元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

~トマホークの攻防~ 第68回NHK杯解説記 安用寺孝功六段VS広瀬章人八段

今週は、安用寺孝功六段と広瀬章人八段の対戦でした。

 

安用寺六段は振り飛車党で、角交換振り飛車や三間飛車を好んで指しています。棋風は受けで、苦しい局面で上手く粘る技術が高い印象があります。

一回戦では、八代弥六段に角交換振り飛車で勝利しました。 ~青写真を描く~ 第68回NHK杯解説記 八代弥六段VS安用寺孝功六段

 

広瀬八段はかつては振り飛車穴熊のスペシャリストでしたが、今ではすっかり王道を行く居飛車党になりました。形勢が良くなると流麗に相手を仕留めるタイプで、切れ味抜群の将棋ですね。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯2回戦第3局
2018年8月19日放映

 

先手 安用寺 孝功 六段
後手 広瀬  章人 八段

 

初手から▲7六歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七角△3四歩▲6六歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

戦型は安用寺六段の三間飛車。対して、広瀬八段は穴熊を目指して堅陣を作ろうとしています。

このまま後手に穴熊に組まれてしまうと先手は作戦負け濃厚なので、無策に駒組みを進めることはできません。何らかの工夫が必要なのです。

安用寺六段は▲5六銀△5二金▲4五銀と銀を軽快に繰り出して△8四飛を強要し、▲1五歩と端の位を取りました。これは、通称「トマホーク」と呼ばれている作戦ですね。(第2図)

 

ここで後手が初志貫徹に△1二香と穴熊を目指すとどうなるでしょうか。実はその手が先手にとって最もありがたく、▲1七桂と跳ねて早くも一本取っています。以下、△1一玉▲2五桂△2二角▲6五歩で攻勢に出ている先手が良いでしょう。(A図)

 

角交換になると▲6六角と打つ手が発生していることが大きく、後手に△8四飛を強要させた利点が顕在化しています。

こうなると後手は端攻めされるために穴熊に囲っているようなもので、囲いに費やした指し手が全てマイナスに作用しています。A図はトマホークの理想的な展開ですね。

 

本譜に戻ります。(第2図)

どうも穴熊を目指すのは危険なので、広瀬八段は△7四飛で先手陣を揺さぶりました。▲8八角と引けば歩取りは受かりますが、△8四飛▲7七角△7四飛…と千日手を含みにしています。

ただし、7四の飛が縦に動くと3四の歩が浮いてしまうので、先手は7六の歩を受ける必要はありません。安用寺六段は▲5八金左△7六飛で歩を取らせ、▲3四銀△4四角▲4五銀△3三角で歩損を回収します。(第3図)

 

さて。後手はもう穴熊を組めそうに無いので、(▲6五歩や▲1七桂→▲2五桂で先手に動かれる手段があるので、完成する前に戦いが勃発する)それに満足して▲3九玉で囲いを強化する手は自然です。

ですが、安用寺六段は▲1七桂と跳ねて、より積極的にリードを奪いに行きました。端桂を発動するともう持久戦にはできないので、不撤退の覚悟を示した手でもあります。

次の▲2五桂を簡単に許すわけにはいかないので、△2四歩は必然。以下、▲2六歩△2三金▲2五歩△3二銀と上部を盛り上げて先手の攻めに対抗します。(第4図)

 

第3図から第4図までの手順は、先手が▲2五桂と跳ねたいと要求していて、後手はそれを必死に阻止しているせめぎあいが続いています。

よって、先手はどうにかして2五に桂を跳ねる状況を作りたいところ。ここでは▲3六銀がそれを具体化させる柔軟な手で、それなら先手が上手く立ち回っていたように思います。(B図)

 

銀を引くことで、(1)2五の地点に利きを増やす。(2)次に▲3五銀で金銀交換を迫る狙いが生じる。という効果があります。

後手は▲3五銀を防ぎたいのですが、(1)△7五飛には▲7六歩△同飛▲3五銀。(2)△3四歩には▲6五歩でいずれも先手の好調な攻めが続きます。攻めが止まらなければ、▲1七桂と跳ねた手の顔が立っていますね。

 

本譜に戻ります。(第4図)

安用寺六段は▲2四歩△同金▲2七銀と指しました。これは攻め駒を増やしつつ、▲3六銀上→▲2五桂という手順で端桂を使おうとした意味です。ただ、B図と比較すると、桂を跳ねるまでに時間が掛かることと、囲いが弱体化するという二つの懸念を抱えており、リスクが高すぎた嫌いがあったでしょうか。

 

▲2七銀に対して、広瀬八段は△3一玉と引きました。何気ないところでしたが、これがとても良い手です。間接的に角のラインをかわしたのが好判断で、後手の玉型に安定感が出てきました。(第5図)

 

安用寺六段は構想通り▲3六銀上と指しますが、この瞬間は後手に反撃の手番が回っています。

広瀬八段は△2六歩▲3八金を利かして先手玉の側面(5筋方面)を薄くしてから、△8六歩▲同歩△6六角で飛車を捌きに行きました。後手は△3一玉と引いて玉型が安定したことにより、攻めに転じることが可能になっています。(第6図)

 

ここで形勢判断をしてみましょう。

玉型は互いに薄い格好ですが、2六に拠点が設置されていることを加味すると、やや後手に分があるでしょうか。将来、△4二玉と上がった形がまあまあ堅いようにも見えますね。

駒の損得は五分。

駒の効率は、まず飛車の働きに差があります。後手の飛車は成り込める目処が立っていますが、先手はそれがありません。また、4五の銀があまり機能していない点も気懸かりです。後手も8一の桂や6二の銀の働きは不十分ですが、総合的に評価すると、後手のほうが駒の働きが良さそうです。

話をまとめると、玉型と効率で少し差があるので、後手良しと言えるでしょう。

 

先手は繰り出した銀を攻めに使わないと今までの指し手と整合性が取れないので、安用寺六段は▲2五銀と指しましたが、△3五金で手番を取り返されるのが辛いところ。以下、▲5六銀△7七角成▲同桂△8六飛▲8八歩△8七歩と自然に8筋を突破して、後手好調です。(第7図)

 

先手は△8八歩成→△9九と→△8九飛成という攻めを受け止めることができません。受けが無いときは攻めに転じるしかないので、安用寺六段は▲6八飛と寄って、飛車を捌く準備をします。

広瀬八段は△2七歩成▲同金△2六歩▲2八金と形を乱して(金を2八に移動させることにより、将来の△8九飛成がより厳しくなる)△8八歩成と攻めますが、▲6五飛△3四歩▲2二歩が先手期待の反撃です。(第8図)

 

▲2二歩は、取られたところで何か大きな技が掛かるという手ではないのですが、確実に敵玉を危険地帯におびき寄せたり、形を乱すことができるので、損のない一手です。(蛇足ですが、後手の△2七歩成→△2六歩も同様です)

料理に例えると下味を付けるようなもので、こういう手がぱっと見えるようになると、寄せの技術が一皮むけてきますね。

 

▲2二歩に△同玉は▲2四銀が嫌らしいので、広瀬八段は△3三桂を選びますが、▲2一歩成△同銀▲2四銀で手番を握りながら銀を進軍して、楽しみが出てきました。△3二銀は止むを得ない受けですが、先手は一歩の犠牲で手数を稼いでおり、差を詰めた印象です。(第9図)

 

しかし、ここで▲3三銀成が性急な手で、敗着になってしまいました。第9図では▲2三歩と力を溜める手が勝りました。現状、先手の攻め駒は飛・角・銀の三枚なので、些か細い不安があります。なので、戦力を増やす必要があったのです。

▲2三歩には△9九と▲2二角△4二玉▲1一角成△8九飛成▲6九歩が進行の一例ですが、これはどちらが勝っているのか、正直よく分かりません。(C図)

 

後手は待望の△8九飛成が実現しましたが、先手も底歩が堅いので簡単には倒れません。次の▲2二歩成はかなりの迫力です。

C図では△2七歩成▲同金△2一歩で受けに回るくらいでしょうか。しかし、拠点を捨てると先手玉も耐久力が上がるので、先の長い終盤戦が予想されますね。

 

本譜に戻ります。(第9図)

本譜は▲3三銀成△同銀▲2五桂と攻め掛かりました。これは△8九飛成が来る前に後手玉を仕留めてしまおうという意図ですが、△2四銀が「桂頭の銀、定跡なり」という格言通りの受けで、先手は攻めの継続が難しくなってしまいました。(第10図)

 

寄せの常套手段は敵玉を上から押さえることなのですが、現状、先手は頭の丸い駒しか手駒にないので、それができないことが泣きどころです。

安用寺六段は▲3三角と放り込みましたが、△2五金が冷静な対処。角取りを残しながら桂を払うのが急所で、先手の指し手に制約を与えることができます。

△2五金に▲1一角成はこのくらいですが、これでは攻め駒が玉から遠ざかっており、迫力不足は否めません。△2七歩成▲同金△3五桂▲2八金△9九とで遂に飛車の成り込みが見えてきました。(第11図)

 

安用寺六段は▲2六歩△同金▲3六桂で銀を取りに行きますが、次に▲2四桂が指せても後手玉は詰めろになりません。よって、後手は2手スキの連続で勝てる局面になりました。

広瀬八段は△8八飛成と迫ります。▲2四桂には△3九銀▲同玉△5八竜で後手の一手勝ち。銀を二枚渡しても、後手玉はまだ詰みません。(D図)

したがって、本譜は▲6八飛△7九竜▲6九歩と辛抱しましたが、△2七桂成が着実な攻めで、先手玉は受けが利かなくなりました。敵玉を寄せるには様々な工程を踏まなければいけませんが、最終的に金を攻める形に持ち込めば、明瞭に寄せ切ることができます。(第12図)

 

安用寺六段は▲2四桂△2八成桂▲3三馬と開き直りましたが、これは形づくり。△3八成桂で終局となりました。(第13図)

 

▲3八同玉と応じるしかありませんが、△2七角以下容易な詰みですね。

 

 

本局の総括

 

  • 先手は序盤からアグレッシブに動き、主導権を握ることに成功。ただ、第4図から3八の銀を繰り出した構想がリスキーで、どうだったか。B図の変化を選びたかった。
  • △3一玉と早逃げしたのが好判断で、ここから後手に流れが傾く。
  • 先手は苦しいながらも上手く食らいついていたが、第9図で▲3三銀成が惜しい一手。ここで決定的な差が着いてしまった。
  • 最終盤は、広瀬八段の冷静な寄せが光り、付け入る隙を与えなかった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA