最新戦法の事情【居飛車編 春季号】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(3.4月・振り飛車編)

どうも、あらきっぺです。皆様は、お花見には行かれましたか? しかし、人は花見のときよりも日常のふとした時間の方が、花を見ているような気はするのですが笑

タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきます。今回は3~4月の合併版です。二ヶ月分ということなので、普段よりもお得感 先月書けなかっただけ があふれていますよね!

 

前回の内容はこちらからどうぞ。

 

注意事項

 

・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

 

・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。

 

最新戦法の事情 振り飛車編
(2018.2/1~3/31)

 

調査対象局は113局。ちなみに、2月は55局。3月は58局です。戦型ごとに、それぞれ見ていきましょう。

 

先手中飛車

2月、3月ともに9局出現。1月とほぼ同様の数字です。下火になったわけではありませんが、先手振り飛車エースの座は退いた感があります。

居飛車側の対策としては、なぜか廃れつつある△5四歩と突いて5筋の位を取らせない作戦が一番人気(5局)。とはいえ、これは単なる数字の偏りで、将棋の内容を見ると環境に変化を及ぼしたとは言い難いです。

先手中飛車にとって最大の敵は、角道歩突き左美濃だと考えています。(第1図)

 

最新

 

2018.2/28 第66期王座戦二次予選 ▲北浜健介八段VS△糸谷哲郎八段戦から。

ここで、先手が▲5五歩を突けば△7三銀。突かなければ△7三桂。と、相手の応手によって攻撃態勢を使い分ける手法が優秀で、現状は中飛車側が上手く対応できていない印象です。先手中飛車を指しこなすなら、角道不突き左美濃の対策は必須と言えるでしょう。現環境は、居飛車が押しています。

 

ゴキゲン中飛車

2月は6局。3月は2局。少ないですね。先手中飛車でさえ押され気味なので、ゴキゲンなんてやってられんわといったところでしょうか。実際問題、「超速」「超急戦」「丸山ワクチン」「一直線穴熊」と嫌な対策はわんさかありますからね……。

 

四間飛車

2月は5局でしたが、3月は10局で採用数が倍になりました。復権の原因は、淡々と穴熊に囲わせる指し方が見直されたことが理由かと思われます。

 

実は四間飛車はソフトの評価値がまあまあ高く、ゴキゲン中飛車や角交換振り飛車よりも良い数字が出やすい傾向があります。加えて、最近は穴熊の評価が以前よりも下がったことも影響しているでしょう。

とはいえ、ただ漫然と駒組みをしているようでは、やはり居飛車穴熊が強力なので四間飛車が作戦負けに陥ります。作戦負けを回避するには、二つのポイントがあります。(第2図)

 

2018.3/7 第76期順位戦B級2組11回戦 ▲中村太地王座VS△澤田真吾六段戦から。

まず、一つ目のポイントは、△3二銀・△9五歩型で駒組みを進めることです。四間飛車の左銀は、「△4四銀」「△5四銀」「△5三銀」「△5二銀」のどこかに配置します。△3二銀型はその全ての場所へ行ける余地を残しているので、駒組みの幅が広いのです。つまり、相手の布陣に対して最も相性の良い形が選べる柔軟性があるということですね。

△9五歩型が優秀なのは言わずもがなです。序盤の早い段階で△9四歩を突いておけば、端の位は取りやすいでしょう。

第2図から十手ほど手数を進めます。手順の表記は省きますが、状況を整理すると、先手が7筋に飛車を展開して歩交換をしている間に、後手は銀冠に組んで陣形を充実させています。(第3図)

 

二つめのポイントは、△5三歩型を維持することです。早い段階で△5四歩を突いてしまうと、先手は▲2六角型に組んでくることが予想されます。そのマッチアップは、2六の角が後手陣を直射しているので、振り飛車側にとって相性が悪い形と言えます。

加えて、△5四銀と上がる手を消しているのも感心しない点です。基本的に△5三歩型で戦う方が囲いが堅いので、穴熊の堅さに対抗できるよう、なるべく5筋の歩を突かないことが大切です。

 

第3図から中村王座は▲5五歩と突きましたが、△4四銀▲5六銀△3五歩と動いて後手が機先を制しました。先手の角道が止まった一瞬の隙を突いたのが巧みですね。

 

このように、たとえ穴熊に組まれたとしても、きちんと駒組みを行えば四間飛車も互角に対抗できることが分かってきました。中終盤のねじり合いに自信を持っている振り飛車党にとっては、有力な戦法と言えるでしょう。

なお、穴熊に組ませる指し方とは対極の発想である藤井システムは2戦2敗。この戦法は難易度が高く、玉が薄く、勝ちにくい。覚える定跡が多く、学習コストが高い実用的ではない印象です。見てるぶんには楽しいんですけどね。

 

三間飛車

2月は7局だったものの、3月は12局と増加。ホットな戦型の一つです。

初手から▲7六歩△8四歩▲7八飛(または初手▲7八飛)というオープニングが相変わらず人気で、大いに興隆しています。(Ⅰ)定跡が確立しておらず、研究にハマる心配が無い。(Ⅱ)穴熊に組まれにくい。これらの因子が流行っている理由だと考えられます。

三間飛車の理想形の一つに、「石田流」があります。通常は▲6六歩型ですが、このオープニングだと▲6七歩型の状態で石田流に組む手法が有力です。成功例を紹介しましょう。(第4図)

 

2018.3/2 第76期順位戦A級11回戦 ▲久保利明王将VS△深浦康市九段戦から。

先手は現状では三間飛車ですが、まだ角道が通っているので完全には作戦が固定されていません。このように、ギリギリまで態度を決めないことが、この作戦を指しこなす肝です。

第4図は後手の手番ですが、意外に指す手が悩ましい局面です。△7四歩や△6四歩は形を決め過ぎている印象ですし、△7七角成は通常の角交換振り飛車と比較すると居飛車側が手損しています。あとから8筋を逆棒銀の筋で仕掛けられる手が気になりますね。

よって、本譜は△4四歩と角道を止めましたが、▲5六歩△3三角▲5七銀△4三金▲7五歩△2二玉▲6八角と先手は石田流を目指します。(第5図)

 

▲6七歩型の石田流は、▲6六銀→▲6五銀と銀を五段目へ繰り出しやすい利点があり、機動力の高い攻めの理想形と言えます。後手は安易にそれを許したくないので、△4五歩と反発しますが、▲6六歩△8六歩▲同歩△4六歩▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7六飛と当初の目的通り、石田流の形を作って問題ありません。(第6図)

 

後手は△4五歩と仕掛けることで▲6六歩を突かせることができましたが、囲いが完成する前にバトルを吹っ掛けているので、少なからず不安を抱えています。第6図は、次に▲4六銀や▲7七桂など自然な駒の活用が楽しみで、振り飛車ペースと言えるでしょう。

3手目に▲7八飛と回る将棋は、柔軟に駒組みできることがセールスポイントで優秀な作戦です。現環境では先手振り飛車のエースと言えるでしょう。

なお、後手番では△4四歩で角道を止める手を強いられるのでこの戦法は指せません。詳しい理由はこちらの記事の三間飛車の項目をご覧ください。

 

角交換振り飛車

2月は13局。3月は14局。相変わらずコンスタントに出現しています。先後に関係なく使えること。そして、ベテランから若手まで幅広い層のプレイヤーに指されていることが、この戦法の特徴です。角交換して飛車をどこかに振って美濃に囲えばできちゃいますからね笑

そんなお手軽に指せてしまう角交換振り飛車ですが、一つだけ難しいことがあり、それは攻めの形(争点)を作ることです。今回はその課題を見事な構想力でクリアした将棋を紹介します。(第7図)

 

2018.3/2 第76期順位戦A級11回戦 ▲佐藤康光九段VS△屋敷伸之九段戦から。

先手の角交換振り飛車に対して、後手は銀冠で対抗。じっくりした将棋になると、銀冠の厚みが活きるので、先手は急戦調の将棋にしたいところです。

例えば▲8五歩から仕掛ける手は目に映りますが、この場合は△8九飛の傷があるので成立しません。よって、▲5八金右と浮き駒をなくしておく手が自然ですが、佐藤九段は面白い着想を披露します。▲7九金が斬新な一手でした。(第8図)

 

見た目は奇異ですが、この場合は飛車の打ち込みを消すことがとてつもなく大きいのです。後手は▲8五歩の仕掛けを見せられて、忙しくなりました。

第8図から屋敷九段は△3五歩と突いて対抗します。これは飛車交換から決戦になれば、△6四角→△3六歩という手順でコビン攻めをしようという意図です。しかし、それを見て▲5七銀と上がった手が臨機応変な一着。3五の歩を目標して、後手の指し手を逆手に取っています。以下、△4五歩▲4六歩△同歩▲同銀と進み、先手は狙い通り急戦調の将棋にすることができました。(第9図)

 

第9図から△3四銀と歩取りを受けても、▲5七角から歩を削っていけば先手良しです。後手は青枠で囲った部分の駒が機能しておらず、立ち遅れてしまった格好です。

▲7九金と寄り、飛車交換の筋を見せることで敵陣を揺さぶる手法は今までにはない構想で、新たな攻め筋を一つ発掘したと言えます。角交換振り飛車を指しこなすには、争点を作る手を多く知っておくことが重要なので、この指し方の発見は振り飛車側にとって心強いでしょう。

戦法の全体的な話をすると、現環境は居飛車・振り飛車どちらも不満がなく、無難な将棋になりやすい傾向が強い印象です。今後も多く指されることでしょう。

 

その他の振り飛車

2月は8局。3月は3局。内訳としては、「石田流」「向飛車」「4→3戦法」「角道を止める中飛車」など。

局数が少なすぎるので、分析のしようがないのですが、指されない戦法の共通点として、柔軟性に欠けるという要素が考えられます。「4→3戦法」を例に挙げると、左銀を4四に使うか4二に使うかくらいしか選択肢が無く、駒組みの形が固定化されています。近年ではそういった駒組みを敬遠する風潮はありますね。

 

相振り飛車

2月は7局。3月は8局指されました。一口に相振り飛車と言っても、互いに振る場所が4つあるのでまさに千変万化ですが、今回は最もポピュラーな先手向飛車VS後手三間飛車の将棋を見てみましょう。(第10図)

 

2018.2/1 第76期順位戦C級2組9回戦 ▲石井健太郎五段VS△西田拓也四段戦から。

先手としては、3筋の歩交換を逆用するために陣形を盛り上げることができれば理想的です。しかし、後手もそれを阻止するために△3六歩と垂らしたり、△4四銀型に組むことで牽制しています。そういった後手のプレッシャーをどのようにしてかいくぐるかが、先手のテーマです。

第10図から、石井五段は▲6八金と上がりました。▲5八金と玉に近づける方が自然ですが、△1五角という揺さぶりが気になります。▲6八金型ならば、△1五角には▲5八玉と逃げ場があるので問題ありません。

西田四段は△5四歩▲2六歩△4二角と先手の位に対して働き掛けますが、構わず▲2七銀が好判断。以下、△6四歩▲3六銀△6五歩▲3七歩と進み、先手満足の展開となりました。(第11図)

 

この局面は、先手が理想としていた「陣形を盛り上げること」を実現できていることが分かります。後手は拠点が消え、4四の銀が活用しにくくなったことから攻めの目標を見失ってしまいました。

対して、先手は端攻めや▲7六銀→▲6五銀など、分かりやすい攻め筋を確保しています。実戦もそういった筋を駆使して、先手がリードを奪いました。

従来、この戦型で先手は金銀を4筋方面へ集めて厚みを作っていたのですが、それでは陣形が偏ってしまい、6筋方面から動かれたときに対応できず苦労していました。しかし、本局のようにバランスの取れた布陣を作れば、6筋から反発されても怖くありません。石井五段の構想は、3手目に▲6六歩を突くプレイヤーにとって朗報と言えるのではないでしょうか。

 

 

今回のまとめと展望

 

先手番では▲6七歩型の三間飛車が優秀。先手中飛車は角道不突き左美濃が厄介なので、今後は採用数が減少しそうだ。

後手番では角交換振り飛車が最も無難。穴熊に組まれることが嫌ではないプレイヤーは、四間飛車を選ぶのも良いだろう。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 



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