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第67回NHK杯1回戦解説記 相掛かりの大乱闘! 塚田泰明九段VS畠山鎮七段 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第8局
2017年5月21日放映

 

先手 塚田 泰明 九段
後手 畠山 鎮  七段

 

さて。▲6五桂と先手が攻めてきたところですが、後手は攻めと受け、どちらが正しい方針でしょうか。

受けるなら中央を厚くする△5二金が考えられますが、それには▲4一角が厳しい攻めになります。△3一金と引くくらいですが、▲4四飛△同飛▲7一角で先手の攻めがヒットしますね。

将棋のセオリーの一つに、「4枚の攻めは切れない」というものがあります。第7図で後手は飛角桂桂の4枚で攻められているので、これを受け切るのは容易ではありません。常にそれが当てはまる訳ではないですが、4枚以上の攻めに対しては、受けに回るよりも攻め合いを目指すほうが賢明でしょう。

したがって、第7図では攻め合いが正しい方針です。「二枚替えなら歩ともせよ」の格言に則って、△8八飛成▲同金△同角成と指すのが有力でした。以下、▲5三桂右成が気になりますが、強く△同銀▲同桂成△同玉と対応すれば後手が優位を維持していました。(A図)

 

A図から▲5四銀や▲5四飛打は△4二玉と引けばすぐには寄りません。後手は飛車が欲しい駒で、豊富な持ち駒を活かして3四の飛をいじめるのが楽しみです。具体的には、次に△4四金と打つ手が飛車を責めつつ自玉を安全にする手で、とても価値が高い一手になっています。

例えばA図から将来の▲6五桂を狙って▲8二歩と打つと、△4四金▲2四飛△5六歩▲同歩△6五桂で後手優勢です。(B図)

 

B図では駒の損得と玉型の差が後手優勢の理由です。▲2一飛成と攻めても、まだ後手玉がゼット(絶対に詰まないの略)に等しいのも大きいですね。

少し脇道にそれましたが、第7図から△8八飛成が有力手であったことがお分かり頂けたかと思います。

 

実戦は△7七角成▲同銀△3四飛(青字は本譜の指し手)と飛車を素抜きました。

これでも後手が悪くないように見えますが、▲5三桂右成△同銀▲同桂成△同玉▲8二歩と進んだ局面は先手が大いに形勢を盛り返しました。(第8図)

 

第8図は瞬間的には先手が駒損ですが、桂を取ることが確定しているので、実質的には、ほとんど損得がありません。

互いに遊び駒もありませんが、玉型は明らかに先手が勝りますね。飛車に強い陣形であることが心強いです。つまり、先手は「玉型」という主張を得たので、形勢を挽回したのです。

第8図から、△2六桂▲8一歩成△3八桂成▲6五桂△5二玉▲3八金△2四飛と進みました。互いに敵陣に迫って寄せの準備に入っています。(第9図)

 

△2九飛成が見えていますが、ただ受けるだけでは手番を渡してしまうので不満です。塚田九段は▲2五歩△同飛▲4四桂△同歩▲3四角と強引に王手飛車を掛けて手番を握り続けます。終盤で攻め駒が潤沢にある場合は、駒の損得よりも手番を重視すると良いでしょう。基本的に、4枚以上攻め駒が残っていれば駒を捨てても問題ありません。なぜなら、4枚あれば攻めが切れる心配が無いからです。

 

▲3四角以下は、△4三銀▲2五角△同桂▲2一飛△4一桂と進みました。(第10図)

 

第10図から塚田九段は▲7一と軽手を放ちます。△同金には▲5三桂成という狙いです。畠山七段はもう受けてられんと言わんばかりに△3六角で詰めろを掛けます。

対して、▲5八銀や▲4七銀で手堅く受けておけば、後手は攻めの後続が難しかったので先手が良かったのですが、本譜は▲8六銀と節約しました。こちらの方が玉を上部に逃げる含みがあるので良さそうですが、△5八飛という攻め筋が残ったのが地味に痛いのです。後手はそれに満足して、△7一金と手を戻しました。(第11図)

 

ここで兼ねてからの狙いであった▲5三桂成を指すと、△同玉▲4一飛成△5八飛▲7七玉△6五桂▲8八玉△3八飛成▲7一竜△6一金で後手勝勢です。後手は、△5八飛で金を入手できるようになったのがとてつもなく大きいのです。(C図)

 

C図では竜を逃げるくらいですが、△6九角成で先手玉は一手一手の寄りです。後手玉が安全になったので寄せ合いになりません。

第11図では△5八飛を防ぐために▲4七銀や▲5八銀で受ける手もありますが、その手を指すと直前の▲8六銀が無意味な手になってしまうので非常に選びにくい手です。結局、塚田九段は▲1一飛成で香を取り、開き直りました。

対して△6一金と一旦、受けておく手は有力でしたが、畠山七段は棋風通りに△5八飛▲7七玉△3八飛成と斬り合いを挑みます。以下、▲5三香△同桂▲同桂成△同玉▲6五桂△5四玉▲7一竜と進みました。(第12図)

 

畠山七段は自玉に詰み無し(もしくは受けても仕方ない)と見て△6九角成と先手玉に迫りました。実は第12図では△7四桂が詰めろ逃れの詰めろだったのですが、▲7五角がさらに詰めろ逃れの詰めろになり、後手が勝つのは大変なようです。

………何気なく書きましたが、△7四桂が「詰めろ逃れの詰めろ」ということは…..。そう、△6九角成の局面は後手玉に即詰みが発生しています。

△6九角成には▲5一竜△5二歩▲5三桂成△同玉▲7一角△5四玉▲6五銀△同玉▲6六歩以下、即詰みでした。(D図)

 

D図から(1)△5五玉には▲5六金~▲6五金。(2)△7四玉には▲7五銀△8三玉▲8四金△9二玉▲9三角成です。

 

本譜に戻ります。(途中図)

しかし、塚田九段は▲7九金打と受けに回ってしまいます。ここで勝利の女神は畠山七段の方へ振り向きました。

以下、△7八馬▲同金△7四桂が厳しい寄せです。塚田九段は▲7五角と打って抵抗しますが、今度は金を持っていないので詰めろ逃れの詰めろにはなっていません。(第13図)

 

第13図から△8六桂▲同角△8五桂▲8七玉△7八竜▲同玉△7七金▲同角△同桂成▲同玉△5九角と進み、先手玉は詰み筋に入りました。(第14図)

 

手数は長いですが、この△5九角が急所の一手で、これが見えれば、あとはそれほど難しくありません。

本譜は▲6八桂と受けましたが、△8六銀▲同玉△6八角成▲7七桂△9五金と進み、畠山七段は先手玉を即詰みに討ち取りました。

 

本局は、両者ともに受けの手をほとんど指さず、猛烈な攻め合いが展開されました。塚田九段にとっては、途中図で詰みを逃したのが痛恨でした。勝ちになってからの畠山七段の鋭い寄せは見事でしたね。

ではでは、またお会いしましょう。ご愛読ありがとうございました!

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