最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

プロの公式戦から分析する最新戦法の事情(10月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。ペナントレースが大詰めですね。CSというシステムはどうも好きになれないのですが、中継があると、まぁ見てしまいますね笑

 

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、先月の内容は、こちらからどうぞ。プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(9月・振り飛車編)

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.9/1~9/30)

 

調査対象局は65局。叡王戦の予選が終了しつつあるので、対局数が減りました。平均的な数字に戻りましたね。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。

 

 

先手中飛車

凪模様の環境。


12局出現。特段、多い数字ではありませんが、少ない訳でもなく、先手振り飛車の有力な作戦という地位は保っている印象です。

 

環境としては、8月と特に変化がなく、中飛車側が互角以上に戦えています。居飛車側の対策が分散(船囲いで急戦が4局、左美濃が5局、その他が3局)していることが、それを暗示していますね。

 

今回は、中飛車側のささやかな工夫をご覧いただきましょう。(第1図)

 

2018.9.3 第44期棋王戦挑戦者決定トーナメント ▲菅井竜也王位VS△藤井聡太七段戦から。

ありふれた局面ではあるのですが、先手が囲いよりも▲7七角・▲6八銀型を優先的に指していることが注目点です。これは、こちらの記事で紹介した、△4四銀早上がり急戦を牽制している意味があります。

すなわち、第1図から△3三銀と上がっても、▲5七銀△4四銀▲5六銀(▲6六銀)で、先手は受けの形が間に合います。

 

先手は、ほんの少し駒組みの順番を変えるだけで、後手の作戦を限定させることができました。△4四銀早上がり急戦に悩まされているプレイヤーには、朗報と言えるでしょう。

 

 

四間飛車

早い段階で端に着火する。


17局出現。採用率は、17%→26%と大きく上昇しました。先月と同様に、後手番での採用数が多く、(13局)後手振り飛車の主軸となっています。

 

オーソドックスに、居飛車穴熊へ組ませる作戦が相変わらず主流です。この作戦も序盤の形は従来と変わり映えしていないのですが、中盤の戦い方に変化が起こっているように感じます。具体例を二つ紹介します。(第2図)

 

2018.9.3 第4期叡王戦段位別予選五段戦 ▲石田直裕五段VS△石井健太郎五段戦から。(棋譜はこちら)

先手が▲6八銀と引いたところです。次に▲7九銀右で松尾流穴熊を完成されると思わしくないので、石井五段は△4五歩(青字は本譜の指し手)と動きます。

以下、▲2四歩△同歩▲6五歩△4六歩▲同歩△同飛▲3三角成△同桂▲2四飛までは一本道の進行ですね。(第3図)

 

さて。ここから互いの金銀をヨコから削り合うような展開になると、穴熊の土俵です。

そこで、石井五段はそうならないように、△9六歩▲同歩△4四角と端攻めに訴えました。以下、▲2一飛成△9七歩▲同香△8五桂と進んだ局面は、後手ペースです。(第4図)

 

後手は次に香を取って、△9二香打や△6六香といった分かりやすい攻め筋が残っているのに対し、先手は何をするのか難しい局面です。後手のほうが勝ちやすい将棋と言えるでしょう。

 

続いて、こちらも興味深い将棋でした。(第5図)

 

2018.9.28 第4期叡王戦段位別予選四段戦 ▲井出隼平四段VS△西田拓也四段戦から。(棋譜はこちら)

居飛車が松尾流穴熊を完成させたところです。ぱっと見では振り飛車が不満に映る序盤ですが、先手は攻めの形が作れていないという問題点を抱えています。後手としては、それが整う前に戦いを起こしたいところです。

 

西田四段は△4四銀で銀を繰り出し、▲1六歩(△1五角を消して、桂を跳ねる準備をした)に△5五歩と先攻します。(第6図)

 

先手は自然に▲5五同歩と応じますが、△8五桂▲8六角△9六歩▲同歩△5五銀と果敢に攻めて行った局面は、4枚の攻めを実現しているので振り飛車まずまずでしょう。(第7図)

 

途中の△9六歩が極めて現代的な一手です。些か、フライング気味な手ではあるのですが、最近では躊躇なく突き捨てる傾向が強いですね。これは、終盤で端の位を活かして逃げ切る発想ではなく、とにかく端攻めに命運を託した発想です。

 

第7図はどちらを持つのか、プレイヤーによって好みが分かれる局面とは思うのですが、個人的には振り飛車の攻撃陣が素晴らしいので、後手を持っても戦えるのではないかと考えています。

 

この二つの将棋に共通していることは、早い段階で端攻めを決行していることです。穴熊に無く、美濃にあるもの。それは、端を攻める権利です。その利点を最大限に活かすために、このような戦い方が流行っているように思われます。

加えて、多少、強引でも先攻してしまえば、穴熊の堅さが生きにくい展開に持ち込めるという意味もあるでしょう。▲井出ー△西田戦は、正にそういうコンセプトだと考えられます。(だから松尾流穴熊を許した)

 

現環境は、穴熊相手に健闘しているので、四間飛車は有力な作戦という印象を受けます。穴熊側としては、端攻めを警戒した駒組みが必須と言えるでしょう。

 

 

三間飛車

急戦が増加。


10局出現。後手番での採用数が減っています。原因としては、後手四間が有力であることが挙げられるでしょうか。

 

先手三間の場合は、石田流に組み変えたり、トマホークを決行するなど、積極的に動く作戦が多いです。居飛車も穴熊へ組みに行くと受け身になりがちなので、急戦を採用する将棋が増加(4局出現)しています。

その中でも、目を引いたのがこの将棋です。(第8図)

 

2018.9.7 第8期加古川清流戦トーナメント ▲杉本和陽四段VS△大橋貴洸四段戦から。

ナナメ棒銀はありふれた作戦ですが、囲いの形が珍しいですね。舟囲いの類型ですが、それとは一線を画しています。

この囲いは舟囲いと比べると、二つの利点を持っています。それは、

 

(1)金銀の連携が強い。
(2)ゼットを維持しやすい。

 

特に、(2)がセールスポイントですね。もう少し、具体的に説明しましょう(仮想図)

 

後手の舟囲いは、次に▲5二とで金を取られると、▲4二と△同金▲2二金というトン死筋が発生します。したがって、この攻めを手抜きできる可能性は、低いでしょう。

しかし、先手の囲いは△5九とで迫られても、(ほぼ)ゼットを維持しています。したがって、このと金攻めを無視できる可能性が、飛躍的に高まります。これは終盤戦に於いて、大きなアドバンテージですね。

要するに、この囲いは舟囲いよりも遥かに堅いのです。

 

この囲いの名称は、まだ正式に定まっていないようですが、コンピューターソフトのelmoが頻繁に採用していたようなので、当記事では「elmo囲い」と称することにします。(一例として、floodgateでの棋譜を提示しておきます)

 

本譜に戻ります。(第8図)

 

ここから本譜は▲5九角と引きましたが、△7二飛▲7五歩△同銀▲7六歩△6四銀▲5六歩△5五歩と居飛車は争点を増やして攻め続けます。そこから数手後の局面がこちら。(第9図)

 

後手が△5二飛と回ったところです。△5一金型であることを活かした一着ですね。このように、飛車が5筋へ転戦しやすいことも、舟囲いには無い特色と言えるでしょう。

実戦はここから▲5六歩△8二角▲7五歩と進みましたが、△5五歩▲同歩△5六歩から攻め続けた後手が快勝しました。

 

elmo囲いは、舟囲いとほぼ同手数で完成するものの、美濃囲いに匹敵するほどの強度を保持しているように感じます。急戦党のプレイヤーには、持ってこいの作戦と言えるのではないでしょうか。

 

 

ゴキゲン中飛車

超速さえ克服すれば…。


8局出現。成績はゴキゲン側から見て2勝6敗。そして、その内の7局が超速。

内容的にも苦し気な将棋が多く、どうも光明の兆しが見えてきません。果たして春は来るのでしょうか?

 

角交換振り飛車

居飛車に新構想が出現。


10局出現。9月は居飛車が斬新な構想を披露した将棋があったので、それを取り上げたいと思います。(第10図)

 

2018.9.1 第39回日本シリーズJTプロ公式戦 ▲佐藤康光九段VS△中村太地王座戦から。

後手は玉が囲いの外へとはみ出ており、とても対抗型に適した玉型には見えませんね。しかし、なかなかどうして、これが安定感のある配置なのです。

後手はこのあと、△2一飛と回って、2筋から攻めるのが主な狙いになります。一歩を得れば、△7五歩からの桂頭攻めも楽しみですね。

 

この駒組みの着想としては、こちらの記事で紹介したこの将棋と同様です。そして、△4二玉型のほうが2筋を攻めたときに戦場から遠ざかっているので、なお良いという理屈です。既存の地下鉄飛車をさらに尖らせた作戦と言えるでしょう。

 

直接、相手の囲いを、しかも一方的に攻めることを可能にしていることが、この戦法の魅力です。今後に注目ですね。

 

 

その他・相振り飛車

スピード感あふれる駒組み。


8局出現。9月は相振りが2局しかなく、少なかったですね。ですが、なるほどと感じる駒組みを展開した将棋があったので、それを紹介します。(第11図)

 

2018.9.3 第4期叡王戦段位別予選五段戦 ▲石井健太郎五段VS△都成竜馬五段戦から。(棋譜はこちら)

向飛車VS三間飛車の相振りです。この戦型で後手は、△2四歩→△2五歩→△3五銀という要領で、2筋を狙うのが常套手段です。

ところが、都成五段は△4五銀と上がりました。これが、目新しい一手でしたね。(第12図)

 

狙いが見えにくいのですが、この手は先手の駒組みを牽制している意味があります。と言っても、現局面ではそれを実感しづらいと思うので、もう少し手を進めてみましょう。

本譜はここから▲4八金上△4四角▲2八銀△3三桂▲7五歩△1四歩と進行しました。(第13図)

 

先手はここまで自然な手を積み重ねてきましたが、ここに来て、妙に指し手が難しくなっています。

後手の端攻めのほうが明らかに速いので、ここで▲9六歩と突く気は起きないですね。

▲5六歩→▲6八角→▲4六歩という手順で、4五の銀を撤退させれば話は旨いのですが、▲5六歩を突くと、△3六歩▲同歩△5六銀という捌きを誘発します。(A図)

 

また、第13図から▲6五歩で角を使いにいくのは、△7七角成▲同桂△3六歩▲同歩△5五角がうるさい攻めになります。(B図)

 

例えば、▲7六飛と受けると△3六飛で飛車交換を挑んで後手優勢です。

B図では▲6八角が最も手堅い受けですが、それでも△3六飛とぶつけてしまって、後手が互角以上に戦えるでしょう。やはり、飛車交換になると美濃囲いのほうが堅いですから。

 

振り返ってみると、後手は△4五銀と上がることで、主導権を握ることに成功していることが分かります。三間飛車側は歩を動かす手間が少ないので、スピード感あふれる駒組みを展開することができています。それが、主導権を握ることに繋がっている訳ですね。とても優秀な作戦だと思います。

 

 

今回のまとめと展望

 

先手番なら中飛車や三間飛車。後手番なら四間飛車が有力と言う環境は、先月から変わらない。

 

 

・逆に、それ以外の振り飛車は全体的に下火の傾向がある。先月から対局数を維持している戦法こそあるが、増加した戦法は一つもない。

 

 

・相振り飛車が妙に減少した。振り飛車党の中で、対抗型の居飛車を持ちたいと感じているプレイヤーが増えている?

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



6 COMMENTS

さんでび

はじめまして。
いつもありがたく拝見させていただいております。
私の棋力ではプロの間でどのような局面が問題で何が流行かを自力で把握するのは厳しいので毎月楽しみに待っています。
さて、私は基本的に対振りでは急戦を使っているのですが対三間飛車が苦手なので記事の中で取り上げられている大橋四段と杉本四段の対局はとても興味深かったです。簡単に大橋四段の棋譜を調べてみたところ、大橋四段は7月12日に渡辺正和五段戦で後手三間飛車に対して、4月18日に古森四段の四間飛車、9月7日に井出四段の四間飛車に対してelmo囲いを使っているようなのですが、他にもこの囲いを使っている棋士はいるのでしょうか。短手数で美濃囲い並みに硬いこの囲いは急戦使いとしてはなかなかに革命的だと思っています。

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あらきっぺ

はじめまして。
いつも、ご覧いただき、ありがとうございます。

elmo囲いが採用された将棋ですが、最近でしたら今月の11日にあった、【第77期C級2組順位戦 ▲矢倉規広七段―△佐藤紳哉七段】で出現しています。
私自身も、ネット将棋で何度か試してみましたが、普通の舟囲いよりも安定感があって、使い勝手が良いですね。

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さんでび

あらきっぺ様

ご返事を頂きありがとうございます。
教えていただいた【第77期C級2組順位戦 ▲矢倉規広七段―△佐藤紳哉七段】の棋譜を確認させて頂きました。
硬さもですが玉が広くて横から攻められても上に逃げれますね。
自分でも指してみましたが、アマチュア的にも舟囲いと似たような戦い方ができて真似がしやすいのかなと思いました。
先手三間飛車相手に杉本大橋戦、本局と連勝しているところを見るともしかしたらこれからプロ棋戦でも増えるかもしれませんね。
今度出る今泉先生の中飛車の本にもelmo囲いが解説されるそうなので。

ご返事をすぐに頂いていたにも関わらず返事が遅れてしまいすみません。
また次の記事を楽しみに待っています。

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あらきっぺ

いえいえ。とんでもございません。お気になさらず。

激励、ありがとうございます。今後もマイペースで執筆していくので、ご覧いただけると何よりです。

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けんたうろす

はじめまして。
エルモ囲い検索からこちらを拝見しました。
月別の視点というありそうでない斬新な視点に大変興味を持ちました。
まだ他の記事など読んでませんが、今後も楽しみにしております。

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あらきっぺ

はじめまして。

ご高覧ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。

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