どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年4月第4週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.4/25~5/1)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。本局は相掛かりからじっくり組み合う将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.5.1 ▲AobaZero_w3461_s10_GTX1060 VS △Yashajin_Ai(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
まだ本格的な戦いが始まっていないので、形勢としては互角の範疇です。ただ、後手は配置がやや歪であり、何となくまとめにくい印象を受けるのではないでしょうか。
ところが、ここから数手ほど進むと情勢はガラリと変わります。次の一手は面白いアイデアでしたね。
桂を跳ねて、4筋の位にプレッシャーを掛けたのが妙手でした!
自分から角を使えなくする手なので、ぱっと見は強い違和感を覚える一手でしょう。けれども、これが相手の理想を阻むクレバーな一着なのです。
なお、冒頭の局面では、△9四歩や△8一飛などで手待ちしている方が無難です。ただ、後手はゆったり構えていると、▲5六歩→▲2二角成→▲6八銀から仮想図のような局面を作られたときがネックなのです。(仮想図)
このように銀多伝を作られてしまうと、先手陣はすこぶる手厚いですね。第1図の▲4五歩はこういったビジョンを描いているのです。これは先手にとって理想的な進行なので、後手は嬉しい進行とは言えません。
ゆえに、△3三桂という変化球を投げているのです。
さて、先手は銀多伝に組むことが理想なので▲5六歩と突きますが、後手はここから行動を起こします。具体的には、△5四銀▲6八銀△6五銀▲7七銀△4五桂が機敏な仕掛けですね。(第2図)
銀を繰り出し▲7七銀を強要させてから△4五桂を決行したのが巧い構想です。こうなると、先手は「銀多伝に組む」という理想を実現することが出来ません。
ひとまずこれは▲同桂の一手ですが、△4四歩と突いて桂を取り返しに行きます。先手も負けじと▲7九角△4五歩▲2四角と反撃しますが、そこでじっと△5四桂が位を活かす味わい深い一手。これで後手がペースを掴みました。(第3図)
次の狙いは、もちろん△4六歩ですね。4七の銀を移動させれば、後手は△5六銀→△6五桂と進軍できることが自慢です。ゆえに、この突き出しは見た目以上の厳しさがありますね。本譜もその攻め筋を実現させた後手が快勝しました。
△3三桂は見るからに歪な一手ですが、この手を境にして先手は「銀多伝を作る」というシナリオが瓦解してしまったことが分かります。相手の理想を妨害することが出来れば、多少、自陣の形が悪くなっても差し支えないのですね。早い▲4五歩を咎めに行く嗅覚の鋭さが、印象に残る一着でした。
- 相手の理想を指を食わえて眺めるのは感心しない。
- 明確な目的があるならば、歪な配置は気にしない。
- 位の奪還はリターンが大きいので、狙い目の一つ。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わりから[先手の早繰り銀 VS 後手の腰掛け銀]という構図になり、以下の局面を迎えました。(第4図)
2021.4.25 ▲nnue_Ryzen5-5600X VS △Kristallweizen-TR2990WX(棋譜はこちら)
先手は駒得していることが主張ですが、後手の厚みは強大であり、どこから攻めればよいのか全く見えないですね。
情勢は芳しくないように見えましたが、先手は見事な組み立てで突破口を開くことに成功したのです。
「合わせの歩」を使って、5八の桂に活を入れたのが妙手でした!
先手玉は間接的に角に睨まれています。その状況下で攻めを選ぶのは無謀なようですが、これが後手の厚みを解体する素晴らしい一手でした。
これを△同銀だと、▲7七角とぶつけることが出来ます。現状、角の働きは明らかに後手の方がよいので、角交換は先手にとって願ったりでしょう。
なので、この歩を取るなら△4六同歩になりますが、それには▲9八玉の早逃げが絶品の一着になります。これは本当に味が良いですね。(第5図)
角のラインから玉をかわしておけば、反動を気にする必要がなくなります。次は▲5六歩△同銀▲4六桂が楽しみですね。後手は分かっていてもこの攻め筋を対処できないので、第5図は選ぶべき進行ではないでしょう。
よって、本譜はこの歩を相手にせず、△3七歩成▲同銀△8四桂と攻め合うプランを選びました。こういった「控えの桂」は嫌らしいものですが、堂々と▲7七角と上がったのが明るい判断です。
先手はこの駒の働きがよくないので、それに光を当てることが先決なのですね。(第6図)
ここで△7六桂は、▲9八玉で意外に安全です。王手を掛けるのは気持ちがよいですが、7六に桂を跳んでしまうと先手の角を追えなくなるというデメリットがあります。そうなると、後手は角の働きで勝っている優位性が吹き飛んでしまいますね。
なので、本譜は△8六歩▲同歩△7五歩という攻め方をしましたが、先手は満を持して▲4五歩と取り込みました。
こうなると、先手のほうが一足先に相手の角を攻撃する形になったので、形勢は先手に傾きつつあります。(途中図)
これを△同銀だと、▲4三歩△同金▲4七桂という攻めが痛烈です。後手は△7六歩の取り込みが間に合わないので、ダメージが深いですね。(A図)
したがって、本譜は△4五同金と応じましたが、素朴に▲3六桂と角を責める手が着実な一手。一回は△7六歩が入りますが、冷静に▲5九角と引いておけば問題ありません。(第7図)
後手は7七の角を押し返すことが出来ましたが、自分も角をアタックされているので、それの処置を行わなければいけません。
しかし、△3三角や△2二角では歩を叩かれてしまいます。また、△3五角と逃げれば角は安定しますが、▲4六歩で金が詰んでいますね。つまり、何を指しても良い結果にはならないのです。
仕方がないので本譜は△3六同金▲同銀という手順を選びましたが、この交換は、先手が大きく得をしたと言えます。駒割りが金得になりましたし、銀が前進したことで▲4五歩や▲3五銀という攻めも生まれたことが心強いですね。以降は、先手が貯金を活かして逃げ切りました。
後手の厚みを破壊するのは無理難題に思えましたが、先手は「合わせの歩」を使うことで、突破口を見出すことが出来ました。
なぜ、これが厚みの解体に結び付いたのかと言うと、4五の歩を呼び寄せることで将来の▲4六桂や▲4六銀という攻め筋を生じやすくしたからです。
加えて、この場合は▲4五歩と取り込んだ先に、後手の司令塔とも言える角にぶち当たることも見逃せないメリットと言えるでしょう。▲4六歩は地味な一手ですが、様々な恩恵があることが分かります。大きな成果を出すためには、こういった細かい部分でポイントを稼ぐことが大事なのですね。
- 「合わせの歩」を使って、駒を進めるルートを作る。
- 一番働いている相手の駒にアタックする。
- 位を打破することが、厚みを解体する第一歩。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これは超絶技巧という表現がピッタリの受けでした。(第8図)
2021.4.29 ▲Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k VS △Suisho4_TR3990X(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)
先手玉には△8七銀からの詰めろが掛かっており、その上、△7六銀と進軍される手も残っています。正直、風前の灯のようにしか見えません。
絶体絶命のピンチを迎えていますが、本譜は思いもよらない方法でこの窮地を凌ぎ切ったのでした。
9九に桂を打って8七の地点を補強するのが深謀遠慮な妙手でした!
んん? そっち??
桂を打つのは分かりますが、こちら側に打つのは意表だったかと思います。普通は利きの数を多くすることがセオリーなので、▲7九桂の方が自然でしょう。わざわざ端に打つ利点がまるで見えないですね。
謎の挙動ではありますが、ひとまず本譜の進行を追いましょう。
後手は△7六銀で増援を送るのが妥当ですね。対して先手は、▲7八角△8五桂▲5八角と徹底抗戦します。なりふり構わない受けですが、7六の銀を押し返せれば先手玉は息を吹き返します。(第9図)
裏を返せば、後手はこの銀を撤退しないことが大事ですね。したがって、本譜は△7一飛と寄りました。銀に紐を付けつつ、7七の地点に利きを増やしています。
先手はいよいよ銀を追う手段が無くなったようですが、▲6五銀とポイ捨てする手がありました。非常に大胆ですが、とにかく7六の銀をバックさせることが急務なのです。
さあ、後手としてはこの辺りが決め所ですね。先手玉を倒しに行くなら△7七銀不成と突進することになります。▲同桂には△9七銀から先手玉が詰むので明快なようですが、結論から述べると先手には受けがあるのです。
△7七銀不成には、▲7四歩△同飛▲8五角が絶妙の凌ぎですね。(第10図)
飛車ではなく、8五の桂を取っておくのが大事なポイントです。もしあの桂を残していると、△9七歩▲同桂△8八銀成▲同玉△7七銀から先手玉が詰んでしまうところでした。しかし、この局面なら△9七歩と叩かれても▲同玉と取れるので、即詰みに討ち取られることはありません。
そして、ここまで進んでみると、先手が▲9九桂と打った意図が見えて来ます。すなわち、第10図で9九の桂が7九にいると、△8八銀成▲同金△9八金からトン死していますね。(B図)
つまり、先手はあえて端から桂を打つことで、7九の地点に逃げるスペースを確保していたのです。この変化に備えるための▲9九桂だったのですね。
第10図で先手玉には詰みがありませんし、△7八銀成と角を取られても▲7四角で受かっています。よって、後手は途中図から踏み込むことが出来ません。
こういった事情があるので、△6五同銀と応じるのはやむを得ないところです。しかし、こうなると7六の銀を引かせることが出来たので、一連のせめぎ合いは先手に軍配が上がりました。
△6五同銀に対し、先手は▲8五角で悠々、桂を取ります。後手は△7四銀打と角を弾きますが、これには穏便に▲5八角と逃げておけば問題ないですね。(第11図)
局面が一段落しましたが、緩やかな流れになれば、駒得している先手の旗色が良いでしょう。何と言っても、歩の所有率が大差であることが大きいのです。
加えて、先手は次に▲4四歩や▲6九飛といった価値の高い手がわんさかありますが、後手はピリッとする手が特に見当たりません。それらの理由から、第11図は先手が優勢と言えるのです。
それにしても、「玉の逃げ道を塞がない」という意味で、端から桂を打つ手が最適な受けになるとは驚きです。この段階で第10図のことを想定していたとは、人間業ではないですね。そもそも、▲6五銀と捨てて凌げているという大局観が圧巻でしょう。まさに超絶技巧と表現するに相応しい受けだったと思います。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!