どうも、あらきっぺです。まだ夏らしい暑い日が続いていますね。自分は入道雲を見ると夏だなぁと実感するのですが、最近、入道雲は冬でも発生するという事実を知り、複雑な心境になりました笑
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容は、こちらからどうぞ。最新戦法の事情(2019年7月・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2019.7/1~7/31)
調査対象局は91局。それでは、戦型ごとに見て行きましょう。
先手中飛車
新機軸登場!
19局出現。出現率は約21%。7月では最も多く指された振り飛車です。
対する居飛車の作戦は分散傾向にありますが、なんだかんだ言っても後手超速が一番人気(7局)で、中飛車側としてはこれの対策が最優先課題と言えます。
先手は今まで左の銀をどこに配置するかを試行錯誤していたのですが、どの場所に配置してもなかなかしっくり来ない状況が続いていました。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
参考
最新戦法の事情【豪華版】2019年7月・振り飛車編
そういった事情があったので、今までとは全く別の切り口で後手超速に立ち向かう将棋が出現しました。(第1図)
2019.7.5 第32期竜王戦決勝トーナメント ▲久保利明九段VS△藤井聡太七段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
ご覧のように先手が▲7五歩と突いたところですが、これが斬新なアイデアです。△7四歩→△7三銀を防ぎながら石田流への組み換えを目指している意味があります。
とはいえ、こんなに早い段階で歩を伸ばしてしまうと、負担になってしまわないかどうかが心配ですね。しかしながら、手が進んでいくと案外そういった展開にはならないのです。(第2図)
例えば、ここで後手が反発するなら△7四歩▲同歩△同銀ですが、この歩を交換してもらえると▲9六歩→▲9七角で石田流の構えを作る手が実行しやすくなるので、悪いことばかりではないのです。
また、類似局としてこのような例もあります。(第3図)
2019.7.22 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選 ▲古森悠太四段VS△村山慈明段七戦(千日手指し直し局)から抜粋。
これも第1図のように▲7五歩を早めに突いた将棋です。今度は5六ではなく、7八に飛車を配置していますね。もう先手は石田流に組むつもりなので、5筋の位に拘る理由はないという考え方です。
この作戦は、5筋か7筋の位を確実に反発されるので相手に争点を与えている嫌いはあるのですが、先手中飛車の天敵である△6四銀型には絶対に組まれないことが利点です。後手超速に対抗する新たな作戦として、一石を投じたと言えるでしょう。今後に注目ですね。
四間飛車
藤井システムに難色ありか。
13局出現。そのうち7局が先手番での採用。先手四間飛車が増加している傾向は先月と同様の流れですね。
先手四間飛車は、居飛車穴熊に対応しやすいことが利点です。居飛車が端歩を受ければ▲6六銀型に組み、端歩を受けてこなければ藤井システムで戦うのが有力な戦術です。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
参考
最新戦法の事情【豪華版】2019年7月・振り飛車編
これを踏まえると、居飛車が穴熊に組むには▲6六銀型を攻略するか藤井システムを攻略するかという選択になります。7月には藤井システムを迎撃する指し方が登場しました。(第4図)
2019.7.12 第67期王座戦挑戦者決定トーナメント ▲羽生善治九段VS△豊島将之名人戦から抜粋。
後手は穴熊を志向していますが、△6二銀型の状態で角を上がっていることが細かい工夫です。これは一手でも早く穴熊に潜るという意思表示であると同時に、将来の▲3七桂→▲4五桂が両取りにならないようにした意味もあります。
先手もこう指された以上、一刻も早く桂を跳ねて穴熊を攻撃する準備を進めなければいけません。そこで、羽生九段は▲3六歩(青字は本譜の指し手)と指しましたが、それを見て△8五歩▲7七角△7四歩▲4八玉△5三銀▲3九玉△7五歩と急戦策にシフトチェンジしたのが機敏な着想でした。(第5図)
これには▲7五同歩と応じるのが自然ですが、△6四銀▲7四歩△7五銀と単刀直入に進軍する手が果断の良い攻めで、後手が優位に立ちました。(第6図)
なぜ後手が有利になっているのかと言うと、序盤で[△3三角⇔▲3六歩]という交換を入れたことにより、通常の急戦策よりも良い条件で仕掛けを決行できているからです。
すなわち、△3三角は得にも損にもならない手ですが、▲3六歩はコビンを開けているのでマイナスの要素しかありません。具体的には、将来の△5五角が香取りになってしまうことが痛恨です。
このように、穴熊をフェイントに使って急戦に打って出る作戦は、かなり厄介だと考えています。四間飛車としては、第4図周辺で工夫が求められていると言えるでしょう。
三間飛車
石田流を牽制する動きが目立つ。
18局出現。そのうち、8局が石田流への組み換えを目指しています。相変わらず高い支持を得ている指し方ですね。
居飛車の作戦は、穴熊と高美濃に人気が集まっており、二つ合わせて12局採用されています。中には、それをハイブリッドした将棋も指されました。(第7図)
2019.7.4 第78期順位戦C級2組2回戦 ▲大橋貴洸四段VS△古森悠太四段戦から抜粋。
先手の布陣は最近はやりの形ですね。▲6八角→▲4六銀が実行しやすい配置を作ることで、石田流を牽制している意味があります。後手もそれを警戒して、まだ3筋の歩を伸ばさずに駒組みを進めています。
さて。従来の感覚ならば、先手は銀冠に組んでおくのが普通でしょう。しかし、大橋四段はそんな凡庸な手は指しませんでした。ここから▲9八香△5四歩▲9九玉が目新しい構想です。(第8図)
高美濃から穴熊に変身するのはかなり奇抜ですが、これが含みの多い手順でした。銀冠に組んでから穴熊に潜るよりも、駒組みの幅が広いことがこの構想のメリットです。
ここから先手は、
・堅陣を作るなら、▲6八銀→▲7九銀→▲8八銀。
・石田流を牽制するなら、▲7九金→▲8八金。
といった要領で、囲いの形を選ぶことが出来ます。▲7九金→▲8八金という固め方は不思議な印象を受けるかと思いますが、▲6八角と引く形と相性が良いのでしっかりしている構えです。まだ銀冠穴熊への余地を残していることも見逃せないですね。
この作戦は、石田流を防ぎながら穴熊に組むことを両立していることが自慢です。どうしても石田流には組まれたくないと感じている居飛車党は、採用してみる価値はあるでしょう。
角交換振り飛車
速攻志向が大事。
17局出現。その内、13局が▲7七銀型(後手なら△3三銀型)に構える将棋になっており、先月とはガラッと様相が変わりました。
7七に銀を配置する角交換振り飛車は、▲8六歩△同歩▲同銀という要領で仕掛ける攻め筋ーーー通称「逆棒銀」と呼ばれる攻め筋が決行できるかどうかが注目すべきポイントです。この攻め筋はとても頻出するので、どの形が成立するかという発動条件を知っておくことは極めて重要と言えます。(第9図)
2019.7.16 第4回YAMADAチャレンジ杯 ▲西田拓也四段VS△黒沢怜生五段戦から抜粋。
角交換振り飛車を指すと、こういった局面は出現しやすいですね。先手はもう囲いが完成しているので、本譜は▲8六歩△同歩▲同銀と仕掛けていきました。
原則として、居飛車側が△7三歩型(先後が逆なら▲3七歩型)の場合は逆棒銀は決行できると判断して問題ありません。(途中図)
後手はこのまま▲8五銀→▲8四銀と進軍されては敵わないので、△3三角▲7七角△7四銀で受け止めますが、そこで▲7八金が大切な一手です。(第10図)
囲いの反対方向へ金が移動しているので変調のようですが、飛車に紐を付けておくことが肝要です。この手を指すことにより、次に▲7五歩で後手の銀を追い返せるようになっています。あの銀が追えれば、先手は銀が前進できるようになりますね。
このように、先手番の角交換振り飛車は速攻志向でガンガン動いていく姿勢が重要です。序盤から素早く仕掛けていくことが要求されるので忙しい側面はありますが、先手中飛車や藤井システムの将棋と違い、居飛車からの急戦を気にしなくても良いので攻め将棋のプレイヤーには持ってこいの作戦と言えるでしょう。
また、豪華版のほうでは第10図以降の具体的な攻め方や、居飛車が逆棒銀を警戒するために△7四歩型に構えているときの指し方を解説しています。詳しくは、こちらからどうぞ。
参考
最新戦法の事情【豪華版】(2019年8月 振り飛車編)
その他・相振り飛車
後手のほうが都合が良い。
24局出現。その内、相振り飛車が11局。対抗形の将棋だと、向飛車が多めでしたね。
今回は、相振り飛車の話をします。
相振り飛車には様々な形がありますが、最もポピュラーなのは初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩△3二飛という手順を踏む[▲向飛車VS△三間飛車]というパターンではないでしょうか。
しかしながら、7月ではその将棋は一局も指されませんでした。これは、先手側がこちらの記事で紹介した構想を嫌っているものだと推察されます。
最新戦法の事情(2019年4~5月・振り飛車編)
そういった事情があるので、先手番で振り飛車を指すときは初手に▲7八飛と指したり▲7六歩△3四歩▲6八飛というオープニングを選んだりするケースが増えているのですが、それはそれで違う問題点を抱えているのです。(第11図)
2019.7.19 第4回YAMADAチャレンジ杯 ▲井出隼平四段VS△出口若武四段戦から抜粋。
後手が△1四歩と端歩を突いたところですが、これが先手にとって嫌らしい打診です。意味としては前回の記事で解説した4手目△1四歩と同義です。つまり、先手が端を受ければ相振りに組み、端の位が取れれば居飛車に組む狙いです。
本譜は▲1六歩だったので、△4四歩▲4八玉△3二飛から相振り飛車になりました。(第12図)
まだまだこれからの序盤戦ですが、どちらを持つかと問われれば後手とお答えになる方が多いのではないでしょうか? 後手は1筋に争点を作っているので△3三角→△1五歩という要領ですぐに動くことが出来ますが、先手は具体的な攻めの組み立てがまだ整っていません。
このように、相振り飛車模様の将棋は先手番のほうが先に態度を決めないといけないので、後手のほうが駒組みに柔軟性があることが分かります。現環境の相振り飛車は、先手の利を活かせるような作戦が見当たらず、どうもしっくり来ない将棋になってしまうケースが多いように感じています。
プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年8月 振り飛車編)
こちらの記事は有料(300円)ではありますが、より詳しいコンテンツになっております。内容量といたしましては、こちらの通常版の約2~3倍ほどです。もっと詳しく! という御方は、ぜひご覧ください!
今回のまとめと展望
・先手中飛車や角交換振り飛車といった角道を止めない振り飛車の工夫が目立っている。四間飛車は少し風向きが悪くなっただろうか。三間飛車は先後に関わらず、石田流に組めるかどうかが鍵。
・先手振り飛車で先攻される展開を嫌うのであれば、2手目に△3四歩と突いて相振り飛車にしてしまうのも一つの戦略だ。相振り飛車は互角の範囲内に収まりやすいので積極的にリードを奪うという姿勢では無いのかもしれないが、先手のアドバンテージを矮小化させる効果は期待できる。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!