのが先手の工夫です。これなら後手の作戦を限定させることができますね。

しかし、この指し方にも懸念点が二つあります。一つは▲2五歩を早めに決めることで、自分の作戦の幅も狭めていること。(雀刺しや森下システムなどは使えない)もう一つは、この指し方をしても、相矢倉になる保証はないことです。後手は第1図から△3三角と上がって雁木にすることもできますし、最近ではこのような作戦も登場しました。(第2図)

 

2017.12/5 第76期順位戦 C級1組8回戦 ▲北島忠雄七段VS△千田翔太六段戦から。

後手が△4三金左と上がったところです。従来なら△4三金右と上がって、同型矢倉へ進むのが定跡でしたが、それは先手が先攻する権利を握っているので、最低でも先手は互角になる将棋でした。

この△4三金左の狙いは、囲いに費やす手数を削り、それを攻めに分配することにあります。後手にとっての理想は、第2図から▲6八角△3二玉▲7九玉△6五歩▲同歩△同桂▲6六銀△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩△8一飛と角交換になる変化に進むことです。(第3図)

 

後手はバランスの良い構えで、角の打ち込みに強いことが自慢です。対して、先手陣は角を打ち込まれる場所が複数ありますし、4七の銀が攻めにも受けにも中途半端な駒なので、芳しくない状況と言えます。

この作戦の成否はまだわかりませんが、現状、勝率は悪くはなく、先手にとっては厄介な敵がまた一人増えたなという印象です。

現環境は後手に工夫する要素が多くあり、先手矢倉受難の時代と言えるでしょう。様々な作戦が登場したことで、後手はフォーマルな指し方を採用する必要が無くなりました。矢倉は絶滅した訳ではありませんが、両者ががっぷり四つに組み合う相矢倉の時代は終りつつあると言えるのではないでしょうか。

 

 

角換わり

角換わりは18局。約23%の出現率で、12月に最も多く指された戦型です。先述した通り、矢倉にそこまで魅力を感じないので、多くの居飛車党が角換わりに流れていると思われます。

現状は、猫も杓子も▲4八金型(△6二金型)を指していて、もはや▲5八金と上がる将棋に違和感を覚えるくらいです。もちろん優秀だからこれほどの市民権を得ているのですが、私はこの▲4八金型には二つの課題があると考えています。順に見ていきましょう。

 

【課題1 待機策問題】

両者が自然に▲4八金型の腰掛け銀を指すと第4図のような局面になりがちです。角換わりを得意とされているプレイヤーなら、誰しも一度は遭遇したことがある局面ではないでしょうか。

 

2017.12/14 第76期順位戦 C級2組7回戦 ▲増田康宏四段VS△高見泰地五段戦から。

ここで後手が△6五歩と仕掛けてきたら、▲同歩△同桂▲6六銀△6四歩▲4五歩と対応して先手まずまずという印象ですが、仕掛けずに△4四歩や△6三銀で待機された場合、どのように打開するかは正直、謎です。

第4図から先手の打開が難しいのであれば、この局面に至る前に、先手に工夫が必要となります。例えば、▲2六歩型に組んで、▲4五銀~▲2五桂で打開するのは一つのアイデアですね。

 

【課題2 早繰り銀問題】

▲4八金・▲2九飛型に組むには、早い段階で▲3六歩~▲3七桂を指さなければいけません。つまり、右辺に手数を費やすので左辺はどうしても駒組みが遅れることになります。
後手はそこに目を付けて、早繰り銀で7筋から速攻を目指す将棋が、このところ増加傾向にあります。(第5図)

 

2017.12/24 第3期叡王戦本戦 ▲佐藤天彦叡王VS△金井恒太六段戦から

▲5八金型に対して早繰り銀を発動しても、腰掛け銀+▲6六歩型を作られると上手くいきませんが、▲4八金・▲2九飛型ならその受け方は手数が間に合わないので、早繰り銀が有力な作戦に化けたのです。

第5図からは▲7五同歩△同銀▲2四歩が変化の一例です。後手は早繰り銀が捌けていることが主張。先手は自分だけ右側の桂を使えていることが主張です。どちらの言い分が大きいかという将棋ですね。

どちらの対策も、先手がすぐに不利に陥るという怖さはありません。ただ、基本的に後手番は序盤を五分で乗り切ればOKというスタンスであり、どちらの将棋もその条件を満たしているような印象を受けます。互いに不満無しという状況なので、今後も指され続けると思います。

 

 

相掛かり

 

7局出現。特定の形が流行している訳ではなく、個々のプレイヤーが自分好みの将棋を指している印象を受けます。何か画期的な戦法が生まれたということはなさそうです。

 

雁木

 

14局出現。全体の約16%を占めており、相変わらずの流行りっぷりです。
雁木に組むパターンは大きく分けると二つあり、(1)後手番で角換わりを拒否するために組むパターン。(2)先手番で、自発的に組むパターン。があると考えています。

雁木に対しては複数の対策がありますが、速攻でやっつけてしまおうという方針が最近の風潮です。まずは、(1)のパターンから見ていきましょう。(第6図)

 

2017.12/21 第76期順位戦B級1組8回戦 ▲木村一基九段VS△山崎隆之八段戦から。
先手が▲4五歩と突いたところです。△同歩▲同銀△4四歩とおとなしく指せば無難ですが、相手にだけ歩を持たれると作戦負けの原因になりそうです。
よって、本譜は△6三銀と上がりましたが、▲4四歩△同銀▲4八飛△4二飛▲6九玉と相手に悪型を強いらせてから悠々と玉を囲って、先手満足の序盤となりました。
角換わり拒否の雁木に対しては、他にも早繰り銀や右四間飛車などの急戦策もあり、今は雁木側がそれに手を焼いている印象を受けます。

 

では、(2)のパターンはどうでしょうか。こちらは先手番なので、(1)よりも受ける条件は良いはずです。にもかかわらず、やはり速攻を仕掛ける指し方が主流です。裏を返せば、矢倉のような持久戦で雁木に対抗するのは分が悪いということなのでしょう。

個人的に、なるほどと思った将棋を紹介します。(第7図)

 

2017.12/20 第59期王位戦予選 ▲深浦康市九段VS△佐々木勇気六段戦から

後手が△7三桂と跳ねたところです。囲いよりも攻撃態勢に手数を費やしており、先攻することを目標にしていることが窺えます。

先手は雁木を完成させるために▲6七銀上としたいところですが、△6五歩▲同歩△7五歩の仕掛けが気になります。7~8筋が主戦場になると、5八の金が受けに役立たない駒になってしまう懸念があります。

したがって、本譜は▲6七金右と上がりました。確かに、この方が7七の地点に駒の利きが多いので、相手の攻めに備えていると言えます。しかし、先手が雁木に組めなくなったことに着目して、佐々木六段は△4四歩~△4三銀上~△3二金と持久戦へ方針を切り替えます。これが好着想でした。(第8図)

 

互いに似たような陣形ですが、後手の方が金銀の連結力が勝るので、良い囲いを作っています。先手は6八の銀が▲7七銀と上がる形になれば一人前なのですが……。

また、先ほど私は雁木に対して、矢倉のような持久戦で対抗するのは分が悪いと記しました。第8図の先手は、そのパターンに嵌っていると言えます。よって、この局面は後手作戦勝ちです。

この急戦と持久戦を使い分ける佐々木流は面白い作戦で、雁木側は新たな課題を突き付けられたと言えるでしょう。

 

現環境では、雁木は持久戦になれば力を発揮するものの、急戦策にはやや旗色が悪く、何か対策が求められていると言えます。雁木側から仕掛けるような駒組みが確立されれば、また環境が変わるでしょう。

 

横歩取り

15局出現。全てが△3三角戦法。なかなかプロの公式戦で相横歩取りや△4五角戦法は出ないものですね。

勇気流や青野流のように先手が8筋に歩を打たない作戦が主流で、▲3六飛~▲2六飛と飛車を2筋に戻して穏便に指す将棋は少なかったです。何か厄介な作戦があるという訳ではないと思うのですが、やや受け身になってしまう性質はあるので、現代向きではないのかもしれません。

個人的に気になっているのは、青野流で後手が早めに△2六歩と垂らす将棋です。(第9図)

 

2017.12/15 第11回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲松尾歩八段VS△斎藤慎太郎七段戦から。

△2六歩では、代えて△7六飛▲7七角の交換を入れてから△2六歩を垂らす方が、多くの前例があります。ただ、それには▲8四飛△8二歩▲8三歩と垂れ歩を無視して攻める順があります。後手目線だと、せっかく垂らした歩を相手にしてもらえないので、やや不本意な印象があります。(第10図)

 

しかし、第9図のタイミングで歩を垂らせば先手は▲8四飛と回ることができないので、第10図の変化を回避することができます。もし△2六歩に対しておとなしく受けるしかないのであれば、後手にとっては気がかりな変化を一つ潰すことができるので、相手の作戦を限定させることができます。ワンテンポ早い垂れ歩を先手が咎めることができるのかどうか、注目しています。

 

勇気流については、正直なところ良く分かりません。ただ、後手の方がミスが出やすい将棋なので、実戦的には先手の方が勝ちやすい傾向があるように感じます。その辺りが流行の理由でしょうか。後手の対策も分散しているので、もう少し様子を見たいですね。

 

一手損角換わり

 

僅か3局のみ。後手は普通の角換わりを持って特に不満が無いことが激減している理由と思われます。

サンプルが少なすぎて、特にコメントすることがありません。個人的には、少し寂しい。

 

その他の戦型

 

12局出現。12月の目玉は、何といっても2手目△6二銀から7筋の歩を取らせる作戦です。(第11図)

 

2017.12/6 第59期王位戦予選 ▲三浦弘行九段VS△糸谷哲郎八段戦から。

ここで▲2四歩△同歩▲同飛と歩交換をすれば、先手は確実に歩得することができます。しかし、そんなことは気にせず△2三歩▲7四飛△7三銀▲7五飛△3四歩▲2五飛△6四銀とあっさり歩を取らせて、手得を主張するのが、この戦法の骨子です。(第12図)

 

後手は次に△7二飛から先手陣を揺さぶる手が狙いで、7筋の歩が無いことを上手く利用しています。先手は上手く7六の歩が安定すれば、満足な序盤を迎えることができるでしょう。

第12図の局面は先手の歩得VS後手の手得という構図でいい勝負だと思いますが、後手の方が駒組みが分かりやすいことからか、現状は後手の勝率が高いようですね。

細かい定跡を覚える必要がないので、研究勝負が好みではないプレイヤーにはぴったりな作戦ではないでしょうか。


【まとめ】

 

・現環境は、角換わり・横歩取り・雁木の三つの戦型が主戦場。ただし、雁木は速攻が弱点であることが露呈しつつあるので、徐々に下火になる可能性が高いように思う。

・2手目△6二銀→△7四歩を取らせる作戦はまだまだ未知数ながらも、今後、流行する可能性は大いにある。

それでは、また。次回は振り飛車編について書く予定です。ご愛読ありがとうございました!

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