どうも、あらきっぺです。
今週は、渡辺大夢五段と山崎隆之八段の対戦でした。
渡辺五段は居飛車党で、棋風は受け。長期戦になることを厭わないタイプで、受け身になることも苦にしません。とても粘り強い将棋を指される棋士ですね。
山崎八段は居飛車党で受け将棋。序盤のアイデアが豊富で、斬新な構想をしばしば披露します。また、乱れた陣形をまとめる技術が抜きん出ていることも特徴の一つですね。
本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考
本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント
目次
序盤
初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲3八銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。
戦型は相掛かり。渡辺五段はUFO銀と呼ばれる作戦を採用しました。対して、山崎八段は穏便に駒組み行い、じっくりとした将棋に持ち込もうとしています。
ちなみに、UFO銀に対しては急戦策を選ぶのも有力です。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(11月・居飛車編)
第1図は先手にとって方針の岐路で、▲6六歩と突けば矢倉や雁木系統の将棋に誘導できます。本譜は▲6六角△同角▲同歩と進み、角を持ち合う将棋になりました。このように、ちょっとした指し手の違いにより、将棋の性質が大きく変わるところがこの戦型の魅力ですね。
以降も互いに陣形整備に勤しみ、着々と駒組みを進めていきます。(第2図)
先手が銀冠への進展を目指したところ。今度は後手が方針の岐路に立たされています。すなわち、この▲8六歩を通すか通さないかという選択です。
突っ張るなら△8六同飛と取るのですが、▲8五歩で飛車が捕獲されるのでタダでは済みません。以下、△同桂▲8七銀△7七桂成▲8六銀△8七桂が進行の一例です。(A図)
これは一気に終盤戦へと突入する変化になりますね。先手陣を食い荒らせるので踏み込んでみる価値はあったように思いますが、序盤からあえてリスクを取る必要もないことは確かです。
山崎八段は第2図から△4四歩▲8七銀△4三金左と駒組みを進めました。これは当初の予定通り、持久戦を志向したプランですね。(第3図)
ただ、この組み方は危ない手順でした。というのも、第3図で後手陣には隙が生じていたからです。
中盤
渡辺五段は、巡ってきたチャンスを逃しませんでした。第3図から▲2二歩が鋭敏な垂れ歩。早くも先手が一本取りました。(第4図)
これに△3二玉と寄ると、▲2一歩成△同玉▲4一角で金銀両取りが決まります。
そうなると△8一飛で受けるよりないのですが、▲7二角と打つことが出来るので網が破けています。以下、△8二飛▲6一角成△3二角と辛抱しましたが、ここに角を手放すようでは後手苦戦ですね。おそらく、山崎八段に誤算があったのでしょう。(第5図)
後手に不本意な形で角を使わせたので、先手は一方的に攻める態勢が整いました。渡辺五段は▲6五歩と突っ掛けていきます。△同歩▲同桂△同桂▲同銀となれば、▲7四銀→▲8三銀成というドリブルがあるので、攻めの後続がスムーズになりますね。
そこで、本譜は駒を進ませないように△5三金寄と応接しましたが、▲4五歩で戦線を広げて先手好調です。このように、戦いを起こすときは歩をぶつけて争点を増やすことが基本です。(第6図)
これを△同歩と取ると、▲6四歩△同金▲8五桂で桂交換を迫る手がうるさいですね。4四にスペースを空けたことで、先手の攻め筋が広がっていることが分かります。(B図)
素直な対応では勝算が薄いので、山崎八段は歪曲的な手順で紛れを求めます。まずは△3一玉▲4四歩△2二玉で玉を戦場から離れた位置に運びました。先手は自然に▲6四歩と取り込みますが、△9五歩でちょっかいを掛けます。以下、▲2五歩△同歩▲9五歩△6六歩▲同金△5五歩でさらに戦線を広げました。(第7図)
一連の後手の指し手の狙いは、自分の玉を戦場から隠すことです。先程までは4筋にいたので嫌でも流れ弾に当たる格好でしたが、第7図では曲がりなりにも囲いの中に玉が収まっていますね。このまま盤上の左辺を戦場の中心にしてしまえば、後手は相対的に自玉を安全にすることが期待できます。
さて。先手はこの銀取りをどう対処するかですが、シンプルに▲5五同銀と取ってみたかったように思います。△5四歩で銀を取りに来られても▲6三歩成△同銀▲6四歩で刺し違えることが出来るので、犬死にはしないからです。(C図)
本譜は▲6七銀と引いて囲いを固めたのですが、△4六歩という反撃を与えたので少し面倒なことになりました。(途中図)
受けに回るのなら▲4八飛や▲5八銀ですが、渡辺五段は▲6三歩成△同銀▲7一馬△9二飛▲9四歩で飛車を取りに行くほうがより良いと見たのでしょう。後手の△9五歩を逆用できる意味もあるので、魅力的な手順です。
しかし、これは山崎八段の仕掛けたトラップでした。△9七歩が小味な垂れ歩で、局面は混沌とした状況に変貌していきます。(第8図)
▲9三歩成は△同飛であまり利いていません。本譜は▲2四歩△同銀▲9七同香と対応しましたが、玉が狭くなったので△4七歩成の脅威が増しました。
渡辺五段は▲6四歩△5四銀▲9三歩成で飛車を追いかける方針を貫きますが、△6二飛と逃げられた局面はどうもしっくり来ません。先手はと金で飛車を捕まえたいのであり、馬との交換では不服だからです。(第9図)
結果的に先手の9筋逆襲は失敗に終わり、後手は4七のと金を丸儲けしたような勘定になりました。もはや先手の優位は吹き飛んでいます。
飛車を取っても何か厳しい攻めがある訳でもないので、渡辺五段は▲2三歩△同玉▲4三歩成△同銀▲5五金で相手に身を委ねました。先手は一度決め損なったので、開き直っています。(第10図)
後手は飛車を攻めに使いたいのですが、現状では5五の金がそれを阻んでいます。なので、山崎八段は△5七と▲6六銀△5四歩でそれを除去しに行きました。
金の逃げ場はないので、先手は▲4四歩△5五歩▲4三歩成△同金寄と刺し違えるしかありません。以下、▲4四歩△5三金寄▲4三銀△同金寄▲同歩成△同角▲5七銀△6四飛と進みます。(第11図)
ざっと長手数進めましたが、ここまで来ると後手は第7図で思い描いていた「玉を安全な場所に避難して、盤面の左辺で戦いを起こす」というプランを見事に実現しています。
紆余曲折ありましたが、山崎八段は様々な勝負術を駆使して苦戦を跳ね返すことに成功しました。特に、9筋の綾の付け方が秀逸でしたね。
終盤
ここで安全を重視するなら▲6六歩などで飛車の利きを止めるのですが、△7五歩と突かれるくらいでも後手の攻めは止まりません。したがって、渡辺五段は▲5三金で攻め合いを挑みました。
ただ、これは飛車が素通しなので危険と隣り合わせです。実際、△8八歩が軽妙な一着で、先手は大いにダメージを負いました。(途中図)
どちらの駒で取っても飛車に成り込まれてしまいます。
よって、本譜は▲6八銀と我慢しましたが、△8九金▲6九玉で危険地帯へと引きずり出されてしまいました。後手にとっては仕留める好機ですね。(第12図)
後手はどのように寄せの網を絞るかですが、△4四飛で飛車の成り込みを見せるのがシャープでした。▲5二金が気になりますが、△4九飛成▲5九金△3九竜と迫っておけば問題ありません。(D図)
金を取らせるのはもったいないようでも、ここで手番が握れるので大丈夫なのです。(1)飛車が逃げれば△5二角で良いですし、(2)▲4二金△2八竜▲4三金は、△3九飛で後手の一手勝ちですね。
この変化は、先手玉が囲いの外側にはみ出た弊害を突いていることが自慢です。先手は横からの攻めに耐性が低いので粘りが利きません。これなら後手の勝ち筋だったでしょう。
本譜に戻ります。(第12図)
実戦は△6七歩▲同銀△6六歩と上から攻めたのですが、▲5八銀と引かれると急所を外してしまった印象です。先手は、銀が5八にいるほうが△4四飛の備えになっているので好都合なのです。
山崎八段は△6七歩成と成り捨ててリセットしようと試みますが、▲同金と応じられて雲行きがおかしくなってきました。(第13図)
局面を点の視線で見れば、△6六歩と打って拠点を作るのでしょうが、この流れでもう一度歩を打つのは抵抗があったでしょうか。本譜は△5六歩と違う攻め方に訴えましたが、▲6六歩で傷を消されると先手玉が見えなくなってしまいました。
山崎八段は失敗を認めて△6二歩と粘りに転じましたが、これでは変調ですね。▲4三金△同金▲6一馬で馬が働きだしたので、先手に光が射してきました。(第14図)
駒を使うようでは攻めが切れてしまうので△4二金は妥当なところ。しかし、渡辺五段は▲4三歩△3二金▲5二馬と着実に迫っていきます。
後手はと金攻めを見せられていますが、飛車が6四に居たままでは働きが弱いので勝ち目がありません。なので、△5四飛と回りました。先手は当然、▲4二歩成と応じますが、その局面が最後の勝負所でした。(第15図)
何はともあれ、後手は△5二飛▲同との交換を入れておくべきでした。以下、△4七歩ともたれておけば、先手も勝ち切るのは容易では無かったでしょう。(E図)
本譜は△5七歩成▲同銀△5六歩と攻めたのですが、馬を取らなかったことが後手の命取りになりました。なぜなら、▲4一馬が必殺の一撃だからです。(第16図)
次は▲3二馬からの詰めろですし、△2一銀と受けても▲4三角が詰めろ飛車取りです。急転直下の幕切れになってしまいました。こうなっては、山崎八段と言えども粘れません。以降は波乱もなく終局しています。
本局の総括
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!