どうも、あらきっぺです。最近、散歩コースを一通りに固定したのですが、そうすると日々、微妙な変化が感じ取れるのでなかなか面白いです。リアル間違い探しですね笑
タイトルに記載している通り、相居飛車の将棋から最新戦法の事情を分析したいと思います。
前回の内容は、こちらからどうぞ。
最新戦法の事情・居飛車編(2020年10月号)
・調査対象の将棋は、先月のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・記事の内容は、プロの公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。
・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 居飛車編
(2020.10/1~10/31)
調査対象局は114局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
角換わり
桂ポンにどう対処するか
26局出現。出現率は約22.8%。9月と比べると5%ほど増加しています。これは桂を軽やかにポンと跳んでいく作戦が有力であることが浸透し、先手番が積極的に角換わりを志向していることが原因だと推察されます。
なお、桂をポンと跳んでいく作戦とは、以下の将棋のことを指しています。現環境では、これが優秀と見られていますね。(参考図)
この作戦の趣旨は、キャプションに記したように[△6二金・△8一飛型]に組まさないことです。受けの布陣が整う前にやっつけてしまえという意図があり、即効性理論に則った作戦だと言えるでしょう。
現環境では参考図の局面になると、先手のほうが勝ちやすいと認知されている傾向を感じます。ゆえに、ここ最近の後手は、少し駒組みの形を変えて対抗するようになりました。(第1図)
参考図と瓜二つではありますが、△9四歩を省いて駒組みを進めているのが後手の工夫です。端歩をお付き合いすると[△6二金・△8一飛型]が間に合わないので、この一手を切り詰めようという訳ですね。
これに対して先手がじっくりとした展開を選ぶなら、▲9五歩から位を取って腰掛け銀に組むことになります。けれども、後手は△9三歩型の腰掛け銀になっても大いに戦えるので、その進行なら不満はありません。
なお、△9三歩型の優秀性については、以下の記事をご参照ください。
そういった背景があるので、やはり先手としては速攻の姿勢を貫きたいところです。したがって、ここでは▲3五歩と突っ掛けるのが作戦の趣旨に沿った一着だと言えるでしょう。(途中図)
これに対して後手は△同歩と応じる手もありますが、それよりも△6二金と上がる手が△9三歩型を活かす一着。3筋の突き捨てを放置すると▲4五桂△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛と攻め込まれますが、そこで堂々と△8一飛と引いておくのが明るい着想ですね。(第2図)
ちなみに、この後手の指し方の実例としては、第79期順位戦C級1組6回戦 ▲北島忠雄七段VS△石井健太郎六段戦(2020.10.20)が挙げられます。(棋譜はこちら)
先手は▲3四歩と取り込むのが自然ですが、後手は△4四歩と突いて催促します。▲3三歩成△同桂▲4四飛と進めればこの歩はかっさらえますが、△4三歩▲2四飛△3五角が後手期待の反撃。こうすれば後手は歩損を回収することが出来ます。(第3図)
ここからは▲2九飛△4六角が妥当な進行ですが、その局面は次の△2八歩や△6五桂が楽しみなので、後手もまずまずといったところです。角は手放したものの、自陣が安定していることが心強いですね。やはり、[△6二金・△8一飛型]が間に合うと、自陣がぐっと引き締まります。
この変化は3筋の歩がぶつかっているにも関わらず、淡々と陣形整備を進めているので奇妙な印象を受けるかもしれません。
しかし、とにかく後手は[△6二金・△8一飛型]を作ることが先決であり、この価値がすこぶる高いからこそ、▲3五歩を無視するという指し方が成り立っているのですね。
[▲3八銀・▲4九金型]から桂を跳んでいく作戦は、第2図の局面が最先端です。先手は先攻できるものの、この局面まで進むと[△6二金・△8一飛型]が完成されているので、一筋縄ではいかない印象も受けますね。現環境は、後手も互角に渡り合えている印象です。
矢倉
ここでも桂ポン
25局出現。10月は大きな動きがあり、かなり環境が動いた印象を受けました。
後手は17局が急戦を志向する将棋を採用しており、これは非常に目を引く数字です。三ヶ月ほど前までは急戦と持久戦の数は概ねイーブンだったので、後手が明らかに戦術を変えてきている様子が見て取れますね。
背景には、現環境で後手は金矢倉に組む将棋を志向すると、急戦矢倉と土居矢倉の二刀流に苦しめられているという事情があるからです。詳しい理由につきましては、以下の記事をご覧ください。
最新戦法の事情・居飛車編(2020年10月号)
そういった環境なので、後手は急戦策に打って出ることで作戦負けを回避するようになっているのです。特に、現環境で注目を集めているのは、この作戦ですね。(第4図)
金銀を全く動かさずに桂を跳んでしまうのが、後手が目をつけた作戦です。なお、これは目新しいものではなく、3年以上前の時点で既に指されている作戦でもありますね。拙著でも紹介している事例(P32~P33)ですので、ご覧くださいますと幸いです。
ただ、当時は「矢倉は終わった」という風潮が蔓延していた時代でもありましたし、後手は他にも有力と見られていた急戦策が複数あったので、この作戦がメジャーになることはありませんでした。平たく言えば、「ここまで突飛なことをしなくても良いんじゃない?」という評価だったのです。
けれども、現環境の先手矢倉は急戦への耐性が付いているので、後手も簡単にはリードを奪えなくなってきました。ゆえに、巡り巡ってこの作戦にスポットが当てられたという訳なのですね。
なお、この作戦の実例としては、第33期竜王戦七番勝負第1局 ▲羽生善治九段VS△豊島将之竜王戦(2020.10.9~10.10)が挙げられます。(棋譜はこちら)
さて、後手が△6五桂を狙っていることは火を見るよりも明らかですね。それを防ぐだけなら▲6六歩で事足りますが、その対応では将来△6四歩→△6五歩と攻められるので、争点を与えてしまうデメリットがあります。
したがって、先手は△6五桂を防ぐことよりも、「あえて桂を跳ばせてそれを逆用する」というプランで戦うほうが得策だと言えるでしょう。具体的には▲5六歩△6四歩▲7九角と組み、△6五桂▲6六銀と進めるのが最強の対応ですね。(第9図)
後手は足が止まると▲4六角と出られる手が厄介なので、△8六歩▲同歩△同飛▲8八歩△7六飛と攻め掛かるのは必然。対する先手は▲5五歩で角道を止めておきます。
なお、先手は8筋の歩を交換されたとき、▲8七歩ではなく▲8八歩と下から歩を打つのが大事ですね。理由は後述します。(第6図)
後手は飛と桂を捌くことは出来ましたが、この局面から厳しい攻めを繰り出すのは少し難しそうです。ゆえに△6二銀と自陣の整備を図るのが妥当ですが、先手は▲4六角と活用します。これは▲8七金で飛車を詰ます手が狙いですね。この狙いを残すための▲8八歩なのです。
後手はそれを防ぐために△8六歩と受けますが、先手は飛車を狭くしたことに満足して、▲3六歩と歩を伸ばしておきます。(第7図)
ここからの先手の狙いは、3筋で歩を入手して▲7七歩と打つことです。それが無条件で実現すれば、形勢の針が先手に傾くのは言うまでも無いですね。
後手はそれが間に合ってしまうと思わしくないので、その前に行動を起こさなければいけません。強引に暴れるのなら△5四歩と突いてしまう手が考えられますが、ここの歩を捨てると後手も自陣が痛むので、攻めに専念できなくなってしまいます。痛し痒しといったところですね。
この△7三桂と跳ねる作戦は、第7図の局面から後手が飛車を詰まされる前に戦果を上げられるかどうかで優劣が決まります。後手の攻めは正直、細いですし、囲いも未完成なので反動も気になります。とはいえ、歩得を果たしながら飛と桂がここまで活用できることは大きな魅力ですね。
仕掛けの成否は微妙であり、プレイヤーによって評価が分かれるところかと思います。ただ、後手がこういった作戦に活路を求めているということは、がっぷり四つに組み合う将棋を嫌っていることの表れであり、現環境の後手は大人しく金矢倉に組む姿勢は得策ではないと見られていることは確かでしょう。
相掛かり
後手は持久戦に持ち込みたい
21局出現。大流行という訳ではありませんが、相変わらずコンスタントに指されている戦型です。
現環境の特徴として、先手は▲8七歩と打つ手を保留した作戦を採用する傾向が強いですね。
具体的には、こういった作戦が挙げられます。(参考図)
このように、▲6八玉型に構えて8筋の歩を打たずに突っ張る指し方が、昨今では有力視されています。なお、この作戦の趣旨や具体的な解説については、以下の記事をご参照ください。
加えて、こういった作戦も先手の有力株ですね。
これは、通称AlphaZero流と呼ばれる作戦です。この戦型も昨今の流行りであり、プロ棋界でも多く指されている形です。有名どころで言えば、以下の実例が挙げられますね。
参考 第91期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦▲永瀬拓矢二冠VS△藤井聡太七段(2020.6.4)
ちなみに、「AlphaZero」とは、DeepMindによって開発されたコンピュータプログラムであり、モンテカルロ木探索とディープラーニングを適用していることが特徴とのことです。
余談はさておき、そろそろ本題に入りましょう。
▲6八玉型にせよAlphaZero流にせよ、先手は積極的にガンガン動いてくる姿勢を取ってきます。後手はこれらの戦型になってしまうと不安定な戦いを強いられる傾向があり、リスキーな将棋になりやすい懸念があります。作戦負けという訳ではありませんが、これらに対抗するのは苦心惨憺といったところがあるのですね。
昨今の相掛かりは、可動性理論に則る意味で△8四飛型に構えるのがポピュラーな配置になっています。ただ、先手はここに飛車を引いてくれれば、▲8七歩を打つ必要はなくなります。相手の可動性理論を逆用できるところが、これらの作戦の最大のメリットだと言えるでしょう。
そこで、現環境の後手は飛車を中段に引かない事例がポツポツと増えつつあります。(第8図)
このように、飛車を自陣まで引き下げ、△3三歩型のまま駒組みを進めるのが後手の工夫です。△8二飛型に対しては▲6六角の切り返しが使えないので、先手もさすがに▲8七歩は打たざるを得ません。
なお、後手が△3三歩型を維持しているのは横歩取りの筋を警戒するためです。飛車を下段に据えると3四の歩は守りにくいので、こういった駒組みのほうが争点を与えない意味があります。これも耐久性理論の一つですね。
ちなみに、この指し方の実例としては、第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦 ▲永瀬拓矢二冠VS△木村一基王位戦(2020.10.20)が挙げられます。
さて、先手が△3三歩型を咎めるとするならば、▲3五歩と突くのが一般的な手法です。角の活用を牽制できるので、至って自然だと言えるでしょう。
これに対して後手は、△2三歩→△4二銀→△5四歩→△5三銀と組みます。銀を繰り出すことで、3五の歩を圧迫しようという狙いがありますね。(第9図)
このあとは、△4四銀→△1三角という要領で3五の歩に狙いを定めます。角を1三から活用する目処が立っているので、後手は△3四歩を突かなくても差し支えないのですね。
無論、3筋の歩を取れたとしても、まだまだこれからの将棋ではあります。ただ、後手としてはこのように8七に歩を打たせ、銀をじっくりと押し上げていく将棋に持ち込んだ方がリスクを矮小化できるので、こちらのほうが堅実という印象を受けますね。
先手としては、△8二飛型に対して急戦調の将棋に持ち込めれば、再び後手を悩ませることが出来ます。そういった策を編み出せるかどうかが相掛かりのキーと言えそうですね。
雁木
環境に変化は無い
13局出現。雁木の出現率は8月辺りから大きな変化がなく、ほぼ横ばいで推移しています。概ね12%前後の数字に落ち着くようですね。
環境についても同様で、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩…というオープニングで後手が雁木を目指すのは、あまりお薦めしません。ただし、先手番で雁木を採用するのは有力だと考えています。この辺りの詳しい内容は、前回の記事を参照してくださいますと幸いです。
プロ棋界において雁木という戦法は、特定のプレイヤーが好んで指している傾向があります。爆発的に指されている訳ではないですが、廃れている訳でもありません。立ち位置としては、一手損角換わりと似ている印象を受けますね。今後もそれなりに指され続ける戦型だと考えられるでしょう。
一手損角換わり
端桂が急所
6局出現。かなり少数派の作戦ではありますね。けれども、今回は後手が斬新な策を打ち出しており、定跡は確実に進歩しています。
一手損角換わりは、早繰り銀が最大の敵です。後手は早繰り銀に対峙したとき、次の図の形に組むことが必須です。(基本図)
△3二金と上がる手を後回しにして、[△5四銀・△4四歩型]を優先的に作るのがポイントですね。大前提として、この戦型で後手は[▲7八玉・▲5七歩・▲4六銀型]という布陣を許してはいけません。これに組まれると、先手に好き放題に攻められてしまうからです。
【一手損角換わりのやっつけ方】
▲35歩と仕掛ける手もありますが、それよりも▲37桂と跳ねて△45歩を防ぐ方がオススメ。
その後は三枚目の図のように組み、▲35歩と仕掛けましょう。
この指し方なら4六の銀が追い返されないので、先手は一方的に攻める将棋に持ち込めます。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/Gt6mrQqbtD
— あらきっぺ (@burstlinker0828) November 27, 2020
これが基本図の形になると、▲4六銀と上がっても△4五歩でお引き取り願えるので大丈夫ですね。
という訳で、この局面になると先手は銀を2六から使うことになります。ただ、現状では囲いがまだ未完成であることや、▲2六銀→▲1五銀と進軍しても△2二飛で受けられてしまいます。よって、まずは囲いの整備に勤しむことになりますね。
対する後手も8筋の歩を伸ばしたり、両端の歩を突いたりして自陣の充実を図ります。すると、このような局面になることが予想されるでしょう。(第10図)
途中の手順を大幅にカットしてしまい恐縮ですが、想定できる進行かとは思います。
なお、後手は8筋の歩を伸ばさない構想もありますが、▲7八玉型を攻略するには8筋から攻めるのが最適なので、このような駒組みは本筋だと言えますね。
さて、ここから先手がどう攻めを続けるかですが、よくある手法としては▲3四歩△同銀▲3七銀が挙げられます。2筋の歩交換を狙う自然な手順ですね。
これに対して後手は、△4三銀左と引いて雁木の構えを作るのが部分的に定跡化された受け方です。しかし、現環境においては、それよりも△3三桂と跳ねる手が有力視されています。(第11図)
△4三銀左は金銀の連携が良くなるので味の良い一着ではあるのですが、3四の銀を引いてしまうと▲3六銀→▲3五銀という進軍を誘発しているデメリットもあります。この戦型の後手は「銀を進ませないこと」が鉄則なので、それを易々と実現させるのは芳しくありません。
ディフェンスラインを下げてしまうと、相手に付け込まれてしまいかねないのです。ゆえに、後手は△3四銀型をキープする方が優ると踏んでいるのですね。
先手はもちろん、▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先の歩を交換しますが、後手は△2三金▲2八飛△2四歩と応じます。△2三金は歪な配置に感じるかもしれませんが、後手は次に△3五歩と打てれば2・3筋が安定するので、見た目よりも堅さがあります。(途中図)
先手は△3五歩を嫌うのであれば、▲3六歩と打っておくことになります。ここに歩を設置すれば、銀を進軍させる足場にもなりますね。
ただ、▲3六歩と打った瞬間は、特段厳しい狙いが無いので、後手は攻めに向かうチャンス。具体的には、△8六歩▲同歩△9三桂がスピード感のある着想になります。(第12図)
角換わり系の将棋において端から桂を活用するのは極めて稀ですが、この局面では非常に理に適った組み立てと言えます。
この戦型の後手は居玉の状態が長く続くことが多いので、△7四歩→△7三桂と活用してもなかなか桂を跳ぶことが出来ません。しかしながら、端から桂を活用すれば▲7三角と打たれる心配がないので、後手は気兼ねなく桂を跳ぶことが出来るのです。
あとは△8五歩と打って、あの桂を活用する要領で攻めれば良いでしょう。この局面は桂の働きに差が着いているので後手が指しやすい将棋だと考えています。
なお、この作戦の実例としては、第79期順位戦B級1組7回戦 ▲屋敷伸之九段VS△丸山忠久九段戦(2020.10.29)が挙げられます(棋譜はこちら)
これは後手のカウンターが見事に炸裂した事例でしたね。
一手損角換わりは攻撃力に欠ける嫌いがあるのですが、この端桂を跳ぶ手法はそれを補っているので、非常に魅力的に見えます。まさにエポックメーキングな構想であり、今後の環境に大きな影響を与えるのではないかと見ています。
横歩取り
手損は気にしない
15局出現。ここ三ヶ月ほどは、安定して10局以上指されていますね。青野流への対策を打ち出したことにより、横歩取りを採用するプレイヤーは確実に増えています。
なお、その対策とは、以下のように組む指し方のことを指します。(参考図)
また、活発に指されるようになったことに伴い、後手は他の指し方にもチャレンジしている傾向もあります。中でも筆者が注目しているのは、この形ですね。(第13図)
このように、早々と飛車を下段に引いてしまうのも面白い指し方の一つです。この手は10年以上前から指されている手ではあるのですが、昔とは意味付けが異なります。温故知新の一着と言えるでしょう。
さて、後手の飛車が下段まで引っ込んでくれたので、もう通常形の横歩取りにはならなさそうですね。なので、穏便に▲3六飛と引くのは自然でしょう。後手も無難に△2二銀と上がります。
先手は次に△2七角と打たれる筋があるので▲3八金と備えるのは妥当ですが、後手は△7二銀▲8七歩△6二玉と駒組みを進めます。(第14図)
ここからの構想は人によって様々かと思いますが、先手は▲4八銀と上がるのがオーソドックスですね。対して後手は、△9四歩▲9六歩△8四飛▲2六飛△2三銀で淡々と形を整えていきます。(第15図)
ここまで進むと、よくある横歩取りの将棋になりました。ただ、後手は一度8二に飛車を移動させているので、通常形より一手損しています。けれども、「それが損にはなっていないですよ」と主張しているのですね。
先手は▲3六歩と突くのが王道の一着ですが、後手は△8八角成▲同銀△3三桂で桂を活用します。自分から角を交換をするとさらに手損が広がるのですが、この局面に誘導することが後手の描いていたシナリオなのです。(第16図)
先手は壁銀を早く解消したいので、▲7七銀と上がるのが普通ですね。ただ、この局面だと▲3六歩を突いているので、後手は△2五歩が打ちやすくなっています。飛車を下段に引かせることが出来れば効率に差が着くので、後手は不満がありません。そのあとは、△2四飛→△3四銀と活用すれば良いでしょう。
先手はデフォルトよりも一手得しているので▲3六歩を余分に指すことが出来ているのですが、そのせいで△2五歩を誘発している節もあるのです。後手は手損をしても相手の指し手を逆用することが出来るので、必ずしも損にはならないのですね。
手損が損にならないのであらば、一度△8二飛を引いて、その後△8四飛と浮く指し方は大いに考えられます。従来はこういった考え方が無かったので△8二飛では面白くない印象を持たれていたように感じますが、現代的には一理ある作戦と言えるでしょう。
ちなみに、こういった一手損作戦の実例としては、第28期銀河戦本戦トーナメントFブロック11回戦 ▲村山慈明七段VS△永瀬拓矢二冠戦(2020.10.8放映)が挙げられます。(棋譜はこちら)
この将棋は、後手が上手く主導権を握って快勝した印象でした。
青野流は確かに強敵ですが、後手も工夫を凝らした作戦を用意できています。現環境の横歩取りは、一、二年前のような閉塞感は感じられません。後手としては、やり甲斐のある戦型だと言えるのではないでしょうか。
その他の戦型
特に変わらず
7局出現。ウソ矢倉や雁木の派生系の将棋が6局、残りの一局は陽動振り飛車でした。
現環境は、2手目△3四歩系の作戦(一手損・横歩)が健闘しているので、後手は変化球を投げるなら、そちらの作戦を採用する方が得策という感はあります。あまり目立った工夫などは見られなかった印象ですね。
序盤の知識をもっと高めたい! 常に作戦勝ちの状態で戦いたい! という方は、こちらをご覧ください。
参考 最新戦法の事情【居飛車編】(2020年11月号 豪華版)
最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。
有料(300円)ではありますが、その分、内容は深堀しております。よろしければご覧ください!
今回のまとめと展望
【現環境において優秀な戦法は?】
先手目線で話をすると、2手目△8四歩を相手にしたとき、どれも可もなく不可もなくといったところなので優劣が着けにくいですね。
角換わりなら、[▲4九金・▲3八銀型]から桂ポンの将棋。相掛かりならAlphaZero流のような▲8七歩を保留する将棋が有力です。ただ、本文に記したように、これらは後手も対策を練っているので、必ずしもアドバンテージが取れるとは限りません。
また、矢倉の場合は、この作戦への対策を用意する必要がありますね。
基本的に、角換わりや相掛かりを選べば攻勢に出やすく、矢倉の場合は受けに回る必要が出てきます。この辺りは、棋風によって判断して頂ければ何よりです。
また、2手目△3四歩系は一手損と横歩取りが手強く、これも先手は明快に良さを求めることは難しい感があります。どの戦型になっても互角の範囲に収まりやすいので、現環境は全般的に後手が気楽ですね。
【とにかく桂を使って攻める】
幅広い戦型で、素早く桂を跳んでいく作戦が主流になっている動きがあります。今回の記事で取り上げた事例を列挙すると、
・角換わりの▲4五桂
・矢倉の△7三桂急戦
・AlphaZero流
・相掛かり▲6八玉型
・一手損角換わりの後手の工夫
これらが挙げられますね。もちろん、青野流もこれにあたります。
こういった事情があるので、矢倉において後手が△7三桂急戦にスポットを当てたという側面も、少なからずあるように感じます。無論、この作戦は極端にスピードを求めているので、後手は受けの態勢が全く整わないというデメリットはありますが……。
桂という駒は攻め足が速いですし、相手に渡しても受けに使われにくいので、遠慮なくそれを捨て石に出来る利点があります。その上、失ったところで大きな駒損にはなりません。いろいろな意味で理に適っているので、桂をポンポン跳んでいく作戦が主流になっているのも頷けるものがありますね。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!
一手損角換わりのところで、93桂馬と跳ねて継ぎ歩で反撃というのがあったと思います。当然端に桂馬を跳ねるには、94歩と突く必要があると思いますが、一手損角換わりの序盤早々(角を換えた辺り)に94歩と打診すれば、①端を受けてこなかったら95歩と突き越して振り飛車にして端の位を主張にして戦う ②96歩と受けてきたら一手得して駒組みできる と思ったのですが、どうでしょうか…?もしこの作戦が通用するとしたら、得した一手はどのように使うのがいいでしょうか?
仰るように、まだ振り飛車の余地がある状態で9筋の歩を打診するのは、面白い指し方だと思います。
懸念点としては、△9五歩型で角交換振り飛車をすると、図のように地下鉄飛車のような指し方で咎められるリスクがあるということです。これをクリアできるかどうかが一つのポイントでしょうね。
また、(2)についてですが、これは得した一手をどう使うというよりも、先手の駒組みが一手遅れるので得という捉え方をするほうが自然という気もします。
なるほど、仮想図から98香〜99飛〜96歩同歩同銀といった要領でしょうか。地下鉄が来る前に振り飛車から攻めることができれば端の位が活きそうですね。参考になりました!