どうも、あらきっぺです。大晦日ですね。今年、自分が何をやっていたのかは大体覚えているのですが、2021年は何をしていたのか、まるで思い出せません。来年の今頃もそんな風になってしまうんでしょうか笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情 振り飛車編(2022年8・9月合併号)
・調査対象の将棋は、対象期間のプロの公式戦から(男性棋戦のみ)。
棋譜はネット上や棋譜中継アプリにて公開されているものから収集。
全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・記事の内容は、プロ公式戦の棋譜を参考にしておりますが、それを元にして筆者独自の研究内容も含まれております。記事内容の全てが棋譜の引用という訳ではありません。
・記事中に記載している出現率は、小数点第二位を四捨五入した数字になります。
・戦法や局面に対する評価や判断は、筆者の独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、妄信し過ぎないことを推奨致します。
目次
最新戦法の事情 振り飛車編
(2022.9/1~11/30)
調査対象局は200局。それでは、戦型ごとに解説していきましょう。
先手中飛車
雁木穴熊を打ち破れ!
22局出現。出現率は11%。これは前回の期間から横這いで、数字の上では変化はありません。ただし、居飛車が選ぶ作戦には変化が起こりつつあります。
まず、先手中飛車にとって最強の敵は後手超速です。これには▲6六銀型で対抗するのが最有力ですが、居飛車に以下の局面に誘導されてしまうと、先手中飛車は苦戦を強いられることになります。
上図の桂跳ね優先型が誘導されてはいけない局面です。ここからの変化は多岐にわたりますが、結論から述べると、この局面は既に振り飛車の作戦負け。これは、現環境の[先手中飛車 VS 後手超速]という戦型における前提になっているので、この戦型を指すプレイヤーは必ず知っておかなければならない知識です。
なお、この局面が振り飛車作戦負けである理由については、以下の記事をご覧くださいませ。
ゆえに、振り飛車は桂跳ね優先型を避けるために、ある工夫を行うようになります。それが、以下の指し方ですね。
図のように、▲3八銀→▲3九玉という順番で美濃囲いを作るのが振り飛車のアイデアです。
これは、▲2八玉を保留すること、及び右銀を優先的に上がることで居飛車の急戦を防ぎやすくする狙いがあります。この組み方をすれば、振り飛車は桂跳ね優先型を回避することが可能ですね。
なお、具体的な回避方法については、以下の記事をご参照頂けますと幸いです。
【桂跳ね優先型を回避する駒組み】
ただし、この組み方で万事解決とはなりません。というのも、この指し方は早めに▲3八銀を上がるので、振り飛車は穴熊に組む余地が無くなります。ゆえに、居飛車は持久戦にシフトする指し方が有力になるのです。具体的には、雁木穴熊ですね。現環境では、この作戦を採用するケースが増加傾向にあります。
居飛車が雁木穴熊を目指す場合、図のように△4四歩→△4三銀を指すことになります。ここから△3三角→△2二玉→△3二金→△1二香……といった要領で囲いを発展させる訳ですね。
局面が持久戦調の将棋になっているので、振り飛車も囲いを強化するのが自然です。同時に、どのような攻撃形を作るかという点も大事ですね。
プロ棋界で多く指されている構想は、大きく分けると二通りに分かれます。一つは、▲5九飛と引いて高美濃に組むプラン。具体的には、以下のような組み上がりですね。(第1図)
このあとは、▲5七銀→▲5六銀と繰り替えて▲4五歩から動くのが振り飛車の基本的な方針になります。
もう一つは、雁木穴熊の基本図から▲7八飛と回る指し方ですね。
これは居飛車の5筋が手厚いので、7筋から動く方が得策と見た構想です。
これらのどちらを選ぶかは好みが分かれるところですが、筆者は▲7八飛と回るプランの方が、振り飛車は面白い将棋に持ち込めるのではないかと考えています。その辺りの詳しい理由につきましては、豪華版の記事をご覧いただけますと幸いです。
【雁木穴熊に対する有力な構想】
雁木穴熊は手強い相手ではありますが、桂跳ね優先型の将棋と比較すると、振り飛車は攻勢に出やすいので戦いやすい印象を受けます。現環境の先手中飛車は、悪くない旗色ですね。
四間飛車
最強の対応力
42局出現。先後の比率は1:2の割合(先手14局、後手28局)となっています。後手番で採用されるケースが多いものの、先手番での支持も十分にあることが窺える数字ですね。
居飛車は先後に関係なく穴熊を志向する傾向が強く、それを目指した将棋が50%を超えています。ゆえに、現環境の四間飛車は、穴熊との戦いと言っても過言ではないでしょう。
ちなみに、上記の通り、居飛車は基本的には穴熊に組もうとします。ただ、ストレートに穴熊を目指すのではなく、急戦の姿勢も見せて振り飛車の駒組みを牽制するのが昨今のトレンドですね。
当記事では、この作戦を「陽動穴熊」と定義して解説を進めます。
まず前提として、振り飛車は穴熊を警戒しなければいけません。そのためには、▲2八玉を不用意に上がらないことが肝要です。完全な穴熊を作られる前に先攻することを考慮すると、▲2八玉は不要不急ですね。この一手を攻めの手に分配する方が、クレバーな駒組みになります。
そうなると▲4六歩を優先する案が浮上しますね。しかし、それを早く指すと、居飛車は急戦を決行する条件が良くなります。振り飛車はその形で急戦を迎え撃つプランもありますが、リスキーな側面が強くあまりお薦めは出来ません。詳細は、以下の記事をご覧くださいませ。
ゆえに、現環境では▲6七銀△7四歩▲5六歩という指し方が有力視されるようになりました。(第3図)
これは、5筋の歩を突くことで△5五角と出て来る急戦策に備えている意味があります。反面、▲5六銀と出ていく攻め筋が消えるので、持久戦のときに形を決め過ぎている嫌いはありますね。
そうなると、居飛車は穴熊を目指すのが妥当な選択と言えます。しかし、振り飛車は▲5六銀と出る筋が使えなくても、穴熊を攻略する攻め筋を編み出しているのです。(第3図)
上図のように、△2二銀と引き締められる前に5筋の歩をぶつけるのが有力な仕掛けです。これで一歩を手にして▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲2五桂の端攻めを狙えば、振り飛車が優位を掴める将棋でしょう。
この攻め筋があるので、振り飛車は早めに▲5六歩を突いてしまっても不都合が無いのですね。
この組み方は急戦も端歩突き穴熊にも対応できるので、非常に面白い指し方だと感じます。現環境の先手四間は、満足に戦える情勢ですね。
三間飛車
石田組み換え型の新工夫
61局出現。先手番で28局。後手番で33局。先後ともに対局数が多く、現環境のトップメタに君臨しています。今は三間飛車の時代ですね。
居飛車は持久戦が主流で、基本的には穴熊を目指し、相手が石田流の組み換えを目指して来たら左美濃で対抗するというケースが多いです。特に、後手番はこの姿勢が顕著ですね。
図のように、[△5四歩・△6二銀型]の左美濃に組むのが現環境で最強と目されている石田組み換え対策です。振り飛車はこれに対して相当に手を焼いており、ここしばらくは苦戦を強いられている状況でした。
ところが、今回の期間では、これの対処法を編み出した将棋が出現したのです。今回は、それを解説していきましょう。
図の組み方が、振り飛車の新たなアイデアです。この局面で注目すべきポイントは、
・▲6九金型を維持して駒組みを進める
・△2二玉と寄られたら▲5六銀と上がる
この二点です。
さて、居飛車は△4四歩で銀の進軍を防ぐのが自然でしょう。対して、振り飛車は▲7五歩で石田流への組み換えを目指します。以下、△5三銀には▲5九角と引きましょう。ここでも▲6九金型を維持するのが急所ですね。(第5図)
居飛車は石田流の組み換えには、「射手の構え」で迎撃するのが常套手段。よって、最も強い手は△6四銀になります。振り飛車も悠長に△4二角を引かす訳にはいかないので、▲6五歩で反発することになります。こうなると、△5五歩▲6四歩△5六歩▲同歩までは一本道ですね。(第6図)
華々しく銀交換が行われました。問題はこの局面の優劣ですが、結論から述べると振り飛車良し。理由は、囲いの安定感が違うからです。
もし、振り飛車が序盤の段階で▲5八金左を指していると、居飛車は△3二銀を指している勘定になります。その交換は、振り飛車の方が明らかに損をしています。なぜなら、居飛車は左美濃が完成しているのに対し、振り飛車は△6九銀の割り打ちの傷が残っているからです。
ところが、第6図では居飛車の囲いは離れており、振り飛車は割り打ちの傷がありません。つまり、玉型の立場が逆転しているのですね。▲6九金型を維持する工夫が見事に実った変化だと言えるでしょう。
このように、▲6九金型で▲5六銀を上がると、△6四銀型を作られても▲6五歩で反発しやすい状況が作れます。そして、△6四銀を阻止できるのであれば、安心して石田流の組み換えが行えますね。▲5八金左を省く方が自陣に隙が生まれにくいという仕組みは、コロンブスの卵です。三間党にとって、頼もしい作戦と言えるのではないでしょうか。
角交換振り飛車
細かな工夫が目立つ
39局出現。先手番で16局。後手番で23局。出現率は、前回の期間から11.9%→19.5%と推移しており、大きく上昇していることが窺えます。
指されている戦法としては、従来と特に変わりはありません。ただ、現環境では振り飛車が細かな工夫を講じている将棋が多く、活気を感じるところはありますね。今回は、二種類のちょっとしたアイデアをご覧頂きたいと思います。
一つ目は、先手番で使いやすいアイデアです。初手から▲7六歩△8四歩▲7七角といったオープニングで採用することが可能ですね。
図が示すように、▲3六歩と▲3八銀を優先しているのが目を引くところです。これは「確実に▲3九玉型の美濃囲いを作れる」というメリットがあります。
角交換振り飛車では、▲3八銀と上がるとすかさず△2八角と打たれてしまうので、普通は▲3九玉型の美濃囲いに組めません。けれども、この配置なら香取りは受かるので怖くないという訳ですね。これで▲2八玉と上がる一手を保留して、他の部分で活かすことが出来れば理想的と言えます。
また、場合によってはノーマル四間飛車に戻す余地もありますし、角道を通したまま駒組みを進めることで、相手の駒組みの自由度を狭める意味もあります。角交換振り飛車とノーマル四間の両方が指せるプレイヤーには、面白い指し方だと言えるでしょう。
もう一つの工夫は、後手番における指し方です。(第8図)
後手番の角交換振り飛車では、[△3三銀・△2二飛型]に組んで待機に徹するのは一理ある指し方です。ただ、それを木村美濃と組み合わせているのが少し珍しいですね。高美濃の方がポピュラーな指し方ではあります。
こうした指し方が出てきた経緯としては、高美濃で[△3三銀・△2二飛型]で待機する駒組みは、居飛車に打開する構想を確立されているからという理由がありますね。詳細は、以下の記事をご参照くださいませ。
では木村美濃だと、どういったメリットがあるのでしょうか。
例えば、木村美濃の場合だと、以下のような組み方が出来るのがメリットの一つになります。(第9図)
こうした配置になると、振り飛車は非常に隙が少ないですね。高美濃に組むと金が三段目に配置されるので下段飛車が作れないのですが、木村美濃ならその心配はありません。つまり、金が上擦らないので、より隙が少なくなることが木村美濃の自慢なのです。第9図は打開が難しいので、こうなれば振り飛車まずまずと言えるでしょう。
今回、解説した工夫は、どれも形勢を大きくリードする類の手ではありません。しかし、従来の作戦よりも得できる可能性を広げていることは確かです。こうした知識をたくさん持っておくと、角交換振り飛車を指すとき(相手にしたとき)に役立つこともあるのではないでしょうか。
その他・相振り飛車
向飛車に注目!
36局出現。なお、相振り飛車は9局でした。
バラエティー豊かに様々な戦型が指されていましたが、今回の目玉は向飛車です。振り飛車は今までにない工夫を見せた将棋があったので、それを解説したいと思います。(第10図)
一般的に、向飛車は飛車交換を行うことがメインの狙いです。ゆえに、居飛車はそれに備えた駒組みを行う必要がありますね。具体的には、上図のように左美濃に囲う手法が人気です。なぜなら、左美濃は早期決戦に強く、同時に持久戦にも対応できるからです。
ただ、左美濃に組んでもらえれば、振り飛車は角の睨みを活かした攻撃を行った際、条件が良くなります。これは、左美濃は穴熊と違い、玉が間接的に角の利きに入りやすいからですね。
そうなると、右桂を跳ねてコビン攻めを狙うような指し方が有力になります。そうした構想と相性の良い囲いと言えば……。(第11図)
そう、ミレニアムですね。桂を攻めに使うのであれば、美濃系統の囲いよりもミレニアムの方が自玉のコビンが開かないので、適性が高いことは言うまでもありません。
第11図のような組み上がりになれば、5八の金を3八にくっつけた後、▲6八飛→▲4五歩といった要領で攻めて行くのが楽しみとなります。この局面は、玉の堅さで劣っている訳ではありませんし、先攻しやすい状況でもあるので振り飛車が勝ちやすい印象ですね。
このように、向飛車とミレニアムを組み合わせるのは魅力的な作戦で、大きな可能性を秘めているように思います。飛車交換の筋を見せつつ駒組みを進めることが出来るので、他の振り飛車よりも攻撃力が高いかもしれませんね。
序盤の知識をもっと高めたい! 常にリードを奪った将棋が指したい! という方は、こちらをご覧ください。
最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。
有料(500円)ではありますが、内容量としてはこの記事の約4倍です。よろしければご覧ください!
今回のまとめと展望
【現環境は、先後の差が大きい】
振り飛車目線で話をすると、現環境は先手番だと不満の無い戦型が多い印象です。主流戦法である[先手中飛車・四間・三間]は、どれも十分に戦えますね。
しかし、後手番だとそれらの戦法は軒並み苦戦しており、課題を突きつけられているのが実情です。基本的に現環境は先攻できる作戦が高く評価されるのですが、後手番だと一手の遅れが響き、先に攻める条件が悪くなってしまうからです。例えば、第4図や第6図のような成功例が、後手番で実用できないことは言うまでもありません。そうしたところに、後手が苦慮している理由がありますね。
【キーパーソンは、角交換振り飛車?】
現環境の居飛車は、とにかく穴熊を志向します。特に先手番のときは、その傾向が顕著ですね。先述したように後手振り飛車は速攻する適性が低いので、居飛車は安心して穴熊に組めます。そして、組んでしまえばそれだけで優位性を主張できるのは確かな事実でもあります。
それを踏まえると、振り飛車としてはそれに組まさない作戦を考えることが自然と言えます。そうなると、角交換振り飛車が候補に上がりますね。一番、手っ取り早く穴熊の構築を牽制できることは、魅力的な要素と言えます。
加えて、現環境は後手振り飛車が苦戦しているのですが、角交換振り飛車は後手番での適正が高いことも採用しやすい要因の一つです。第9図のような膠着状態に持ち込むことが理想の一つですね。
今は採用数が少ないのですが、今後、この戦法がどういった立ち位置になるのかは、要注目と言えるでしょう。筆者としては、後手番エースの座に君臨する未来が来ても何ら不思議ではないように感じますね。
それでは、また。ご愛読くださり、ありがとうございました!