どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年3月第1週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.3/7~3/13)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の三間飛車に後手が金無双急戦で対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.3.11 ▲melt VS △NEEDLED-24.7(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
この局面で居飛車は金桂交換の駒損ですが、とても美味しそうな手がありますね。それを指せば、駒損は回復できそうです。
ところが、本譜は全く違うアプローチで相手を突き放しました。これは爽やかな一手でしたね。
銀を繰り出して、3五の金にアタックしたのが妙手でした!
囲いの銀を捨てるので非常に大胆ですが、これが快心の一撃でした。本局における決め手とも言える一着です。
なお、第1図では△7九角と打てば飛金両取りが掛かります。しかし、これは▲4四銀△8八角成▲5三歩成と迫られて大変です。
この変化は、飛車を取っている間に自玉が危険になるので思わしくありません。ここは飛車を取りに行くのではなく、3五の金に働き掛けることが肝要なのです。
さて、この△3四銀に対して▲同金と応じると、△3六桂が打てるようになります。
以下、▲1八玉には△1七歩▲同玉△2八角▲2六玉△2五銀で先手玉は詰みますね。
また、△3六桂のときに▲3七玉と逃げても△2八角▲3六玉△2五銀で即詰みです。(第2図)
▲4七玉には△5七桂成、▲3五玉には△3四銀▲同玉△3三金▲3五玉△2五金。いずれも捕まっています。
このように、先手は3六に桂を打たれてはいけないのですね。
ゆえに、本譜は泣く泣く▲3六金と辛抱しましたが、△3五歩▲3七金△5七桂成が自然かつ冷静な寄せとなりました。(第3図)
[△3四銀→△3五歩]の二手が入ったことにより、居飛車は3筋に厚みが生まれ、自玉がすこぶる安全になっています。それがとても大きいですね。
次は△3六桂が痛烈です。▲2九玉と早逃げしても、△2五桂で金を狙えば問題ないでしょう。第3図は玉の安全度が大差なので、後手がはっきりと頭一つ抜け出しました。
冒頭の局面では、3五の金が急所の駒でした。先手にとっては、この駒が攻撃の司令塔であり、同時に自玉を守る役目も担っています。要するに、この金は3五がベストポジションなのですね。
裏を返せば、これが動くことは、先手にとって命綱が切れることを意味します。だから△3四銀という荒業が成立するという理屈なのですね。
寄せに行くときは、駒得に目を眩ませず受けの要となる駒に目掛けて真っ直ぐに向かう姿勢が大事です。△3四銀は、そういったセオリーに則る鋭い一着でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の矢倉に後手が右玉で対抗する形になり、こういった局面になりました。(第4図)
2021.3.11 ▲Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k VS △NEEDLED-24.7(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
お互いに攻め駒を敵玉に向かわせていますが、ぱっと見では先手のほうが一足早くゴールできそうな情勢に思えます。この▲8四歩も、厄介な叩きの歩ですね。
しかしながら、後手は全てを読み切っていました。こういう寄せを決めることが出来れば、さぞ気分が良いでしょうね。
桂をタダ捨てして、スパートを掛けたのが妙手でした!
この桂捨てが疾風の寄せでした。先手玉は堅いようでも、この手が入ると一瞬にして崩壊していくのです。
なお、この手に代えて△8二金と受けに回るのは、▲8三金と食い付かれて逆効果。これは先手の攻めが加速しています。(A図)
実を言うと、第4図の後手玉は実質的にはゼット(絶対に玉が詰まない形のこと)です。なので、ここは受けではなく踏み込むべき場面なのですね。ゆえに後手は△6六桂とスマッシュを放ったのです。
これは△5八桂成▲同銀△同角成▲同玉△6六桂という手順で詰めろを掛けています。よって、▲同銀はやむを得ませんが、銀を分離させたことで先手玉は手薄になりました。
その隙を突いて、後手は△4七桂と放り込みます。これが第二弾のスマッシュですね。(途中図)
平凡な応対は▲同歩ですが、それには△5八角成▲同玉△4九角で一丁上がりです。(B図)
[△4七桂▲同歩]の利かしを入れることで、4八に金を打てるようにしたことが桂を捨てた意味ですね。
そういう事情があるので▲4九玉は妥当な応接ですが、△2八桂成で包囲すれば先手玉は受け無しです。桂を乱舞させる華麗な寄せが決まりました。(第5図)
これは△2七角▲同飛△3九成桂の詰めろ。▲6七金で逃げ道を作っても、△同角成▲同銀△5九金で詰むので無効です。
他には▲4七歩で桂を外す手もありますが、△同歩成▲同飛△3八角▲4八玉△4七角成▲同玉△3六金と畳み掛ければOK。これも先手玉が詰んでいますね。(第6図)
後手は8五の角の利きが頼もしく、先手玉の逃走を阻止しています。一例を挙げると、▲同玉には△5八角成▲4七歩△4五金▲2五玉△2四飛から即詰みです。まさに、快刀乱麻の寄せでした。
先手玉は金銀の壁を盾にしていましたが、△6六桂が入ってからは全く粘ることが出来ませんでした。なぜ、この攻めがこれほどまで威力が高いのかと言うと、二つの恩恵があるからです。
一つは、8五の角の利きを通したこと。銀のブロックをどかしたことで、金が質駒になったことが大きかったですね。
そして、もう一つはクリップの配置を崩したこと。先手玉の守備隊形は、[▲5八金・▲6七銀]という配置が核でした。ゆえに、その連携を断ってしまえば大幅に守備力を落とせるのです。こういった理由があるので、△6六桂は高火力の攻めになるという訳なのですね。
この事例は、「堅そうに見える玉型でも急所を突けば簡単に崩せる」ということを示す好例だったと思います。こうした寄せを見ると、やはり寄せの基本は金を狙うことなのだなと痛感させられますね。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これは、ちょっと目の付け所が人類とは別次元という感じの一手でしたね。(第7図)
2021.3.8 ▲QueenAI_210222c_i9-7920x VS △Suisho4_TR3990X(棋譜はこちら)
先手が▲9一角と打ち、後手が△7二飛と逃げたところ。
ご覧のように、先手は9筋に攻め駒を送り込んでいます。けれども、現状ではこれらの駒が起動できません。攻めを繋ぐ手段が見えないようですが、先手は巧みな後続手を用意していました。これが間に合うものなんですねぇ…。
歩を伸ばして8筋からの攻めを見せたのが妙手でした!
よもや、この場所の歩を突くとは思いもしないところです。角を9一に打った手との関連性も薄いように思えますね。ところが、これが数手ほど進むと、見事に連動してくるのです。
ちなみに、先手の角は確かに狭いのですが、実はあの角は意外に捕まりません。例えば、△7一玉で取りに行こうものなら、すかさず▲9二歩成で技が掛かります。(C図)
という訳で、9一の角は動くことが出来ませんが、安定している駒とも言えます。ゆえに、後手としては「触らぬ神に祟りなし」という態度を取るほうが無難です。
そんな訳ですので、本譜は△9六歩と指しました。これは「端を攻めるぞ」という意思表示ですが、先手も負けじと▲8五歩と伸ばします。そう、先手は8三にと金を作ることを狙っているです。(第8図)
ここで△8三歩と進軍を妨害しても、▲8四歩△同歩▲8二歩で先手の攻めを助長するだけに終わるので、受けになりません。(D図)
極めてシンプルな攻めですが、後手は誰も守っていない場所を攻められているのでトライされてしまうのです。
仕方がないので、本譜は△9七歩成▲同桂△3五歩▲同飛△9六歩で攻めに活路を求めました。しかし、構わず▲8四歩が明るいですね。いよいよ、あと一歩です。(第9図)
△8二歩を指すと▲9二歩成が発生するので、やはり後手は受けが利きません。本譜は△9七歩成▲7七銀△8七歩と攻め合いましたが、もちろん▲8三歩成のほうが厳しいですね。(第10図)
△7一飛と逃げても▲8二角成が強烈です。これは次に▲7一馬△同玉▲3三飛成△同桂▲8一飛から後手玉を仕留める狙いがあるので、猛烈に速い攻めですね。
かと言って、飛車が逃げられないようでは被害は甚大です。まさに「と金の遅はや」という格言通りの展開で、先手の攻めが成功しました。
始めの局面から▲9五香で良ければ話は簡単ですが、それは△2四歩から飛車を追われて頓挫します。ただ、香が走れないと、攻め筋があるとは思えません。普通はそこで諦めるところでしょう。
ゆえに、自陣にある歩をゆっくり伸ばしてと金作りを目指すとは、全くもって思い浮かばないですね。まさかこれが間に合うとは、という感じです。後手はどう頑張っても金銀を8筋に送ることが出来ないので、分かっていても対処できないのですね。
それにしても、9筋ではなく、8筋に突破口があったとは驚きです。たった一筋目線を右に向けるだけですが、始めの局面から▲8六歩を予想できる方は、どれほどいるでしょうか。▲8六歩は、とても発想が柔らかい妙手でしたね。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!