~絶品の凌ぎ~ 第68回NHK杯解説記 大石直嗣七段VS丸山忠久九段

今週は、大石直嗣七段と丸山忠久九段の対戦でした。

 

大石七段は居飛車党で、棋風は攻め。特に、自玉をがっちり固めて、細い攻めを繋ぐ展開を得意にされている印象です。

丸山九段は居飛車党で角換わりのスペシャリストです。棋風は攻めで、少しづつポイントを積み重ねる堅実なタイプの将棋という印象です。
 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯1回戦第14局
2018年7月1日放映

 

先手 大石 直嗣 七段
後手 丸山 忠久 九段

 

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△8八角成▲同銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

戦型は後手の一手損角換わり。対して、先手は早繰り銀で主導権を握りに行きます。

後手はなかなか珍しい配置をしていますが、ここから△7三桂▲4六銀△7二銀▲6八玉△8四歩▲7九玉△8一飛とさらに風変りな手順で駒組みを進めました。アンバランスな配置に見えますが、これは先手の早繰り銀に対応した指し方と言えます。(第2図)

 

趣旨としては、先手が▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛けてきたら△6二玉で右玉にシフトして攻めを緩和します。仕掛けずに陣形を整備してきた場合は、△6三銀→△8五歩などで攻撃陣を充実させることができます。駒組みが長引けば、後手は手損の弊害がどんどん薄まっていくので、それは歓迎する展開です。

つまり、整理すると後手の作戦は、右玉の含みを見せることで、先手の速攻を無効化しようという狙いなのです。

 

何はともあれ、大石七段は▲7八金と囲いを引き締めますが、△9四歩▲9六歩△1四歩▲6六歩△6三銀と後手は居玉を維持して駒組みを続けます。先述したように、後手は仕掛けられたら右玉で受ける腹積もりなので、しばらくは居玉で構えておく必要があります。(第3図)

 

先手は概ね駒組みが完成しているので、大石七段は▲3五歩と仕掛けます。以下、△同歩▲同銀△6二玉は必然。そこで▲2四歩と攻めれば銀交換ができそうですが、△同歩▲同銀△2七歩が用意の切り返しで、後手のカウンターが決まります。(A図)

 

(1)▲同飛は△4九角▲2八飛△2四銀で、後手は銀をタダで召し取れます。(2)▲3八飛にも、やはり△4九角が痛打ですね。このように、△6二玉と上がることによって2筋からの攻めを牽制できることが分かりますね。

△6二玉と上がった局面に戻ります。(途中図)

 

結局、大石七段は▲4六銀と引いて攻めを諦めますが、銀の動きで手損してしまい、上手く先攻することができなかったので、些かつまらない進行になってしまいました。

▲4六銀以下、△4四銀▲8八玉△3三桂と丸山九段は積極的に駒を前進します。特に、△3三桂は相当に大胆な一着ですね。(第4図)

 

桂頭に歩を打たれる手が見え見えなので不安はありますが、桂を五段目に進出するには、このタイミングしかないと判断されたのでしょう。

第4図では▲3四歩△4五桂▲1八角で強引に桂を奪いに行く手も考えられましたが、大石七段は棋風通り▲6七金右△5四歩▲5六歩で囲いを充実させます。しかし、金が上部に移動したことにより△4九角という攻め筋を与えました。この手を境に後手のペースになったように思います。(第5図)

 

ぼんやりとした一手ですが、これは次に△3八歩を狙っています。△3八歩が打てると、と金作りと△5八角成のどちらかが実現できるので、後手は手に困ることがなくなります。

△3八歩を阻止することはできない。そして、打たれると受けがない。そのような状況になってしまった以上、先手は攻めて行くしかなくなりました。大石七段は手始めに▲5五歩と突き捨てます。

▲5五歩に対して素直に△同歩と応じると、▲3四歩△4五桂▲2四歩△同歩▲1八角が面白い反撃で、こうなれば上手く切り返したと言えるでしょう。(B図)

 

次に▲4五銀か▲4八飛で駒得できます。このとき、5筋の突き捨てを入れておくと1八の角が敵陣に直射するので、遊び駒になりません。逆に言えば、▲5五歩を突かずにこの手順を実行すると、1八の角が上手く機動しないので、効果薄ということになります。

▲5五歩の局面に戻ります。(途中図)

 

上記の理由により、後手はこの歩を取りにくいので、丸山九段は△3八歩で駒得を目指します。以下、▲3四歩△4五桂▲2四歩△同歩▲同飛△3九歩成と進みました。先手が▲1八角ではない攻め筋をしているのは、もう4九の角を捕獲することができないからです。(第6図)

 

2九の桂取りですが、ここで▲3七桂と逃げているようでは△同桂成▲同銀△2三歩▲2六飛△3八角成といった要領で、攻め駒を責められて先手が困ります。この変化は4六の銀が退いてしまうのが痛く、先手は手を作ることができません。

したがって、大石七段は▲4五銀と桂を食いちぎり、△同銀▲3三歩成△同金▲2二飛成で竜を作りました。先手が上手くやったように見えますが、△6七角成が鋭い一着。この手を見据えていたからこそ、後手はあっさり飛車を成らす順を受け入れたのです。(第7図)

 

▲同金と応じるよりありませんが、△2三金打で竜が詰んでいます。

先手は駒損の代償に竜を作りましたが、この△2三金打により主張が潰され、苦しくなってしまいました。

とりあえず、この竜を何らかの駒と刺し違えなければいけません。セオリーとしては敵玉の側近である金を剥がすために▲5二竜が自然ですが、△同玉のあとに続く攻めが見えません。

そこで大石七段は、▲3五角と捻った手段を繰り出しました。後手は当然、△4四銀と受けますが、▲同角△同歩▲8二銀が後続手。ここに銀を打つために、角銀交換の犠牲を払ったのです。(第8図)

 

(1)△同飛は▲1一竜で竜が生還しますし、(2)△5一飛には▲7一角△7二玉▲5二竜△同飛▲5三金と肉薄すれば、後手玉は危険極まりない状態です。さすがにこの変化は選べないでしょう。

よって、丸山九段は△2二金▲8一銀成で飛車を取り合う順を選び、△2九とで駒得を主張しました。後手は金得になったので、ここからは、とことん長期戦を目指します。

対照的に、先手は早期決着を挑むような展開にしないと、勝ち目が乏しくなってしまいます。大石七段は▲4一飛と打って、詰めろを掛けました。丸山九段は△5一金でそれを防ぎます。この局面が勝負所でした。(第9図)

 

ここで大石七段は▲7一角と打ったのですが、この手が敗着になりました。代えて、▲1一飛成と香を補充するほうが勝りました。

▲1一飛成に対して、(1)△2一歩は▲7一角△5二玉▲5三香で金が取れます。そうなると後手の金得という主張が消えるので、先手も戦えるでしょう。

(2)ゆえに、△2八飛▲6八銀△2一金と手番を取りながら受けるほうが的確な対処です。しかし、▲1三竜で再度、金に当てる手がうるさく、これは後手も容易ではない戦いです。(C図)

 

△2三金と寄れば竜は死んでいますが、▲7一角△5二玉▲2三竜△同飛成▲4四角成と進むと、4五の銀取りと▲3五桂が残るので、これは後手が支えきれません。(D図)

C図で△2二金には▲1一竜で、千日手を含みにしがみつきます。先手は元々、少し苦しめだったので、千日手で逃げきれれば悪くはないと思います。この変化を選べば、まだまだ難しい将棋でした。

本譜に戻りましょう。(第9図)

 

本譜は▲7一角△5二玉の交換を入れたので、▲1一飛成のときに、△2八飛▲6八銀△4二金という受けが利くようになっています。感想戦で仰っていたように、この手が生じたのが大石七段の誤算だったようですね。(E図)

 

この変化は7一の角が空振りなので、先手が芳しくありません。

よって、本譜は△5二玉に▲5一飛成△同玉▲5三角成と迫ったのですが、△3二金寄が素晴らしい凌ぎ。際どい受け方ですが、自玉の安全度を見切った一着でした。(第10図)

 

▲6三馬で銀がタダですが、それには△4二玉で後手玉は捕まりません。つまり、後手は銀を犠牲にすることで、玉の安全を買うことができるのです。

単に▲6三馬では勝てないので、大石七段は▲3四歩と工夫しました。△同金には▲4三桂。△同銀には3四が塞がるので、今度は▲6三馬が指せます。

巧みな攻めに見えますが、この手そのものは詰めろではありません。つまり、後手のターンです。丸山九段は△3八飛▲6八銀△2八飛打と大砲を二発打って、先手玉へ襲い掛かりました。(第11図)

 

▲7八金と金気を投資すれば安全にはなりますが、金を使うと攻めが切れてしまいます。そこで大石七段は、▲7八桂と打ちました。これは堅くはありませんが、瞬間的にゼットを作ることで△6八飛成を牽制しています。

ただし、桂を手放したので△3四金が成立しました。どうも先手は駒不足で、あと一歩が届きません。

△3四金の局面で、▲6二金△4一玉▲6三金は△4二桂で凌がれていますし、▲9一成銀で詰めろを掛けても△4一玉▲4三香△4二桂で、やはり捕まりません。

本譜は▲5四歩と取り込みましたが、△5二歩で催促したのが決め手。繰り返しになりますが、6三の銀を取ってもらうのが正しい判断です。このように、大きく駒得しているときは、物資を「何か」に交換する手段が有効になります。この場合は、「玉の安全度」という訳ですね。(第12図)

 

先手は取りたくなくとも、▲6三馬とするよりありません。対して、△4二玉が待望の一着。自玉の寄り筋が無くなり、後手は不敗の態勢となりました。

大石七段は▲3五歩△同金▲5三歩成△同歩▲5五銀と追いすがりますが、△3四金が冷静な対応で、丸山九段は付け入る隙を与えません。この辺りは激辛流と評された棋風の面目躍如といったところでしょうか。

手段に窮した先手は、▲7三馬と開き直ります。(第13図)

 

ここでは様々な勝ち方はありますが、△6八飛成▲同金△同飛成が最短の寄せ。以下、▲7二飛△3一玉▲7九金に、△同竜と切って詰ましに行きます。竜を逃げても悪くはありませんが、こういったところで竜取りに怯まず、踏み込めるようになると、終盤力が一皮むけるのではないかと思います。(第14図)

 

▲7九同玉△6七桂で詰み筋に入っています。(1)▲8八玉は△7九角以下並べ詰めなので、(2)▲6九玉と逃げましたが、△5九金▲6八玉△7九銀▲5七玉△6八角▲4八玉△4九金がピッタリです。実戦はここで終局となりました。(第15図)

 

(1)▲4九同玉は△5九角成▲3八玉△2八金。(2)▲3七玉は△5九角成▲2七玉△2八金▲1六玉△1五歩。いずれも詰みですね。

 

 

本局の総括

 

  • 第3図から先手は▲3五歩から仕掛けたが、すぐに銀を下がることになったので、あまり良い仕掛けではなかったのかもしれない。後手が玉の位置を決めるまで我慢するほうが勝ったか。
  • △4九角が機敏な角打ち。これで攻めを催促し、ペースを掴んだ。
  • 中盤以降、先手はやや苦しめの戦いだが、後手玉が薄いので実戦的には大変。しかし、第9図での選択ミスが痛く、形勢が大きく傾いた。
  • △3二金寄で銀を犠牲にしたのが好判断。その後も的確な受けを続けて、後手がしっかり勝ち切った。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

6 Comments

ShogiBuzz

こんにちは。質問があります。私は海外の将棋ファンに向けて、自らの棋譜などの情報を発信したいと考えております。あらきさんのブログをよく拝見させていただいているので、お力添えをいただけないものかと思い、連絡を差し上げた次第です。wordで文章や、局面図は作成できるらしいのですが、よく分かりません。デザインなどは何を使用されていらっしゃいますか?

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あらきっぺ

いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。
デザインに関しましては、私は素人なのであれこれ言える立場ではないですね…。
局面図のフォーマットに関しましては、「将棋 図面作成」などのキーワードで検索すればたくさん出てくるので、お好みのものを選んでみると良いのではないでしょうか。

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ShogiBuzz

あらきっぺさんのアドバイスは、大変助けになりました。ありがとうございます。これからもブログを楽しみにしています。

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ShogiBuzz

ちなみに、サイトはどのように作成されたのですか?選択肢が多すぎて迷っています。

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あらきっぺ

とりあえず、何でもいいのでさっさと着手してしまうのが宜しいかと。私自身も最初はどのサービスを使うか悩んでおりましたが、今にして思えばその時間はもったいなかったなぁと思っています。
なお、当ブログはWordPressを使っております。

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