最新戦法の事情【5・6月合併号・振り飛車編】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

最新戦法の事情(2019年12月号・居飛車編)

最新 居飛車

どうも、あらきっぺです。そういえば、今月は一度も雪を見なかったですね。寒いのはそんなに好きではないのですが、雪の風景は絵になるので一日くらいは見てみたいものです。

 

タイトルに記載している通り、プロ棋界の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。

居飛車 見出し最新戦法の事情(2019年11月号・居飛車編)

 

注意事項

 

・プロの公式戦の棋譜から戦法の評価を分析しています。調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あくまで、一個人の見解なので、妄信し過ぎないことを推奨いたします。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2019.11/1~11/30)

 

調査対象局は93局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

 

角換わり

先手が勝ちやすい。


26局出現。やはり基本形から△5二玉→△4二玉と玉を往復する将棋が多く指されており、(7局出現)現環境の角換わりにおいて重要なテーマとなっていることが読み取れます。

 

先手には三つのプラン(攻撃志向型・無理攻め誘発型・駒組み移行型)を選ぶ権利があり、それぞれを比較検討している段階にありました。ただ、「駒組み移行型」に関しては、後手に有力な指し方が登場したことで廃れつつあります。例えば、こちらの将棋は後手の成功例と言えますね。

NHK杯 糸谷第69回NHK杯 糸谷哲郎八段VS千田翔太七段戦の解説記

 

そこで、先手は「攻撃志向型」か「無理攻め誘発型」のどちらかを選ぶようになりました。今回は、攻撃志向型の将棋を掘り下げて行きましょう。

 

攻撃志向型とは、ご覧のように▲4五桂と跳ねて果敢に攻めて行く将棋のことを指します。

後手は早い桂跳ねを咎めたいので、△2二銀と引いて桂を取りに行く姿勢を見せます。以下、▲7五歩△同歩▲5三桂成△同玉▲7四歩と進めるのがこの形の定跡ですね。(第1図)

 

ここからは、△4四歩▲4五歩△5五歩▲7三歩成△同金▲4六桂△5六歩▲5四桂△同玉▲4四歩が定跡化された手順です。長手数ではありますが、ここまでは以前の記事でも触れているので、ざっと進めます。(第2図)

 

さて。この局面が分岐点です。バラバラの陣形をどのように収拾するかが後手のテーマですね。そのための手段の一つに、△7四桂という手が挙げられます。(第3図)

 

2019.11.1 第69期大阪王将杯王将戦挑戦者決定リーグ戦 ▲広瀬章人竜王VS△羽生善治九段戦から抜粋。

これは、▲7四歩と叩かれる攻め筋を防ぎつつ、△8六歩からの攻めを見据えた意味があります。基本的には、斬り合いで勝つことを想定した一着ですね。

ここで先手は▲4三銀と放り込む手が目に映りますが、結論から述べると、それは性急な攻めになります。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

NHK杯 羽生善治第69回NHK杯 羽生善治NHK杯VS屋敷伸之九段戦の解説記

 

そういった背景があるので、本譜は▲5六歩△5三玉▲5五歩で力を溜めました。(第4図)

 

5筋の歩を伸ばすのが本筋の攻めです。これは▲5四角の両取りがメインの狙いですが、▲5九飛→▲5四歩という狙いも含みにしています。攻め筋が多彩になったことにより、後手は受け切りが現実的ではなくなりました。

 

ゆえに、実戦は△8六歩▲同歩△7六歩▲同銀△8六桂で先手陣に迫りましたが、▲8二歩が用意のカウンターです。これで後手の攻めに歯止めを掛けることに成功しました。(第5図)

 

△同飛は▲7一角が王手飛車ですね。かと言って、飛車が横へ逃げるようでは攻めが頓挫してしまいます。後手は対処が難しく、思うように敵陣を攻めることが出来ません。

 

この変化の後手は、陣形がバラバラで不安定な上に、途中で△5三玉と引く手を強要されていることが辛いですね。要するに、攻め合いでは旗色が悪いのです。

 

改めて、第2図に戻ります。

そういった背景があるので、どうも後手は攻め合いではない方向性で指し手を選ぶ必要があるようです。それにつきましては、豪華版のほうで解説しております。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年12月号 居飛車編)

 

 

相掛かり

後手の受け方が進歩した。


16局出現。少し対局数が落ちました。理由については、この項目の末文に記します。

相掛かりになったとき、後手は△5二玉・△7二銀型(もしくは△4二玉・△7二銀型)に構える指し方が多いですね。現環境は、これをどのようにして攻略していくかが、先手に課せられた命題と言えます。

前回に引き続き、腰掛け銀に組む指し方を見ていきましょう。(第6図)

 

2019.11.24 第5期叡王戦本戦 ▲千田翔太七段VS△高見泰地七段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手の布陣は低い構えのまま戦いが起こせる上に、持久戦にも対応できるので幅広い戦い方が可能です。その利便性が素晴らしいので、主流の座に君臨しました。

ただ、これは右桂の活用を優先するので、相腰掛け銀の将棋は選べなくなっています。先手は、その弊害を突こうとしている訳ですね。

なお、ここからの先手の理想のプランについては、こちらの記事をご覧ください。

居飛車 見出し最新戦法の事情(2019年11月号・居飛車編)

 

さて。何気ないようですが、この局面は既に後手がいくつかの工夫を凝らしています。それは、

・△4二玉型に組んだこと
・飛を8四に配置したこと

この二点です。

この将棋は、▲4五銀→▲5六角という攻め筋が常に潜んでいます。それを踏まえると、後手は中住まいよりも△4二玉型に配置している方が(玉が角のラインに入らないため)耐久力が高いという訳なのです。

また、△8四飛型を選んでいるのは、▲7五歩という桂頭攻めを警戒するため。もちろん、飛車は8一がベストではあるのですが、自陣が安定するまでは桂頭をケアしておこうという意図ですね。

 

最新 居飛車

このように、後手が用心深く駒組みを行うと先手は安易には手出しがしにくく、良さを求めるのは容易ではありません。腰掛け銀は一理ある作戦ですが、先攻できる保証は無いので、先手番の利を生かしにくい印象を受けます。

 

現環境の相掛かりは、△5二玉・△7二銀型(△4二玉・△7二銀型)に対してアドバンテージを取れる手段が見つかっておらず、良さが求めにくい戦型になっています。ゆえに、採用数が下降したと考えられるでしょう。

加えて、現環境は(先手目線で)矢倉や角換わりに良い風が吹いていることも、小さくない影響を及ぼしている感がありますね。

 



 

矢倉

いかにして攻めの形を作るか。


20局出現。10月に続いて20局の大台に乗っています。一過性の流行ではないことが窺えますね。

後手はこれまで△7三銀型の急戦で先攻を試みる将棋が主流ではありました。ところが、11月ではたったの3局だけになり、人気が落ちています。これは、先手に有力な対策が三つ登場したことに起因すると考えられます。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年11月号 居飛車編)

 

代わって市民権を得たのは、△7三桂型に構える急戦策です。この系統の将棋は6局出現しており、有力な指し方と認知されていることが分かりますね。

この作戦は△7三銀型よりも攻め足が速いので、先手も慎重な駒組みが求められます。(第7図)

 

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2019.11.5 第78期順位戦C級1組6回戦 ▲藤井聡太七段VS△青嶋未来五段戦から抜粋。

後手はまだ正体を現してはいませんが、△6四歩を突いていることから[△6三銀・△7三桂]という配置を目指していることは明白でしょう。

その配置は、基本的に△6五桂と跳ねる手を軸に攻めてきます。直接的にそれを防ぐなら▲6六歩と指せば事足りますが、今度は△6五歩という攻め筋を与えるので根本的な解決にはなりません。

 

最新 居飛車

つまり、先手は▲6六歩を突かずに争点を消す必要があるのです。そんな虫の良い組み方があるのかと思いたくなりますが、藤井七段はこのような配置に構えて、それを実現してしまいました。(第8図)

 

最新 居飛車

図の青枠で囲った部分に注して頂きたいです。この形を作ることで、△6五桂と跳ばれても▲6六銀で差し支えありません。つまり、角の力で8筋の歩交換を受けることがポイントなのです。

 

後手はこの構えを作られると、そう簡単に動くことは出来ません。なので、本譜は△4二銀から囲いの整備を行いますが、▲3七銀△5四歩▲4六銀でさっと銀を繰り出したのが機敏な着想。これで先手は満足の行く局面を作ることが出来ました。(第9図)

 

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玉の移動よりも、攻めの形を作ることを優先したのが的確な判断です。先手は好きなタイミングで▲3五歩を決行する権利を得たことが大きいですね。

ここから後手が△5二金や△8一飛で待機すれば、▲6九玉や▲5八金で歩調を合わせます。また、△4四歩や△3三銀で囲いを盛り上げてきたら、そこで▲3五歩と突っ掛けます。角道が止まった瞬間に仕掛けることで、後手のカウンターを回避できることが先手の自慢ですね。

 

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このような[△6三銀・△7三桂]という配置から急戦を狙う指し方に対しては、

(1)▲6七歩・▲6八角型を作る。
(2)素早く銀を4六へ繰り出す。   

という二つの工程を行うことがポイントになります。

 

現環境の矢倉は、△7三銀型と△7三桂型という二種類の急戦策を迎え撃つ必要がありますが、先手はどちらに対しても互角に戦うことが可能です。特に、矢倉側から反撃できるようになったところに進化を感じますね。

 

 

雁木

左美濃を打ち破れ!


14局出現。出現率は、先月から11%→15%と少し増加しました。誤差の範囲内かもしれませんが、長らく天敵と見られていた早繰り銀に対して、対抗できるようになったことが増加の要因でしょうか。

 

しかしながら、雁木は新たに[腰掛け銀+左美濃]という難敵が出現しています。現環境は、それにどう対処するかがキーですね。(第10図)

 

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2019.11.19 第5期叡王戦本戦 ▲渡辺明三冠VS△野月浩貴八段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

まだ波風が立っていない局面ではありますが、雁木は不用意な駒組みを行うと一方的に攻め潰されてしまいかねないリスクがあるので、この辺りからロジカルに駒組みを考えなければいけません。

ここから囲いの構築を優先するのなら、△5二金→△6二銀→△5三銀……が一案です。しかし、受けに偏重すると左美濃の餌食となってしまうのです。詳しくは、こちらの記事をご覧いただければ幸いです。

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年11月号 居飛車編)

 

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雁木は強固な囲いではありますが、やはり一方的に攻められる展開になってしまっては価値がありません。つまり、後手に求められているのは、攻め合いに持ち込む態勢を作っておくことなのです。

本譜は、△8六歩▲同歩△同飛▲5六銀△7六飛で横歩をかっさらいました。これが先手の出鼻を挫く着想です。(第11図)

 

最新 居飛車

このまま局面が収まってしまうと、先手は囲いの屋根が剥がれているので大いに不満と言えます。

そこで、実戦は▲8七歩と打って飛車を8筋へ帰らせないようにしますが、△8六歩▲7七角△8七歩成▲同銀△7五飛▲7八金△8五飛が巧みな対応です。後手は無事、飛車を8筋に戻すことに成功しました。(第12図)

 

最新 居飛車

後手は歩得で、かつ飛車を安定することができたので、ミッションクリアと言ったところでしょう。一応、先手には手得という主張はありますが、「低い陣形に構えて一方的に攻める」という当初に描いていた展開には、もうなり得ません。やはり、囲いの屋根が削られていることが痛手です。

 

雁木は左美濃を相手にした場合、漫然と囲いを作っていると作戦負けになります。相手の攻撃態勢が整う前に、自分から動いて行く積極性が必要ですね。そうすれば、作戦負けを回避することが期待できます。現環境は、雁木も戦える印象です。

 

 

その他の戦型

一手損角換わりが再燃?


17局出現。そのうち8局が一手損角換わりで、再びプチブームが起こっているようです。

対する先手は、早繰り銀を採用するのが多数派(6局)ですね。特に、▲7八玉型に構えるタイプが有力と感じています。なぜなら、この作戦は8筋の歩を伸ばしていない一手損角換わりの長所を逆手に取っているからです。また、玉が手早く囲いに収まることもメリットですね。

 

これに対しては、後手も平凡に組むと受けが間に合わなくなるので、序盤から一捻りする必要があります。(第13図)

 

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2019.11.13 第78期順位戦B級2組7回戦 ▲丸山忠久九段VS△澤田真吾六段戦から抜粋。

この将棋は、4手目に角を交換するタイプの一手損角換わりです。それによって、後手は△3二金と上がる手を省略することができています。そこで生まれた余暇を使って、早繰り銀の出足を止めようと考えている訳ですね。

 

この場合、先手は▲4六銀と出ても△4五歩で追い返されてしまいます。

ゆえに、本譜は▲5八金右△8四歩▲2六銀と棒銀にシフトしましたが、△8五歩▲7七銀△9四歩▲6八金上△9五歩で後手は頑なに金を上がらない姿勢を続けます。(第14図)

 

最新 居飛車

2筋の守りが薄いので▲1五銀が気になりますが、それには△2二飛があるので受かっています。こんなところにも、△4一金型の恩恵があるのですね。

 

一手損角換わりは早繰り銀が怖い相手ですが、4手目に△8八角成と指すパターンの将棋にすれば、対抗可能です。相手の銀を捌かせなければ、互角はキープできる印象ですね。

 


お知らせ

プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!

 

参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年12月号 居飛車編)

こちらの記事は有料(300円)です。その分、この通常版の記事よりもさらに詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!

 

 

 


今回のまとめと展望

 

・11月は、「角換わり」「雁木」「一手損角換わり」の出現率が増加した。これは、後手番の角換わりに不安があるので先手がそこに付け込んでいたり、2手目に△8四歩と指すプレイヤーが流れてきたと考える。

 

 

矢倉や雁木のようながっぷり四つに組む作戦であっても、スピーディーに反撃できる態勢を整えなければ、現代将棋は大勢に遅れる。そのための手段として、早繰り銀は一つの武器と言えるだろう。

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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