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第69回NHK杯 増田康宏六段VS西田拓也四段戦の解説記

どうも、あらきっぺです。

今週は、増田康宏六段と西田拓也四段の対戦でした。

 

増田六段は居飛車党で、棋風は攻め。典型的な終盤型で、特に激しく攻め合う展開に力を発揮するという印象があります。

 

西田四段は振り飛車党で、攻め将棋。序盤はオーソドックスな駒組みを行い、中盤以降は果敢に攻めるのが西田将棋のスタイルですね。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第69回NHK杯1回戦第3局
2019年4月21日放映

 

先手 増田 康宏 六段
後手 西田 拓也 四段

序盤

 

初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲6八玉(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

NHK杯

戦型は西田四段の四間飛車。対して、増田四段は穴熊を目指しています。

ここまでは至って普通の進行に見えますが、先手は二つ工夫している部分があります。そのうちの一つが、9筋の端歩。従来は振り飛車に位を取らせているケースが多かったのですが、最近はきちんと端歩を受けるのがトレンドになっている風潮があります。

 

というのも、振り飛車は端の位が取れると、このような戦い方を実践してくるからです。詳しくは、こちらをご覧ください。
プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(10月・振り飛車編)

 

居飛車としてはこういった状況は避けたいので、端攻めが直撃しないように▲9六歩を突いている意味があります。そもそも、基本的に端の位は取らせないことに越したことはありません。

 

NHK杯

ここからは、△5四銀▲6六歩△7四歩と進み、互いに陣形整備に勤しみました。(第2図)

 

NHK杯

先手のもう一つの工夫は、▲4八銀型のまま駒組みを進めていること。こういった持久戦調の将棋では、さっさと▲5七銀を上がるとしたものですが、それを保留したのがクレバーな構想だったのです。

 

後手は、これを咎めるのであれば△4六歩▲同歩△同飛でしょうが、それには▲7五歩△同歩▲7四歩が厳しい反撃になります。(A図)

 

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△8五桂と逃げるしかありませんが、▲6八角△4二飛▲8六歩で桂得確定なので先手良し。これは4筋の歩交換を逆用されているので指せないですね。

 

これを踏まえると、後手は第2図で△8三銀と上がり桂頭を補強する手も一案ですが、それだと▲6八角と引いてきます。以下、△7二金▲3六歩△8二玉が進行例でしょう。(B図)

 

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ここから先手は(1)▲3五歩から動くか、(2)▲5七角→▲5九銀→▲6八銀という要領で玉を固めるかを選ぶことになりそうです。

ただ、どちらにせよこれは▲4八銀型を維持して▲6八角と引く構想が存分に活きているので、後手としては面白くない印象があります。

 

という訳で、西田四段は第2図から△6四歩を選びました。これは△6五歩を用意することで▲6八角を牽制した意味ですね。もう角を引く将棋にはならないので、増田六段は▲5七銀と指します。(第3図)

 

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水面下で細かい駆け引きがありましたが、先手は銀を上がるタイミングをずらす工夫をしたことで、後手に△6四歩を突かせることを強要できました。この恩恵は、後ほど現れることになります。

 

西田四段は来るべき戦いに備えるべく、△6二金寄▲3六歩△8二玉で囲いを充実させますが、▲3五歩が機敏な仕掛け。先手は無理のない自然な形で先攻することが出来ました。(第4図)

 


中盤

 

NHK杯

後手は△同歩の一手ですが、▲2四歩△同歩▲6五歩が後続手段です。このとき、後手に△6四歩を強要させた効果が顕在化していることが分かりますね。(第5図)

 

つまり、6筋の歩がぶつかっていることで、後手は▲3三角成→▲2四飛と▲6四歩の取り込みを同時に対処することが出来ません。これが序盤で△6四歩を突かせたベネフィットなのです。

 

ここで受けに回るなら△6五同桂なのですが、▲3三角成△同桂▲6八銀のときに後手は指す手に困る意味があります。(C図)

 

(1)△4六歩▲同歩△同飛は、▲6六歩で桂が取られてしまいますし、(2)△2五歩は、▲6六角△4三飛▲7五歩が面倒ですね。先手の駒台に歩が乗ると▲3四歩が強烈なので支えきれません。

 

本譜に戻ります。(第5図)

NHK杯

このように、後手は局面を収めることが不可能なので西田四段は△7七角成▲同桂△4九角と攻め合いを選びました。ただ、そういった展開は玉が深い穴熊の土俵であることは確かです。増田六段は▲6八金引と受け、飛車の活用に期待します。(第6図)

 

NHK杯

ここで△7五歩が突ければ面白いのですが、後手は桂を渡すと▲7四桂が激痛なので▲2四飛の厳しさが増してしまいます。

 

ゆえに、本譜は△7六角成と馬を作って手を渡しましたが、▲2四飛△2二歩▲3一角で2筋の突破が確実となり、当初の目的を達成することが出来ました。先手好調の進行ですね。(第7図)

 

ここから△5二飛▲2二角成は必然ですが、後手はぼやぼやしていると桂香を回収されて駒損だけが残ってしまいます。

 

という訳で、西田四段は△9五歩と突き、端攻めという切り札を使いました。後手が勝機を見出すとすれば、ここに手を着けるよりないところでしょう。(第8図)

 


終盤

 

さて。先手はこれにどう応接するのかセンスが問われるところです。平凡に▲9五同歩も考えられますが、△9七歩▲同香△2二飛▲同飛成△6五桂と進められる手が気になります。(D図)

 

この変化から汲み取れるように、先手は7六の馬が不気味な存在ですね。なので、増田六段は第8図から▲6六馬でこの馬を消去しにいきました。(途中図)

 

ただ、これだと△同馬▲同銀△3三角が飛銀両取りにはなります。以下、▲2一飛成△6六角と進んだ局面は一定の戦果を上げることが出来たので、△9五歩を突いた甲斐はあったという印象を受けます。(第9図)

 

とはいえ、これで先手は安心して▲9五歩が取れるようにはなりました。後手は△9七歩▲同香△9六歩▲同香△6五桂と攻め掛かりますが、▲9四桂で負けじと攻め合う姿勢を見せます。増田六段はこの手に期待していたからこそ、▲6六馬と引く手を選んだのでしょう。(第10図)

 

これを△同香と取ってしまうと9筋が支えきれなくなるので△8三玉は当然ですが、先手は▲6五桂で手駒を蓄えます。ここで次の一手が明暗を分かちました。(第11図)

 

 

勝負の分かれ目!

 

 

結論から述べると、ここでは△9七歩▲8九玉の利かしを入れてから△6五歩が有力でした。(E図)

 

 

 

先手は▲8二角と打つ手が狙い筋の一つですが、現状では△9四香で根っこの桂を取られてしまうので、成立しません。

 

よって、▲7七歩で傷を消しておくのが妥当ではありますが、△7三銀打自玉を固めておくのが粘っこい指し方になります。(F図)

 

 

 

次は△2二飛で飛車交換を挑む手が楽しみですね。

後述しますが、後手は銀を5四に配置しておく必要があったのです。F図はお互いの玉がすぐには寄らない格好なので、長期戦が予想されたことでしょう。

 

本譜に戻ります。(第11図)

実戦は、△6五同銀を選びました。銀を攻めに使うので自然な一手に見えますが、この瞬間、後手陣には致命的な欠陥が生じてしまったのです。

▲8二角がその欠陥を突いた一撃。形勢の針は、大きく先手に傾くこととなりました。(第12図)

 

部分的には△9四香という受けがあるので、この角はそう容易く打てるものではありません。けれども、ここでは▲6四角成が強烈なので、後手は9四の桂が取れないのです。(G図)

 

この手は次に▲6一竜△同金▲8二金からの詰みを狙っているので、実質的には詰めろ銀取りのようなものになっています。

後手は△7三桂と打てばそれらの筋は受かりますが、▲9四歩と取り込まれて端攻めが受からないので勝てないですね。

 

本譜に戻ります。(第12図)

もし、△6五同歩を選んでいれば▲6四角成が銀取りにならないので、いくらでも対処できるところでしたが、こうなっては詮無い話です。

 

西田四段はひとまず△9七歩を利かしたものの、▲8九玉が冷静な対応で状況はなかなか好転しません。(第13図)

 

後手は▲6四角成を喫してしまうとゲームオーバーなので△7三銀と上がりましたが、▲9一角成でこの場所に馬を設置されてしまっては自陣が修繕不可能になってしまいました。

 

受けが利かない以上、△7六桂で攻め合いに望みを託しましたが、▲6七金が受けの決め手。後手が迂闊に駒を渡せないことを見越しています。(第14図)

 

何はともあれ△8八桂成▲同金と進めますが、そこで有効な攻めが繰り出せません。後手は△2二飛とぶつける手が一番指したい手なのですが、それを封じられていることが泣きどころなのです。

 

本譜は止む無く△4八角成と逃げましたが、▲6三歩の叩きが入って先手の一手勝ちが見えてきました。(第15図)

 

西田四段は△5八馬と迫りますが、▲7七金寄が盤石の対応。先手玉には詰めろが続きません。

以下、△9八銀▲同金△同歩成▲同玉△6八馬と進みましたが、ここで相手の攻めが一息ついたので▲9二銀と寄せに転じる余裕が生まれました。(第16図)

 

(1)△7二玉は、▲8一馬で詰み。

本譜は△9三玉と逃げましたが、▲6二歩成で後手玉は受け無しです。その局面で終局となりました。

 


本局の総括

 

  • 先手が▲4八銀型のまま駒組みを進めたのが面白い工夫。これにより、▲6五歩と突く仕掛けが決行できるようになった。
  • 2筋を突破して先手が好調にゲームを進めていたが、△9五歩が実戦的な反撃で、後手も容易には崩れない。
  • 後手は6五の桂の取り方が運命の二択だった。ここでのミスが致命傷となることに。
  • ▲8二角が後手の悪手を的確に咎めた好手。以降は後手玉を修復不能な状態に追い込み、テキパキと着地を決めた。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!



5 Comments

新人居飛車党

いつも楽しんで拝見しております。
端歩突き穴熊の戦いは初めて見ましたが、途中で桂馬を跳ねたり端を攻め返したり、従来の穴熊よりむしろミレニアムの戦い方とかなり共通点を感じました。

端歩突き穴熊とミレニアムとを使い分ける上で、勘所の違いで注意しないといけないのはどういった所になるのでしょうか?

返信する
あらきっぺ

はじめまして。いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。

端歩突き穴熊とミレニアムの違いですが、端の攻防が一つ挙げられます。
ミレニアムの場合は中盤以降、居飛車側が端攻めを狙うケースが多いのに対し、端歩突き穴熊は振り飛車から端攻めされるケースが多いですね。

これは、振り飛車目線から見ると、穴熊相手に「ヨコ」から削り合う攻め合いでは分が悪いため、「タテ」の戦いに持ち込むことで、その劣位性をカバーできる意味があるからだと考えられます。

したがって、端歩突き穴熊は相手からの端攻めの対応がとても重要であると言えるでしょう。
本局で増田六段が見せた△9五歩を手抜いて戦う姿勢は、端歩突き穴熊の特性を活かした指し方だと思います。

返信する
新人居飛車党

なるほど、分かり易いです。ありがとうございます。

そうなると増田六段が端歩突き穴熊を選択された事情が気になりますが、
西田四段が端よりも第3図の様に中央から迫ってくる作戦を採る可能性が高いであろうと見なして、より中央方面に強みのある穴熊を選択された、という可能性もあるのでしょうか。

返信する
あらきっぺ

作戦の選択に関する部分までは、ご本人にお聞きしないことには分かりかねます。

ただ、個人的にはこの端歩突き穴熊は面白い作戦だなと感じました。

返信する
新人居飛車党

立ち入った内容までお聞きしてしまい、大変失礼致しました。

自分も▲7七角を見た瞬間は衝撃を受けましたが、
作戦については見ていて大変面白く、何度も棋譜を見返してみたくなる一局だったと思います。

分かり易いご説明ありがとうございました。
毎月の最新戦法の解説も楽しみにしております。

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