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第69回NHK杯 近藤誠也六段VS深浦康市九段戦の解説記

NHK杯 近藤

今週は、近藤誠也六段と深浦康市九段の対戦でした。

 

近藤六段は居飛車党で、棋風は攻め。堅い玉型やじっくりとした将棋を好むタイプです。また、終盤の切れ味は若手棋士の中でも屈指ですね。

一回戦では阿久津主税八段と戦い、一手損角換わりを打ち破って二回戦に勝ち上がりました。
NHK杯第69回NHK杯 近藤誠也六段VS阿久津主税八段戦の解説記

 

深浦九段は居飛車党で、攻守についてはバランス型。長期戦になることを恐れないことが特徴で、安定感の高い将棋を指される棋士の一人です。

一回戦はシードだったので、二回戦からの登場です。

 

なお、本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント


第69回NHK杯2回戦第11局
2019年10月27日放映

 

先手 近藤 誠也 六段
後手 深浦 康市 九段

序盤

 

初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲3八銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

NHK杯 近藤

戦型は相掛かり。一口に相掛かりと言っても様々な形がありますが、本局のように互いが優先的に▲4七銀型(△6三銀型)を決めると、急戦調の将棋ではなくなりますね。

 

ここから先手は腰掛け銀に構えるのが普通ですが、近藤六段は▲3六銀と逆方向に上がる趣向を見せました。後手は2筋への攻めを警戒して△8八角成▲同銀△2二銀と備えますが、先手は角を交換させたことに満足して▲6八玉△4二玉▲5八金から再び駒組みに移行します。(第2図)

 

NHK杯 近藤

こうなると先手はUFO銀を採用した格好ですね。ただ、初めからUFO銀を選ぶと、後手は△6四歩→△6三銀という2手を優先的には指さず、もっとUFO銀に対して相性の良い配置を選びます。

つまり近藤六段の作戦は、腰掛け銀とUFO銀を両天秤に掛けることで、後手の選択肢を狭めた意味があるのです。非常に細かいところですが、少しでも得をしたいという意思が垣間見えますね。

 

後手は現状では▲2五銀と出られても△6五歩と突いておけば差し支えありませんが、常に銀の進軍が残っているのは始末が悪いところ。なので、深浦九段は△3三桂と跳ね、3六の銀を足止めさせます。

以降は、先手は矢倉、後手は銀冠の骨格を作り、陣形を整えていきます。(第3図)

 

さて。先手はここからさらに駒組みを進めるなら▲2九飛や▲7九玉になりますが、後手陣は△6二金と△8一飛の二手が入れば自陣の隙が完全に消えるので、先手は漫然とした態度は取りにくいところがあります。

ゆえに、近藤六段は▲2五歩△同歩▲3五歩△同歩▲2五桂と動いていきました。以下、△同桂▲同飛△2四歩▲3五飛までは一本道でしょう。(第4図)

 

桂交換になったので、局面が膠着状態になる恐れはなくなりました。ゆっくりとした序盤戦でしたが、いよいよ戦機が熟してきた印象ですね。

 


中盤

 

後手は3筋が素通しでは流石に危険なので、何はともあれ歩を打って補強するのは当然です。自然な受け方は△3四歩ですが、それを指すと▲6六角や▲3三歩△同金▲4五桂といった攻め筋が残るので、微妙なところがあります。

そこで、本譜は△3三歩とあえて下側に歩を打つ受けを選びました。(途中図)

 

このような意図的に低い位置に歩を打って自陣を引き締めるテクニックは平成の後期辺りからポピュラーになった手法で、現代的な指し方と言えます。ちなみに、藤井聡太七段が好む戦術でもありますね。

 

とはいえ、この場合は手番を渡すので、良いことばかりではありません。具体的には、▲2二歩△同金▲6六角で強攻される手段を与えている嫌いはあります。(A図)

 

飛車を引くのは、▲3四歩でこじ開けられるとピッタリとした受けがありません。よって、後手は△8五飛と浮いて飛車交換を挑むのが一案です。これは一気に激しいことになりますね。

A図の変化は簡単ではありませんが、先手としては相手の理想形が整う前に決戦になるので、やってみる価値はあったように感じます。

 

本譜に戻ります。(途中図)

実戦は、▲3九飛△6二金▲2九飛と進みました。これはじっくり力を溜めて戦う近藤六段らしい選択でしたが、△8一飛が待望の一着。これで後手は自陣の憂いがなくなり、有利な局面を作ることができました。(第5図)

 

なぜ、この局面が既に後手有利なのかと言うと、桂交換がプラスに作用する状況になったからです。

しかしながら、この表現に違和感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。というのも、一般的に攻め駒と守り駒の交換は、攻め側が得とされているからです。

ところが、第5図の局面ではそのセオリーは通用しません。秘密は、後手玉の位置にあります。例えば、後手玉が2二にいるときのことを考えてみましょう。(仮想図)

 

後手は玉を銀冠に収めていますが、そのせいで▲3六桂や▲3五桂△3四銀▲2三歩といった攻めに対して当たりが強くなっています。これは攻め駒と守り駒が交換になったことで囲いが弱体化した弊害が出ている格好と言えます。

 

ところが、実戦は後手玉が銀冠の外側にいるので、桂が盤上から消えても囲いが弱体化していないのです。むしろ、桂が2一にいないことで▲2二歩△同金から壁形を強要される手筋を喫する心配がありません。

さらに、後手は守りの駒が持ち駒に加わったので攻撃力が抜群に上がっている利点もあります。先手が駒台に乗せた桂は元々、攻め駒なので、同じ桂交換でも大きな違いがあります。

 

いろいろと理屈を述べましたが、話をまとめると後手のほうが桂を駒台に乗せているベネフィットが多いので、第5図は後手が優位に立っているのです。

 

先手はじっとしていると後手から猛攻を浴びてしまいます。よって、近藤六段は▲3六桂から攻め合う姿勢を取りますが、△7五歩▲同歩△6五桂でいよいよ後手の攻撃部隊が動き出しました。(第6図)

 

先手は△7六桂を打たせたくはないので▲7六銀と逃げるのは妥当ですが、△5四角が厳しい一着。これで後手は△5七桂成から銀を素抜けることが確定しました。

受けっぱなしでは勝ち目が無いので、近藤六段は▲2四桂△2二金▲3二歩で敵陣に嫌味をつけます。次は▲3一角があるので、△5二玉とかわすのも自然ですね。そこでの選択が大きな岐路でした。(第7図)

 

勝負の分かれ目!

 

 

先手は攻め足を止める訳にはいかないのですが、現状ではアタッカーが不足しており、効果的な攻めが打ち出せません。という訳で、ここでは▲5六銀と上がり、力を溜める手が有力でした。(B図)

 

 

 

ここで後手は兼ねてからの狙い筋である△5七桂成を決行することは出来ます。しかし、▲同金△7六角のときに▲5五桂というカウンターが生じるので、簡単ではありません。(C図)

 

 

NHK杯 近藤

 

後手は猪突猛進に攻めるなら△8七角成ですが、▲6三桂成△同金▲7二銀が厳しいので流石に無理筋。こういった展開になれば、先手は△5二玉と寄った手を逆用できているので、調子が良いですね。

 

かと言って、△7二銀と逃げるようでは▲6六金△5四角▲4五銀で角が詰んでしまうので、思わしい進行とは言えないでしょう。

 

 

この変化から読み取れるように、先手はC図の▲5五桂の威力を高めるために、力を蓄えておく必要があったのです。なので、▲5六銀と上がって銀を繰り出しておくことが急所だったという訳ですね。

 

本譜に戻ります。(第7図)

NHK杯 近藤

実戦は、▲3一歩成△同飛▲6六歩と進みました。この手順は飛車を8筋から逸らせて、攻撃力を落としてから相手を催促した意味です。

けれども、結果としては後手に歩を渡したことが致命傷になりました。なぜなら、△2八歩▲同飛△2七歩という手段を与えてしまったからです。(第8図)

 

NHK杯 近藤

後手は持ち歩が二枚になったので、歩を連打することが出来ますね。先手は飛車の利きを止められ、かつ2四の桂が孤立してしまったので、完全に攻めが頓挫してしまいました。

 

▲2九飛と逃げるのはやむを得ないですが、△5七桂成▲同金△7六角で後手は駒得になりました。近藤六段は▲5五桂で反撃しますが、堂々と△5四銀とかわされると苦しい状況は変わりません。(第9図)

 

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後手は5四の地点が塞がっているので角が狭くなっています。先手はそれに着目して▲7七金と上がりますが、一発、△2八歩成が入るのが大きいですね。▲同飛は△4九角成で死んでいた角が生還します。

近藤六段は▲6九飛と辛抱しますが、△8四桂と角を支えた手が冷静で、後手は順調にリードを広げていきます。(第10図)

 

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後手は2四か5五のどちらかの桂を取れることが約束されているので、実質的には銀得です。そうなると、角をタダ取りされなければ問題ないという理屈になりますね。

 

第10図は駒の損得と玉型に小さくない差が着いており、後手がはっきり優勢です。先手は▲3六桂からの攻めが空回りに終わってしまったことが痛恨でした。

 


終盤

 

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ここから▲7六金△同桂と進めると、先手は自玉がかえって危なくなる意味があります。よって、本譜は▲6七金右と指しましたが、△同角成▲同玉△7六歩で後手は寄せに向かいました。

このような乱れた玉型に対しても、やはり金を攻めることが最も速い寄せになります。(第11図)

 

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平凡な応手は▲7八金ですが、この利かしを受け入れると玉が狭くなるので近藤六段は勝機が無いと判断されたのでしょう。本譜は▲8五角△4二玉▲3二歩で攻め合いに活路を求めました。先手としては、二枚の桂を召し取られる前に手を作りたいのです。

 

とはいえ、△7七歩成でボロッと金を剥がされるので苦渋の選択でもあります。以下、▲7七同桂△3二金▲同桂成△同玉と進みます。果たして、先手に有効な攻めは残されているでしょうか。(第12図)

 

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本譜は▲2四歩△同銀▲2三歩で後手玉を釣り上げようと図りますが、△2一歩が冷徹な受け。飛車は狭くなりますが、これが手堅い一着です。

この手を見て、近藤六段は潔く駒を投じました。(第13図)

 

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まだ先手は自玉に余裕はありますが、次に△7六歩や△7三桂といった攻め筋が残っているので、自陣を修復することは不可能です。そうなると攻めに転ずるより道はありませんが、先手は駒が足りないので切れ筋に陥っています。

攻防ともに見込みが無いので、第13図では大差が着いており、投了も止む無しと言える局面でした。

 


本局の総括

  • 序盤は互角の進行だが、先手は△3三歩と受けられたときに、もっとアグレッシブに動くべきだった。
  • 先手が悠然と構え過ぎたので、後手は△8一飛と引く手が間に合い、理想的な布陣を作ることが出来た。
  • 先手は苦戦気味ではあったが、第7図から▲5六銀と上がればまだまだ大変だった。本譜はこの銀を活用するタイミングを逸してしまい、形勢に差が着いた。
  • 後手は角が狭いことがネックではあったが、△8四桂と打って金と交換できる形になったので、懸念材料をクリアすることが出来た。以降は駒得にモノを言わせて、手厚く勝ち切った。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!



2 Comments

通りすがりの藤井聡太

第12図の下
> 本譜は▲2四歩△同歩▲2三歩
△同歩 は △同銀 じゃないですか?

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あらきっぺ

大変失礼いたしました。確かに、符号が間違っておりましたね。

ご指摘ありがとうございました!

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