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第69回NHK杯 藤井聡太七段VS久保利明九段戦の解説記

NHK 藤井

今週は、藤井聡太七段と久保利明九段の対戦でした。

 

藤井七段は居飛車党で、攻め将棋。終盤型の将棋ですが序中盤にムラがある訳でもなく、一手一手の精度がとても高い棋士の一人です。

 

久保九段は振り飛車党で、軽快な棋風の持ち主です。「捌きのアーティスト」という二つ名はあまりにも有名ですね。また、詰む・詰まないといった判断がべらぼうに強い印象もあります。

 

第69回NHK杯2回戦第2局
2019年8月25日放映

 

先手 藤井 聡太 七段
後手 久保 利明 九段

序盤

 

初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲6八玉(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

戦型は、久保九段の四間飛車。対して、藤井七段は持久戦を志向した駒組みを展開します。

ここから振り飛車は無策に駒組みを進めていると、居飛車に穴熊へ囲われて「堅さ」という主張を持たれてしまいます。そういった状況を避けるため、久保九段は△4五歩▲9六歩△9四歩▲8八玉△3五歩と意欲的な指し方を採りました。(第2図)

 

これは間接的に居飛車穴熊を警戒した構想です。例えば、先手が穴熊に拘るなら▲6六歩になりますが、それには△4四飛→△3四飛という手順で振り飛車は軽い構えを作れるので不満なしでしょう。

なお、先手が第2図の局面を避けるなら、△4五歩と突かれたときに▲3六歩という手は考えられました。そのとき、久保九段がどういった構想を用意していたのかは興味深いところです。

 

さて。先手は穴熊には組みにくくなったので、藤井七段は▲7八銀△5二金左▲8六歩で左美濃に構えました。以下、△6四歩▲1六歩△1四歩▲6八金寄△7四歩で互いに陣形の整備を進めます。

後手としては「穴熊に組ませない」というミッションはクリアできたので、あとは淡々と組んでおけば悪くはならないと見ている訳ですね。(第3図)

 

両者、角が睨み合ったまま駒組みを進めていますが、そろそろ形を決めないといけない段階になりつつあります。藤井七段は▲3三角成△同銀▲6六歩で権利だった角交換を行使します。こうなると膠着状態になりやすいので、先手が打開できるか否かが焦点となりました。

 

以降は、先手は銀冠に、後手は高美濃に囲いを発展させて、来るべき決戦に備えます。(第4図)

 

先手は駒組みが飽和しつつあるので、打開する手段を考えたい局面です。動くのであれば、もちろん▲3六歩が候補の筆頭ですね。以下、△同歩▲同飛△2七角▲3五飛が進行の一例でしょうか。

ちなみに、△2七角に▲3九飛と引いてしまうと△3八歩で飛車が隠居してしまうので、中段に構える方が自然な対応と言えます。(A図)

 

ここから△4九角成▲3七桂△7五歩が予想される進行です。先手としては有力な変化だったと思いますが、自ら後手に攻め筋を与えているようなところもあるので、藤井七段は見送られたのでしょう。

 

本譜に戻ります。(第4図)

実戦は▲5八金△6二金上▲6八銀と指しました。これは金銀を繰り変えて、より良い配置で仕掛けを狙う意図です。

ただ、先手陣はこの瞬間、中途半端な格好になったので、△8三銀▲6七銀△7二金後手に銀冠への進展を許した嫌いはありました。(第5図)

 

銀を6七に配置したので、先手陣は囲いが強化されました。しかし、4筋の守りが薄くなったので、▲3六歩を突くと△4六歩で切り返されてしまうようになった点が泣きどころです。結果的には、かえって打開が難しくなってしまったような感がありますね。

仕方がないので、本譜はここから▲4八金△9二玉▲5八金△8二玉……で藤井七段は千日手を受け入れました。後手としては満足と言える結果でしょう。

 


本局の総括

 

序盤で後手が△4五歩と△3五歩を突いたのが意欲的。石田流を見せることで、穴熊に牽制球を投げた。
先手が打開するなら、第4図から▲3六歩は考えられた。本譜はこれを見送ったので、千日手が避けられなくなった。結果的には、後手の待機策が奏功したと言える。

続きとなる千日手指し直し局の解説記は、こちらからどうぞ!

NHK 藤井聡太第69回NHK杯 久保利明九段VS藤井聡太七段戦の解説記(千日手指し直し局)



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