プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(3月・居飛車編)

どうも、あらきっぺです。花粉症と風邪のコンボで四六時中くしゃみをしているお陰で、腹筋が鍛えられました笑

今月もプロの公式戦から最新戦法の事情を分析したいと思います。タイトルに記載している通り、相居飛車の将棋を見ていきます。

なお、前回の記事はこちらをどうぞ。

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 居飛車編
(2018.2/1~2/28)

 

調査対象局は67局。戦型ごとにそれぞれ、見ていきましょう。

矢倉

11局出現。採用率は、1月とほぼ変わらず。

先手目線で話を進めると、急戦策を警戒するために早い段階で▲2五歩を突いておくことは必須。後手に△3三銀を上がってもらえれば相矢倉模様の将棋になるものの、それでも厄介な作戦があるという状況でした。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

現代矢倉においては、この局面での選択がとても重要です。(第1図)

 

2018.2/23 第66期王座戦二次予選 ▲畠山鎮七段VS△藤井聡太六段戦から。

本譜は▲6七金右を選びましたが、△4三金左が最近、主流になりつつある手。堅さよりもバランスの良さを主張しています。

ただ、この瞬間は2筋の防御が薄くなっていますね。その隙を突くために、畠山七段は▲4五歩△同歩▲3五歩△同歩▲同角と仕掛けましたが、△4四銀が強気な応対です。(第2図)

 

ここで▲6八角では△3四金で2筋が受かってしまうので、本譜は▲4四同角△同金▲2四歩と斬り込みましたが、△1五角が用意の反撃です。(第3図)

 

△3七角成は許せないので、本譜は▲2七飛△2四角と進みましたが、先手は駒損が残り、でかした進行とは言えないでしょう。後手陣は危ないように見えても、意外に隙が無いのです。

なぜ、先手は自然に駒組みしているのに芳しくない局面になってしまうのでしょうか。その原因は、▲6七金右と上がることにより、偏った陣形になってしまうからだと考えられます。

つまり、▲6七金右と上がるので角交換になったときに△5九角や△6九角と打たれる隙を作りますし、6九の玉の露出度も上がってしまうのです。第3図のように矢倉に入城しないまま戦いになるのなら、金は5八に置いておく方が安定感があります。

第1図に戻って、改めて考えてみましょう。

 

どうもこの局面では5八の金を動かさない方が良さそうです。という訳で、

(Ⅰ)▲6七金左と上がる。
(Ⅱ)▲4五歩△同歩▲3五歩とここで仕掛けてしまう。

このどちらかが今後、主流になっていくのではないでしょうか。先手矢倉にとって、この形は生命線の一つで、この将棋が互角以上に戦えないと、ますます指しにくい環境になってしまいそうです。

 

角換わり

23局出現。約34%の出現率で、1月から何と10%増加。みんなのアイドル状態です。

作戦としては、相腰掛け銀系統と早繰り銀系統の二つが主流で、指されている比率もほぼ同じです。

まずは相腰掛け銀系統の将棋を見ていきましょう。(第4図)

 

2018.2/6 第76期順位戦C級1組10回戦 ▲千田翔太六段VS△塚田泰明九段戦から。

後手が△4一飛と指した局面です。次に△3一玉と引ければ、先手は▲4五歩が突けなくなるので、打開に苦しむことになります。

したがって、先手は▲4五歩と仕掛けます。以下△5二玉▲4四歩△同飛に▲4七歩と敢えて下から歩を打った手が千田六段の工夫です。(第5図)

 

▲4五歩と打ってしまうと、銀や桂を前進させることが難しくなってしまいます。歩が後退するのは悔しいようですが、この歩を伸ばしていく楽しみがあるのでそこまで損にはなりません。

以下、△4一飛▲8八玉△6三金▲2八飛△6二玉▲4六歩と進んだ局面が第6図です。

 

△同飛と取られてしまいそうですが、それには▲4五桂が巧みな切り返しで、後手は飛車が捕獲されてしまいます。

よって、塚田九段もエサには飛びつかず、△8一飛▲6七銀△4二銀….と進めましたが、徐々に局面が解れていき、結果的には先手が打開に成功しました。

ただ、第6図から△4四歩と辛抱されると、どのように打開するのかは良く分かりません。待機に徹されると、先手が膠着状態を打開するのは簡単ではない印象を持っています。

そこで、代案として先手は▲2六歩型で駒組みする手法が考えられます。(第7図)

 

2018.2/17 第11回朝日杯将棋オープン戦決勝 ▲藤井聡太五段VS△広瀬章人八段戦から。

先手が▲4五歩と仕掛け、後手が△5二玉と寄った局面です。手順が先ほどと似ていますが、この局面では▲2五桂と跳ねる手が効果的な攻めとなります。この手が指せるのが▲2六歩型の特権ですね。

以下、△2四銀▲4四歩△4一飛▲7五歩と後手陣の弱点である桂頭を攻める展開になり、先手が指しやすい将棋となりました。(第8図)

 

このように、▲2六歩型は▲2五桂と跳ねる攻め筋があるので、▲2五歩型よりも打開しやすい利点があります。ただし、先手は▲2六歩型で角換わりに誘導しようとすると、雁木に組まれやすくなるデメリットがあり、そことどう折り合いをつけるかという話になってきます。


次に、早繰り銀系統の将棋を見ていきましょう。

前回の記事でも記したとおり、早繰り銀に対しては居玉+腰掛け銀が迎撃の形です。(第9図)

 

2018.2/20 第31期竜王戦1組ランキング戦 ▲稲葉陽八段VS△渡辺明棋王戦から。

第9図から△6四銀は▲6六歩△7五歩▲6五歩で銀を追い返されてしまうので、後手はそれを警戒して△8四銀と上がりますが、先手はそれを見て▲4八金△7五歩▲3七桂と右の桂を足早に活用します。(第10図)

 

後手は△7六歩▲同銀△7三銀で8筋の歩交換を狙いますが、▲4五桂が機敏な跳躍。以下、△4四銀▲7五銀△7四歩▲6六銀と進み、先手満足の序盤となりました。(第11図)

 

細かい手の解説は省きますが、先手の一連の指し手の意味をざっくりと説明すると、

(1)腰掛け銀を作ることで△6四銀を牽制。

(2)後手に△8四銀を強要させる。

(3)8四の銀を遊ばせるために、右桂を活用してスピード勝負に持ち込む。

といった要領です。とても理に適っている手順で、有力だと感じています。

後手早繰り銀に対しては、居玉+腰掛け銀に▲4八金・▲3七桂型で対抗するパターンが増加傾向にあります。2ヵ月ほど前と比較すると、先手の指し方が格段に進歩した印象で、後手が苦労しているように思います。

話をまとめます。後手目線で話をすると、現環境は早繰り銀よりも腰掛け銀で待機策を取る方が率が良いと言えます。先手は、対雁木に自信を持っているのなら、▲2六歩型で角換わりに誘導すると良いでしょう。

 

雁木

9局出現。ただし、先手雁木はなんと0局。この数字は正直、意外でした。基本的に雁木は受け身なので、先手ではもっと攻めを重視した作戦を選びたいということでしょうか。

角換わりを拒否するパターンの雁木が多く、今回はそれに絞って話を進めます。

先手の対抗策は、大きく分けて二つ。腰掛け銀で攻めるか、早繰り銀で攻めるかです。まずは腰掛け銀の将棋を見てみましょう。(第12図)

 

2018.2/17 第11回朝日杯将棋オープン戦準決勝 ▲藤井聡太五段VS△羽生善治竜王戦から。

腰掛け銀の場合、角換わりと同様に▲4八金・▲3七桂型に組むのが攻めの形です。角交換になったときに、自陣に隙が少ない利点があります。

既に駒組みが飽和しつつあるので、先手は仕掛けを考えたいところです。攻めるとすれば▲4五歩と突くしかありません。実戦は△同歩▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛と進みました。特に変化する場所もなく、妥当な進行と言えます。(第13図)

 

さて。この局面をどう見るか。先手は次に▲7七角と打って▲4四歩を狙ったり、▲1五歩△同歩▲2四歩△同歩▲1五香で端を攻めるのが狙いです。ただ、個人的には4筋の歩を捨てて手番を渡す仕掛けには違和感があり、これで先手が上手くいっているようには見えません。後手も充分、受け甲斐のある将棋だと思います。

 

次に早繰り銀の将棋を見てみましょう。(第14図)

 

2018.2/26 第31期竜王戦1組ランキング戦 ▲丸山忠久九段VS△豊島将之八段戦から。

早繰り銀に対しては、受け一方の形を避けるために△7四歩を優先して攻め味を見せることが急所です。現代雁木は攻撃重視の駒組みを行うことが必須ですね。

先手は▲3五歩と仕掛けますが、無視して△7三銀が大事な一手。▲3五歩の突き捨ては取ってしまうと相手の銀を進出させる道を作ってしまうので、放置が正しい対応です。

△7三銀以下、▲3四歩△同銀▲3八飛と先手は3筋に照準を定めますが、△4五歩が銀の進軍を阻む好手です。(第15図)

 

先手は▲3八飛と寄った手を活かすために▲2六銀と上がりたいのですが、△7七角成▲同銀△2七角の反撃があるので、現状では成立しません。つまり、先手は攻めるために▲5八金や▲7九玉などの陣形整備が必要になっているので、攻め足を鈍化させられた格好なのです。

後手はここで相手の攻めを停滞させることができたので、後に△6四銀→△7五歩の攻めが間に合い、まずまずの展開となりました。

二つ事例をご覧いただきましたが、どちらの将棋も雁木が互角以上に戦える内容でした。以前よりも雁木側の駒組みの精度が上がり、先手の急戦策がそこまで炸裂しないようになってきた印象を持っています。

現環境では雁木は悪くない作戦だと思いますが、戦法の性質上、ほぼ確実に相手からの先攻を許します。それが構わないというプレイヤーにとっては、有力な戦法と言えるでしょう。

 

掛かり

8局出現。特に目新しい動きは無かったように思います。特定のプレイヤーしか指さない戦型なので、定跡が進みにくいですね。

 

横歩取り

10局。出現率は1月よりも5%ほど減少。角換わりへ流れたことが原因だと思われます。

そして、あれほど流行していた勇気流が、まさかの0局。何が分水嶺だったのかは分かりませんが、以前に紹介した△7六飛と早い段階で横歩をかっさらう対策が多く登場するようになってから減少していったイメージはあります。とはいえ、0は驚きました……。戦法の移り変わりの早さを象徴する数字ですね。

現状は、先手の主軸となる戦法が不在で対策はまばらです。後手にとっては相手のエースがいない状態なので、使いやすい環境になったのではないでしょうか。

 

その他の戦型

7局出現。今回は「極限早繰り銀」と呼ばれる作戦を取り上げたいと思います。プロ棋士では野月浩貴八段や佐藤慎一五段が多用している戦法ですね。(第16図)

 

2018.2/7 第76期順位戦B級2組10回戦 ▲野月浩貴八段VS△井上慶太九段戦から。

早繰り銀の形を真っ先に作るのがこの作戦の肝です。相手の陣形を見て、速攻と持久戦を使い分けられるのが、この戦法の長所です。

ただ、本局に関しては後手の対応が秀逸でした。井上九段は△4四歩▲6九玉△4三銀で角頭をケアします。以下▲8七歩△7六飛と一歩得を収めて、後手満足の序盤戦となりました。(第17図)

 

後手は△4三銀型を構築することによって、▲3五歩に△4五歩で切り返せる準備が整いました。先手は繰り出した銀が攻めに使いにくくなったので、作戦の趣旨がぼやけてしまった印象を受けます。相手の攻め筋を無効化できていることが、後手満足の理由です。

個人的には、「極限早繰り銀」は△2二銀型に対しては有力だと思うのですが、△4二銀型の場合は本局のように雁木に組まれてしまうので、やや分が悪いように感じます。先手は▲7六歩と突く手を保留して横歩を取られないようにするなど、もう少し工夫が必要ではないかと考えています。

 

今回のまとめと展望

 

全体的に後手が健闘している印象を受ける。特に、現環境は2手目△8四歩が強力で、先手はなかなかリードを奪えない。

・先手は▲2五歩型の角換わり腰掛け銀で上手く打開できる方法を見つける。もしくは、角換わり拒否の雁木を打ち破ることができれば、一気に視界が開ける。この二つの戦型は要チェックだ。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA