どうも、あらきっぺです。年賀状が届くと干支のことを意識しますが、月の下旬を迎えると、もう忘れますね笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情(2019年12月号・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2019.12/1~12/31)
調査対象局は60局。それでは、戦型ごとに掘り下げて行きましょう。
先手中飛車
相変わらず低調。
6局出現。先月に続いて、低調な対局数です。
居飛車は超速系統の作戦が多く、(5局出現)この傾向は昨年の9月頃から一気に加速しました。なぜ、ここまで大きな偏りが見られるのかというと、この作戦は主導権を握りやすく、先手中飛車の利を奪いやすいからです。
中飛車側は後手超速に対して満足の行く対策を打ち出せておらず、現環境は居飛車が押しています。あまり先月から変化が見られなかったですね。
四間飛車
▲5五角に翻弄されている。
9局出現。出現率は15%で、あまり高い数字とは言えません。
四間飛車は、2018年の3月から9月まで、後手番の主力として君臨していた歴史がありました。これは、居飛車穴熊に組ませても十分に対抗できることが認知されたからです。
しかし、2018年10月頃にミレニアム。そして2019年4月頃に端歩突き穴熊が登場したことにより、環境は大きく変化しました。四間飛車はこの二つに苦しめられています。特に、後者の戦法が非常に手強いですね。
しかも、このところ居飛車側は、端歩突き穴熊を見せ球にして、他の作戦と使い分ける工夫も見せているのです。(第1図)
2019.12.19 第13回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲屋敷伸之九段VS△羽生善治九段戦から抜粋。
ここまでは星の数ほど指されている局面でしょう。
従来は、ここから▲7七角△5二金左▲8八玉という要領で、端歩突き穴熊を目指していました。それも大いに有力なのですが、最近のトレンドは▲3六歩△7一玉▲5五角と揺さぶる指し方です。(第2図)
これに対して△6三銀なら形が乱れるので、▲7七角と引き上げて端歩突き穴熊を目指します。もしくは、▲3五歩△同歩▲4六銀で急戦を発動するのも魅力的ですね。
本譜は△6五歩と突きましたが、先手は▲8八玉△3二飛▲7八銀△5二金左▲8六歩△8二玉▲8七銀で銀冠を作りに行きます。(第3図)
ここから互いに囲いの整備を進めていくと、最終的には銀冠穴熊まで発展することが出来ますね。しかし、そういった固め合いでは、5七の銀と4三の銀に明確な差が生じてしまうのです。居飛車の銀のほうが囲いにくっつけやすいので、振り飛車は作戦負けになる未来が見えています。
ゆえに、振り飛車としては早期決戦を挑むほうが良い戦略ではあります。例えば、△3五歩▲同歩△4五歩はどうでしょう。三間に振り直したことからも、こう指してみたいところですね。
ただ、そう仕掛けられても、先手はきちんと対応すれば事を有利に運ぶことが出来ます。その手順については、豪華版をご覧くださいませ。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年1月号 振り飛車編)
三間飛車
石田流を巡るせめぎ合い。
15局出現。出現率は25%で、高い支持を得ていることが窺えます。特に、後手番で10局指されていることがそれを象徴していると言えるでしょう。
対する居飛車は、持久戦が人気(10局出現)ですね。急戦系統の将棋は▲4五歩早仕掛けが多いのですが、これは振り飛車側も対策を打ち出しているので脅威を感じません。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年12月号 振り飛車編)
居飛車が持久戦を選んだ場合、大きく分けると穴熊か左美濃のどちらかに組むことになります。そして、12月はそれらを両天秤に構える指し方がホットでした。今回は、その戦型を掘り下げていきましょう。(第4図)
このように、囲いを穴熊と美濃のどちらにも出来るようにして駒組みを進めるのが、目下のところ注目を集めている手法です。
ここから後手が△6四歩▲6七金△6三金のように淡々と囲いを進展させると、居飛車は▲9八香から端歩突き穴熊を作りに行きます。その展開は、囲いの堅さで劣る振り飛車が作戦負けになる恐れが高いですね。
したがって、三間側は石田流に組み、穴熊に組まれる前に動いて行くような将棋を目指すほうが得策です。そうなると△5一角と引く手が考えられますね。それを見て、居飛車は▲7八銀△3五歩▲6八角で、石田流を迎撃しにいきます。こういった早い戦いの場合は、囲いが早く完成する左美濃のほうが適していますね。(第5図)
2019.12.20 第33期竜王戦6組ランキング戦 ▲池永天志四段VS△石川優太四段戦から抜粋。
先手は[▲6八角+▲4六銀]というコンビで石田流を狙い撃つ腹積もりです。こうなると△3四飛とは受けません。
ゆえに、本譜は△3六歩▲同歩△同飛▲3七歩△3一飛で飛車を深い位置へと配置します。先手は▲4六銀△6四歩▲6七金で形を整えるのが自然でしょう。(第6図)
この局面は、居飛車は石田流を封じ、三間は端歩突き穴熊を阻止できたという主張があります。ここからどのように駒組みを行うのか、(もしくは戦いを起こすのか)構想力が問われる将棋と言えるでしょう。
この将棋が示すように、現環境の三間飛車は石田流を巡るせめぎ合いが鍵を握っています。振り飛車としては、端歩突き穴熊を阻止しながら石田流に組めれば理想ですね。居飛車は囲いの形もさることながら、相手の理想形を封じることのほうが大事と言えるでしょう。
角交換振り飛車
他の作戦と併用する。
10局出現。先手で3局。後手で7局。
全体的には△3三銀型系統の将棋が主流になっており、11月とは様子が変わりました。
11月は△3三桂型の将棋が多く指されていたのですが、NHK杯の▲行方-△久保戦を境にパッタリと姿を消しています。この将棋は居飛車の仕掛けが上手くいっていたので、その影響が大きいのかもしれません。

さて。△3三銀型の将棋ですが、後手は特に工夫なく組んでいると、作戦負けになりやすい傾向があります。その理由につきましては、こちらを参照してくださいませ。
参考 最新戦法の事情【豪華版】2019年9~10月・振り飛車編
よって、後手はオープニングで一捻りする作戦を採用するケースが出てきています。(第7図)
2019.12.12 第78期順位戦C級2組7回戦 ▲出口若武四段VS△古森悠太四段戦から抜粋。
振り飛車が早々に9筋の位を取っている点が目を引きます。これは、後手が4手目に△9四歩と打診して、先手がそれを無視したのでこういった局面になりました。おそらく、▲9六歩と受ければ違う作戦にシフトする予定だったと思われます。
実を言うと、この指し方は目新しい訳ではなく、平成の後期から指されている作戦です。ただ、ここから△4四歩▲3六歩△2二飛と指すのがプチブームになっていますね。(第8図)
4筋の歩を突いてからダイレクト向飛車にするのが、後手のアイデアです。この手順を踏むことで、▲6五角と打たれる筋を牽制できるメリットがあります。
△4四歩を早めに突くと、4四に銀を上がる含みが消えますが、その指し方は自分から動くことを前提としています。けれども、この将棋は端に手数を費やしているので、速攻志向はチョイスが悪い可能性があります。
逆に、待機するつもりなら△4四銀と上がる必要は無いですし、局面が膠着状態になれば端の位は大きな資産になり得ます。そういった事情があるので、後手は早めに△4四歩と突いても差し支えないと判断しているのですね。
この作戦は、4手目の△9四歩に対して▲9六歩と受けられたときに、用意の作戦が無いと成り立たない意味はありますが、それを持っているプレイヤーには有力な持ち球になり得ると見ています。居飛車にとっては、要警戒の作戦ですね。
その他・相振り飛車
早繰り銀を逆手に取る。
20局出現。なお、そのうち相振り飛車は6局でした。
対抗形では、向飛車系と中飛車系の将棋が多かったですね。ただ、向飛車は自発的に指しているのか、相手が早く飛車先の歩を伸ばしたのでそれに乗じただけなのか判別しない節があり、流行っているという訳ではなさそうです。
今回は、ノーマルな中飛車の将棋を取り上げたいと思います。この将棋は相居飛車の環境を上手く利用しており、なかなか有力ではないかと感じました。(第9図)
2019.12.22放映 第69回NHK杯3回戦第3局 ▲屋敷伸之九段VS△野月浩貴八段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手はまだ態度を明らかにしていませんが、基本的には居飛車(雁木)を想定した駒組みです。△3二金を早めに上がっていることが良い証拠ですね。
この雁木模様の対策の一つに、早繰り銀から速攻を仕掛けるという手法があります。なので、屋敷九段は▲3七銀を優先的に指している訳です。
この挙動を見て、後手は作戦をシフトチェンジします。ここから△5四歩▲7八銀△5二飛▲7九玉△6二玉で、中飛車に構えたのが臨機応変な駒組みでした。(第10図)
こういったクラシックな中飛車は、持久戦になったときに△3二金型が思わしくないので、作戦負けになりやすいという話があります。ですが、この場合は居飛車の「▲3七銀」という配置も持久戦に適していないので、釣り合いが取れているだろうと判断しているのです。
そうは言っても、居飛車は急戦を仕掛けると△3二金型が働いてくるので、持久戦に移行するのが自然でしょう。ただ、駒組み合戦になると振り飛車のほうが方針が分かりやすいところがあります。(第11図)
第10図から数手ほど進んだ局面です。こうなると、先手中飛車に対して左美濃で対抗したような将棋になっていますね。
後手は常に▲3五歩から仕掛けられる攻め筋がありますが、それには△4五歩で切り返すことが出来るので、心配無用です。実戦もその筋を上手く発動させた後手が快勝しました。
この作戦は、相手の指し方に依存されるので再現性は高くはないと思いますが、発動条件が揃えば有力な作戦という印象を受けます。雁木と合わせて使うと面白いでしょう。
プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年1月号 振り飛車編)
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今回のまとめと展望
・先手番の振り飛車は特定の戦法に偏らず、分散している。これは、先手中飛車が沈滞しているので、それに代わる新たなエースを模索している段階だと思われる。
・後手なら三間飛車が一番人気。攻勢に出やすいことが最大の魅力だ。石田流に組み換える作戦が有力なので、これは存分に戦えている。他の振り飛車は複数の作戦と併用して組み立てる必要があり、そういった工夫を凝らせば十分に戦える。裏を返すと、単独ではなかなか厳しい。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!