元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(6月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。6月ということで梅雨入りですか。傘は差さない主義(持っているのが不毛な気がして、昨年の年末に全部捨てた)なので、晴れの日であればラッキーだなぁと感じる毎日です。

 

さて。いつも通り、期間内に指された振り飛車の将棋を見て意見を述べるつもりだったのですが、なんと5月は18局しか指されませんでした。もっとみんな指してくれよ……。

流石にこれでは数が少なすぎるので、普段のような個別の戦法ごとに話をするというスタイルは無理です。という訳で、今回はちょっと形を変えます。現代将棋において、振り飛車はどのような戦略をもって指しこなすべきなのか、ということを記していきたいと思います。「最新戦法の事情」というテーマからは少々、逸脱してしまうかもしれませんが、ご理解いただけると幸いです。早く順位戦始まってくれ。

なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。

 

注意事項

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

現代振り飛車の事情

 

角道を止める振り飛車について

 

振り飛車は大きく分けると、角道を開けて戦うものと、止めて戦うものに分かれますね。まずは、オーソドックスな角道を止める振り飛車の話をします。

元来は、じっくり駒組みを進めれば、互角に戦えるという大らかな戦法でした。それで作戦負けに陥る心配がなかったからです。(第1図)

 

ここから居飛車が急戦で動いてきたらカウンターを狙い、玉頭位取りのような持久戦にしてきたら、囲いを髙美濃→銀冠と発展させて対抗する。それで振り飛車は互角以上に戦えます。どのような展開になっても、振り飛車の方が堅い囲いを作れているアドバンテージを維持できることが大きいですね。

しかし、居飛車穴熊の登場により、振り飛車はその優位性を剥奪されてしまいます。(第2図)

 

角道を止める振り飛車は、相手よりも囲いが堅いことが最大のセールスポイントなのですが、それが主張できないとなると、戦法としての価値が消えてしまいます。振り飛車は根本的な見直しを突きつけられました。

 

そこで登場したのが「藤井システム」でしたね。穴熊に組まれてまずいのならば、そもそも穴熊に組ませなければいいじゃないかという発想で生まれた戦法です。(第3図)

藤井システムは猛威を振るい、居飛車党を震撼させます。いくら穴熊が堅いと言えども、一方的に攻め立てられてしまっては、ひとたまりもありません。

しかし、ご覧の通り藤井システムは穴熊を叩き潰すことに特化した駒組みを行っているので、それ以外の作戦に対応できるのかという問題点が浮上します。具体的には、急戦を仕掛けられたときに、耐えきることが難しいのです。(第4図)

 

基本的に角道を止める振り飛車は、穴熊以外の作戦には玉の堅さを主張できる前提に基づいて成り立っています。しかし、藤井システムは玉の堅さを攻撃力に転化する戦法なので、基盤となっている前提と矛盾が生じています。第4図の局面は、その弊害を突かれてしまった訳なんですね。

居飛車は、「藤井システムには急戦」「それ以外には穴熊」という二つの作戦を用意することで、満足のいく駒組みを行うことができるようになりました。再び、振り飛車は構想の練り直しを求められることとなりました。

 

「タテ」と「ヨコ」を使い分けよう!

 

それでは、今現在、角道を止める振り飛車はどのような駒組みをしているのでしょうか。実を言うと、原点回帰して、穴熊に組ませる将棋が主流になりつつあります。

しかしながら、ただ漠然と駒組みを行うと、前述したように振り飛車が作戦負けです。過去との相違点は、あえて穴熊に組ませて、端を狙う駒組みをするようになったことです。(第5図)

 

2018.4/22放映 第68回NHK杯1回戦第4局 ▲三浦弘行九段VS△大橋貴洸四段戦から。

具体的な例として、この将棋を挙げておきます。詳しい解説はこちらをご覧ください。

この将棋で注目してほしいのは、振り飛車が終盤の切り札として端を攻めるのではなく、駒組みの段階から端を攻めるつもりで指し手を進めている点です。

 

従来、角道を止める振り飛車は、自陣を堅く囲って捌き合いを目指す「ヨコ」の攻め合いで勝つ将棋でした。しかし、穴熊相手には堅さで劣るので、「ヨコ」の将棋では旗色の悪い戦いを強いられます。そこで、現代は第5図のように「タテ」の将棋に持ち込むことで、穴熊の堅さを打ち破ろうとしている風潮を感じます。

現代将棋において角道を止める振り飛車は、相手の囲いによって「ヨコの将棋」と「タテの将棋」を使い分けることが必須です。どのような駒組みが最適解なのかは模索中という印象ですが、何でもかんでも美濃囲い系列の囲いに組めば良いという時代では無くなったことは確かでしょう。

 

 

角交換振り飛車について

 

角道を止める振り飛車とは真逆の性質を持つ戦法です。作戦の趣旨としては、穴熊に組まさない振り飛車と認知している方が多いのではないでしょうか。私もそのような見解を持っていたのですが、最近、それは違うんじゃないのかと思うようになりました。そもそも、居飛車は組もうと思えば穴熊に組めますからね。(第6図)

 

角交換振り飛車でよく見かける駒組みです。ここから居飛車は▲9八香→▲9九玉▲8八銀という手順を踏めば、穴熊には組めます。

振り飛車目線としては、わざわざ手損をしてまで穴熊に組んでくれるのなら、別に構わないと見ているのかもしれません。ただ、手の損得に関しては、そちらも出だしで損を重ねまくってるんだから、あなたが言えた道理じゃないでしょうと思うんですよね。

要するに、角交換振り飛車にしたところで居飛車はその気になれば穴熊に組めてしまうので、穴熊に組まさない作戦ではないのです。

 

 

左桂が使える!

 

だとすると、角交換振り飛車の主張は一体、何なのでしょうか。結論から述べると、左桂が捌きやすいことです。

角交換振り飛車にあって、角道を止める振り飛車に無いもの。それは、(持ち駒の角も間違いではありませんが)左桂の活用が確実にできることです。

普通の振り飛車は配置の構造上、自分の角が邪魔をしていて左桂を動かすことができません。しかし、角交換振り飛車は3三の地点が開いているので、その場所に桂を使うことができます。最近は△3三銀型よりも、△3三桂型の将棋の方が、よく見かけると思いませんか? (第7図)

 

2018.5/17 第44期棋王戦予選 ▲三枚堂達也六段VS△青嶋未来五段戦から。

まだまだこれからの将棋ですが、早くも後手は全ての駒が活用できており、効率は抜群です。振り飛車としては、不満のない序盤でしょう。

このように、左桂を活用しやすいことが角交換振り飛車の本質であり、この駒がしっかり捌けるような駒組みを行うことが、角交換振り飛車を指す上で重要なポイントだと考えています。

 

 

キーワードは「先攻」

 

二種類の振り飛車の大まかな事情を記しました。続いて、先手振り飛車と後手振り飛車の違いについて話をします。

まず、大前提として居飛車に「玉の堅さ」と「主導権」の二つを握られると、作戦負け濃厚です。穴熊に囲われて先攻される展開が、最悪なパターンの一つですね。

先手番では、やはり先攻できる作戦を採りたいところです。それを踏まえると、三間飛車は有力な選択と言えると思います。(第8図)

 

2018.5/20放映 第68回NHK杯1回戦第8局 ▲杉本和陽四段VS△斎藤慎太郎七段戦から。

玉の堅さは居飛車穴熊に劣っていますが、相手が囲いに手数を費やしている間に攻めの形を作ってしまえば、互角以上に戦えるのではないかと思います。前述した最悪のパターンを回避することが肝要ですね。

また、先手中飛車も先攻しやすい戦法でしたが、後手超速や角道不突き左美濃といった足早に攻めてくる戦法が出現したことにより、以前よりも主導権を掴みにくくなった印象は受けます。とはいえ、穴熊に組まれにくい戦法であることは確かなので、これも負けパターンを回避しやすい戦法と言えるでしょう。

 

後手番の場合、自分から動く必要が無いので、「待機」という戦術を取ることは出来ます。例えば、防御力の高い四間飛車で相手からの攻めを受けて立つような作戦は一理あるでしょう。

ただ、「待機」は先攻する姿勢を放棄していますし、隙を作らずに待つことはなかなか難しい技術です。基本的には、先後に関わらず、先攻できない戦法は淘汰されていくのではないかと予想しています。

 

 

今回のまとめ

 

・振り飛車は基本的に捌き合いで勝機を見出す「ヨコの将棋」だが、相手の駒組みによっては「タテの将棋」にシフトチェンジすることも視野に入れよう。

・どんな戦型でも穴熊に組まれると、振り飛車は堅さを主張することができない。したがって、先攻できる駒組みを行い、主導権を握ることが重要だ。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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